「官僚論」カテゴリーアーカイブ

行政-官僚論

官僚意識調査その3

官僚意識調査」の続きです。
かつての村松岐夫先生の調査について、紹介します。若い人はご存じないでしょうから(以下の文章は、北村亘先生の協力を頂きました)。

調査に基づく成果物を挙げましょう。
1 村松岐夫『戦後日本の官僚制』(1981年、東洋経済新報社) サントリー学芸賞受賞(京極純一先生の選評)
2 同『日本の行政(中公新書)』(1994年、中央公論新社)
3 同『政官スクラム型リーダーシップの崩壊』(2010年、東洋経済新報社)
4 村松岐夫・久米郁男(編)『日本政治 変動の30年』(2006年、東洋経済新報社)

1は、学界でもマスメディアでも「官僚優位論」が自明とされた時代に、旧8省庁の課長以上の官僚アンケート調査で与党の影響力の強さを指摘しました。さらに、官僚の役割が、理想主義的に自らが国益を追求する国士型(古典的官僚像)から、与党の意向を受け入れる調整型(政治的官僚像)に変化していることを計量的に示しました。
この主張は、1970年代後半から1980年代の学界では大論争になり、当初は異端扱いされたそうです。しかし、2が出たときにはもはや政治学や行政学の教科書でも定着した考えとなり、さらにどのような場合に官僚はどのような行動を採るのかという段階の研究に進んでいきました。

この調査を再開する意義を、理解してもらえたと思います。
政治家も官僚もそしてマスコミも、「過去の通説」に縛られます。しかし現実の世界では、新しい状況が生まれています。村松先生の調査は、大きな意義があったのですが、現在となっては古くなりました。
そして、日本の政官関係が、政治主導の時代に変化しています。その際に、官僚たちはどのように考え行動しているか。それを明らかにすることは、重要なのです。続く

官僚意識調査その2

官僚意識調査」の続きです。この調査の意義を、2回に分けて、簡単に説明します。

内閣人事局ができて、国家公務員行政が大きく前進しました。業務に必要な組織を作り、それを担う職員を管理することは、どの組織にとっても不可欠なことです。そしてその際に、職員の状況を把握し、人事制度や運用をすることは、当然のことです。
(官民を問わず、組織運営に必要な要素は、「企画」「組織・人事」「予算」です。これまでは国家公務員の人事制度を、主に人事院が担っていました。しかし、人事院は「第三者機関」です。職員管理は、組織の管理者か行う必要があります。)

米国や英国では、政府自らが全職員に対して調査を行ってます。
いずれも、数十万単位のサンプルです。行政官僚制を機能させるためには、どのような職場環境やインセンティヴを用意すべきかを定期的に調査しています。質問文および省庁間比較、世代間比較などの分析結果は、ネット上で公開されています。
私は、日本でも将来は、政府(内閣人事局)がこうした調査を行うべきだと考えています。

アメリカ連邦政府:連邦職員調査(Federal Employee Viewpoint Survey、毎年)
https://www.opm.gov/fevs/
英国政府:公務員調査(Civil Service People Survey、毎年)
https://www.gov.uk/government/publications/civil-service-people-survey-2018-results

続く

官僚意識調査

大阪大学の北村亘先生たちが、かつて村松岐夫・京都大学教授がやっておられた「官僚意識調査」を久しぶりに復活させます。2001年を最後に行われていなかったのですが、今回、実施することになりました。概要は、中央調査社のホームページご覧ください。(https://www.crs.or.jp/oshirase/about_1080.htm)
対象は、次の6省の本省在職者(課長補佐以上)です。
総務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省

(調査対象となる方へのお願い)
かつては、調査員が対象者に面談していたのですが、インターネットでできるようになりました。オンラインで回答します。
質問は合計23問、4つの選択肢から選ぶ方法で、所要時間は30分程度です。もちろん、回答者を特定することができない措置も講じられています。守秘義務に係るような問はありません。安心して参加してください。

事前登録期間を9月21日までに、回答期間を9月20日から10月19日に設定してあります。
・課長級以上には、郵送で連絡が行きます。
・課長補佐級には、SNSやメールで案内が回ります。
事前登録が必要です。事前登録のウェブサイト(https://r10.to/survey2
その他問い合わせ先 info_crs@crs.or.jp

