カテゴリーアーカイブ:社会の見方

日本産業の没落、ものづくりを過信

2022年6月1日   岡本全勝

5月17日の朝日新聞オピニオン欄、諸富徹・京都大学大学院経済学研究科教授へのインタビュー「資本主義、日本の落日」から。

日本は主要国で真っ先に経済成長が滞っただけでなく、脱炭素など環境対策でも出遅れが目立つようになった。環境と経済の関わりについて研究を重ねてきた経済学者の諸富徹さんは、そこに日本の資本主義の「老衰」をみる。産業の新陳代謝を促し、経済を持続可能にする道を、どう見いだせばいいのか。

――日本は「資本主義の転換」に取り残されつつある、と指摘しています。
「世界の産業は、デジタル化やサービス化が進んでいます。経済の価値の中心は、モノから情報・サービスへと大きくシフトし、資本主義は『非物質化』という進化を遂げているのです。それなのに、日本はいまだにものづくり信仰が根強く、産業構造の根本的な転換ができていません」
「二酸化炭素(CO2)を1単位排出するごとに、経済成長の指標となる国内総生産(GDP)をどれだけ生み出したのかを示す『炭素生産性』をみると、日本は先進国で最低水準です。成長率が低いうえ、その割にCO2排出を減らせていないことを示しています。エネルギーを多く使いながら付加価値が低い、20世紀型の製造業に依存しているせいです」

――かつて日本は、環境技術を誇っていたのでは。
「1970年代の石油危機を受けて省エネを推し進め、環境先進国と呼ばれた時代がありました。日本の資本主義に活力と若々しさが残っていたころです。過程で産業競争力もつき、90年代までは、その遺産でやっていけました」
「しかし、2000年代に入っていくと様相が一変します。欧州は再生可能エネルギーに真剣になったのに、日本は不安定でコスト高だと軽視し続けました。いずれは新しい産業になり、コストも下がるとの主張にも、政財界の『真ん中』の人たちは聞く耳を持ちませんでした」

――コロナ下での経済政策は、むしろ既存の産業や雇用を守ることが重視されました。
「個々の労働者を政府が直接守る仕組みが貧弱なので、企業に補助金や助成金を出して、これまで通り雇い続けてもらうしかなかったのです。これなら失業率は低く抑えられますが、CO2を多く出したり生産性が低いままだったりする企業も温存されます。働き手も、新たなスキルを身につけるでもなく、飼い殺しになっている。コロナの2年間は、ほぼ既存の構造をピン留めしただけでした」

――一方、デジタル化に関しては、コロナ危機が日本に変化を迫った面もありました。
「日本がずっとデジタル化の入り口でとどまっていたのは、プライバシー問題などをめぐる慎重論が勝っていたからです。米国や中国は、まずはデジタル技術を社会経済に組み込み、その上で弊害に対処するアプローチで先行しました。日本もデジタル化を一気に進めざるをえなくなったのは、パンデミックがもたらした前向きな変化の一つではあります」

――ではどうすれば。
「定常状態を脱するには、伸びる産業や企業に働き手が移っていかなければなりません。同一労働同一賃金の促進が一案です。正規・非正規雇用の格差を縮めるだけでなく、生産性の低い企業が人件費カットで生き延びるのを防ぎ、産業の高付加価値化を促せるからです。環境税や炭素税の導入も、最初に例に挙げた『炭素生産性』の低い企業に退出を迫る、似た効果が期待できます」
「その際、職を失った人も生活を心配せずに新たなスキルを身につけられる安全網を整えるのが、極めて大事です。そうして継続的な賃金上昇を促していくのです」

生命知能と人工知能

2022年5月31日   岡本全勝

高橋宏知著「生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方・育て方」(2022年、講談社)が分かりやすく、勉強になりました。お勧めです。

人の脳と人工知能とを比較して、脳の機能に迫ります。二つは、何が違うか。
人工知能はある目的のための「自動化」の技術であり、あらかじめ決められた規則に従って物事を進めます。その際には、なるべく無駄を省くように設計されています。それに対し生命知能は、その生命体が生きていくための「自律化」のためにあります。こちらは自分で目的を決め、規則も自分で決めます。人工知能は、これまでにないことを見いだしませんが、生命知能は、これまでにないことを考えます。

