カテゴリー別アーカイブ: 再チャレンジ

行政-再チャレンジ

仮設住宅での包括ケア・2

引き続き、「仮設から医療を問う」、長純一先生の発言から。
・・たとえば感染症の時代は、抗生物質の登場で大勢の命が救われ、医療が劇的に効果を発揮しました。ところが医学はどんどん進歩し、医療技術の違いが命の長短に大きな差を生むことは少なくなった。むしろ生活習慣や貧困など、社会的要因のほうが寿命に大きな影響を持つ時代です。特に被災地では、社会的要因の影響が極めて大きい。医師にも社会性が求められています・・
・・病院で機械や管に囲まれて目いっぱい長生きをめざすだけではなく、自宅で自然に近い形で家族にみとられる選択肢もあっていい。生き死には本人の価値観で違ってくるはずです。老いや死は本来、哲学や宗教、倫理、経済も含む大きな枠の中で考えるべきことなんです。なのに日本では「医療の問題」と抱え込んできた。超高齢社会に正しく向き合えていないのだと思います・・
・・従来の医療は医学的な判断が中心の「治す医療」でした。もっと「支える医療」「寄り添う医療」を重視していく必要があると思います。患者さんの意見、希望にじっくり耳を傾ける。自己決定は民主主義の基本でもあります・・
・・低成長下における、超高齢社会の安定産業は間違いなく介護、福祉です。人が人のお世話をするから、海外に流出していくこともない。有力な地場産業です。ところが復興バブルの今は、建設ブームが起きている感じがします。やがてこのバブルが消え、被災地の経済が落ちていくときに、医療、保健、福祉が地域の基幹産業になっているよう、今から備えておく必要があります・・
今回の大震災で、初めて仮設住宅に介護のサポート拠点を作りました。今後のパイロット事業になると思います。

仮設住宅での包括ケア

11月14日の朝日新聞オピニオン欄は、「仮設から医療を問う」として、石巻市の仮設住宅団地の診療所長、長純一先生でした。先生は、長野県佐久から来ていただいています。
「午後1時半、仮診療所に保健師や看護師ら18人が集まった。仮設住宅でケアが必要な人の情報を持ち寄る、多職種連携のエリア会議だ・・なぜ、こういう会議を始めることにしたのですか?」
・・医師確保は厳しく、医療だけに頼っていては乗り越えられない。保健、福祉、それに住民とも連携し、ケアが必要な方を地域で支えていく必要があります・・、「地域包括ケア」を実現していくうえで極めて重要な一歩だと考えています・・
(地域包括ケアとは)医療や介護が必要な高齢者でも、病院ではなく住み慣れた地域、自宅で暮らせるよう支援する仕組みです。入院して治療を受けた後、リハビリをへて自宅に戻り、在宅医療を受けながら家族と暮らす、というイメージです。この流れを切れ目なく実現するには、医療が介護、見守り、配食などの生活支援とも連携し、サービスを一体的に提供しなければなりません。
そのベースにあるのが、高齢者が住みやすい住宅や街づくりです。災害復興住宅を今後建てていくうえで、高齢者を支えるためのどんな地域づくりが必要か、という視点は欠かせません。私は復興で生まれ変わる東北にこそ、この仕組みを根付かせたいと思って来たのです。国も復興基本方針の中で、地域包括ケアの体制整備をうたっています・・
「被災地向けですか?」
・・違います。日本の超高齢化は猛烈で、推計では65歳以上の高齢者人口は2025年に3600万人を超えます。そのうち医療・介護のニーズが高まる75歳以上が6割を占める。病院は高齢者であふれ、医療費は膨らむ一方でしょう。「病院から地域へ」という流れは近い将来、間違いなく全国に波及します。高齢化が進み、医療資源が窮迫した被災地の姿は、日本の未来図です・・
(取材を終えて)
多職種連携のエリア会議の様子を見て驚いた。18人のうち男性は、長さんを含めたった4人。ケアが必要な人を支える現場は、圧倒的に「女の世界」なのだ・・
この項続く。

