22日の朝日新聞「クルーグマンコラム」、「ギリシャに学ぶこと。引き締めは番狂わせ招く」から。
・・ギリシャの公的債務は、GDPの113%と実際に高いが、ほかの諸国も同水準の債務を抱えながら、危機を経験せずに済んでいる。例えば、第2次世界大戦から抜け出して間もない1946年のアメリカでは、連邦政府の債務がGDPの122%に達していた・・その後の10年間で、対GDP比はほぼ半分に削減され、1981年には33%という低い水準になった。アメリカ政府は、戦時中の債務をどうやって償還したのだろうか?
実際は、償還などしていなかったのだ。1946年末時点で連邦政府は2,710億ドルの債務を抱え、1956年末には2,740億ドルとわずかに増加した。債務の対GDP比が下落したのは、債務自体が減ったからではなく、GDPが増加したからだ。つまり、アメリカのGDPは、10年間でほぼ倍増した。GDPの上昇は経済成長とインフレーションの結果にほぼ等しく、1946年から1956年にかけて、実質GDPと全体的な物価水準は、ともに約40%上昇していた。残念ながら、ギリシャは、同じような成果は期待できない・・。
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リスク対策が生む新しいリスク
16日の朝日新聞オピニオン欄は、「監視カメラ社会」でした(遅くなって、すみません)。
映画監督の森達也さんは、殺人事件や刑事犯罪全体が減っていて、日本の治安は悪化していないこと。監視カメラは犯人検挙に多少は役に立つが、防犯効果は疑問であること。それに対し、過剰なセキュリティー意識がもたらす副作用として、逆に人々に不安をあおり、集団に逆らう因子を排除する傾向を激しくすることを、指摘しておられます。排除と厳罰化によってリスクを排除しているつもりが、逆に新たなリスクを生み出してしまうのです。
一方、前田雅英教授は、治安は着実に良くなっていること。防犯カメラは犯罪予防効果があり捜査にも役立つこと。世論調査では9割の人がカメラ設置に賛成していることを、指摘しておられます。問題は、どのような場所に、どのような形でカメラをつけるか。得られた情報を、どう管理するかです。すなわち、プライバシーの侵害です。それは、警察や役所がつける防犯カメラより、民間が設置するカメラで起きる危険性が高いこと。官のカメラには設置場所や方法、情報管理に関する法規やガイドラインがあるケースが多いが、民のカメラでは遅れていると、指摘しておられます。
リスクを軽減するために取る対策が、新しいリスクを生むジレンマです。これは、監視カメラだけでなく、いろんな局面で出てきます。この春の大学院での、講義のテーマの一つです。
市民社会と会社法制
13日の日経新聞経済教室に、上村達男早稲田大学教授が、会社法制改革について書いておられました。私が興味を持った点を、要点だけ紹介します。
・・戦後の経済改革は、「経済の民主化」や「証券民主化」といわれたように、それまでの財閥中心の体制を個人ないし市民中心の体制に転換させようとしたものであった。その理念は、米国流の人民資本主義であり、市民が株主となって企業社会をコントロールする、企業社会と市民社会の結節点としての証券市場を構想するものであった。
しかし、その時点では、市場を担えるような資産を持った個人も市民も存在せず、証券市場抜きの株式会社制度が戦後日本の企業社会を特徴付けた。資金調達は銀行をはじめとする間接金融中心であり、株式会社とは経営者にとって経営の道具であり器でしかなかった。株式市場を支える個人層のいない日本では、法人株主が主役となった。
貧しい日本がこうした行き方によって急速な経済発展を遂げたこと自体は肯定されるべきだ。しかし、ルールや制度・規範という観点からすると、それは「いまだ戦後」なのであり、公正な証券市場の存在とそれに対応する株式会社制度の存在、そしてそれを可能とする法的システムの整備を通じて実現された成功とは言えない・・
そして教授は、株式会社が本格的に証券市場と対峙する状況にふさわしい、株式会社制度を提唱しておられます。これまでの株式会社法は、株を持っている株主だけを考えていた。株主からのガバナンスであり、株主への説明責任です。しかし、株の保有者である株主だけでなく、「株の買い手」である投資家(公衆・市民社会)と、「株の売り手」である投資家の、3者への責任を自覚した法制をつくるべきだ、と言っておられます。
経済社会と法制度の関わりを、明快に分析したご主張だと思います。極めて短く紹介したので、詳しくは原文をお読みください。
東京は世界からどう見られているか
ニューヨークで発表された、世界大都市比較を、ニューヨーク在住の植田君に教えてもらいました。ニューヨーク市に立地する大手企業団体(NY市・州へ企業の立場で提言をする団体)であるPartnership for New York Cityが、大手会計事務所のPWCと一緒に発表した「世界の都市力比較調査」です。世界主要21都市について、都市を活性化する指標を、10領域58指数選んで比較しています。
それによると、東京は、10の領域のうち、「交通・インフラ」が21都市中トップとなり、「健康・安全・治安」が2位、「知的資本」が3位、「テクノロジー知能指数・技術革新」が3位です。東京は、ニューヨーク、ロンドン、パリと並ぶ、経済面での主要都市です。
一方、「産業・生活のコスト」の面では最下位、「人口構成・居住適性」では下から6番目です。このほか、エンターテイメント、旅行、ファッション、食ビジネスの充実度を示す「ライフスタイル関連資産」は、香港やシンガポールにも負けて7位。「持続可能性」の面では、資源のリサイクルや都市の緑化の面で遅れをとり、9位、「ビジネスのしやすさ」では10位、「世界のマーケットへの影響力や投資の誘致, 成長の促進」は11位です。詳しくは、原文または日本語発表をお読みください。
日本の開国を妨げるもの
厚生労働省が、26日に、経済連携協定(EPA)に基づき来日したインドネシア人とフィリピン人の3人が、看護師の国家試験に合格したと発表しました。初めて門戸を開いたことは良いことです。しかし、3人という数字を、どう評価しますか。
27日付け日経新聞によると、昨年は受験者は82人で合格者はゼロ、今年は254人が受験して合格は3人です。全体の合格率が90%に対し、EPAで来日した外国人の合格率は1%でしかありません。日本人ならほとんどの人が合格するのに、彼らが合格しないのは日本語の壁によります。外国人にとって日本語が難しいことと、さらに専門用語が難しいのだそうです。
また、認められた滞在期間は3年で、受験機会は3回までです。介護福祉士にあっては滞在期間が4年ですが、3年の実務経験が必要なので、受験機会は1回になります。
日経新聞の記事には、各国の労働力人口に占める、外国人の割合が図示されています。アメリカが15%、ドイツ・イギリス・フランスが5~10%です。それに対し、日本は1%です。もちろん、移民でできた国アメリカ、植民地からの人を受け入れたイギリス・フランス(もっともこの人たちの多くは、イギリス国籍やフランス国籍を持っていますから外国人ではありません)、労働力不足の時にトルコなどから労働力を受け入れたドイツというように、歴史が違いますが。
「失業者が多い時に、外国人労働者を受け入れるのか」という意見もあります。しかし、介護の現場や3Kの職場で、日本人労働者が不足し、外国人労働者に頼っている、頼ろうとしていることは事実です。