カテゴリーアーカイブ:社会の見方

保守勢力としての労働組合

2019年6月10日   岡本全勝

6月1日の日経新聞オピニオン欄、藤井一明・経済部長の「フリーランスが崩す岩盤 働き方改革、複眼的に」から。
・・・平成が幕を下ろすのを待ち構えていたかのように、JR東日本の労働組合から組合員が大量に流出している。2018年2月に約4万6千人いた最大労組の組合員数は改元を間近に控えた19年4月で約1万1千人にまで落ち込んだ。ほかの労組も含め、加入している人の割合を示す組織率はかつての9割から3割に急落した・・・

記事には、労働組合の組織率の各国比較もついています。スウェーデンの67%を例外として、イギリス24%、日本17%、ドイツ17%、アメリカ10%、フランス8%です。
半世紀前と、全く様変わりしました。労働者の待遇がよくなり、労組に加入する利点が見えません。また、政治的には共産主義・東側に近かったのですが、冷戦の終結でその意義もなくなりました。

記事では、他方でフリーランスが増えていることを取り上げています。ここでは、それに関して、労組の問題を取り上げましょう。フリーランスのほかに、非正規社員もいます。この人たちは、既存労組に入っていません。
かつて労働組合は、「市民との連帯」というスローガンを掲げていました。しかし、その人たちとの連帯を進めることなく、正規職員の利益を守ったようです。ここに、労組が革新勢力ではないことが見えてしまったのです。

発掘された日本列島2019

2019年6月9日   岡本全勝

恒例の「発掘された日本列島2019展」に行ってきました。家形埴輪など、今年も、すばらしい発見がたくさん並んでいます。
今日も、文化庁の専門家の解説がある時間に行って、解説を聞きました。毎年、その前に行って、一通り見てから解説を聞くのですが。一人で見ていては気づかなかったことを、たくさん教えてもらえます。

このあと、1年かけて全国を回ります。近くに来たら見に行ってください。

セレンディピティ

2019年6月8日   岡本全勝

モートン・マイヤーズ著『セレンディピティと近代医学ー独創、偶然、発見の100年』(2010年、中央公論新社。中公文庫に再録)を読み終えました。
セレンディピティとは、幸運な、意外な発見という意味です。特に、何かを探しているときに、探しているものとは別のものを見つけ出すことです。
この本は、近代医学が、いかに偶然による発見によって進歩したかを、実例を挙げて説明した本です。

青カビからペニシリンを見つけたことは、有名ですね。ペニシリン発見の偶然も、詳しく読むと、かなり幸運な偶然です。ところがこの本を読むと、出てくるわ出てくるわ、次々と同じような例があるのです。
科学者が、それまでの知見の上に推理を重ね、実験を続けますが、うまく行きません。その分野の大家でない新人が、偶然、びっくりするような発見をします。しかし、なかなか学界では認めてもらえないのです。もちろん、素人が偶然に遭遇しても、発見にはつながらないのですが。
読んでいくうちに、あまりにそのような例が多いので、食傷気味になるほどです。近代医学の発展は、直線的でなく、偶然の積み重ねだとわかります。

日本の若者「日本は良い国」

2019年6月6日   岡本全勝

日本財団が、18歳の意識調査を続けています。
第14回は「海外と日本について」です。17歳から19歳の男女1000人から、回答がありました。
なお、海外渡航経験は半数の人にあります。もっとも、多くは旅行でしょうから、どのように知識を得ているかはわかりません。それは、多くの大人にとっても同じですが。

日本をよい国だと思う人は77%、思わないは7%です。かなり肯定的です。理由は、平和、治安がよい、安心で住みやすいなどです。
よいと思わない理由は、差別、不平等、働き方、生きにくいです。

日本が世界に誇れるものは、アニメ漫画、和食、景色や自然、治安の良さ、平和です。
他の先進諸国に比べて日本に欠けている点は、男女平等、外交力、経済力、教育水準、政治的影響力です。
戦後日本が達成した、高い経済と教育が低い評価になっています。これは、半分正しいと思います。二つとも世界最高水準を達成しましたが、その後、低下している実態を、若者は感じているのでしょう。

情念が時代を動かす

2019年6月5日   岡本全勝

鹿島茂著『ナポレオン フーシェ タレーラン 情念戦争1789-1815』(2009年、講談社文庫)が面白かったです。
物欲や性欲、名誉欲、これらの情念によって人は動き、歴史が作られます。ところが、この上にさらに人を動かす情念があるというのです。陰謀、移り気、熱狂です。しかも、この3つを体現した人物が歴史を大きく動かした。それが、この本の内容です。
陰謀情念はジョセフ・フーシェ。移り気情念はタレーラン。熱狂情念はもちろんナポレオン・ボナパルトです。
ナポレオンはよく知られていますが、あとの2人はそれほど知られていないでしょう。先に、シュテファン・ツワイク著『ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像』を岩波文庫で読みました。これも面白かったです。

英雄を中心とした歴史は、かつてほど評価を受けなくなりました。もちろん、一人や二人の英雄によって、歴史が大きく変わったり、社会が大きく変わることはないでしょう。その時代が置かれた背景、社会や産業の構造に規定され、英雄も一人ではすべてを決定できません。
しかし、フランス革命やヒットラーを見ると、「この人がいなかったら、違ったことになっていただろう」と思います。

ナポレオンが軍事の天才としても、それを熱狂的に支えた国民、志願して従軍した若者がいたから、いくつもの戦争が成り立ちました。
しかし、ナポレオンが、ある時点で満足していたら、あるいは周囲の反対意見を聞いていたら、ロシアやワーテルローで負けることはなく、ナポレオン帝国は続いていたでしょう。ライプツィヒで負けたときにも、ナポレオン1世が退位して、息子に継がせるという停戦案もあったのです。しかし、熱狂に動かされるナポレオンは、その情念に従って自滅します。

より興味をそそるのは、そのナポレオンにからむ、フーシェとタレーランです。かれらも、自己の情念に動かされ、様々な策謀をします。ここは、本を読んでいただくとして。
歴史は、このようにも読むことができるのだという傑作です。もちろん、学問的研究でなく、小説ですよ。