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行政-官僚論

2021年5月27日日本記者クラブ資料、2

2021年5月27日に日本記者クラブで使った骨子を、載せておきます。その2です。「その1

Ⅱ 対策案
制度改正でなく、運用の問題
1 官僚は政策の専門家に
課題と政策案を提示し、大臣の方針に従って具体化するのが官僚の役割
(1)政策課題の整理
成熟社会日本の課題は何か
事務次官と局長は、今後(3年から5年)取り組むべき課題群と進むべき方向を提示する。それを基に、大臣、必要なら与党と議論。

(2)制度所管思想から、課題所管思想への転換
現行制度を守ることや「それは制度にありません」ではなく、社会の課題を拾い上げ、対策を考えることを任務へ
公共サービス提供(制度整備)と産業振興から、社会の課題解決へ。 生産者や提供者側支援から、生活者支援への転換を。格差、孤立、つまずいた人、自立できない人、定住外国人・・・
前衛の役割から、前衛と後衛の役割に。優等生を育てるとともに、困っている人の支援を。多様な意見の吸い上げ。
「生活者省」を作ってはどうか。

(3)専門家の採用と育成
これまで「何でもこなせる官僚」を育てた。政策の専門性を持った官僚は少ない。
より専門性を持った官僚に。人事や部局の縦割りは必要
短期間での人事異動の是正
法学系だけでなく各政策分野からの採用
(ITや会計の専門家は、民間から採用も可能)

2 幹部官僚の育成
(1)幹部と「一般職」の区別
国民はどのような官僚像を求めているのか。エリートか労働者か。
処遇とやりがい。長時間労働、魅力の無い職場。応募者の減少
企業幹部と比べ低い幹部官僚の処遇。民間からの採用ができない。
①「一般職」は、民間労働者と同じ待遇に
働き方改革の時代に、無定量の労働を求めるのは時代錯誤
②幹部官僚は、そのための育成が必要
専門政策分野を持ちつつ、広い視野と改革思考を育成する
官邸・国会などとの関係の訓練。内閣官房・内閣府での勤務経験
③内閣官僚の育成
官邸や内閣官房で、総理を支える官僚群の育成

(2)全体最適を考える幹部官僚を
発展途上時代は、部分最適(各部門を伸ばすこと)が全体最適に
成熟時代には、部分最適は全体最適にならない
大幅赤字予算、膨大な借金
政策の優先順位付けと、負担の配分が必要

(3)やってる感でなく、後世の評価を考える幹部官僚を
毎日忙しいが、それが国民のためになっているか。
現時点での国民の評価と、10年後の国民の評価
「あの時やっておくべきだった」とならないように、常に「10年後の説明」を念頭に、取り組むべき課題を整理

3 政と官の役割分担明確化
(1)大臣との役割分担
①あるべき姿
大臣=政策の優先付けと方向性の指示、決定、官僚機構の監督
官僚=政策課題の提示、大臣の指示に沿って立案、具体化と報告
双方の意思疎通と、大臣による決定と官僚による具体化
②官僚にやりがいを持たせる
「意見を聞いてもらえる」「任せてもらえる」「改革が実現する」「社会に役立つ」

(2)政策の大小の分別
①総理が取り組む政策、大臣が取り組む政策、官僚が取り組む政策の分別をして欲しい。
・経済財政諮問会議や安全保障会議で議論する案件
・総理が大臣に指示する案件
・大臣が官僚に指示する案件
②総理と大臣には、政策体系と優先順位を示して欲しい。
個別課題の前に、全体としてどちらを向いて仕事を進めるのか。「マニフェスト」の復活も

(3)諸外国、地方自治体も参考に
自治体の多くでは、「政と官」は問題にならず。

Ⅲ 論議の場が必要
これまで、本格的にこのような議論をしてこなかった。
単発の批判ではなく、改革に向けた議論の蓄積を
制度論でなく、運用論

1 国家行政や官僚のあり方について、議論の場がない
学会や政策共同体がない。地方行政との違い。
官僚が発言する場がない。
多くの各省各局の所管行政について、専門誌がある。しかし、国家行政全般については、見当たらない。

2 議論の蓄積を
官邸、内閣官房、各省について、概説書や解説書がない
制度解説はあっても、運用についての、事実や議論の蓄積がない
改革議論をする際にも、官僚育成をする際にも、その基礎がない

3 基礎資料の調査
先進各国は、政府が国家公務員全体の意識調査を行い、人事制度の検討をしている。また、集計データを公開している。
日本では、村松岐夫・京大教授がかつて実施されたが、中断。北村亘・阪大教授が再開。

(参考)
麻生総理の主な政策体系「私の目指す日本」
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8731269/www.kantei.go.jp/jp/seisaku/aso/index.html
東日本大震災被災者支援本部の記録。政と官との役割分担例
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11125722/www.cao.go.jp/shien/index.html
北村亘教授「2019年官僚意識調査基礎集計」
https://researchmap.jp/read0210227/misc/25069932

(拙稿。行政と官僚のあり方に関して)
『省庁改革の現場から-なぜ再編は進んだか』(2001年、ぎょうせい)
『新地方自治入門-行政の現在と未来』(2003年10月、時事通信社)
連載「行政構造改革-日本の行政と官僚の未来」月刊『地方財務』(ぎょうせい)2007年9月号から2008年10月号まで、未完
「行政改革の現在位置~その進化と課題」年報『公共政策学』第5号(2011年3月、北海道大学公共政策大学院)
『東日本大震災 復興が日本を変える-行政・企業・NPOの未来のかたち』(2016年、ぎょうせい)
連載「公共を創る-新たな行政の役割」『地方行政』(時事通信社)に、2019年4月から連載中

