カテゴリー別アーカイブ: 地方行政

地方行財政-地方行政

ワクチン接種、自治体の悩み

1月25日の朝日新聞オピニオン欄「新型コロナ 3回目接種うまくいく?」、岩瀬均・東京都墨田区新型コロナワクチン調整担当次長の発言から。

――今回の追加接種で何か問題は起きていますか。
「政府は昨年11月まで『2回目接種8カ月後を絶対守れ』と言っていたのが、12月の首相の所信表明演説で『8カ月を待たずに、できる限り前倒しする』となり、その後も『さらに前倒しを』と五月雨式に変更を打ち出してきました」
「ワクチン入手の見通しを立てるのが難しいのでしょうが、あまりに激しい変更は困ります。国は変更したら新聞に載せて終わりでも、自治体は住民に周知しなければなりません。高齢者は区報で情報を得る人が多い。ころころ変わると掲載が間に合いません。命にかかわる情報は公平に届けなければなりませんし、追加接種の意義を説いたり交差接種への疑問に答えたりする必要もあります」
「4月以降、ワクチンが実際に来るかも心配です。もう少し計画的に進めていただきたいですね」

――さかのぼりますが、1、2回目の接種はどうでしたか。
「墨田区は全庁応援を早期に始め、私も一昨年12月に選挙管理委員会事務局長から福祉保健部に戻りました。以前担当していた医師会との連携を進め、集団接種の接種券送付や会場設営に選管ノウハウを応用してくれということで、選管職員も連れて行きました」

――墨田区で接種が順調だった要因は?
「医師会が一つで連携がうまくいきました。集団接種のシミュレーションを繰り返し、全庁から会場に派遣する人数や1日に接種できる人数を綿密に試算して、それに基づくワクチン数を都に求め、確保できました。全庁応援は大変でしたが、ワクチンはワクチンの部署に任せておけではなく、介護保険課や障害者福祉課といった部署が、それぞれの担当する住民の問題と捉えて積極的に動くようになる効果もありました」

吉川浩民・自治行政局長の論文

月刊『地方自治』2022年1月号に、吉川浩民・自治行政局長の論文「協調と連携の国・地方関係へ~コロナ禍とデジタル化を踏まえて~」が載っています。
内容は、地方分権20年(ポイントの切り替え、国地方係争処理委員会、提案募集方式)、コロナ禍の影響、デジタル化と地方自治です。
私も、久しぶりに地方行政に携わることになって、この論文がとても役に立ちました。分権改革には私も参画したのですが、その後の動きについて断片的には知識を得ていましたが、このように鷹の目で見ることはなかったのです。
自治体関係者に、一読をお勧めします。インターネットで読めれば良いのですが。

このような専門誌や業界誌の1月号には、局長などの年頭の所感が載ります。多くは、昨年の回顧と新年の展望です。それはそれで意味はあるのですが、内容はその局の総務課の課長補佐が業務として書いているようで、つまらないです。それに対し、この吉川局長論文は、
・局長が体験してきたこの20年を基に地方分権20年の成果と課題
・喫緊の課題では新型コロナ対策で見えた地方行政の課題
・自治体の大きな課題であるデジタル化への取り組み
が書かれています。
官僚が書く文章にはしばしば「文中意見にわたるものは私見であり、組織の見解でないことを断っておきます」という文言があります。それに対し吉川論文は、局長が考えるこれまでの評価と現在の課題、未来への取り組み方向が示されています。これが、局長の役割です。かつて藤井直樹・国土交通省自動車局長の論文を紹介したことがあります。

