カテゴリーアーカイブ:社会の見方

言語が階級を作るインド

2023年7月11日   岡本全勝

6月21日の日経新聞夕刊「映画でみる 大国インドの素顔(3)」、インド映画研究家・高倉嘉男さんの「お受験熾烈、英語力で決まる人生」から。

・・・2023年に中国を抜いて人口世界一に躍り出たとされるインドは、単に人口が多いだけでなく、若年層が総人口の半分を占める若い国でもあり、受験戦争も熾烈だ。
さらに、インドには言語が教養人と無学者を分断してきた歴史がある。庶民の言語とは異なる高等言語が政治や文学の場で使われ、その言語にアクセスできない者は無学者扱いされた。古代の教養語はサンスクリット語だったが、中世、イスラーム教の浸透に伴ってペルシア語がそれに取って代わり、英国植民地になった後の近現代では英語が教養語に躍り出た。
現在、インド人英語話者の数は総人口の1割ほどとされている。この1割がほぼそのまま上位中産階級から上流階級までの社会的上層を形成し、富と権力を手中に収めている。インドの身分制度というとカースト制度が有名だが、カースト制度以上に古代からインド社会を分断してきたのは言語だ。

近現代の都会を舞台にしたインド映画を観ると、台詞には現地語に加えて英語がかなり使われていることに気付く。単に現地語文の中に英語の単語やフレーズを交ぜるだけでなく、現地語文と英文を往き来しながら会話をする。日本人の耳には奇妙に聞こえるのだが、これが教養あるインド人の一般的な話し方であり、インド映画はかなり写実的にそれを再現している。英語を適宜交ぜながら会話をすることで、彼らは自身の教養を証明し、エリート層としての仲間意識を確認し合うのだ。
それだけではない。多言語国家インドには無数の現地語があるため、英語には共通語の役割もある。IT企業など、高収入が期待される多国籍企業が就職先として人気だが、その絶対条件も英語力だ。つまり、インドにおいて英語ができない人は、教養層から排除され、社会的・経済的な地位の向上も難しく、異なる地域から来た人とのコミュニケーションにも困ることになる・・・

日立の改革

2023年7月10日   岡本全勝

日立製作所、私たちの世代には家電製品の印象が強いですが、大きく転換しました。きっかけは2008年、当時最高の赤字を出したことです。そこからの改革と復活は有名です。本にもなっています。
NHKウエッブニュースが、「日立製作所 採用・人事担当者に聞く「モノづくり」から「社会課題の解決」へ 大赤字からの大変革」(7月5日掲載)を載せています。詳しくは記事を読んでもらうとして。

会社が潰れるという危機感から、扱う事業と商品を絞り込みました。記事では、それを3つに整理しています。
1 社会課題解決型ビジネス
2 データ・アナリティクス(データ分析)
3 ジョブ型人事

1については、次のように説明しています。
・・・先ほどの2008年度の赤字をきっかけに、大きくビジネスを見直し、 「モノづくり」から「社会課題の解決」にかじを切ったからです。
少し前まではお客様が自分たちが何を欲しいのか分かっていました。この時速で走る電車が欲しいとか、それに耐えうるモーターが欲しいとか、日立に限らず、どのメーカーも品質の高い製品を競って作るという時代でした。
けれど、いまの時代は何かを作って欲しいではなく、例えば利用者が減って困っているという状況に対して、何ができるかが問われています。
そうです。そのため「単に良いものを作ったら買ってくれる」ではなく、社会が何を求めているかを踏まえたうえでビジネスを展開していくようになったんです・・・

2は情報通信技術の発達によるものですが、1と3は経済成長期になじんだ仕組みからの脱却です。拙稿「公共を創る」で議論している、日本社会の転換に通じます。

人工知能が新たな人類の脅威に

2023年7月8日   岡本全勝

6月18日の読売新聞「あすへの考」、大塚隆一・編集委員の「生成AI 新たな人類の脅威」から。

人間が書いたような文章を作ることができる生成AI(人工知能)の利用が急拡大している。一方で「人類や文明の存続を脅かす」などの警鐘も相次ぐ。なぜ、それほど恐れるべきなのか。核兵器や気候変動など他の脅威と何が違うのか。それらとの比較で何が見えてくるのか。

「人類存亡の脅威」と聞くと、何を思い浮かべるだろうか。
自然がもたらす破局的な脅威には小惑星の衝突や超巨大火山の噴火などがあるが、ここでは人間の活動、特に技術や産業の発展で生じた脅威を取り上げたい。
具体的には「気候変動」「核兵器」「遺伝子の改変」「人工知能(AI)」の四つだ。程度の差はあるが、どれも人類の存続を揺るがすリスクをはらむ。

一方、「遺伝子の改変」は「命」の謎解きに挑む生命科学が生んだリスクだ。特に近年、遺伝子を自在に操作できるゲノム編集が登場したことで懸念が強まった。
この技術を人の生殖細胞や受精卵に使い、遺伝子を望み通りに変えた「デザイナーベビー」を誕生させるとどうなるか。改変の影響は子々孫々まで残る。専門家は人類の多様性や進化に未知の問題を生じさせかねないと危惧する。
もちろん科学技術や産業の発展は多大な恵みをもたらしてきた。
数次の産業革命で私たちの暮らしは豊かになった。核エネルギーは原子力という新しい電源を生んだ。核融合にも期待が集まる。
遺伝子の研究は難病の治療や新薬の開発、作物の品種改良などでめざましい成果を上げてきた。
だが人類は、恵みと引き換えに、扱いを誤れば自らの生存を危うくするリスクを背負った。
いわば、災いが詰まった「パンドラの箱」を開けてしまった。

