カテゴリーアーカイブ:社会の見方

経済のグローバル化と日本文化

2011年8月1日   岡本全勝

岩波書店PR誌『図書』8月号、原研哉さんの「北京から眺める」から。
・・日本は千数百年という歴史を持ちながらも、明治維新を契機に西洋文明を全面的に受け入れた。これは文化史的に見ると一つの挫折であるが、そのおかげで、近代国家として西洋列強に浸食されない国としてすれすれの体裁を保つことができた・・
・・明治に日本を置き忘れ、工業化によって風土を汚したといっても、そのままで済ますわけにはいかない。千年を越えて携えてきた文化は、そう簡単に捨て去れるものでもない・・
・・ふすまや障子のたたずまいは、空間の秩序のみならず、身体の秩序、すなわち障子の開け閉てや立ち居振る舞いという、躾けられた所作に呼応して出来上がってきたものだ。いかに美しく、そしてささやかなる矜持を持って世界に対峙し、居を営むかという精神性と一対をなしている・・
・・経済がグローバル化すればするほど、つまり金融や投資の仕組み、ものづくりや流通の仕組みが世界規模で連動すればするほど、他方では文化の個別性や独創性への希求が持ち上がってくる。世界の文化は混ぜ合わされて無機質なグレーになり果てるのを嫌うのだ
・・幸福や誇りは、マネーとは違う位相にある。自国文化のオリジナリティーと、それを未来に向けて磨き上げていく営みが、結果として幸福感や充足感と重なってくるのである・・

林宏昭先生の新著

2011年7月18日   岡本全勝

林宏昭先生(関西大学経済学部長)が、『税と格差社会-いま日本に必要な改革とは』(2011年、日本経済新聞出版社)を出版されました。
抽象的な税の理論書ではなく、現在の日本社会が抱える問題に即して、税金のあり方を述べておられます。少子高齢化、格差、地域間格差、社会保障、さらには災害復旧負担のあり方までです。大学生だけでなく、広く一般の方向けに書かれています。ご一読をお勧めします。
先生は、「学部長になって忙しい」と、おっしゃっていたのですが。どうして、どうして・・。

国勢調査速報

2011年6月30日   岡本全勝

総務省が29日に、2010年国勢調査速報を公表しました。30日の日経新聞朝刊が、1面で概要を伝えていました。なかなかショッキングな数値が並んでいます。
人口は少し減少したほぼ横ばいです。総人口が減少するのは、初めてです。65歳以上の高齢者は23%で、世界最高を更新しました。15歳未満の子どもは13%で、これも世界最低を更新しました。労働力人口はさらに減少しました。
女性の労働参加を示すM字カーブ(出産子育てで働く女性が減る傾向)は、かなり改善されています。

悲観論が、日本をさらに悪くする

2011年6月21日   岡本全勝

朝日新聞19日の別刷りGLOBEに、アメリカの投資会社会長ウィルバー・ロスさんの「震災でも揺るがぬ技術力、成長への楽観取り戻せ」が載っていました。
・・1980年代から90年代の初めまで、日本人はやる気とエネルギーに満ち、誰もが日本の成功を確信していた。欧米諸国は真剣に日本に脅威を感じたものだ。あれから日本人の心理にいったい何が起きたのか。
バブル崩壊後の長期停滞で、日本の若者には成功体験がないから、とも言われる。だが私自身、大恐慌が尾を引く時代に生まれ、20年代の米国の繁栄を体験していない。それでも、我々の世代は楽観的だった。大恐慌でも前へ進もうとする「精神」は死ななかった・・なぜ日本の若者はこれほどまでに失望しているのか。悲惨さでいえば、第2次大戦の焼け野原からすべてを始めた彼らの親より上の世代は、もっと大変だったが、もっと楽観的だった。前に進む意欲があった。その子どもたちは将来を悲観している・・
日本の若い世代の「憂鬱」は震災が起きる前から続く現象だ。リーダーたちは何とかして、彼らが再び誇りを感じられるように、高いことを成し遂げたいと感じられるように差し向けなければならない。悲観主義の下では大きな経済成長は望めない・・
経営者が意気消沈していたら、その下で働く人たちにやる気を出せといっても難しい。日本人が必要以上に将来を悲観し、落胆していることに、日本が抱える問題の多くの原因があると思う。日本人には高い職業倫理と技術力がある。ほんの少し米国流の楽観主義を導入すれば、可能性を引き出せるのではないか・・

同感です。指導者や経営者は、悲観論やあきらめを示すのではなく、若者に元気な姿を見せるべきです。そして、マスコミも自虐的な悲観論を増幅したり、第三者的な批判を繰り返すことを止めて欲しいです。もちろん嘘はいけませんが、第三者的批判と悲観論からは、何も生まれません。批判をするなら、代案を出さなければ。

自信をつけたアジア各国

2011年6月14日   岡本全勝

速い速度で変化する社会や経済を追いかけるために、なるべくそれらの本を読むようにしているのですが、時間が取れなくて、買ったまま積ん読も多いです。そしてそれらの本は、1~2年も経てば、時代遅れになるものも多いです(反省)。最近は新幹線での出張が増えたので、少し時間が取れます。もっとも、疲れて寝ていることも多いですがね(これまた反省)。
NHKスペシャル取材班『NHKスペシャル 灼熱アジア』(2011年、講談社)は、私の問題関心に合う本でした。2010年の8月と11月に放送された番組を、本にしたものです。タイの経済発展と買収される日本企業、中東でのエネルギーをめぐる闘い、インドネシア市場の争奪戦、中国の環境市場を巡る日韓の闘いを取り上げています。
1997年の通貨危機、2008年のリーマンショックで大きな打撃を受けながら、復活できない先進国をよそ目に、大きな成長を続けるアジア。そのアジアの勃興に対し、減速する日本企業がテーマです。
そこにあるのは、後発国の追い上げを見ながら、なお自信を持っていた先進国日本は、過去のものになったということです。日本に追いついただけでなく、ある部分では追い抜いた韓国と中国、彼らの自信。まだ一人当たりGDPは少ないながらも、先進国へのコンプレックスを払拭し自信をつけたアジア各国の姿です。

日本だけがなぜ、欧米にキャッチアップできたか。かつて日本人は、日本の優秀さや後発国のメリットを指摘しました。しかしそれは、一面しか見ていませんでした。私は、一人当たりGDPの各国の軌跡を示すグラフで説明する際に、「日本がキャッチアップに成功したのは、日本の優秀性によるが、日本だけがこのメリットを享受したのは、アジア各国が経済発展に目覚めなかったからだ」と解説しています。韓国は北朝鮮との対峙、中国は共産党の政治優先、インドシナ半島はベトナム戦争など、政治を優先し経済開発を後回しにしたのです。彼らが政治的安定を得て、経済開発に舵を切った時、日本の一人勝ちは終わりました。
手前味噌に言うと、日本が「政治より経済が重要だ。独自路線は必要ない、欧米にまずは追いつけばよい」というお手本を見せたのです。
幸いなことに、その時点では日本は世界のトップグループに仲間入りしていました。
私は、ヨーロッパは歴史的背景とともに、同程度の豊かさなので共同体ができるが、アジアはいつのことになるやらと、考えていました。しかし、いずれ近い将来に、アジア各国が同じような豊かさになるでしょう。その時に、日本は何で優位性を保つか。また、対等協力の関係ができたことを、どう活かすかが、次の課題です。