今日の放課後は、旧知の関西の方との意見交換会。最近の情勢をお互いの視点から分析した後、関西の課題、10年後の大阪について議論しました。
私は、拙著『新地方自治入門』で、自治体が取り組まなければならない課題を、「役所内の課題」と「地域の課題」に分けて議論しました。行革や分権、役所の効率化は、市役所としては重要な課題です。しかし、住民からすると、暮らしが良くなって「なんぼ」です。自治体の効率化は、その手法なのです。
住民の安心など地域の課題はたくさんありますが、東京から見ると、関西・大阪の課題の第一は、「地盤沈下」をどうするかでしょう。関西復権は、経済界の復権です。東京都知事はそんなことは考えなくても良いのですが、大阪市長と府知事の一番の仕事は、10年後の関西経済の復権です。そしてそれは、役所だけではできません。どのように、経済界、マスコミ、住民を巻き込むかです。そして、4年や5年では出来ません。
「地方行政」カテゴリーアーカイブ
地方行財政-地方行政
分権改革の総括、その2
・・要するに、国の側も自治体の側も、急速に、所掌事務拡張路線に属する改革へと舵を切り始めているのである。地方分権改革が混迷し始めた最大の原因はこの点にある。
所掌事務拡張路線に属する改革は、国と自治体の間の意見対立、都道府県と市区町村の間の意見対立が先鋭化せざるを得ない改革である。それだけに、この路線に属する改革を進める際には、殊更に慎重かつ綿密な検討が求められる。にもかかわらず、戦前から繰り返し浮上しては消える特別市構想や都制構想、そして道州制構想は、いつまでたっても素朴な着想の域を出ない。これを実現すれば、あらゆる懸案事項を一挙に解決できるといった万能薬のような制度改革構想など存在しないのである・・
・・現在の第二次安倍内閣には、震災復興の促進、エネルギー政策の再構築、「アベノミックス」の推進、TPP交渉等々、きわめて多くの大きな課題への対応が課せられているので、これらに加えてさらに、地方分権改革に大きなエネルギーを割く余裕があるとは思えないので、地方分権改革については、当面は従前から継続している課題に着実に取り組むこととし、道州制基本法の制定は先送りすべきである・・
なぜ、あの時期に第一次分権改革が成功し、三位一体改革が挫折と言われながらも一定の税源移譲を実現したか。関係者の主張や陳情だけでは物事は動かず、時代の背景、政治の状況、関係者の努力、理論的裏付け、マスコミの支援などが重要であることが改めてわかります。
その点で、同じ会議で、谷隆徳・日経新聞編集委員が、「メディアは地方分権に飽いてきている?」と指摘しておられます。
なお、月刊『地方財務』(2013年11月号)で、小西砂千夫・関西学院大学教授が、「地方分権改革はどのように進んで来たか、どこへ行くべきなのか」と題して、西尾先生の資料を解説しておられます。
分権改革の総括
内閣府に置かれた「地方分権改革有識者会議」の第5回会議(9月30日)で、西尾勝先生が、この20年間の地方分権改革の総括と今後の展望を、簡潔に述べておられます。
・・シャープ勧告・神戸勧告に始まる戦後の地方制度改革では、国・都道府県・市町村の間の事務配分および税財源配分の見直しと、事務委譲の「受け皿」を再編成する町村の合併、特別市制の実現、道州制の実現が繰り返し論じられ続けた。すなわち、所掌事務拡張路線に属する改革が一貫して指向され続けていた。これに対して、機関委任事務制度の全面廃止、行政的な関与の縮小・緩和とその定型化を中心にした「第一次分権改革」は、自由度拡充路線に属する改革を基調としたものであって、地方分権改革論議に新しい地平を開いた。
