カテゴリーアーカイブ:社会の見方

日本のホテル会社がアメリカで西洋ホテルをやるのか

2024年11月4日   岡本全勝

10月18日の日経新聞に「星野リゾート、米国で28年に温泉旅館 おもてなし世界へ」が載っていました。

・・・星野リゾート(長野県軽井沢町)は17日、米ニューヨーク州で2028年に温泉旅館を開業すると発表した。四季の移ろいを楽しめる露天風呂を設けるほか、日本文化に親しめるよう趣向をこらす。インバウンド(訪日外国人)需要が活況とはいえ、国内だけでの成長には限りがある。日本の8倍という世界最大の旅行・観光市場である米国に日本のおもてなしで挑む・・・

記事に、次のようなことが書かれています。
星野代表は、アメリカの大学を卒業後、現地の日系ホテルで働いていた際、「日本のホテル会社がなぜアメリカに来て西洋ホテルをやるのか」と何度も問われたそうです。海外の日系ホテルは日本人客を見込むものが多く、地元住民や世界からの認知度は高くないようです。
星野代表は、「日本のホテルチェーンが世界に進出するには、日本らしい温泉旅館しかない」と話しています。

尊厳を保てる処遇に

2024年11月3日   岡本全勝

10月12日の朝日新聞オピニオン欄、小熊英二・慶応大学教授の「良き統治のために」から。

・・・よい統治とは何か。それは当該社会の構成員が幸福を追求する条件を整えることだ。
では幸福とは何か。古代ギリシャ哲学では、人間の幸福は「善くあること」だと考えられていた。各自に役割があり、人として認められ、健康に日々の仕事をしている状態だ。現代日本語なら「みんなに居場所がある」「誰もが一人前と認められる」「各人の尊厳が保たれている」にあたるだろう。
こうした幸福は英語では「ウェルビーイング」と訳される。「善く(well)ある(being)」という意味だ。それは「楽しい」「おいしい」などの瞬間的な喜びを指す「ハッピネス」と区別される。
よき統治(グッドガバナンス)とは構成員がこうした意味での幸福を追求する条件を整えることである。企業組織なら「よき統治」は、構成員がそれぞれ適切な役割を果たせるように組織を運営することだ。国の場合はさまざまな政策、たとえば雇用や教育機会の確保、個々人が尊厳を維持するに足る生活保障、経済活動や言論の自由、差別や独占を禁ずるルール設定などが具体的方法になる。
では現代日本で「よき統治」を実現するために解決すべき課題は何か。私見を述べてみたい。

・・・欧米では失業問題の解決を、誰もが役割のある社会を実現する重要課題とみなすことが多い。望んでも職がない社会は、誰もが役割のある社会とは言えないからだ。
だが日本では、失業がそうした問題として論じられることは少ない。なぜなら日本では、低賃金の非正規雇用なら職はあるからだ。だが日本は欧米諸国より正規と非正規の差が激しいので、それでは生活ができず「一人前」と認められない。これは単に所得の問題だけではなく、人間の尊厳が保てないという問題でもある。
これは女性の地位にも関わる。日本女性の労働参加率は、実はアメリカやフランスより高い。だが働く女性の半数以上は非正規である。しかも正規で働く女性は20代後半をピークに直線的に減少し、代わりに非正規が年齢とともに増える。つまり出産などで退職すると非正規の職しかない傾向がある。一定年齢以上で正規雇用の女性が少ないので、管理職に占める女性の比率も低い・・・

・・・正規雇用は減っていないが、これは昔も今も全就業者(自営業部門含む)の半数強にすぎない。残り約45%は自営業と非正規で、そのなかで自営業が減少し非正規が増えた。また正規でも中小企業なら必ずしも賃金は高くない。
そしていまの非正規労働者や中小企業労働者は、自営開業するために腕を磨く仕事をしているとは言いがたい人も多い。開業しても自営業そのものが危機的である。その状態で低賃金なら、人間として「善くある」という実感を持つのは困難だ。それが就業者の半数近い社会は「よき統治」が実現しているとはいえない。
こうした状態は、生まれる子供の半数近くが、将来は尊厳を維持できそうもない社会であることを意味する。少子化も当然だろう・・・
・・・また日本型の正規雇用は半ば必然的に雇用調整の可能な非正規労働者を必要とする。そのため正規雇用の増加は重要な措置ではあっても、全体をカバーするのは難しい。もちろん、人種や民族の誇りという形で尊厳を回復しようとするのは、一時の気休めにしかならず論外の選択である。
そうなると当面は非正規雇用の待遇改善が重要な選択肢である。その方法については専門家の意見も分かれており、私には回答は出せない。ここでは議論の喚起のため、私見を述べるにとどめたい。
まず最低賃金の引き上げは必須だと思う。これには中小企業主の反対もあるが、私の意見では、生きていけない賃金で人を雇うのは尊厳と人権の侵害である。個別には家計補助のために低賃金で働きたい人は現在もいるが、そうした世帯条件を前提にした賃金を公的な基準とするべきではない・・・

ニュースを避ける人々

2024年10月31日   岡本全勝

10月5日の朝日新聞オピニオン欄「ニュースを避ける人々」、澤康臣・早稲田大教授の「攻撃的なSNSに疲労感」から。

・・・英オックスフォード大学のロイタージャーナリズム研究所は、人々のニュースへの態度を調査しています。ニュースへの関心自体の低落傾向が続く中、2024年調査(47カ国・地域が対象)では「あえてニュースを避けている」人の割合が39%に上りました。17年から10ポイント上昇し、避けていたニュースは戦争や災害、政治などでした。このように、情報の中でニュースだけを避けようとする傾向は「選択的ニュース回避」(selective news avoidance)と呼ばれ、注目されています。