どうして、このような差がでるか。人工知能は、その目的のために人間が設計します。生命知能・脳は、細胞から始まり、動物の進化の過程で発展してきました。種がダーウィンの法則で進化してきたのと同じく、細胞が変異を続け、適者が生き残ってきました。「変異」によって「多様性」が生まれ、その中から「選択」されて、私たちの脳ができました。
これは、すばらしいことです。変異が生まれないと多様性は生まれず、進化は起こりません。細胞は脳や司令塔を持っていないので、「この方向に進化するのだ」という意図も持っていません。その中で生物の進化が起こるのは、この仕組みによってです。この比喩は、社会にも当てはめることができます。

その脳が、意識を作ります。目や耳、皮膚から刺激を受けて反応することは、機械の類推で理解できます。情報処理です。
他方で、目を閉じてもいろんなことを考える、寝ていていても夢を見る、さらにこれまでにないことを思いつくことができることは、そのような類推では理解できません。脳細胞が、どのようにして記憶するのか、そしてそれを呼び出すのかも、不思議です。
何もしていなくても、脳は動いています。自発活動をしています。常時、20ワット程度のエネルギーを消費しています(体全体では約100ワットです)。
私たちの意識に登らない「作業」を、脳は常に行っているようです。経験した音や画像、文章などを記憶し、良く似たものと関連づける作業をしているのでしょう。

外部刺激を受けてそれを知覚するのに、20ミリ秒かかります。ところが、脳への電気刺激で意識的な知覚を作るのには500ミリ秒もかかります。それを脳は統合しています。私たちの見ている現在は、かなり過去の物です。
そして、指を動かそうとする場合に、まず脳が動き出し、300ミリ秒たって動かそうと思う瞬間が訪れ、その200ミリ秒後に指が動きます。私たちが思うから動くのではなく、その前に脳が指示を出しているのです。これは理解しがたいことです。じゃあ、何が脳を動かすのか。私の印象では、私たちが意識しないところで脳がぐるぐるといろんなことを考えていて、何かのきっかけ、それは見ていることであったり、他の考え事であったりして、それがきっかけになって、あることが動き出すのでしょう。そこから意識に登るので、その前の脳の活動は分からないのです。
まだまだ勉強になることとが書かれていますが、それは本をお読みください。

著者は、将来に人工知能が発達して人間の行動の代替をするようになったらどうなるかも、言及しています。機械に置き換えることができる作業は、置き換わるでしょう。すると、人間らしさは、機械ができないことをすることです。
既にわかっていることを記憶し、問に答えることは、人工知能の得意とすることです。そのような大学入試問題なら、人工知能も正解できます。
分かていないことを考えることが、人間の仕事です。分からないことをパソコンやスマホで調べることは、検索であって、脳を使った学習ではありません。仮説を立てて検証することが、人工知能は不得手です。そこから、どのような学習が良いかが、導かれます。

国際公共財インターネット

2022年5月28日   岡本全勝

5月16日の日経新聞オピニオン欄「ネット空間に分断の危機 識者に聞く」は、考えさせられます。
・・・インターネットで国内外の情報を手軽に閲覧できるのは、ネット空間を国際的な公共財としてIT(情報技術)企業や各国政府が協力してきたからだ。それがロシアのウクライナ侵攻や強権的な政治体制の広がりで揺らいでいる。ネット空間は「分断」を避けられるのか、ネット管理の国際団体や識者などに尋ねた・・・

