カテゴリー別アーカイブ: 連載「公共を創る」

連載「公共を創る」第210回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第210回「政府の役割の再定義ー大規模な財政支出とその財源」が、発行されました。
官僚にはできない政治の役割として、国民に負担を問うことを議論しています。今回取り上げるのは、予想外の事態に対する財政出動の際に、かつてはその財源を考えたのですが、近年では赤字国債で先送りしていることです。極端に財政が悪化しているのに、その上に巨額の赤字を積んでいます。

東日本大震災への費用は、15年度までの5年間で、当初は約19兆円と試算されました。当時は民主党政権でしたが、その財源を、増税、歳出削減、日本郵政の株式売却などで確保しました。
新型コロナ対策では、各国とも医療や経済対策に巨額の資金を支出する一方で、経済停滞で税収も大きく減り、財政は悪化しました。その財政悪化にどのように対応したかで、各国の違いが出ました。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスでは、巨額の国債を発行しつつ、増税などによる償還計画を立て、また経理を別にして明確にしました。しかし日本では、償還計画を立てることなく、赤字国債をそのまま増やしたのです。

かつてドイツの総選挙で、与野党ともに増税を訴えた事例も紹介しました。

原稿執筆、蟻の目と鷹の目

連載「公共を創る」の原稿執筆、新年早々の締め切りを守りました。1か月に3回載せるので、締め切りが毎週のように来ます。せっせと書き続け、書いては読み直しを繰り返して、概成させます。毎回6800字は、大変です。

次の締め切りに向けて書くとともに、それが進むとその次の分も視野に入れなければなりません。書いているうちに、論旨の続きで、次回分の執筆も進む場合があります。これは、うれしいです。「来週は、楽ができるぞ。こことここと埋めれば良いから」と。

ところが、ふと思って、その前後を読み直してみると、構成を変えた方が良いことに気づく場合があります。
すると大変です。せっかく書き終えた部分を後ろに回し、将来書く予定だった部分を前に持ってきます。それで、原稿完成の見込みがすっかり狂ってしまいます。

蟻のように、目の前のマス目を埋めること(最近は原稿用紙を使わないので、この表現は適切ではないですね)に集中していると、全体の地図を見失います。
鷹のように、高い位置から全体の地図を見渡して方向を修正し、もう一度、蟻になって方向を変えて、マス目を埋め直します。

連載「公共を創る」第209回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第209回「政府の役割の再定義ー財政健全化と国民の負担」が、発行されました。

官僚にはできない政治の役割として、国民に負担を問うことを議論しています。ところが、日本はかつてない、そして先進諸国では飛び抜けて、財政が悪化しています。それが、永年にわたって続いているのです。

太平洋戦争とその敗戦で、日本の経済と財政は破綻しました。それを教訓に、戦後日本は健全財政を基本としてきました。
1973年に起きた第1次石油危機の後、日本の経済成長率は大きく低下しました。その後、国と地方自治体は、大きな財政赤字に苦しむことになりました。行政改革の重点は財政再建のために、歳出削減、行政機構の簡素化、行政の減量に置かれました。その後、1989年に消費税(当時は3%)が導入されます。以降も、財政再建は行政改革の最大の課題と位置付けられていきます。

小泉改革では、社会保障費、公共事業費、地方交付税といった予算の大項目が経済財政諮問会議での俎上に載せられました。私は交付税課長で、諮問会議での議論に承服できないこともありましたが、交付税制度を持続させるためには必要と考え、いくつかの改革に取り組みました。
2008年のリーマンショック対策では、麻生太郎首相が巨額の財政出動に踏み切りましたが、「当面は景気対策、中期的には財政再建」を主張し、財政出動に合わせて、将来の増税の道筋をつけました。私は総理秘書官として、与謝野担当相から麻生首相への状況報告と対応の指示を仰ぐ電話を取り次ぎました。困難な状況を訴える与謝野担当相に対し、麻生首相が「筋を通すために頑張ってほしい」と指示を出されたことを覚えています。

連載「公共を創る」第208回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第208回「政府の役割の再定義ー最低賃金、国民の負担と政治主導」が、発行されました。

政治主導がうまくいっていないことの2番目として「政策の優先順位付け」を議論しています。全体を見渡して伸ばす政策(予算)と削減する政策(予算)を決めるのは、政治家の役割です。官僚にはできません。
政治家による優先順位付けでうまくいった例として、東日本大震災復興の事例を取り上げました。

利害対立の調整も、政治家の役割です。官僚主導の時代では、審議会という仕組みを使って処理することもありました。それが現在も続いている例が、最低賃金の決定です。知事たちが、審議会による決定に異論を唱え始めました。

国民に負担を問うことも、政治家の役割です。消費税率は、2012年の野田佳彦・民主党政権で5%から段階的に引き上げることを決め、安倍晋三内閣で時期を遅らせつつも実施されました。しかし、皆さんご承知の通り、日本の財政は先進諸国では飛び抜けて悪いのです。そして、改善の見込みなく悪化しています。

連載「公共を創る」第207回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第207回「政府の役割の再定義ー政策の優先順位付けと利害調整」が、発行されました。政治主導がうまくいっていないことについて議論しています。

政治主導へ転換するために、国会での委員会での官僚の答弁機会は減ったのですが、首相や大臣の答弁案を作成する業務は、以前と変わっていません。国会での質疑が、政治家同士の議論になっていないのです。
また、法律案や予算案の与野党への説明も、政治家でなく官僚が担っています。しかも、その際には政治家から官僚に対し時に厳しい要求や追及が行われます。政府提出法案などの内容は、与党の部会で実質的に決定するのですが、これは非公開で行われています。

政治主導がうまくいっていないことの2番目として、政策課題に優先順位をつけることを取り上げます。かつて「官僚主導」と言われた政治過程は、各省官僚と与党各部会がそれぞれの分野を拡大するものでした。しかし経済が停滞すると、どこかを削る必要が出てきました。これは官僚にはできないことです。政治家による利害調整、優先順位付けができていない事例と、うまくいった事例を説明します。