従来の「ニュース離れ」は、長くニュースの器だった「新聞離れ」にも重なる意味合いがありました。SNSなど、新しいプラットフォーム経由でニュースに触れる機会自体は増えていました。選択的ニュース回避は、「別の新しい器に盛られても食べない」という態度で、ニュース自体への忌避感です。
「避けたいと思うニュース」は各国によって傾向が異なるようです。23年調査では、例えば米国では右派が環境問題や格差社会の話題を強く忌避、左派は犯罪や個人の安全の話題は比較的避けようとする傾向がある、としています。

同研究所が「ニュースの量にへきえきしているか」と聞くと39%がイエスでした(24年調査)。ただ、この「へきえき感」を、単純に量の問題と考えるべきではない。ニュースへの接触方法が、ネットやSNS経由へと移ったことで起きる現象の一つだとみています。批判、罵倒など強い言葉ほど拡散しやすいのがSNS空間ですが、ニュース伝達でも、特に戦争や政治ではとげとげしい言葉や感情的なコメントなどの量が多く、そのためにニュース疲れを感じている面が強いのではないかと思います・・・

・・・戦争や災害、政治などのニュースは決して愉快ではありません。それを落ち着いて伝えることがニュース回避への処方箋かもしれません。不愉快な事実こそ、「民主主義の運転手」たる市民が社会を安全に進ませるには必要なのです。ニュース回避が進めば、民主主義は危機にひんします・・・

日本の発展の写真

2024年10月30日   岡本全勝

国際協力機構(JICA)が行っている、発展途上国政府幹部への研修の一部を担当することになっています。これまでも、危機の際の政府幹部の役割として、東日本大震災での経験を話しているのですが。今回は、明治以来の日本の発展に果たした行政機構の役割を話せとの依頼です。
拙著『新地方自治入門』や現在連載している「公共を創る」で、それにあたることも書いているので、引き受けました。

論点や図表も、それらを活用することができます。配布・投影資料を作り、英語とフランス語に翻訳してもらいました。日本のことを余り知らない人が多いとのことで、どうしたら通じるか工夫しました。
さらに数字や文章だけでなく、見てわかってもらうのがよいと思い至りました。東日本大震災での経験も、写真を基に話しています。しかし、今回の主題では難しいです。知人に知恵を借り、明治以来の日本の発展がわかる写真を投影しようと考えました。

インターネットで探すと、さまざまな写真が出てきます。しかし、著作権の問題などがややこしいです。
長崎大学図書館に、幕末明治期の写真があります。申請して、使わせてもらうことにしました。もっとも有料で、1回ずつ支払わなくてはならないので、1度だけにしました。
さらに知恵を出して、農林水産省に農業の発展がわかる写真を、日本を代表する電器会社に工場と作業の変遷がわかる写真を、千葉市役所に町の景色の変化がわかる写真を探してもらいました。皆さん快く引き受けてくださり、何枚もの写真を提供してもらいました。その中からいくつかを選び、投影資料を作成しました。

なかなか良いものができたのですが、利用条件から、ここでお見せできないことが残念です。さて、研修生にうまく通じるでしょうか。

不安定な政治が生む経済の低下

2024年10月30日   岡本全勝

10月11日の日経新聞オピニオン欄、森川正之・一橋大学特任教授の「不安定な政治が生む不確実性ショック」から」

・・・不確実性は古くから経済学の重要な研究テーマだったが、世界金融危機を契機に研究が加速した。そして不確実性の高まりが企業の投資や雇用、家計の消費に対してネガティブな影響を持つことが明らかにされてきた。出生率へのマイナス効果を示す研究もある。有力なのが「リアルオプション効果」といわれるメカニズムである。企業も家計も将来見通しを前提に現在の行動を決定するので、経済成長、物価、所得などの先行き不確実性が高まると、それが解消されるまで動かずに様子見をするという理論である。
大規模災害など予期せぬ出来事は、不確実性を高めるきっかけになる。「コロナ危機」も先行きが見通せない不確実性ショックという性格が強かった。経済活動の制限に伴う直接的なマイナス効果だけでなく、不確実性の高まりが追加的な影響を与えた。
「政策の不確実性」も実体経済活動を下押しすることを多くの研究が示している。予算、税制、法律改正、金融政策などの見通しが不透明だと、政策の影響を受ける企業や家計が積極的な行動を控えるからである。結果として政策効果が減殺されたり、意図せざる副作用を持ったりする。つまり政府が不必要な不確実性をつくらないことが経済政策としても重要である・・・

・・・日本経済は長期デフレからほぼ脱却し、人手不足が深刻になっている。こうした状況の下、生産性向上を通じた潜在成長率引き上げが経済政策の中心になるのは当然だ。ただ、研究開発、人的資本投資、規制改革などの成長政策は、その効果が現れるまでに時間がかかる。このため給付金や減税など短期の景気対策と比べ、政治的訴求力に欠ける面がある。
選挙では政治的にアピールしやすい「支援」がキーワードとして使われることが多く、財源論を度外視した様々な政策が提案される。しかし、コロナ危機で一段と膨らんだ政府債務は不確実性ショックの潜在的な源泉である。将来にわたる政策の予測可能性を高めて不安を払拭することが、企業や家計の前向きの行動を引き出す上で重要だ・・・