野中猛著『心の病 回復への道』(2012年、岩波新書)を読みました。
冒頭に「親しい人を3人思い浮かべて、その3人がおかしくなければ、おかしいのはあなただ!」という言葉が紹介されています。精神疾患の生涯有病率は25%に上るので、一生の間に精神疾患にかかるのは4人に1人という勘定になるのです。
会社でも役所でも、管理職の人は、職員の中に心の病を持っている人を抱えて、悩んでおられるでしょう。
精神疾患には、脳神経の病(脳の病)と、対人関係のストレスや人生上の苦悩など(心の悩み)の両方があります。治療方法も進化していますが、まだわからないことも多いとのことです。
病院に隔離する政策から、日常生活に復帰を目指す治療に変化してきていること、「精神分裂病」という呼び名が「統合失調症」に変わったことなど、わかりやすく勉強になりました。
あわせて、「健康」や「回復」の意味が変わってきていることも、納得しました。病気や障害が全くなくなることが理想ですが、多くの人が糖尿病や高血圧症でも薬を飲みながら普通に暮らしています。病気を持っていても、うまくつきあっている状態が健康です。回復も、病気が全くなくなることではなく、意味ある人生を取り戻すことです。なるほど。
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行政-再チャレンジ
罪を犯した人の社会復帰
6月10日に、大阪市の繁華街で、男が刃物で通行人2人を殺害する事件がありました。犯人は刑務所を出所しましたが、働くところも頼る人もなくて、自暴自棄になって、死刑になるように無差別に殺害したようです。
刑務所の出所者の社会復帰は、大きな課題です。再チャレンジ支援を担当したときに、勉強しました(資料の18ページ。この資料にはそのほかいろいろなハンディをもった人への支援が載っています)。
刑期を終えても、帰る家庭がない、働く場所がないと、まっとうな暮らしはできません。犯罪を犯した場合、家族からも疎まれ、雇ってくれるところも多くありません。いくら「更正」しても、社会で生きていけないのです。さらに、高齢者や知的障害を持った受刑者の割合も増えています。
大学で、刑法を学びました。罰を加えること、更正を期待することも重要ですが、それだけでは社会に復帰できず、再び犯罪を犯すことになります。刑務所には、多くのヒトとカネを費やしています。それに比べ、社会復帰のために費やすヒトとカネは、多くないようです。
悩みの相談先
5月31日の読売新聞夕刊に「『助けて』電話1日2万件。震災受けスタート、相談パンク寸前」という記事が、大きく載っていました。
社会的包摂サポートセンターが運営している、24時間対応の「寄り添いホットライン」です。
「死にたい」「5日間何も食べていない」など深刻な悩みが多いそうです。かかってくる電話相談のうち、2割が自殺に関することです。
1日約2万件の電話に対し、つながるのは1200件程度という、「繁盛ぶり」です。相談する相手がいない、ということでしょう。家族、近所、会社といった「共同体」が弱くなったことも、背景にあると思います。さらなる対策を、考えなければなりません。
都会の限界集落
5月17日の読売新聞連載「列島再生」は「都心の限界集落」でした。東京都新宿区、しかも山手線内にある都営戸山住宅が、都会の限界集落になっているという記事です。ここは、2,300戸の高層アパートです。私も7年前まで、この住宅の近所に住んでいました。
高齢化率が48%です。全国の23%の倍、田舎の集落より高いです。孤独死も起きています。しかもこの住宅は、戦後建てられたものを、1990年代に高層化し戸数も倍になりました。そこに高齢者が入居しました。
過疎地の限界集落との違いは、団地自体はなくならず、次々と高齢者が入居するであろうということです。
男性に多い孤独死
今日4月25日の東京新聞に、「男性に多い孤立、どう防ぐ?」という記事が載っていました。港区政策創造研究所が行った調査(区内の独り暮らしの全男女5,656人を対象)では、急病などの緊急時に支援者がいないのは、女性では15%、男性では29%です。東日本大震災の際に連絡を取り合った相手を訪ねたところ、男性の17%が誰とも連絡を取り合わなかったとのことです。ちなみに女性は3%です、家族や親族との行き来がないは、男性が29%、女性が10%です。近所づきあいが全くないは、男性が13%、女性が5%です。これでは、死んでいても、誰も気づきませんね。
高齢夫婦の場合、夫が死んでも妻は長生きするが、妻が死んだ場合夫とは1年以内に多くが妻を追いかける、と聞いたことがあります。男は弱いですね。