2021年5月27日日本記者クラブ資料、1

2021年5月27日に日本記者クラブで使った骨子を、載せておきます。その1です。

「政と官-21世紀の官僚の役割」
今日のお話=私の体験から見た官僚機構の変化
平成の30年間。高かった官僚の評価の下落と、官僚の自信の喪失
何が変わったか。社会が変わったのに、変われなかった官僚。
1 40年間の官僚経験「その間の変化」
2 地方自治体での幹部経験から見た「自治体での政と官」
3 省庁改革本部で参画した「統治構造改革」
4 内閣官房(再チャレンジ政策担当)で見た「取り残された人たち」
5 総理秘書官から見た「政と官」
6 東日本大震災被災者生活支援本部と復興庁での、前例のない課題への対応「課題整理と組織作りと運営」「生活者支援」

Ⅰ 官僚の問題と批判の整理
1 3つの次元
重大なのは、(3)社会での役割。期待に応えていない。
(1)倫理=不祥事。主に個人の問題
(2)仕事の処理=事務の失敗。主に組織の問題
(3)社会での役割=政策の失敗。官僚機構全体の問題

2「方向性を失った」官僚機構
原因は二つ
(1)成熟社会での役割の模索=明治以来1世紀余り続いた役割の転換
日本は発展途上国から成熟国家へ
先進国に追いつくために、官僚の果たした役割は大きかった。
制度輸入・国内普及型行政。公共サービス提供と産業振興。
発展に成功し、追いつけ型行政が終了
次は、成熟社会日本の問題に取り組む必要
制度輸入でなく、国内問題の拾い上げと対策

(2)政治主導での官僚の役割=20年間の模索
2001年省庁改革が目指したもの。官僚主導から政治主導へ
未完の政治改革=制度改革は実現、運用が課題
政治主導への転換は一定の成果。各省間の縄張り争いの解消、内閣官房による特定課題への取り組みなど
政治家と官僚の役割分担の再編中
大臣と官僚の関係、総理と大臣の関係、与野党と官僚の関係
政治家が官僚機構を使いこなしていないとも見える。

その2へ続く

制度を所管するのか、問題を所管するのか。3

制度を所管するのか、問題を所管するのか。2」の続き、補足です。

制度を超えて新しい政策を考えるか、それを避けるかには、もう一つ「人間性」が関わってきます。
「楽しい仕事」は取り組みやすく、「しんどい仕事」は避けられがちです。「楽しい仕事」とは、前向きで日の当たる仕事です。物をつくったり、成果が見えやすい仕事です。「しんどい仕事」とは、日陰の仕事、面倒な仕事です。
さらに「今直ちに変えなくても大丈夫だよな」という発想になると、新しい取り組みは先送りされます。企業なら、それでは競争相手に負けるのですが、「地域独占企業」である役所では、それでもすむ場合があります。

「問題を所管すると考える」場合にも、2つの場合があります。
一つは、制度を所管しつつ、それが対象としている問題を考える場合です。もう一つは、制度を所管せず、問題を考える場合です。
前者は、その制度で対応できない問題が見えやすいです。しかし、制度を所管していると、制度を守ることに精力を注ぎ、周辺の問題に取り組まないことも起きます。
他方で、制度を所管していない場合は、何を問題と考えるか、漠然としていて視点が定まらないことがあります。それは、次のような事例にも現れます。
総合政策局といった、制度を所管せず広く政策を考える組織が作られるのですが、うまくいかない場合もあります。焦点を絞らない「政策企画」は、難しいのです。

制度を所管すると、その予算の配分や権限行使に力を入れ、満足してしまいます。組織では、法律と予算を持っていないと、「力がない」と考えられるようです。
行政改革や地方分権などで、役人が予算と権限を手放さないことは、しばしば指摘されます。

数字で見る霞が関の事実

日経新聞政治面で、「チャートで読む政治 霞が関」が続いています。
1 官邸支える官僚 34%増 司令塔の内閣官房 膨張
2 国家公務員、20年で半減 地方含め仏の4割
3 キャリア志願者最少に 長時間労働も一因
4 公務員、女性登用道半ば 次官や局長ら、わずか4.4%
5 次官年収、社長の半分以下 公務員給与は上昇基調

制度を所管するのか、問題を所管するのか。2

制度を所管するのか、問題を所管するのか。1」の続きです。
既存組織は、どうしても、所管している制度(法令や予算)を前提に考えます。担当職員は、その法律の逐条解説や制度の解説を読んで、勉強しています。何ができて何ができないかを、頭にたたき込んでいます。これが、正しい公務員です。
これまでにない問題が発見された場合に、既存の制度で対応できないかを検討します。解釈変更や、少々の改正でできないかです。それが難しいとなると、「既存制度ではできない」という判断になります。

法令や予算を変えるとなると、労力と時間がかかります。そして実現できるかどうか、簡単には判断できません。
ところで、時に、国会や議会の質問で「鋭い指摘」(制度を改正して対応した方がよいと考えられる指摘)が出ることがあります。しかし、前日の夕方に質問が出たら、「できません」という答弁しかできません。法令改正や予算獲得には、それなりの時間が必要なのです。

「それは、法令に書いてありません」「それは私の所管ではありません」というのが、守る公務員です。「法令や予算にないなら、考えましょう」というのが、変える公務員です。
公務員全員が、後者になることは無理です。対応策は、公務員の中を、言われたことをする人と、制度改正まで踏み込んで問題解決を考える人との、2種類に分けることです。かつての国家公務員上級職は、この考えだったのでしょう。
この項続く