進化する政策、当てにならない「常識」

9月20日の朝日新聞オピニオン欄、中村秀一さんの「老人福祉法50年。利用者本位、大部屋から個室へ」から。
・・1963年に老人福祉法が制定されてから50年になる。この法律によって、介護施設である特別養護老人ホームが誕生した。特別養護老人ホームは「定員80人の施設がわずかに1施設あるだけ」(1963年厚生白書)からスタートして、今日では7552施設、定員49万8700人を数えるまでになっている。
老人ホームは今も昔も同じと思われるかもしれないが、この半世紀の進歩は著しいものがある。40年前に長野県松本市の老人ホームに調査に行ったことがある・・畳敷きの1部屋に8人の高齢者がひしめくように暮らしていた・・
・・私は、80年代前半にスウェーデンで勤務し、帰国後、90年に厚生省の老人福祉課長となった。当時の特別養護老人ホームは4人部屋が中心で、個室は定員の1割に限られていた。スウェーデンでは個室が原則だったので、個室化の推進について施設関係者に打診したが、否定的な答えしか返ってこなかった。「高齢者は大部屋のだんらんを好む」「個室にすると職員の移動距離が増え、負担が増す」「重度の高齢者に個室は不要」などがその理由だった。やむを得ず、個室の限度割合を3割に引き上げることにとどめた。。
その後、留学先のスウェーデンから帰国した建築家の外山義氏の実証研究によって、大部屋では互いに隣のベッドの人が存在しないかのように振る舞い、「だんらん」は成立していないことが明らかになった。また、個室に転換した施設で職員の歩数を転換前後で比較したところ、個室化後にむしろ減少したといったデータも示され、4人部屋をよしとする神話は崩れていった・・
・・このような先駆的な取り組みを踏まえ、2002年から個室ユニット型の整備が国の補助対象となった。03年の介護報酬の改定で、個室ユニット型の報酬も設定され、制度化が完了した。11年10月時点で、個室ユニット型の施設は、特別養護老人ホームの施設数の 36.8%、定員27.8%を占めるに至っている。なお、居室数では、すでに全居室の3分の2が個室となっている・・
・・今後の高齢者介護の課題は、この半世紀の間に発展を遂げてきた介護サービスを、施設内にとどまらず、地域の中で提供していくことである。特別養護老人ホームの使命は、地域のケアを支える拠点として、地域包括ケアに貢献していくことだ・・