「第一次分権改革」で将来に「残された課題」は、地方分権推進委員会の『最終報告』の最終章で、以下の6項目に整理されている。すなわち、①地方税財源の充実確保、②法令等による義務付け・枠付けの緩和、③事務権限の移譲、④地方自治制度の再編成、⑤住民自治の拡充、⑥「地方自治の本旨」の具体化である。①と②は自由度拡充路線に属するもの、③と④は所掌事務拡張路線に属するものである。地方分権推進委員会としては、当面は①と②の自由度拡充路線に属する改革を続行し、その上で③と④の所掌事務拡張路線に移行することを期待していたと言える。
その後の推移を見ると、小泉内閣が政治主導で進めた「三位一体の改革」は上記①の実現を目指したものであったが、残念ながら、所期の意図に反する結果になって挫折した・・
この項続く。
中国、地方自治体の借り入れ
朝日新聞8月2日オピニオン欄、陳志武・エール大学教授の発言「中国と影の銀行」から。
・・真の問題は借り手にあります。地方政府が資金調達のために設立した会社が、『影』を利用してお金を引き出し、むだな開発を続けていることです。地方に財源が足りないうえ、成長が評価の基準だし自らの懐も潤うので、造成した工業団地に無理をして企業を誘致している・・
最大の問題は、地方政府を監督し規制する政治の仕組みが事実上ないことです。これは金融を超えて、統治システムの問題です・・
採算がとれない事業が相次いで地方政府が銀行に返済できなくなれば、中国の金融システムを大きく揺るがしかねない。こうした借金は2008年の米金融危機後の景気対策をきっかけに増えたものです。担当者は変わっていないし、へたをすると偉くなっているから、手がつけられない。中国で金融危機が起きる可能性は次第に大きくなっています・・
土地の使用権を売って得た収入を財源にしている地方政府は多いのです。歳入の7~8割が土地収入という都市もある・・
2010年秋に、中国政府の地方財政担当者と、議論する機会がありました。そこで出た課題が、地方融資平台です。最初、担当者が「プラットフォーム」とおっしゃるので、理解できませんでした。議論していくうちに、日本での第3セクター、土地開発公社のようなものだと理解できました。
中国では、最近まで自治体が地方債を発行できなかったので、地域開発の際に別法人を作って借金をしたのです。このあたりは、日本の人口急増期の都市施設建設、その後の観光開発の経験と似ています。違うのは、中国では土地が国有なので、それを売る(正確には使用権を売る)ことで、容易に巨額の資金を得ることができるのです。また、地域開発は、うまく行っているものばかりではないようです。別の記事によれば(時事解析)、1万社、債務残高は11兆元、約180兆円に上ります。
日本でのそれら借金の処理の経験を、お話ししてきました。しかし、問題は日本の経験より深刻だと感じました。
財政難による公共サービスの削減
7月25日の朝日新聞国際欄が、欧州各国で、国や地方自治体が担ってきたサービスが、緊縮財政で縮小される例を紹介しています。ギリシャでは、医療やホームレス支援が縮小された例、イギリスでは市立図書館が閉鎖された例が載っています。それぞれ、ボランティアなどが代行していますが、十分にはできません。ギリシャでは、年金が削減された例も紹介されています。
アメリカでは、代表的大都市であり、一時は自動車産業の拠点であったデトロイト市が破産したことが、伝えられています。アメリカでは、自治体も住民が作った「法人」(会社)なので、破産(財政再建)も、いわば会社のように行われます。もちろん、住民がいるので、清算して廃止とはいきません。
日本でも財政難は厳しいのですが(国と地方自治体の借金は欧米各国より大きいです)、借金を重ねてサービスを維持しています。歳出削減と行政サービス縮減もしていますが、これらの国に比べれば、厳しくはありません。財政破綻に近い例として、夕張市があります。
これらのニュースを見ると、改めて認識を新たにします。
・行政サービスは、ただでもなく、当たり前のものでもないこと。お金がなくなれば、提供されません。
・行政サービスがなくなっても、ボランティア活動で補える部分があること。