カテゴリーアーカイブ:社会の見方

荻外荘

2025年6月20日   岡本全勝

先日の休日、孫の相手をしない日に、思い立って、荻外荘に行ってきました。私の散歩道なのですが、ここのところ孫と公園に行くので、久しぶりでした。

荻外荘は、近衛文麿が首相の時に要人と面談をし、最後には自決した邸宅です。大学時代のゼミで、西園寺公望を研究したことがあり、関心を持っていました。
杉並区が、移築されていた半分を買い戻し、かつての姿に復元しました。ほとんど新築に近い作業です。かなりの費用と労力を使ったようです。詳しくは、ビデオで見てください。
家からは、一段下に庭が見え、さらにその向こうに、田圃と善福寺川が見えたようです。庭には大きな池がありましたが、地下鉄丸ノ内線の工事の際に出た残土で、埋めてしまったとのこと。そうでしょうね、あんな広く芝生広場にしていたとは思えません。

自決した書斎も見ることができます。戦後に住んだ吉田茂は、その部屋で寝たとのこと。
食堂で、ほかにもさまざまなビデオを、見ることができます。これは必見です。荻窪駅から歩いて行けます。近くの大田黒公園もよいですよ。
と書いたら、6月17日の朝日新聞東京版に「荻窪 三庭園に息づく歴史と文化」で紹介されていました。

歴史を捏造する人工知能

2025年6月18日   岡本全勝

6月5日の朝日新聞オピニオン欄「生成AIと歴史」、大知聖子・名城大学准教授の「コスパ社会の危険な「知の革命」」から。

―歴史学者として、生成AIの急速な進化をどう見ていますか。
「研究者が評価・検証することが前提ですが、情報処理や単純作業など、歴史学研究で生成AIを活用すると便利な場面はあります。ただ、一利のために百害を生み出しかねない、というのが私の感覚です。生成AIが作り出す『歴史』が、現実社会の歴史認識をゆがめる可能性があるからです」
「グーグルなどで調べものをすると、生成AIの『答え』が上位に出てくる時代です。歴史的な写真や映像のフェイクも既に生成されているようです。例えば、過去の日本軍の侵略を美化する画像が大量に流布したら、多くの人の考えに影響を与えてしまうのではないかと危惧しています」

―歴史の捏造や改ざんは有史以来あります。生成AIの何が特別なのでしょうか。
「リスクが三つあります。(1)偽情報を誰でも簡単に低コストで大量生成できる(2)生成されたコンテンツは『公平・中立で正確』と誤解されやすい(3)近い将来、権力者を含め、誰も制御できなくなる恐れがある、です」
「生成AIは、人間の過去の創作物を集め、バラバラにして並べ替え、吐き出すにすぎない。ブラックボックスから出てくる、生成過程の分からない『答え』を多くの人がうのみにするのは、占いで意思決定をしていた前近代に近い状態と言えます」

―ブラックボックスというのは。
「生成AIが学習する手法の中には、技術や仕組みが開示されていないものがある。プロセスが不明なので、私たちからはどうやってその答えにたどり着いたのか検証できず、偏った意見に調整されていても検証できません」
「歴史学は、科学的手法を用いて史料の信頼性を見分けてきました。経験的証拠、再現性、反証可能性の三つの観点から、ある仮説が本当にあり得るものかを検証していきます」
「経験的証拠とは、いつどこで誰が書いたかが分かる『史料』のこと。複数の研究者から見ても、同じ史料から同じ仮説が得られるのが再現性です。反証可能性とは、ある仮説が経験的証拠によって否定される可能性があるということ。何度も検証や反証される過程で、有力視されたり覆ったりします。生成AIがつくる『歴史』はそもそも経験的証拠、再現性、反証可能性の手続きを経ていないので史実とはみなされません」

―生成AIによる偽歴史が巧妙になり、研究者もだまされる日がくる?
「歴史学では、先述の手続きを経ない仮説は史実として扱いません。が、偽史料にはだまされるかもしれません。史料の検証がより重要になってきます。専門家の声よりセンセーショナルな偽画像の方が拡散力があるので、世間に偽歴史が広がり収拾がつかなくなることもあり得ます」

トッド氏「対露敗北なら「米帝国」崩壊」

2025年6月13日   岡本全勝

5月25日の読売新聞「あすへの考」、エマニュエル・トッドさんの「対露敗北なら「米帝国」崩壊」から(「あすへの考」は、先日に私も載せてもらった言論欄です。すごい欄に載せてもらったのですね。同列に論じたら失礼ですか) 。

・・・まず2期目のトランプ米大統領の政治の暴力性に驚きました。ロシアの2022年2月の侵略で始まったウクライナ戦争をめぐってはバイデン前政権の対露対決から、当事者のウクライナ、同盟相手の欧州をないがしろにして、親露和平路線へと一変した。高関税措置は、中国に手厳しいのはまだ理解できるとしても、欧州に敵対的であり、枢要な同盟国の日本さえも標的にした荒々しさです。欧州と日本を従属国として扱っているかのように見えました。

トランプ現象とは何か。それを考えるために、第2次大戦後の米国主導の国際秩序を「米帝国」と捉え直してみました。米国は「帝国」の中心ですが、全体ではない。英国と英語圏諸国、米国に解放されたフランスを含む西欧諸国、米国に占領された日独両国などが「帝国」の主要構成国です。米国の軍事力が安全保障の要となっている領域ともいえます。
「帝国」はウクライナ戦争までは安定していた。米国は情報通信技術と金融資本主義で世界を支配し、モノの生産はもはや副次的で、中国や日本やドイツ任せでも構わない、というのが西洋の大方の意見でした。「帝国」は自らの国内総生産(GDP)の3%でしかないロシアに対決する決断をして経済制裁を科す。ウクライナには武器を供与し、軍事情報を提供して全面的に支援しました。