ICANN CEO ヨーラン・マービー氏
民間非営利団体「ICANN」の役割は2つに絞られる。ひとつはコンピューターをインターネットに接続できる環境を保つこと、もうひとつはネット上の住所といわれるドメイン名を使って、人々がお互いを探しあえる状況を維持することだ。これ以外の役割は持ち合わせていない。
ウクライナ政府は2月末にロシア政府発の偽情報やプロパガンダを防ぐため、ロシアに割り当てられた「.ru」ドメインの取り消しなどの措置をICANNに要請した。
深刻な内容と受け止めて真剣に協議し、迅速で明快な回答を心がけた。ただ、技術的に不可能ということもあり、従来の姿勢を貫く形となったのが実情だ。政治的な判断ではない。
インターネットは約35年という短い期間で、世界の利用者がゼロから52億人へと急拡大した。しかも、機能不全に陥ることもなかった。技術的なシステムが機能し続けることは珍しい。非中央集権型の運営方式を採用していることが成功の理由だと考えている。
世界には多くの通信網があり、どのような情報が流れるべきかといったルールはそれぞれの通信網が決めている。ICANNは異なる通信網のコミュニケーションに必要な「共通言語=インターネットプロトコル(IP)」を管理する中立的な存在で、誰かを遮断することは目的ではない。
日常生活の違法行為はネットでも違法であり、こうした明確な悪には対応できる。だが、何が悪なのかといった定義を決めるのは私たちの仕事ではなく、選挙で選ばれた政治家が担うべきだ。ICANNのような技術団体が「だれが悪人か」と判断を下すのは適当ではないと考えている・・・

慶応大教授 村井純氏
インターネットを巡り起きる課題にどう対処するかは、狭義のインターネットと広義のインターネットに分けて考えるべきだ。
「狭義」はIPアドレスとドメイン名で、ICANNが運用を担うネットのインフラ部分だ。「広義」はその上に広がる各種のアプリケーションやサービスで、SNS(交流サイト)やメディアも含む。
課題ごとに対処方法をインフラ側で決めるか、その上に広がる社会で決めるか考えなければならない。
例えばフェイクニュースやコンテンツの海賊版を止めるため、インフラとしてのネットを遮断するのはどうだろうか。その選択はあり得るだろうが、ネットが教育や健康などでも大きな役割を果たしていることにも注意すべきだ。
別の対応方法も考えられる。ネットで流通する情報に、著者は誰なのかという情報をひも付けることだ。情報にトラスト(信頼)を与えて、(トラストがない)フェイクニュースへの対抗とすることは技術的には可能だ。欧州連合(EU)では取り組みを進めようとする動きもある。
解決策をどの層で作るのかは今後しっかり整理した方が良い。例えばサイバー攻撃なら、狭義のインターネットの層で対応している。ネットの専門家が国籍を問わずに情報共有する仕組みが機能している。
ネット空間の統治については、国連のインターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)があるが、国連は政府間の調整機関で、IGFもまだ議論の場にとどまっている。
狭義のインターネットはどの国の政府の管理にも属さないという考えで運用が図られてきた。政府間調整とは異なる、グローバルな統治の場をつくる挑戦は今後さらに必要になる・・・

キーウ大公ウォロディーミル1世

2022年5月27日   岡本全勝

日経新聞連載、佐藤賢一さんの「王の綽名」、5月14日は「聖大公キーウ大公」でした。
スラブの王様は、なじみが薄いです。今回の王様、キーウ大公ウォロディーミル1世(在位978~1015年)は、ノルマン人が作った国を、今のウクライナやロシアを含む大国に広げた王様です。

詳しくは原文を読んでいただくとして。ウクライナ大統領ゼレンスキーさんの名前はウォロディーミル、ロシア大統領のプーチンさんの名前もウラジミールで、この王様から来ているのだそうです。

世界の頂点で和食を出す

2022年5月26日   岡本全勝

5月13日の日経新聞夕刊に「松山英樹、和のもてなしでも世界魅了」が載っていました。松山選手は、去年「ゴルフの祭典」といわれるアメリカのマスターズ・トーナメントで優勝しました。この記事は彼が今年、歴代優勝者の夕食会の主催者役を務めたことを取り上げたものです。
緊張して、初めて英語で紙を見ないで話をしたことが書かれています。話し終わると、これまた緊張して聞いていた出席者が、立ち上がって拍手をしたそうです。

さてここで紹介するのは、その席で提供された食事が、松山選手が選んだ和食だったことです。寿司、刺身、銀ダラの西京焼き、牛、イチゴのあまおうです。お酒は日本酒です。皆さん、とても喜んでもらえたようです。
うれしいですね。