カテゴリーアーカイブ:社会の見方

広告主からの報道への圧力

2022年1月28日   岡本全勝

1月22日の日経新聞夕刊、中野香織さんの「ハウス・オブ・グッチ公開 ブランドの闇 扱いに今昔」が興味深かったです。公開中の映画についての評論です。

・・・実は、ブランドの暗部でもあるこの話が映画化されたことじたい、モード記事を長年書いてきた私にとって驚きだった。10年ほど前までは、雑誌によってはこのエピソードに触れると、その部分は削除された。ブランドからの広告で成り立つ雑誌は、広告主がチェックし、不都合とみなすことは掲載されない。そういうビジネスモデルなのである。
広告主が関わらないメディアで「不都合な」話を書くと、ブランドからショーや展示会の招待状は来なくなる。見られなければ記事も書けない。日本に本来の意味でのファッションジャーナリズムが存在しえなかったことの背景の一つだ・・・

・・・自分のささやかな経験からの臆測にすぎないが、ブランド側も映画に協力しており、この話をどこに書いても削除されなくなったことに隔世の感を覚える。
関係者や遺族から「事実はああではない」とのクレームも来る状況で、自分の作品としてどっしり構えるスコット監督の勇気ある態度そのものが、映画の内容以上に感慨深い・・・

何かわからない英略語

2022年1月27日   岡本全勝

1月22日の日経新聞別刷りプラス1は、「英略語 知らずに使っている?」でした。
・・・URLやIoT、SDGs…。よく耳にするけれど何の略か分からない英略語は意外と多い。
ニュースや日常生活で聞く英略語のクイズを1000人超の日経プラス1読者に出題。正答率が低かったものから順にランキングした・・・
で、並んでいるのは、次のような言葉です。
PFI、URL、PR、ICU、IR、PDF、IoT、CC、BMI、NPO、5G、IT、SDGs・・・

あなたは、どれくらい分かりましたか。日経新聞読者でこの調査に参加した人は、このような知識の高い人と思われますが、PFIで30%、NPOで66%です。
記事には、漢字の略も取り上げています。国連(国際連合)、公取(公正取引委員会)です。漢字の略なら、元の言葉を類推できます。UNでは、元の言葉は類推できません。

私のカタカナ語嫌いについては、次をご覧ください。「頭は類推する。カタカナ語批判。3

アメリカ白人男性の絶望

2022年1月26日   岡本全勝

1月23日の読売新聞1面コラム「地球を読む」は、猪木武徳・大阪大学名誉教授の「社会・経済分析 「思い込み」に染まる危険」でした。

・・・ノーベル経済学賞受賞のディートン氏と、妻で著名な医療経済学者のケース氏は、米社会の一断面を次のように捉える。非ヒスパニック系の中年白人男性の死亡率が近年目立って上昇しており、死因で増加率が高いのは自殺、薬物の過剰摂取、アルコール性肝疾患の三つである。著者らはこうした死に方を「絶望死(deaths of despair)」と呼ぶ。国勢調査と死亡証明書のデータを分析して、こうした絶望死の割合が顕著に増加しているのは低学歴層であることを明らかにしたのだ。

2人の論考は多くの研究者の注目を集めている。感心するのは、彼らのその後の研究で、米国の政治風土の底流にある大きな変化と結びつけて論じていることだ。昨年秋に2人が発表した論文では、2016年大統領選でなぜトランプ氏が勝利したかが次のように分析されている。
1970年代から21世紀に入るまでは、死亡率の低い(より健康な)州ほど共和党に投票する人が多かった。しかし2016年と20年の大統領選挙では「不健康な」州ほど共和党のトランプ氏に票が集まり、反民主党の傾向が強かったことが統計に表れている。
この事実は何を物語っているのか。かつては白人労働者の権利を守ってくれた民主党が、今や組織率の低下した労働組合に完全に背を向け、人種的少数派や高学歴層とタッグを組む政党となったことへの強い抵抗の意思表示なのだ。この構図は、日本でなぜ野党支持が伸びないのかを理解するうえでもヒントになる・・・

新聞の未来

2022年1月24日   岡本全勝

1月21日の朝日新聞オピニオン欄、前ワシントン・ポスト編集主幹、マーティン・バロンさんのインタビュー「ジャーナリズムの未来」から。
・・・米国で最もよく知られるジャーナリストの一人がワシントン・ポストの前編集主幹マーティン・バロン氏だ。昨年2月までの約8年間、一時は経営不振に直面した同紙の編集部門の改革の先頭に立ち、電子版購読者数を大きく増やした。ネット時代をいかにチャンスに変えたのか・・・