ブログ「自治体のツボ」2

このホームページでも紹介した「自治体のツボ」。めでたく、3年続いたそうです。

・・・この間、地方では色々なことがあった。ふるさと納税、大阪都、インバウンド。しかし、なんと言ってもコロナ対応に尽きるであろう。
知事の存在感は際立った。患者数を憂慮する会見、国を批判するコメント、踊るフリップ。スタンドプレー込みでも不眠不休の行政運営だった。
ただ知事個人に目が行ったものの、自治体個別、地方独自といえる政策はもうひとつ見るべきものがなかった。残念ながら少なかった。
気になるのは、やや国頼みが強まって見える点だ。未知なる感染症との闘い、財政も逼迫とあってはやむを得ないが、国お任せムードが充満する・・・
・・・地方の形を変える論議は消失した。財政再建論議も止まっている。地方分権の機運も残念ながら薄れていると考えざるをえない。
ウィズコロナ、ポストコロナの時代。地方をダイナミックに、そして地道に駆動させる政策で競い合ってほしいものである・・・

全国町村会100年

全国町村会が創立100年を迎えました。機関誌「町村週報」が特集号を組んでいます。そこに、大森 彌・東京大学名誉教授の「全国町村会と外部研究者とのコラボレーション」、神野 直彦・東京大学名誉教授の「全国町村会100年の歩みへの讃歌」、生源寺 眞一・福島大学食農学類長・東京大学名誉教授の「町村とともに歩んで」が載っています。貴重な記録であり、考えることが多いです。ぜひお読みください。

生源寺先生の発言から。
・・・いささか荒っぽい話をお許し下さい。日欧の農村空間は、第1に自然の産業的利用の空間、典型的には農業や林業の空間であり、第2に非農家住民を含んだコミュニティを支える居住環境としての空間であり、さらに第3に外部からのアクセスが容易で人々がエンジョイできる自然空間、ヨーロッパ流に表現すればグリーンツーリズムの空間でもあります。このうち居住環境としての空間には、地域に密着した関連産業の立地も含まれると言ってよいでしょう。そして、このような空間利用の3つのディメンションが重なり合う構造が日欧の共通項だというわけです。 少し先走って申し上げるならば、人間社会の長い歴史を有する日本や西欧においては、未開発の空間は乏しく、3つの目的での利用を同一空間に重ねるしかなかったのです。
この点については、アメリカ中西部や豪州のような歴史の浅い地域との比較を通じて、なるほどと自分なりに得心した次第です・・・

・・・さらに荒っぽい話で恐縮ですが、農村を広くカバーする自治体、すなわち町や村の行政には農村空間の三重構造による特徴と苦労が伴っています。限られた空間を複数の目的に合理的に振り分けることが求められているからです。ときには、空間をある目的に活用することが隣接する別の目的の空間利用にマイナスに作用することもあるでしょう。難しい取組なのです。 「二兎を追う者は一兎をも得ず」とは古くからの言い伝えですが、産業空間、居住空間、アクセス空間の三兎を追って、高いレベルで三兎をバランスよく確保することが求められているわけです・・・

教員の慢性的長時間残業を変える

11月29日から朝日新聞で、連載「いま先生は」が始まりました。第1回は「第1部・授業が仕事なのに:1 事務作業、追われる先生 休憩も授業準備もできない」です。
・・・「定額働かせ放題」とも言われる教員の長時間労働。その実態を伝える連載「いま先生は」を始めます。第1部では、本来の仕事である授業に注力できない現実を報告し、学校現場の働き方のこれからを考えます・・・

・・・神奈川県の公立小学校の職員室。夕闇が迫るなか、4年生の担任を務める30代男性教諭は、パソコンのキーボードをたたいていた。
放課後になってからずっと、机から離れられずにいる。運動会準備の打ち合わせ、予定表の印刷、時間割の修正……。出勤して11時間近くたつのに、休憩できていない。給食は数分でかきこんだ。帰宅の準備をしながら思う。「きょうも自分の仕事ができなかった」
仕事とは翌日の授業準備だ。一番大事なことをおろそかにしているうしろめたさを、常に感じている・・・

学校教員の慢性的長時間残業、かなり以前から指摘されています。でも、改善されていないようです。私に一つ提案があります。
文科省官僚、県教委職員、市町村教委職員、校長あるいは副校長の4人を一組として、10組ほどを世界各国の学校に1年~2年ほど派遣できないでしょうか。よその国の学校は、そんなに残業をしていないようです。日本と何が違うかを、見てきてほしいのです。