カテゴリーアーカイブ:社会の見方

モノとコト

2021年9月13日   岡本全勝

モノとコトという表現、あるいは「コト消費」という言葉を、聞かれたことがあるでしょう。でもコトって、何の意味かわかりますか。いろいろ考えてみました。専門家はまた違った解説をするのでしょうが、門外漢の私の理解を説明しましょう。

まず「コト消費」から。
ウィキペディアによると、コト消費は「一般的な物品を購入する「モノ消費」に対し、「事」(やる事・する事、出来事=出来る事)つまり「体験」にお金を使う消費行為のことで、特に非日常的(アクティブ)な体験が伴う経済活動を指す」とのことです。
体験型の消費とは、一方的にサービスを受ける、例えば散髪などと異なり、消費者が参加する体験型のサービス商品ということでしょう。
でも、そのような視点から商品を分類すると、モノとサービスがあり、そのほかに権利とか情報なども商品として扱われます。このサービスの中から、体験型の商品を特に「コト消費」と名づけたのでしょう。商品として売る際には、わかりやすいのでしょうが。

かつて、社会学の先生に、その違いを教えてもらったことがあります。「モノ」と「コト」の区別は、もともとはアリストテレスなどにある言葉だそうです。人間の外に実在するのが「モノ」、人間の心の中にあるものが「コト」で、過去や未来、観念などです。
それはひとまず置いて、現代社会を観察する際のモノとコトの区別は、私の理解では次の通り。
質量があるのが「モノ」、質量がないのは「コト」。コトとは、モノとモノの相互作用のこと。

社会科学は、「人(個人)とその関係」を研究します。モノに当たるのが「人」で、コトに当たるのが「人と人との関係」です。
自然科学、特に物理学では、対象を物質と運動に分解して考えます。物質がモノで、運動(これも物質間に働く力で関係と見ることができます)がコト。
厳密な科学的説明ではありませんが、私たちが世間を理解する場合には、このような切り口が有用でしょう。

日本人の値上げ嫌い心理が経済を冷やす

2021年9月12日   岡本全勝

9月8日の朝日新聞オピニオン欄、渡辺努・東京大学大学院教授の「値上げ嫌いこそ元凶」から。

「経済の体温計」といわれる物価が動いていない。その原因を多くの経済学者が探ってきたが、いまだに正解が定まらない。日本の物価研究の第一人者、渡辺努さんは、わずかな値上げすら受け入れない私たちの心理こそが「主犯」とみる。この20年間、「止まったまま」だという日本経済を動かすには何が必要なのかを聞いた。

――日本の物価はなぜいつまでも上がらないのでしょうか。
「たとえば、身近な理美容サービスやクリーニング料金は、2000年ごろから価格が全く動いていません。これは消費者の根底に『1円でも余計に払いたくない』という心理があるからです」
「企業は原材料の価格が高くなったり、円安で輸入コストが上がったりすれば、商品の価格に上乗せしたいと考えます。でも消費者にアンケートすると、いつもの店でいつもの商品を買おうとして少しでも価格が上がっていれば、『ほかの店に行く』と答える傾向が顕著です。欧米の主要国で同じ質問をすると、消費者の過半は同じ店で買い続けると答えます。日本では企業は顧客離れを恐れ、価格を据え置かざるを得ない」
――値上げを受け入れない心理はどう生まれたのですか。
「1995年ごろまでの日本は、年3%ぐらいの商品の値上げは普通でした。90年代末の金融危機のころから消費が急速に冷え込んだため、企業の間で価格据え置きの動きが広がりました。同じことは働く人の賃金にも言え、ほとんど上がらなくなりました」
「問題はその後です。銀行の不良債権問題が次第に片付いて経済が立ち直る過程でも、価格の据え置きが続いたのです」

――物価が上がりにくいのは、先進国に共通の悩みでした。
「確かに米国も欧州も全体でみた物価は上がりにくくはなりました。しかし、一つひとつの商品の値段はそれなりに上下に動いており、メリハリがある。一方、日本では一つひとつの値段がほとんど動かない。経済が止まっているようなものです」
――日本の消費者は飛び抜けてケチだ、ということですか。
「あまりにも長期間価格が動かないのを見せすぎたせいで、物価とはそんなものだと思い込んだ消費者が多いのでしょう。ある食品メーカーの社長は、海外の取引先はコスト上昇分の価格転嫁を受け入れてくれるのに、日本の流通大手は正当な理由を説明しても納得してくれないと嘆いていました」
「私も理不尽だと思いますよ。1円だって上がるのもイヤだというほど、あなたは貧乏なんですか、と消費者に尋ねてみたくなります。少なくとも平均的な年収があれば容認できるはずなのに、それでもイヤだというのですから」

――ただ、賃金も物価と同じように動かないのなら、ある種の均衡状態ではありませんか。
「確かに均衡状態なのですが、それではまずいんです。たとえば、ピザ屋が設備投資をして良い窯を入れ、工夫しておいしいピザをつくろうとしたとします。しかし、ライバルと横並びの値段でないと消費者は買わないから、設備投資の元が取れません」
「企業は、値上げが一切できないことを前提に活動しなければならない。コスト削減に追われて、賃金を上げている場合ではない。商品の開発も、設備投資も、技術革新も、前向きな動きがすべて止まっている。それがこの20年間の日本経済の姿なのです」

