カテゴリー別アーカイブ: 官僚論

行政-官僚論

統計不正問題、官僚の責任

厚生労働省の統計不正が、問題になっています。まだ究明途中なので、意見を書くことは難しいのですが。現時点で気になったことを、書いてみます。
その一つは、政治家の責任と官僚の責任です。

2月18日の日経新聞の世論調査結果では、厚生労働省の毎月勤労統計の不正問題で最も責任があるのは誰かを聞くと、
「これまでの厚生労働大臣」が34%、「厚生労働省の官僚」が31%でした。
厚生労働省の最高責任者は大臣ですから、大臣に責任があるという回答も、わからなくはありません。
しかし、統計調査の実施は、官僚たち事務方が責任を持って行うべきことです。統計の対象や手法について大きな見直しを行う際は、大臣らによる判断が必要な場合もあるでしょうが。

かつてなら、官僚の責任範囲はもっと大きかったと思います。大臣ら政治家の責任範囲が、近年広がってきたようです。
例えば、2018年に問題になった財務省での文書破棄問題も、大臣が記者会見で説明していましたが、事務方が説明し責任を取るべき問題でしょう。大臣が、局長以下の文書管理や文書の扱いを細かく知っているはずもなく、またそんなことまで管理していたら重要な仕事ができません。
近年の「政治主導」は良いことと考えていますが、事務的なことまで大臣に責任を持たせることは、かえって政治主導が効果的でなくなる恐れがあります。この項続く

公務員の専門性向上策

2月1日の日経新聞経済教室、藤田由紀子・学習院大学教授の「公務員制度改革の視点 専門性向上へ評価明確に」は、公務員の能力や専門性について、イギリスの経験を引きながら論じておられます。

・・・日本の国家公務員制度にはこうした専門性を基軸とする府省横断的ネットワークはほぼ皆無だ。人事管理は府省ごとに行われ、帰属する府省への忠誠心の強さがセクショナリズムの一因と指摘される。

人材育成の基本は、新卒で一括採用した者を業務を通じた職場内訓練(OJT)で育成し、数年ごとの異動であらゆる分野・業務に対応できるゼネラリストにすることだ。また「大部屋主義」と呼ばれる集団的執務体制の伝統により、職務記述書が作成される慣行もないため、各職員の職務や責任が曖昧で、その専門性も「暗黙知」とされてきた。
現行の人事評価制度での能力評価も、倫理、構想、判断、説明・調整など、公務員としての一般的能力を示す項目を中心に構成される。今日の行政課題に対応しうる具体的な専門性を問うものではない。

さらに日本の公務員制度は一括採用や内部者の定期異動などでポストが補充され、個人のキャリア形成が人事部門の決定に委ねられる面が大きい。この点も専門性への関心の薄さに影響を与えている・・・

『現代日本の公務員人事』

現代日本の公務員人事-政治・行政改革は人事システムをどう変えたか』(2019年、第一法規)を紹介します。この本は、稲継裕昭・早稲田大学教授の還暦記念論文集です。先生にゆかりのある方による、共同研究の成果です。

はしがきに、次のように書かれています。
・・・戦後半世紀もの間、日本の発展を支えてきた社会経済システムは、21世紀の到来を前に深刻な制度疲労に陥り、内外の大きな情勢変化に的確に対応することが困難となった。そこで、1990年代から「明治維新、戦後改革に次ぐ第三の改革」というスローガンの下、様々な制度改革が連続的に行われてきた。
本書の狙いは、そのような一連の改革を経験した日本の公務員人事システムがどのように「変化」したかを多角的に捉えることである・・
そして、様々な観点からの分析が集められています。

公務員人事行政も、近年いくつも改革が行われるとともに、期待される役割、社会での位置づけなどが変化し、過去の教科書が使えなくなりました。さらに、政治主導の強化とともに、特に国家公務員がかかわる不祥事・不正が続き、制度でなく実態や運用の変化も大きくなっています。そして、その変化はさらに続くでしょう。
この本は、時宜を得たものです。ありがとうございます。

稲継先生は、公務員経験もあり、日本の公務員人事を研究してこられました。そして、行政関係の著作もたくさんあります。そのエネルギーに感心しつつ、このホームページでも紹介してきました。
これだけの研究者が集まり、還暦記念論文集を出版してもらえるのは、稲継先生の人徳ですね。