昔と今の公務員像の違いや、世代間の認識の差など、皆さんが普段感じているであろう様々な変化を、こうした調査が可視化してくれるでしょう。そして、問題の分析や課題解決に向けた一助になるものと期待しています。この調査の意義などは、次回書きます

官僚論、野口教授「政党政治の劣化が問題」

8月8日の日経新聞経済教室は、野口雅弘・成蹊大学教授の「官僚制の劣化を考える(下) 政党政治の劣化こそ問題」でした。

・・・このようなウェーバーによる官僚制の「理念型」は、日本の現実政治には適合しない、といわれてきた。米国の社会学者、エズラ・ヴォーゲル氏の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」や国際政治学者、チャルマーズ・ジョンソン氏の「通産省と日本の奇跡」など、高度経済成長期の日本政治を論じた海外の研究は、こぞって日本の官僚組織の優秀さを讃えた。
しかし、ここでの優秀さは、政策形成における「目的」の設定という、本来であれば政治家が行うべき「仕事」までもが、選挙によって選ばれたわけではない、従って民主的なレジティマシーのない官僚が行っていることを肯定した上での評価であった。こうした官僚制は、いわゆる「ウェーバー的な官僚制」モデルからすると、逸脱した形態ということになる。

行政改革では、以上のような政官関係が是正され、「政治主導」が強化されてきた。この流れは橋本行革から、「官から民へ」を掲げた小泉政権、「脱官僚宣言」を唱えた民主党政権を経て、安倍政権における内閣人事局の創設にまで至った。テクノクラート(高級官僚)の支配はいまや完全に過去のものになったといえるだろう。
しかしながらその結果、政治家が決定し、官僚が中立的かつ効率的に行政を行う、というウェーバー的なモデルに現実が近づいたのかといえば、どうやらそうではなさそうである。官僚制の「劣化」といわれるのは、まさにこの局面にかかわっている・・・

・・・現代の官僚制を測るモノサシは、高度経済成長期のレジェンドとして語られる官僚ではない・・・
・・・政策をめぐる競争が形式だけになり、「忖度」する以外に自己実現の道が閉ざされつつあるなかで、官僚の「忖度」を「劣化」呼ばわりして非難するというのでは、あまりに彼ら・彼女らが気の毒である。問題は官僚組織の側ではなく、競争が名ばかりになっている政党政治の側にある・・・

官僚論、田中教授「能力で選抜を」

8月7日の日経新聞経済教室は、田中秀明・明治大学教授の「官僚制の劣化を考える(中) 能力で選ぶ原則徹底せよ」でした。主要先進国の区分(開放型か閉鎖型か、政治任用か資格任用か)がわかりやすいです。

・・・ただし、これは安倍政権で新たに生じた問題ではない。政策過程で政治家や業界との利害調整を担ってきたのが官僚だからである。国家公務員法は、一般公務員の政治的中立性や能力・業績に基づく任命を規定するが、実態は原則から乖離している。例えば、同法は採用時のみならず昇進においても競争試験を原則としていたが、ほとんど行われていない・・・

・・・それではどうすればよいか。公務員制度は、公務員に何をさせるかという哲学に基づいている。2つの方法があり、能力で選ぶ資格任用か、政治家が選ぶ政治任用かである。前者では専門性に基づく分析や検討が重視され、英国が代表例である。後者では政治的な調整が重視され、米国が代表例である(図参照)。ただし、英国でも政治任用の首相や大臣の特別顧問がいるし、米国でも部課長までは資格任用が原則である。
日本の問題は、一般公務員は資格任用が建前なのに、現実には政治任用しうることである。また、外部からの登用も限定されてきた(閉鎖型)。英国では首相・大臣に公務員の直接的な人事権はない。政治家を忖度しないようにするためだ。他方、資格任用を貫くため、幹部は特に公募が重視されている(開放型)。
政治主導のために政治家が公務員人事を行うべきだとしばしば言われるが、米国のように大統領が好き嫌いで行う人事でよいのか。幹部公務員となるためには、特定の政治家との関係が重要になる独仏のような政治任用もあるが、政権交代で失職する幹部のため、天下りや手厚い年金が必要となる・・・

・・・見直しの第一は、幹部公務員の選抜方法である。現在は、約600人の幹部候補者名簿から選ぶ仕組みとなっているが、これでは恣意的な人事になりかねない。局長などポストごとに能力・業績を満たした3人程度の名簿の中から首相らが選抜するようにすべきである・・・