カテゴリーアーカイブ:社会の見方

西洋の衰退の原因

2013年9月30日   岡本全勝

ニーアル・ファーガソン著『劣化国家』(2013年、東洋経済新報社)を読みました。というか、読んだあと、紹介するのを怠っていました。
この本は、イギリスBBCラジオの番組リース・レクチャー(Reith Lectures)の2012年の講義を基にしたものです。講義の題名は「法の支配とその敵」ですが、西洋を隆盛させた4つの制度が行き詰まることで、西洋の衰退を生んでいるという内容です。
4つの制度とは、政治(民主主義)、経済(資本主義、自由主義市場経済)、法の支配、市民社会(ソーシャルキャピタル、市民のつながりやボランティア)です。それぞれの記述には、驚くほどの新鮮さはありません。しかし、世界を代表する碩学が、現代社会を分析する際にこの4つの切り口から見ていることに、同感し安心しました。
私は、社会を、政治制度(官)、経済制度(私)、市民社会(共)の3つに分けて説明しています。ファーガソン先生は、それに法の支配を加えています。講義の題名が、そもそも「法の支配とその敵」です。その理由は、次のように語られています。
・・政治主体と経済主体の双方に対して、重要な制度的チェックの役割を果たすのが、法の支配である(rule of law)。立法機関の制定する法律が施行され、市民一人ひとりの権利が守られ、市民や企業の紛争が平和的かつ合理的な方法で解決されることを保証する、有効な司法制度がなければ、民主主義も資本主義も機能できるはずがない・・(p18)

全体の主張は、本文を読んでいただくとして、勉強になったか所を、紹介します。
「法の支配が経済成長を促す」という考えが、広く受け入れられた。その際には、民間主体による契約執行と、国家による強制を制限することが、重要である。そしてこの点に関して、英語圏のコモンローが、大陸法より優れている。大陸法が「政策施行的」であるのに対し、コモンローは「紛争解決的」だからである。
法による投資家保護は、金融の発達度・・および銀行の政府所有や新規参入規制、労働市場の規制、メディアの政府所有の度合い、徴兵制の有無・・を予測する、強力な指標である。これらの領域のすべてで、大陸法はコモンローに比べて、所有や規制における政府介入の度合いが強い。その結果として市場に悪影響が及びやすい・・(p104)
この100年間、公教育の拡大は善だった。無料の義務教育が、大きな見返りをもたらした。読み書き計算ができることで、労働者の生産性が大きく高まる(それ以上に、平等な社会を作ります)。しかし、読み書きが普及した社会にとっては、公的部門が教育を独占的に供給することの弊害が大きい。
それは、競争欠如による質の低下と、「生産者」側の既得権益の力の高まりである。著者は、私立の教育機関の数を大幅に増やし、同時に低所得家庭の子どもたちの多くがこうした機関に通えるように、教育バウチャーや奨学金、育英資金の制度を確立することを薦めています(p153)。
ご関心ある方は、どうぞ。なお、第4回分はインターネットで、聞くことができます。

全国で第1号の全個室の特養)

2013年9月28日   岡本全勝

中谷延之・富山県黒部市副市長から、メールが来ました。「進化する政策、当てにならない常識」(9月24日)を読まれてです。中谷副市長は、元宇奈月町長(宇奈月温泉で有名です)で、私が富山県総務部長の時に、お世話になりました。ご了解を得て、一部改変して載せます。
・・外山義さんと特養の個室化の経緯が書いてありましたが、実は平成6年、宇奈月町は外山先生の指導と設計により、全国で第1号の全個室の特養「おらはうす」を開所したのです。
当時は大変な反響でありました。ある町の町長さんは設計図をそのまま持って帰り、すぐに同じものを建設したということもありました。その後、数年間視察の受けれに忙しかったことが懐かしく思い出されました。
特養は人口2万人程度で一か所設置が基準でした。それが7千人の町が特養を、それも全室個室のものを建設するというのですから、県もとまどったと思っております。中沖知事の理解もあり建設できました。やはり当初は建設費の問題もあり、普及まで時間がかかりましたが、国の制度改正により、原則特養は全室個室となり現在に至っております・・
・・黒部市は、今も少しでも復興に役立てばと福島県双葉町に職員1名を派遣しております。先日、新町長さんもわざわざお礼に来られました・・
ありがとうございます。