信頼できない人たち。国会議員、マスコミ、国家公務員。

1月21日の日経新聞に、世論調査結果「浮かぶ日本人の姿」が載っていました。電話調査でなく郵送なので、じっくりと考えて回答されていると考えられます。
もっとも、面倒だと考え、回答しない人たちの傾向はわかりません。

そこに、8つの機関・団体・公職を挙げて、信頼度を聞いた問があります。
最も高かったのが自衛隊で60%です。次いで裁判所47%、警察43%、検察39%、教師32%、国家公務員、マスコミ、国会議員の順です。
信頼できないも、この反対で、国会議員56%、マスコミ42%、国家公務員31%です。これら3つが、「信頼できない」が「信頼できる」を上回っています。

困ったことです。私の所属する「国家公務員」は、かつては国民から高い信頼を得ていました。この数十年、そして近年の不祥事で、急速に信頼失いました。
これは、国家公務員にとっても、国民にとっても不幸なことです。どのようにしたら信頼を回復できるか。
この項続く

官僚の役割、アイデアと実現。佐々江・元外務次官

11月14日の朝日新聞オピニオン欄は、「日韓 和解の誓い道半ば」でした。
内容は、1998年の日韓共同宣言。当時、それぞれの外交当局の担当課長として宣言づくりにあたった佐々江賢一郎さんと朴チュ雨(パクチュヌ)さんとの対談です。内容は、原文をお読み頂くとして。私は、官僚の先輩である佐々江・元外務次官の行動と発言に関心を持ちました。

・・・――歴史的な日韓共同宣言は、どんな背景から生まれたのでしょう。
朴 金大中(キムデジュン)大統領の就任前年の1997年から、韓日間では漁業協定の改定が最大の懸案でした。そして98年1月、日本政府が協定の破棄を通告したため断絶状態に陥った。韓国はそれでなくてもアジア通貨危機で大混乱していました。そんな中、当時の小倉和夫・駐韓大使から韓日間で共同宣言を作ってみてはどうかというアイデアを聞いた。韓国はそれまで、二国間の本格的な共同宣言を作った経験がありませんでした。
98年2月、金大統領の就任式に外務省の北東アジア課長だった佐々江さんが来たので、3日間、一緒に食事をしながら話し合いました。ただ、韓国としては協定を破棄した日本から先に何か措置をとってほしいと考えていました。その後、外相会談などがありました。

――実際に宣言を作ろうと提案したのはどちらですか。
佐々江 考え方は日本から示したと思うけど、最初は確か韓国から……。
朴 98年6月の局長会議で私たちが最初の案を出しました。
佐々江 我々からすると、とても案とは言えない内容でしたが(笑)。でも、それに一心不乱に手を入れました。日韓の政治、経済、安全保障、文化といった関係に加え、地域やグローバルな問題など包括的に考えました。それと過去だけではなく現在の関係にも光をあて、両国がどういう方向に進むのか、いかに手を携えていくのかという大きなコンセプトで。
朴 8月末に日本案が出てきた後、韓国側の意見も加えました。金大統領は就任前から日本とは過去を乗り越え、未来志向的な関係を構築すべきだと繰り返し語っていた。だから私たちも自信をもって、大統領に韓日関係発展のための報告書を何回も出しました・・・

次のような発言も。
・・・――お二人とも現役の外交官を退かれましたが、今の後輩たちに思うところはありますか。
朴 気の毒ですね。韓国も日本も、外交に関する権限が低くなっている時代。韓国の外交官にはもっと大きい視点で地域全体を見て、日本との協力関係を築いてほしい。
佐々江 私は日本外務省の士気が下がっているとは思いません。外交は外務省が独占してやるのではなく、いろんな力の結集で成り立つべきです。外交官は自ら蓄積した知見を政府内にも外にも堂々と伝えていく。それがプロの意識だと思います。

――共同宣言が今も注目されるのは、その意義もさることながら政治の関係がうまくいっていない証拠でもあります。
佐々江 日韓関係において、政治指導者の役割は極めて大きい。特に韓国では指導者の言動が国民感情に影響を与えます。要はお互い何を譲れないか、何が違うのか、双方が理解することが大切なんです。違いから出発しないといけない。
朴 真の和解にはまだ遠い。似た者同士だけど、ずいぶん違いもあるんですよ、韓日は・・・