「著作と講演」カテゴリーアーカイブ

人事院初任行政研修

今日6月17日午後は、北区西ヶ原にある研修合同庁舎で、初任行政研修の基調講義をしてきました。
対象者約800人が7組に分かれて受講します。私の担当のE組は、113人です。ほかの班は、別の講師が別の主題で基調講演をします。
政策事例研究なので、東日本大震災の対応を話しました。駆け出しの官僚向けに、「明るい公務員講座」もいくつか話しました。私もいろいろな経験をしてここまで来たことなどです。「一人で悩むな」「心の回復力」も。
皆さん、熱心に聞いてくれました。2時間の講義と、30分の質疑にしました。次々と手が上がり、時間を超過しました。うれしいですね。

主題については、課題を与えます。参加者は、18の班に分かれて議論し、次回にそれを発表します。次回は、入間市の研修所です。「2024年度

研修生の皆さんへ、話題にした資料にリンクを張っておきます。
「明るい公務員講座」3部作
私のホームページ「人生の達人
Public Administration in Japan』(2024年、Palgrave Macmillan)の「第19章 Crisis Management

連載「公共を創る」第224回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第224回「政府の役割の再定義ー議論が乏しい「ムラの慣行」」が、発行されました。

政治家による政策議論について、国会と野党の役割を考えています。
先の衆議院選挙で、自公政権は少数与党になり、政府案を与党の数の力で押し通すことが難しくなりました。すると、与野党で議論して妥協し、結論を出す必要が出てきます。野党の意見を取り入れることで、より多くの国民に支持される政策が実現する可能性も出てきます。
一方で、首尾一貫した政策体系を示して、その対立の形で各党が国民の支持を獲得するために競い合うなら良いと思うのですが、政策体系の背景を持たずに、論点ごとに有権者にこびるようなポピュリズムに走ることになると、良くない結果を生むことになりかねません。

議会制民主主義とは、政治家と政党がそれぞれの主張を立て、国民の同意獲得競争をして政権に就き、政策を実行する。その場が国会であり、国民の間のさまざまな利害を調整する場です。政治学の教科書にはこのように書かれていても、それぞれの国がそれぞれに異なる社会と歴史を持っているので、国によって実際の運用は異なります。
日本では、国会が議員間の討論の場になっていません。議員が政府に説明を求め、問題点を追及する場となっているのです。与野党が議論を重ね、政府提案あるいは与党提案を磨き上げて、さらに良い法律や予算にするという意識と経験が希薄です。

この背景には、日本においては、人前で、意見の異なる人同士の間で議論することが少ないことがあります。討論の経験がないし、討論している人から学ぶ機会もないのです。しばしば「和を以もって貴しとなす」という言葉が使われます。聖徳太子の十七条憲法以来の日本の伝統であり、あるいはそうあるべき規範と思われているようです。
しかし、すべての事が最初から最後まで「和である」=一致するはずがありません。それは結局のところ、意見の対立を表面化させないこと、対立がある場合はウラの世界で調整をつけることが良いとされる、社会通念だということができます。

対立が少なく皆が協調するべきという「ムラの慣行」と、オモテの場で議論せず、意見の対立をなるべく表面化させないでいたいという日本社会の深層意識が、討論やそれに基づく修正は避け、野党は政府批判だけをするという我が国特有の国会審議の背景にあるのでしょう。それは、これまでのムラ社会、世間、そして国会を貫く、「この国のかたち」です。

読売新聞「あすへの考」に載りました

今朝6月8日の読売新聞「あすへの考」に、私の発言「人口減令和の処方箋 地方創生本気で大胆に…」が載りました。吉田清久・編集委員の取材を受け、思っていることを話し、質問に答えました。話がいろいろなことに飛んでしまいました。記事を読んで、このように構成するのかと、発言した本人が感心しています。