「人工知能」のうち、いま話題の「生成AI」は「知」の分野の驚くべき成果だ。代表格の対話型AI「チャットGPT」は人間のような巧みさで「言語」を操る。
それゆえ、脅威にもなりうる。こちらの「パンドラの箱」はどんな災いをもたらすのか。
政府のAI戦略会議は先月、懸念されるリスクとして、偽情報の氾濫、犯罪の巧妙化、著作権の侵害など7項目を挙げた。
一方、イスラエルの歴史家ユヴァル・ノア・ハラリ氏は英誌エコノミストで、「言語」が人類の文明を築いてきたことを考えれば、生成AI問題はもっと「大きな構図」で捉えるべきだと論じた。
「民主主義は対話であり、対話は言語による。AIが言語を乗っ取れば、有意義な対話、すなわち民主主義は破壊されかねない」
さらに「核兵器は文明を物理的に破壊できる」が、生成AIは「私たちの精神世界と社会」を滅ぼす「新しい大量破壊兵器」になりうる、とまで指摘した。
もちろんハラリ氏も、生成AIが社会の抱える様々な課題の解決に役立つ可能性は認めている。
しかし今は、その能力を見極め、規制を優先すべき時だと訴える。

庭園の背景

2023年7月7日   岡本全勝

今に残る大名庭園など、東京にも美しい庭園がいくつかあります。小石川後楽園、芝離宮恩賜公園、浜離宮恩賜公園、清澄庭園、新宿御苑、駒込六義園・・・。
私も好きで、いくつも行きました。東京の都心で、よく残ったものだと感心します。残してくださった関係者に感謝しなければなりません。

庭園の中を見ていると気持ちが良いのですが、少し目線を上げると、ビルやマンションなど高い建物が、目に入ります。それも、敷地の境界近くまで迫っています。庭園を紹介したパンフレットなどでは、それらが入らないように、上手に写真を撮ってありますが。マンションなどは、そこから庭園を見下ろす眺めを売りにしているものもあるのでしょうね。

中世の庭園に、借景という技法があります。京都のお寺で、庭木の向こうに比叡山が見えて、それと一体として広く景色を楽しむ手法です。他方で、この隣接高層マンションは、庭園の景色をぶち壊す、「破景」と言ったら良いのでしょうか。「法令の範囲内で建てているから問題ない」のでしょうが。

首相官邸も、同じ問題を抱えています。写真を撮ると、後ろに大きなビルが映るのです。なにか、味気ないですね。そして、周囲のビルから見下ろされる首相官邸って、威厳がなくなります。さらに、警備上の問題もあります。

サッカー・Jリーグ30年

2023年7月7日   岡本全勝

1993年5月15日にサッカー・Jリーグが開幕し、30年になりました。報道がいくつも伝えていました。例えば、5月14日の朝日新聞「J30周年、スポーツをどう楽しむか道半ば 川淵三郎さん」(すみません、遅くなって)。

・・・1993年5月15日に開幕したサッカー・Jリーグは、日本のスポーツ界に大きなインパクトを与えた。「スポーツで幸せな国へ」という志が共感を呼んだのは間違いない。では、そんな社会は実現したのか。果たして社会を変える力はスポーツにあるのか。Jが30歳の誕生日を迎える今、初代チェアマンだった川淵三郎さん(86)に聞いた。

――この30年の日本スポーツ界の変化を、どう見ていますか。
「地域に根ざしたスポーツクラブをつくり、いつでもスポーツを楽しめる場所を全国につくるのがJリーグの理念。30年前、日本は『スポーツ三流国』だと僕は思っていた。スポーツを本当の意味でエンジョイできる国ではなかったんでね。今は、二流国くらいにはなったかな」
――「スポーツでもっと幸せな国へ」と掲げました。
「スポーツすれば得しますよ、と伝えたかったんです。多くの人とコミュニケーションできて、知り合える。人生の楽しみが膨らむ。そういうことが(30年前は)なかなか伝わらなかったし、実感できる国ではなかった。会社人間でよほどのことがないと趣味も満喫できず、人生、損してますよと」
――Jリーグによるサッカーのプロ化は、日本代表の強化を進めたという評価が一般的です。
「みなさん、そっちが中心だと思い込んでいるけど、それより、草の根の多くの人たちがスポーツを楽しめる社会になってほしいというのが昔も今も僕の最大の夢であり、希望なんだ。地域社会に根ざしたスポーツクラブが中学校の数くらいできて、その中心にJクラブがあるというイメージを30年前に描いていたんですよ」
「この30年は、かなり良い30歩。予想外というか最大の喜びは(クラブが企業や行政とともに地域貢献に取り組む)社会連携活動だね。60に増えたJクラブが年間2万件以上も実施している。単純計算で各クラブが1日1回やっていることになる」
「これからは、全国に100のJクラブができて『する、見る、支える』の『する』に多くの人が参加することを期待しています」

当時のことを、覚えています。私も高校ではサッカー少年でした(下手なゴールキーパーです)。相撲と野球以外のスポーツが、プロとして成り立つとは思えませんでした。もちろん、ワールドカップに常時出場するなんて・・。
しばしば行った店で、川渕さんとお会いして話を聞く機会が何度かあり、その情熱に負けた思い出もあります。