――生産性が低いことが問題の根本にあるのでは。
「日本の生産性は低く、上げる努力は必要だと思いますよ。でも、私が強調したいのは、仮に生産性が上がらなくても、賃金も物価も上げられるということです。どこかの会社で賃金が上がり、それを払うために商品を値上げする。購買力を維持するために、ほかの企業の賃金も上がる。そして、それらの企業の商品の価格も上がる。みんなの賃金と物価が並列的に年2%上がっていく状態を指して、世界の中央銀行は『インフレターゲット』と呼んでいるわけです」

――問題が「心理」にあるのなら、変えるのは難しそうです。
「日本では圧倒的多数の人々が今の物価のままでいいと思っています。コロナ危機が去ったらなんとかしようという機運は、政治家にも日銀にもない。どこかの企業が頑張って賃金を上げても、それが物価に跳ね返らないと、連鎖はそこで止まり、他の人の賃金に及んでいかない」
「誰かから安く買うということは、そこの労働者の賃金も低く抑えられるということです。安いことはまずい、という認識がまず広がらなければいけません。要は『気の持ちよう』なので、生産性を上げたり、労働市場の慣行を変えたりといった難題に比べれば、むしろ易しいはずです」

サービス付き高齢者向け住宅

2021年9月11日   岡本全勝

「サ高住」(さこうじゅう)って、ご存じですか。関係者の方は知っているでしょうが、知らない人も多いのではないでしょうか。「聞いたことはあるけど、どんなものかは知らない」という人もおられるでしょう。

サービス付き高齢者向け住宅」の略です。高齢者向けの賃貸住宅で、医療や介護の職員が常駐し、安否確認サービスと生活相談サービスを行います。生活支援や介護やサービスがついているものもあります。2011年にできた制度(それ以前も似た制度はありました)なので、まだ知らない人も多いでしょう。

高齢者には安心できる住まいなのですが、体験した人は少なく、見た人も少ないです。人は、見たり体験することで理解し、安心します。このような新しい仕組みを、高齢者や家族の人に、どのようにして知ってもらうのか。

9月6日の朝日新聞に「高齢者と住まい」「サ高住で幸せな最期送った母 食事制限なし、友人とも面会自由」という記事が載っていました。どこで、どのように最後を迎えるかも、大きな問題です。

9.11後の20年

2021年9月10日   岡本全勝

9月7日の日経新聞文化欄「9.11後の20年」トーマス・フリードマン氏の「民族とグローバル、均衡を」から。
・・・東西冷戦の終結を受け、その後の国際秩序を予想する議論が出た。フランシス・フクヤマは自由経済圏が勝利し平和が来る「歴史の終わり」を予言したが、世界から紛争は消えなかった。サミュエル・ハンチントンは異なる文明同士が対立する「文明の衝突」を論じたが、実際にはイスラム教シーア派とスンニ派の対立のように、同じ文明内での衝突が頻発した。
私は「民族としてのアイデンティティー」と「グローバル化」という新旧2つのシステムがからみあい、共存する世界を予想した。トライバル(民族的)な欲求とグローバル秩序が時には綱引きを、時にはレスリングをしつつ均衡を保っていく構図だ。この予想はかなり的を射ていたと思う。
(14年に)ロシアのプーチン大統領はクリミア半島の併合に踏み切ったが、ウクライナの首都キエフには侵攻しなかった。中国は香港で引き締めを強めているが、台湾には侵攻していない。トライバルな欲求をグローバル秩序が抑え込むことに成功したからだ・・・

欧米と中国の対立、日本の位置は

2021年9月7日   岡本全勝

9月3日の読売新聞「竹森俊平の世界潮流」「欧米の対中競争「戦線」拡大…ワクチン・太陽光 パワーを左右」から。

・・・ところでシンガポール政府が公式に認めたワクチンは米ファイザー製、米モデルナ製だけだが、公式ではないものの、中国製ワクチンも接種が認められている。
シンガポールと中国の経済関係は強い。中国政府は有効なワクチンとして中国製だけを認めている。より高い治験成績を持つファイザー製、モデルナ製とも有効性を認めていないのだ。それで中国に出張の機会が多いシンガポール人は、仕方なく中国製ワクチンを接種する。

現在、主要先進国は中国製ワクチンの有効性を認めていないため、「ワクチン接種」が主要先進国への入国に必要になった場合、中国は孤立しかねない。
他方、世界保健機関(WHO)は中国製ワクチンを承認している。発展途上国でのワクチン接種は遅れている。欧米のワクチンは先進国での接種に回り、途上国へ供給する余裕がない中で、中国製は重症化率、死亡率を下げる効果があるとして、WHOは途上国への供給を念頭に承認したのだ。これを受けて中国は、アジア、ラテンアメリカの途上国に広範にワクチンを供給している。

中国は主要先進国への訪問の道を閉ざされ孤立するのか。194か国が加盟する国際組織のお墨付きを得た中国製ワクチンを、主要先進国はいずれ承認せざるを得ないのか。恐らくこれを決めるのは疫学的安全性だけではない。経済力も絡んでくる。ことはすでに「パワーポリティックス」に発展している。
中国市場を重視するドイツなどの企業人は、出張のために中国製ワクチンを接種するだろう。ギリシャ、スイスなど一部の欧州の観光国は、中国人観光客を期待し、すでに中国製ワクチンを入国条件に承認している。日本はどうするのか。いずれ中国製ワクチン接種の施設が国内にできるのだろうか・・・