この問題は即効薬はなく、長期的に取り組む必要があります。そして、モノを作るのではなく、国民の意識を変える必要があります。それは行政の不得意な分野で、行政だけではできず、企業や非営利団体などの力も必要です。私の経験を元に、復興庁でうまくいったことを説明しました。
中見出しに「創生本部を常設の「庁」に。中長期の具体的目標設定も必要」とあります。

・・・石破政権は最重要政策に「東京一極集中是正」と「地方活性化」を掲げた。「令和の日本列島改造」と銘打ち、地方活性化への取り組みに総力を挙げる。政府が地方創生を最初に看板に掲げ、司令塔に地方創生相を新設したのは2014年のことだ(第2次安倍政権)。初代の地方創生相は石破首相だった。しかし、目立つ成果は出ておらず、人口減少や地方の地盤沈下に歯止めがかからない。再生策に決め手はないのか。地方復興に長年取り組み、霞が関で「ミスター復興」と呼ばれた岡本全勝・元復興庁次官に「地方再生・令和の処方箋」を聞いた。(編集委員 吉田清久)・・・

・・・地方の地盤沈下の原因は〈1〉過疎化と東京一極集中〈2〉少子化と人口減少―が挙げられます。
「過疎化と東京一極集中」で留意すべきは、その背景にある心理的な側面です。
誰しも「大人になったら親元を離れ、きらびやかな東京に出てみたい」と思う。かくいう私も奈良県明日香村で生まれましたが、高校卒業後は村を離れたままです。
地方には働く場所が少ない。仕事がなかったら、地元を離れた人は戻らない。この事実は私が復興に関わった東日本大震災でも痛感したことです。
とくに若い女性が地域に根付かないと指摘されています。高学歴化が進み、女性も高校を卒業して東京の大学に多く進学するようになりました。地域に戻らないのは、若い女性が希望するような職場がないからです・・・

次のような位置づけも主張しました。
・・・政治家は国民に対し、国家のグランドデザインを明確に示すべきだと考えています。その意味で、石破茂首相の施政方針演説(1月)に注目していました・・・
・・・国民に、安心できる将来像を示すことは政治の大きな役割です。冒頭に述べた石破首相の「楽しい日本」の提唱もこの文脈で考えるべきです・・・
・・・国の針路を示す羅針盤を失い、向かうべき方向が定まっていません。地方再生が、かけ声だけで、問題解決に至らないのもそのためではないでしょうか。
「令和版・地方再生の処方箋」を見いだす鍵はそこにあります・・・

大きな記事で、見つけた知人からたくさん反応がありました。「中央省庁改革で組織の減量を担当した役人が、新しい役所の創設を提言するのか」「紙面下の長嶋さんの写真より大きいのは問題だ」とも。すみません。
全身像の写真の背景は、市町村職員研修所の中庭です。「どこかの料亭の庭かと思いました」「ホテルの庭ですか」といったメールも来ました。

関西大学経済学部で講義

今年も、関西大学経済学部に呼んでいただき、講義してきました。100人を超える学生が、熱心に聞いてくれました。近年の学生は、真面目ですね。
私の講義は、難しい理論を話すのではなく、彼らが知らない過去のできごとと、それに対して政府・役人はどのように対応したかです。これなら、わかりやすいと思います。地震の話をするのですが、高校で地学を履修した学生は一人だけでした。
もちろん、事実と体験談だけでなく、分析的なことも入れてあります。インフラ復旧だけでは、街での暮らしは成り立たないこと。企業や非営利団体、コミュニティの役割も重要なことです。

併せて、これから社会に出る学生たちに期待すること、こうすれば悩まなくても良いよという助言もしました。それが、私に期待されていることでしょうから。新聞を読んでいる学生はいませんでした。ネットでも、見ていないようです。新聞の読み方、その重要性を話しました。通じたかな。

質疑の時間は、良い質問がたくさん出ました。かつてと違い、積極的に手を挙げてくれます。その後、大学院生との意見交換もしてきました。当然ですが、学部生とはひと味違った質問が出ました。
帰りの新幹線の中で、この記事を書いています。