リーマン・ショック5年、世界は第2の大恐慌を免れた

2013年9月27日   岡本全勝

9月21日の朝日新聞オピニオン欄、ジャン・ピサニフェリー教授のコラムは、「リーマン・ショック5年」でした。
・・米国の投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻が金融の大混乱や大不況を引き起こして5年が過ぎた。混乱はまだ収まっていないかもしれないが、これまでの教訓と残された課題を三つのキーワードにまとめた。
まず浮かぶキーワードは「回復力(resilience)」。5年前、多くの人が1930年代の大恐慌の再来を恐れた。実際、経済学者のバリー・アイケングリーン氏と経済史学者のケビン・オルーク氏が示したように、2008年から翌年への世界の工業生産の落ち込み方は当初、1929年当時と同様だった。世界の貿易量と株価指数の下落ぶりは当時よりも深刻だった。
幸いなことに歴史は同じ道をたどらなかった。1929年の大暴落から5年が過ぎても世界はまだ不況に沈み、貿易も縮小していた。現在、米国はいまだ雇用不況に直面し、欧州経済も危機前の水準に回復していない。だが2008年以降、世界の生産は15%増え、貿易量は12%以上拡大した。
世界は第2の大恐慌を免れた。2008年に起きたのは米国の危機であり、金融システムが米国とほぼ完全に一体化していた欧州にも災いが広がった。ただ、中国や他の新興国は輸出面で深刻なショックに見舞われたが金融不安には襲われなかった。逆に、中国などが保有する米国債の価格は、金利低下を受けて上昇した。
回復の背景には主要20カ国・地域(G20)による時宜を得た対応もあった。2009年、新興国と途上国は初めて協調して、金融緩和による景気刺激策を実施した。先進国と共に、保護主義に対抗することも約束した・・
続きは、原文をお読みください。

進化する政策、当てにならない「常識」

2013年9月24日   岡本全勝

9月20日の朝日新聞オピニオン欄、中村秀一さんの「老人福祉法50年。利用者本位、大部屋から個室へ」から。
・・1963年に老人福祉法が制定されてから50年になる。この法律によって、介護施設である特別養護老人ホームが誕生した。特別養護老人ホームは「定員80人の施設がわずかに1施設あるだけ」(1963年厚生白書)からスタートして、今日では7552施設、定員49万8700人を数えるまでになっている。
老人ホームは今も昔も同じと思われるかもしれないが、この半世紀の進歩は著しいものがある。40年前に長野県松本市の老人ホームに調査に行ったことがある・・畳敷きの1部屋に8人の高齢者がひしめくように暮らしていた・・
・・私は、80年代前半にスウェーデンで勤務し、帰国後、90年に厚生省の老人福祉課長となった。当時の特別養護老人ホームは4人部屋が中心で、個室は定員の1割に限られていた。スウェーデンでは個室が原則だったので、個室化の推進について施設関係者に打診したが、否定的な答えしか返ってこなかった。「高齢者は大部屋のだんらんを好む」「個室にすると職員の移動距離が増え、負担が増す」「重度の高齢者に個室は不要」などがその理由だった。やむを得ず、個室の限度割合を3割に引き上げることにとどめた。。
その後、留学先のスウェーデンから帰国した建築家の外山義氏の実証研究によって、大部屋では互いに隣のベッドの人が存在しないかのように振る舞い、「だんらん」は成立していないことが明らかになった。また、個室に転換した施設で職員の歩数を転換前後で比較したところ、個室化後にむしろ減少したといったデータも示され、4人部屋をよしとする神話は崩れていった・・
・・このような先駆的な取り組みを踏まえ、2002年から個室ユニット型の整備が国の補助対象となった。03年の介護報酬の改定で、個室ユニット型の報酬も設定され、制度化が完了した。11年10月時点で、個室ユニット型の施設は、特別養護老人ホームの施設数の 36.8%、定員27.8%を占めるに至っている。なお、居室数では、すでに全居室の3分の2が個室となっている・・
・・今後の高齢者介護の課題は、この半世紀の間に発展を遂げてきた介護サービスを、施設内にとどまらず、地域の中で提供していくことである。特別養護老人ホームの使命は、地域のケアを支える拠点として、地域包括ケアに貢献していくことだ・・