――13年10月、ワシントン・ポスト社はアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏に売却されました。変化は起きましたか。
「彼は最初から最重要かつ根源的なことを実行しました。この新聞の戦略を変えたのです。首都ワシントン地域に焦点を絞るというそれまでの戦略は正しくないと考えていたのです。我々は経済基盤の全てをインターネットに破壊され、広告収入も失い、苦境のさなかにいました。しかし、彼の言葉を借りれば、インターネットは我々に一つの贈り物を与えてくれました。ほとんどコストをかけずに国内、海外のどこにでもニュースを届けられ、プリント版を刷らずに全国紙あるいは国際紙になれるという贈り物です」

――具体的にはどんな改革をしたのでしょうか。
「ベゾス氏は、『戦略に沿った正しい取り組みには投資する』と語りました。彼は二つの要素を満たすアイデアを求めました。一つは単に地域的な読者ではなく、全国の人々に訴求するもの。もう一つは、若い世代を引きつけるもの。我々は若い読者を必要としていました。若い世代を開拓しなければ、20年後には読者はいなくなってしまいます。そこで我々はそれらの要素を満たす一連のアイデアを提案しました」

「一つはインターネットにおけるコミュニケーションとは何かを理解しているジャーナリストたちの採用です。彼らの多くはデジタルメディア出身で、紙中心の媒体で働いたことがない人々です。彼らは、新聞で典型的に使われる堅苦しい文体や構成ではなく、インフォーマルで親しみやすい話し言葉で文章を書きます。ソーシャルメディア上で認知され、読者を開拓する必要があることを理解していました。また、自分が書いた記事がどう読まれているかを知るために指標に注意を払います。記事を読んだ読者の数や最も関心を集めたテーマ、どのような表現方法が良い結果を出しているかなどを知る指標を把握していました。彼らは我々に一つのモデルを示してくれました」

「我々の仕事は24時間態勢になりました。インターネットの世界では人々は瞬時にニュースが読めることを期待しています。我々は夜間のニュース部隊をつくりました。日中に編集部門が取り上げなかったニュースの中から最も話題になっている面白いものを選んだり、違った視点から続報を出したり、ニュース速報を配信したりする仕事を一晩中担当します。これは大変成功しました」

――インターネット上には、無料で読める記事が氾濫しています。ジャーナリズムはどう差別化を図るべきでしょうか。
「ジャーナリズムの将来は、我々の仕事にお金を払う気持ちを読者に持ってもらえるかどうかにかかっています。真の価値を提供すれば、読者はそれにお金を払います。徹底した深い取材、より多くの調査報道、優れた分析、物語性のある読み物、深く掘り下げた人物記事など、こうしたジャーナリズムの仕事はメディアの将来にとって極めて重要です」

インターネットでの個人監視

2022年1月21日   岡本全勝

1月17日の日経新聞オピニオン欄「個人データ、活用と保護 実務者や識者に聞く」、ハーバード経営大学院名誉教授ショシャナ・ズボフさんの「監視資本主義の克服を」から。
・・・ネット利用者がいま何を検索し、どんなウェブサイトを見ているか情報収集する方法を米グーグルが発見してから20年あまりたつ。この間私たちは20世紀に確立した個人の権利保護の制度がデジタルの時代にうまく機能しないことをよく認識せず、ネット企業の行動を放任してきた。
その結果、リアルの社会では家宅侵入やのぞき見を許容しないのに、パソコンやスマートフォンで個人が何を見ているか企業が勝手に監視・記録し、そのデータを収益に変える行為を許してきた。これまでの産業資本主義では自然資源を原料にしたのに対し、21世紀には監視データを原料とする「監視資本主義」が成立したといえる。
監視資本主義的な企業活動は現時点では合法だが、決して正当ではない。不当な行為を非合法にするために、ネットとデジタル技術の存在を前提にした新しい権利の憲章と法律の整備が必要だ。

オンラインサービス企業は利用規約を通じ情報取得について利用者の合意を得ていると主張する。しかし、ほとんどの人は規約の中身を読まない。それを知りながら規約で広範囲な「合意」を強いている。
金融商品の約款など一方的な合意取得の商慣習は以前からあったが、デジタル時代になって乱用が激しくなった。それに法律が追いついていない。利用者がきちんと認識していない監視行為は違法とすべきだ。すべてのサービス提供者はどんな監視行為をしているのか具体的に明示したうえで本当の合意を得るよう、義務付ける必要がある・・・