だがロシアは持ちこたえた。米国防総省が作戦計画に関わったとされる23年夏の「反転攻勢」もしのいだ。以後、戦況はロシア優位に転じ、ウクライナの敗北、つまり「帝国」の敗色が濃厚になる。経済制裁は奏功せず、「帝国」には戦争継続に不可欠の砲弾を調達する方策もないことが露呈した。戦争に深く関わった米国は敗北を感知できたのです。
ロシアを打ち破れないということは、「帝国」を揺るがす衝撃的事態です。1989年に東西冷戦に敗れたソ連の衝撃に比較できる。トランプ氏の再選は戦争の劣勢が潜在的要因です。優勢であれば、バイデン氏の後継者の民主党候補カマラ・ハリス氏が勝利したはずです。

トランプ現象は、トランプ氏の支持基盤が大衆であり、その為政が既成秩序を不安定化している点で「革命」といえます。私は1917年のロシア革命を想起します。第1次大戦の対独戦の劣勢が引き金でした。ロシアはその後、戦争継続を主張するメンシェビキと革命遂行に固執するボリシェビキが対立し、後者が権力を握り、対独戦を放棄します。トランプ氏が革命に専念するのか、対露戦を継続するのか、予断を許しません・・・

経済対策6割が否定的

2025年6月12日   岡本全勝

5月23日の日経新聞に、「消費税減税は「不適切」85%、インフレ止められず 経済学者調査」が載っていました。
・・・日本経済新聞社と日本経済研究センターは経済学者を対象とした「エコノミクスパネル」の第5回調査で、一時的な消費税減税の是非について聞いた。財政状況が悪化することなどを理由に減税が「適切でない」と答えた割合は85%となった。一時的な減税が恒久化する懸念や、物価高対策としての有効性を疑問視する意見も目立った・・・

・・・夏の参院選を見据え、与野党が経済対策を競っている。物価高や米国の高関税を受け、野党は期限つきの消費税減税を訴えている。与党も減税や給付を盛り込んだ経済対策を検討している。
一時的な消費税減税に踏み切るのは適切なのか。5月16〜20日に経済学者47人に尋ねたところ、「全くそう思わない」(28%)「そう思わない」(57%)の割合が計85%だった。
経済学者の多くは短期的な景気の底上げより長期的な財政規律を重視する立場だ。プリンストン大の清滝信宏教授(マクロ経済学)は「消費税を減税すると、元の水準に戻すのが難しくなり財政再建が遠のく」と述べた・・・

・・・調査では、そもそも現在の日本経済が巨額の減税や給付を必要としているかも聞いた。「減税や財政出動などの経済対策を行うのは適切か」との問いには、「そう思わない」(55%)「全くそう思わない」(6%)との回答が計61%に達した。
2025年1〜3月期の実質国内総生産(GDP)は1年ぶりのマイナス成長となった。物価上昇率は日銀が目標とする2%を上回る状況が続き、物価高対策として与野党は減税や給付の必要性を訴えている。
多くの経済学者が経済対策に否定的なのはなぜか。まず目立ったのは、減税や財政出動がむしろインフレを助長してしまうとの意見だ。明治学院大の岡崎哲二教授(日本経済史)は「財政出動はインフレを加速させる懸念がある」と答え、東京大の岩本康志教授(公共経済学)も「さらに需要を追加する政策は物価の問題をより悪化させる」との見方を示した・・・」
・・・広範囲に巨額の経済対策を実施する効果を疑問視する学者も多かった。政策研究大学院大の北尾早霧教授(マクロ経済学)は「支援を必要としない高所得層を含めた全国民に減税する必要はない」と断言。慶応大の井深陽子教授(医療経済学)は「減税や給付が時限的なら、将来への備えとして貯蓄に回る可能性が高い」として、消費喚起の効果に疑念を呈した・・・

私は、日本に必要なのは景気対策ではなく、産業政策だと思うのですが。

過労死、東アジアで深刻

2025年6月10日   岡本全勝

5月25日の朝日新聞に、脇田滋・龍谷大名誉教授の「過労死、なぜ東アジアで深刻?」が載っていました。

・・・長時間労働や職場のストレスから命を落としたと認定されるケースが後を絶ちません。日本で長く問題になっている「過労死」は、英語の辞書でも「karoshi」と紹介されています。ただ、働き過ぎによる健康被害は日本だけの問題ではないようです。世界の労働問題に詳しい龍谷大の脇田滋名誉教授に聞きました。

――過労死はいつごろから問題となってきたのですか。
バブル経済へと向かう1970~80年代です。労災問題に取り組む医師たちが「過労死」と名付けたのが始まりです。
危機感をもった弁護士たちが連絡会を結成し、88年には全国初の「過労死110番」が実施され、海外でも「karoshi」と報道されました。

――過労死は日本だけの問題なのでしょうか。
そうではありません。世界保健機関などの調査によると、16年に長時間労働で死亡したとされる人は74万5千人に上り、00年から29%増加しました。韓国や中国といった東アジアではいずれも深刻で、儒教的な価値観も影響しているのではないかと考えます。

――どういうことでしょう。
勤勉さや組織への従順さが美徳とされ、厳しい競争社会であることが、長時間労働を助長する土壌になっています。
イタリアでは「有給休暇を放棄してはならない」と憲法に明記されています。ヨーロッパではバカンスを取るために働くという発想が強く、過労死を理解してもらうのに苦労しました・・・