所在不明の高齢者

9月29日の朝日新聞東京西部版に、杉並区の所在不明高齢者実態が載っていました。区の調査は、75歳以上の区民5万4千人のうち、介護認定を受けていない人や介護サービスを受けていない人1万8千人を訪問調査した結果です。
昨年7月から、民生委員、看護師、ケアマネージャーを動員し、訪問調査をしました。電話でも面接でも本人確認できなかったケースについて、今年4月から区の職員が直接調べに入ったそうです。その結果、5人の方の所在がわからなくなっていました。年齢は76歳から94歳です。5人の住所には、それぞれ息子や娘、知人と名乗る人が住んでいますが、「どこに行ったかわからない」といった回答です。う~ん。
区の調査は、福祉の需要を開拓するのが目的でした。行方不明高齢者の調査ではありません。よって、年金をいつまで受給していたか、事件性はないのかなどは、わかりません。
問題はこれからです。
区は、良い調査をしたと思います。2万人近くの人が、介護サービスや医療を受けていないことは、大きな問題です(ちなみに杉並区の人口は54万人、65歳以上人口は10万人です)。75歳以上で、健康な人ばかりとは思えません。制度はできているが、漏れ落ちている人がいるのです。
もう一つは、次のような問題です。一人の高齢者にいくつかのサービスや制度(年金、介護、医療、住民基本台帳などなど)が関わっています。しかし、一人の人に対し、これらの制度をまとめて、包括的に見る仕組みがありません。健全な人なら良いのですが、弱者には制度がばらばらに担当するのではなく、できれば一人の人・一つの窓口が効果的です。これは、高齢者だけでなく、引きこもりの若者対策などでも同じです。
私の提唱している「国民生活省構想」は、この視点も入れたものです。サービス提供者側でなく、受ける社会的弱者から考えようとする仕組みです。

新卒の非正規雇用4万人、ニート3万人

8月27日に文部科学省が、学校基本調査速報を公表しました。今朝の各紙が大きく伝えています。学生数や進学率ではなく、大学を卒業した若者就職状況です。
それによると、今春大学を卒業した56万人のうち、就職した者は36万人、64%でした。ただしそのうち2万人は、正規の就職ではありません。そのほか、一時的な職に就いたのが2万人。この二つを合わせると、非正規雇用は、4万人です。就職も進学もしていない者が9万人です。これら3つを合わせると13万人、23%の人が、安定的な職業に就いていません。
また、就職も進学もしていない者9万人のうち、進学準備中と求職中の人を除くと=ニートは3万人います。

リスク対策の変化

8月22日のニュースが、「国土交通省の公共交通事故被害者支援室が、心のケアなどに当たる職員の研修を始めたこと」を、伝えていました。これに合わせてNHKでは、斉藤隆行記者が、「鉄道・交通事故、変わる被害者支援」を解説しています。
2012年4月、国土交通省に「公共交通事故被害者支援室」が設置されました。遺族を含めた事故被害者の支援が、目的です。
拙稿「社会のリスクの変化と行政の役割」第4章二2「変わる安心提供の手法」で、事故対策として規制や救助だけでなく、保険と無過失賠償責任制度を作ったこと。介護保険制度など、金銭給付だけでなく生活支援(人的サービス)を作ったこと。さらに、犯罪被害者について、金銭給付制度だけでなく、支援が相談や損害賠償請求についての援助や、加害者からの「お礼参り」の防止などに広がっていることを紹介しました。
加害者を罰することや、被害を金銭補償することだけでは、被害者の「被害」は回復しないのです。古典的な民法の原則だけでは、不十分だと認識されました。
公共交通事故被害者支援室も、この変化の中に位置づけることができます。加害者を罰したり、再発防止策を強化するだけでなく、被害を受けた人とその家族への支援が重要だと、認識されつつあるのです。それは、金銭補償だけでなく心の手当を含みます。災害時の心的外傷後ストレス障害(PTSD)対策の重要性の認識も、同様です。そしてそれは、被害者とその関係者だけでなく、救助に当たった警察や消防、自衛隊、さらには役場職員にも及びます。