カテゴリー別アーカイブ: 官僚論

行政-官僚論

現在の官僚像

日経新聞9月4日「春秋」欄が、興味深いです。
・・・この夏公開されヒット中のゴジラ映画最新作「シン・ゴジラ」。大人の足を映画館に運ばせた裏に、怪獣映画にしては珍しい設定がある。ふつう巨大生物を迎え撃つ役回りは軍人か天才科学者。しかし今作では、若手の政治家や官僚ら背広姿の集団が主役を務めるのだ。
会議の手配、根回し、コピー機の搬入、徹夜の資料作り。取材を重ねた描写は細かい。首相官邸の中をのぞき見するような面白さもある。加えて怪獣との最終決戦では、詳しくは書けないが、軍事力ではなく民間企業が持つ技術力や生産能力、設備が重要な役割を果たす。それらを動員できたのも官僚の力という筋書きだ・・・
続きは原文をお読みください。

記録的学問と論争的学問、公務員と政治家のご先祖様

中山茂著『パラダイムと科学革命の歴史』(2013年、講談社学術文庫)は、科学史についての本です。その第1章「記録的学問と論争的学問」を読んで、記述を拡大解釈して、なるほどと思いました。著者は、古代西洋と東洋の学問の比較対照と共通点を述べているのですが、それが政治と行政の違いを端的に表しているのです。
著者は、学問のコミュニケーションを、記録によるものと、口頭によるものの2つに分類します。
記録的学問は、天変の記録です。バビロニアでも古代中国でも、権力が天変を記録し、統治に利用します。それは、事務的な、官庁業務的な学問です。それに携わったのが、私たち公務員のご先祖様です。道具は筆記用具です。
他方、論争的学問は、議論の中から出てくる学問です。古代ギリシアの哲学者たちと、中国戦国時代の諸子百家です。ギリシャの民主政では市民が論争をします。その代表者たちがソフィストで、演説で市民を引きつけます。弁論術です。諸子百家も、弁舌で王侯に取り入ろうとします。相手は、ギリシャのように市民ではなく、君主です。これは、政治形態の違いから来る差です。こちらは、政治家のご先祖様です。道具は弁舌です。
そして、記録的学問は、保守的であり累積します。論争的学問は新説がどしどし現れますが、現れては消えます。問題提起が、主な機能です。記録的学問も、記録だけでは真理に到達しません。
著者の目的(科学史)とは離れますが、それぞれを公務員のご先祖様と、政治家のご先祖様と理解すると、公務員と政治家の機能の差がよくわかります。ごく一面的な見方ですがね。

上級職はエリートにあらず

6月28日の朝日新聞夕刊に、「省庁 組合離れ加速」という記事が載っていました。労働組合加入率が5割を割ったとのこと。詳しくは記事を読んでいただくとして。労働組合は職員の処遇改善を目的とした組織ですが、その目的の大きな部分を達成して、使命を終えたのでしょう。社会では、労働組合に入っていない非正規労働者が問題になっています。これに答えないと。
ところで、私が興味を持ったのは、次の点です。
・・・組織率が下がる背景に採用の変化を指摘する声もある。95年度の公務員白書によると、試験による新規採用の6割は国家3種などの高卒者だった。ところが、15年度の白書では大卒・院卒者が採用の6割を占め、主流は逆転した。
立教大の原田久教授(行政学)は、国家公務員の労組が元々、幹部候補のキャリア組に比べて昇進・昇給が遅いノンキャリアの処遇改善を要求してきた歴史に着目する。「国家公務員の定数は大幅に減ったが、1万人余りのキャリアの人数はほぼ変わらず、相対的に職員に占めるキャリアの割合が高まった」・・・

かつては、少数のエリートである上級職と、その他の大勢の職員という構図でした。それが、いつの間にか変化していたのです。すると、いわゆる上級職の役割や昇進経路が、変わってきます。幹部への選抜方法も変わってきます。これは、各人にとっても、組織にとっても、意識の変革を求めます。

官僚は製造業

「明るい係長講座」の読者から、お便りをいただきました。
連載第24回「公務員はサービス業」を読んで、なるほどと思いました。でも、「岡本次官の仕事はサービス業でなく、制度や仕組みを作る製造業ではないですか」との指摘です。そういう見方もありますね(笑い)。
大震災に際して、たくさん、新しい対策や制度を生みだしました。例えば、「東日本大震災に際しての政府の新たな取組例」(平成25年時点なので、少し古いです。拙著「復興が日本を変える」p71にも、主なものを整理して載せてあります)。
千年に一度の大津波、初めて経験する原発重大事故です。前例はなく、千年前の「大宝律令」は役に立ちません(苦笑)。
行政(官僚、公務員)には、2つの種類の仕事があります。一つは法令に定められたことを実行すること、もう一つはそれでは不十分な時に新しい対策を考えることです。もちろん、法律改正など公務員だけではできないものもありますが。それを準備し提案するのも、公務員の仕事です。
私が一人でつくったのではなく、関係者がつくってくれました。新しい政策だけでなく、組織もポストも作りました。行政改革の時代に、こんな大きな組織ができたのは、関係者の理解と、日本政府の柔軟性を示すものだと思います。
このHPに、「歴史は読むものか、つくるものか」として、「私たちが取り組んでいるのは、千年に一度の大災害。その復興に参加することは、まさに歴史を作っているのです。見ているだけではダメです。また、前例通りにやっていても、歴史を作っていることにはなりません」と書きました。

私は、常にその意識を持って、この仕事に当たっていました。(2016年7月15日、16日)

民間や自治体からの職員たちの感想

今日は3月31日、明日は4月1日。多くの職場で人事異動の時期です。復興庁でも、各省から派遣された職員とともに、自治体や企業から派遣された職員の異動があります。
先日、彼らの報告会がありました。1~2年間の復興庁勤務で考えたことなどを、幹部の前で報告してもらうのです。親元とは違った「社風」の職場で、苦労した様子がわかります。他方で、復興庁ならではの経験を評価している人も多いです。興味深かった意見を、いくつか紹介します。
・親元では何かとハンコ(上司の決裁)がないと仕事が進まないのに比べ、復興庁の仕事の速さに驚きました。
・被災現場を見て回る機会が多く、勉強になりました。2年間に70回以上出張しました。
・交付金の審査の際、申請している町長の言い分(地元の悲願だ)と、当方の主張(財源は増税も)とが対立することがあり、大変でした。知恵を出して、事業ができた際はうれしかったです。
・自治体だけでなく、企業やNPOと一緒になって仕事をすることが新鮮でした。
・総理大臣や大臣のすぐそばで仕事ができました。大臣や幹部との距離が、とても近かったです。
・周りの職員が、精神的にも肉体的にも非常にタフなことに驚きました。地元に寄り添って復興するんだという高い志を持っているんだと感じました。
・役所の仕事の進め方がわかりました。
・いろんな方と知り合えました。財産です。
・同僚や上司が、いつも笑顔で話を聞いてくださったのが、助かりました。
ありがとう。この経験を、これからの仕事で生かしてください。