「コメントライナー」カテゴリーアーカイブ

コメントライナー寄稿第8回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第8回「それは首相に質問すること?」が、12月27日に配信されました。
今回は、10月の国会での、岸田文雄首相の答弁を取り上げました。宗教法人法第81条に定める宗教法人への解散命令について問われた首相が、1日で解釈を変更したことが話題になりました。しかし、首相はこのような個別の条文解釈を自分で考えたのではなく、事務方の用意した答弁案に沿って答えたのでしょう。

各法律は各省大臣が所管しています。細かい条文解釈は各省の担当者に聞けば正確に答弁します。大臣に聞くならその運用のあり方であり、首相にはそれを踏まえて大臣にどのような指示をするかという方針を問うべきでしょう。失礼ながら、この法律解釈を巡るやりとりは、国会の機能からみて「少し変だよ」と思わざるを得ませんでした。
官僚として、首相や大臣の答弁を補佐する仕事を続けて来ました。その経験からみて、国会質疑は政治家同士のやりとりの場であり、事務的な内容なら政府参考人から答えた方がいいものも多々あります。

あわせて、信教の自由をどのように議論するかについて述べました。国民の思想や世界観に関わる問題で意見の相違がある場合に、それを統合するのは国会の役割です。それは、既定の法律の解釈を確定するということではなく、問題となっている事柄に対して国家や社会がどう対処すべきなのかについての合意形成です。これは明らかに政治の出番です。その例として、脳死を例に出しました。

コメントライナー寄稿第7回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第7回「社風をつくる、社風を変える」が11月7日に配信されました。8日にはiJAMPにも掲載されました。

今回は、組織の文化「社風」を取り上げました。
毎日のように、会社や役所での不祥事が報道されます。横領や情報漏洩は個人が引き起こす不正ですが、性能偽装や統計不正は組織ぐるみの行為です。後者は、そのような不正を生む「社風」と不正を知っていながら止めない「社風」の両方がないと起こりません。他方で、社員が働きやすい職場、進取の気風など、よい社風もあります。

会社や役所によって、この社風は異なります。難しいのは、合併会社や混成部隊からなる組織です。放っておいても社風はできるのですが、それはよいものにはなりません。
社長の号令でよい社風ができるものではなく、幹部が訓示を垂れてもよい社風はできません。鍵を握るのは現場が見えている課長や課長代理です。その人たちを通じてよい社風をつくることが、幹部の最も重要な能力でしょう。
各自治体は購読しているので、詳しくは原文をお読みください。
参考「組織運営の要諦2

コメントライナー寄稿第6回

時事通信社「コメントライナーへの寄稿、第6回「最低賃金決定に見る政治の役割」が16日に配信されました。また、20日にはiJAMPにも掲載されました。今回は、最低賃金を素材に、審議会のあり方と政治の責任を取り上げました。

今年の最低賃金(時給)が決まりました。最高は東京都の1072円、最低は青森県ほか10県の853円です。加重平均では961円です。31円という過去最高の引き上げ額になりましたが、フランスやドイツでは1500円前後で、日本の低さが目立ちます。
給与水準は労使の交渉で決まるものですが、最低賃金は特別な決定過程を取っています。毎年、中央最低賃金審議会が改定の目安を作成し、それを基に各県ごとの地方最低賃金審議会が地域別最低賃金を答申し、各県労働局長が決定します。労働者代表と使用者代表が調整する形です。しかし2007年には、生活保護基準を下回るという変なことになりました。私は「憲法違反ではないか」と書いたことがあります。ドーア教授のコラムにも引用されました。

安倍内閣は「働き方改革実行計画」(2017年)において、「最低賃金については、年率3%程度をめどとして・・・引き上げていく。これにより、全国加重平均が1000円になることを目指す」と決めました。内閣が決めずに、審議会が決めるに際して「外から」注文をつけるのです。おかしな話です。関係者の意見を聞いて、内閣や知事が決めればよいのです。

コメントライナー寄稿第5回

時事通信社「コメントライナーへの寄稿、第5回「小さな政府論の罪」が配信されました。

政治家や報道機関は、「歳出削減、公務員数削減」「小さな政府」を主張します。国民もそれを支持します。予算と職員数の総量規制と「スクラップ・アンド・ビルド原則」の適用がその手法です。
しかし近年、政府の業務は増えています。感染症対策、デジタル化、子どもの貧困対策、地球温暖化対策… 。新しい課題が生まれ、新しい法律がつくられます。仕事は増えるのに、職員数は増えない。すると、残業を増やすか、非正規職員に委ねるか、目立たないところで手を抜くかしかありません。

企業ならもうからない業務はやめるのですが、行政は法律に基づき業務を行っているので、簡単には廃止できません。政治家と国民は総論において「小さい政府」を要求しますが、各論において「この法律を廃止し、業務をやめよ」とは主張しません。それは公務員に委ねられます。ところが、各法律と予算には必ず関係者がいて、廃止や縮小に反対します。

また、企業でも社員削減は必要ですが、企画部門や開発部門で削減を続けた先にあるのは、売り上げの低下でしょう。攻めの部門に人と予算を増やさない企業は衰退します。行政機構は、社会の課題に応えるための組織です。削減だけではだめで、新しい課題に人と予算をつけて取り組まなければなりません。

政治家や報道機関が主張すべきは、「必要な課題と業務に予算と職員を増やせ」でしょう。そして総量規制を続け、削減を主張するなら、具体的に「この業務を廃止縮小せよ」と示すことが必要です。