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地方行財政-地方行政

コロナウィルス対策、自治体と国との協力

コロナウィルス対策を、国と自治体が力を合わせて実施しています。全国知事会と国とも意見交換を行っているようです。4月17日の際に「全国を対象とした「緊急事態宣言」の発令を受けての緊急提言」が出されました。そこに、次のような文章があります。

6 地方における円滑な執務体制の確立
・・・また、各省庁からの通常業務に係る照会への回答等が各都道府県の職員の大きな負担となっていることから、こうした通常業務については休止・延期するなど、全都道府県が新型コロナウイルス対策に全力で取り組めるよう、国においても配慮すること・・・

自治体現場、自治体職員にとっては、とても重要なことだと思います。
各府省の公務員は、それぞれの仕事を完璧にこなそうと、さまざまな資料を集めます。また、自治体に文書を送ります。それぞれは小さな業務でも、それが積み重なるととんでもない量になるのです。
今回のコロナウィルス対策では、ふだんでも目一杯の仕事を抱えている部署に、すごい量の照会やら指示が来ていると想像されます。それを処理できない自治体現場では、パンクしてしまいます。
限られた職員と時間の中で、どれを優先するか。国の側で優先順位をつけることも難しいでしょうから、受けた自治体側の判断になります。すると、文書は机の上、パソコンの中に放置されることになりかねません。

中井英雄ほか著『新しい地方財政論』

中井英雄、齊藤愼、堀場勇夫、戸谷裕之著『新しい地方財政論 新版』 (2020年、有斐閣)が、出版されました。10年ぶりの改訂です。若かった先生方も、重鎮になられています(当時も重鎮でしたが)。

コンパクトながら、バランスよくできていますよね。地方財政の標準的教科書といえます。これだけの内容を、この大きさにまとめるのは、なかなか難しいです。著者は、「欲張った」内容とも言っておられますが。
かつての理論重視の教科書と違い、制度、経営、理論、実証という4部構成は、優れものです。学生や自治体職員には、このような構成がふさわしいでしょう。地方財政も、現場での課題や運営が、どんどん新しくなっています。それを入れた内容です。公務員の皆さんにも、お勧めです。

中井先生に「ヤードスティック方式」を教えていただき、交付税の算定に反映させたことが懐かしいです。小生は、地方財政どころか、地方行政から離れて久しく、先生方の議論について行けません(反省)。
地方財政は、自治体現場、制度設計の総務省、研究者、マスコミの専門家などが噛みあった議論ができる、優れた「政策共同体」をつくっています。そのような政策分野って、意外とないのです。
今後とも、これら4者共同による、建設的な議論を期待します。

国による自治体への計画策定義務づけ

全国知事会の地方分権改革の推進に向けた研究会に、興味深い資料があります。国による計画策定の義務づけについてです。資料1の20ページです。
平成4年(1992年)の157件から、令和元年(2019年)の390件まで、230も増えています。

1 どのような分野で、どのような計画づくりが増えたのか。分析が欲しいです。それによって、近年の行政が取り組んでいる分野が分かります。

2 知事会が問題にしているのは、これら増えている計画づくりが義務ではなく、任意だということです。義務づけは、自治体の自由を拘束するとして、問題としました。だから、任意が増えたのでしょう。
では、任意なら良いか。表面的にはそう見えます。ところが、
・計画づくりが、国庫補助金交付などの要件とされているのです。補助金が欲しければ、計画を作らざるを得ません。
・たぶん自治体では、「法律に規定され、他の自治体も作っているのに、我が市では作らないのか」と聞かれると、右にならえで、作らざるを得なくなることもあるのでしょうね。
計画を作ったかどうかは、国のホームページで公表される場合もあるそうです。

3 390件もあると、首長も職員も、全体像を把握できないでしょうね。もちろん、1市町村が、390全ての対象に該当するわけではありませんが。町村役場では、職員数も少なく、一人あたりどれくらいの計画を担当しているのでしょうか。

4 その計画を作るのに、市町村ではどれくらいの労力が費やされているのでしょうか。時に指摘されるのが、コンサルタント会社への委託(丸投げ)です。小さな町村では、こんなにたくさんつくることはできないでしょう。

各府省の役人は、それぞれの分野で「良かれ」と思って、このような法律や計画づくりを考えたのでしょうが、全体をまとめると、とんでもないことになっています。
自治体も、きっぱりと「我が町は、この計画は不要です」と拒否できれば良いのですが。

地方と国との司法決着

3月4日の日経新聞オピニオン欄に、斉藤徹弥・編集委員が「地方と国、増える司法決着 地方分権一括法20年」を書いておられました。
・・・自治体と国を対等の関係とした地方分権一括法の施行から4月で20年。地方分権は停滞が否めないが、対等になったかどうかでみると成果と言える事象もある。法の運用や関与を巡って自治体が国と裁判で争う行政訴訟が増えてきたことだ・・・

詳しくは、記事を読んでいただくとして。指摘の通りです。かつては、法律的にも一部上下の関係が残っていましたし、意識の上でも上下の関係がありました。自治体に不満があっても、自治省をはじめとする各省が調整して、事を荒立てないようにしました。自治体も、訴訟に訴えるにしても、条件が厳しかったのです。

・・・政治的な利害調整を法廷で決着させる流れは「政治の司法化」と呼ばれる。政治主導の政策決定をめざした平成の統治機構改革は、冷戦崩壊で行き詰まった官による事前調整を見直し、司法による事後チェックへの移行を進めた。これが令和になって地方行政に現れてきたといえる・・・

次のような指摘もあります。
・・・政治の司法化が進むと、重要になるのが裁判所の信頼性である・・・専門家組織が裁判所を支える関係になることも大切だ。原発訴訟で判断が割れるのは原子力規制委員会の規制基準を妥当とみるか、不十分とするかによるところが大きい。安定した司法判断には、規制委が国民の信頼を高め、裁判所がその権威を認めやすくなる環境が必要になる。
ただ専門職のジョブ型雇用が主流の海外に比べ、日本は専門家組織が弱とされる。専門を重視する雇用形態が広がり、各分野で専門家組織の権威が高まれば、司法による事後チェックが安定し、政策決定でも専門的知見を重視することにつながるだろう・・・