カテゴリーアーカイブ:社会の見方

インテレクチュアル・ヒストリー

2026年7月18日   岡本全勝

リチャード・ワットモア著『入門 インテレクチュアル・ヒストリー ケンブリッジ学派の視点』(2026年、中公選書)を読みました。
インテレクチュアル・ヒストリーとは、聞き慣れない言葉です。本書の解説や、インターネットなどで調べましたが、いまいちよくわかりません。ウィキペディアの次の説明が、まだわかりやすいでしょうか。
・・・「知の営み」についての歴史学のこと・・・「過去の政治」をおもな研究対象としていた旧来の歴史学への批判として・・・その後1930年代まで、同時期に胎動していた社会史とともに「ソーシャル=インテレクチュアル・ヒストリー」(Social and Intellectual history) と呼ばれる講義が、アメリカの各地の大学で採用されるようになった。当時のインテレクチュアル・ヒストリーの旗手たちは、ドイツの歴史学の影響を受けており、ヘーゲル学派の流れをくむエルンスト・カッシーラーらのように「時代精神」(Zeitgeist) を把握することを目標として掲げていた・・・

いろいろとインテレクチュアル・ヒストリーについて説明してあるのですが、なかなか理解できません。ほかの歴史学と何が違うのか、あるいはどのような歴史学を敵としているのか、それを1行で説明してくださると、門外漢にはわかりやすいのですが。内包を深掘りするのではなく、外延を示してほしいです。「歴史の見方の変化

同じ著者の『入門 政治思想史』(2025年、中公選書)も読んだのですが、こちらはさらにピンと来ませんでした。内容が悪いのではなく、私の関心とズレていたようです。二つの本とも、すらすらとは読めませんでした。翻訳であること、たぶん原文も私たちになじみがないイギリス流の言い回しであろうこと、そして私が著者の持つ背景を十分理解していないことが、読みにくい原因にあると思われます。

経営陣と管理職は外国人、日本人は従業員

2026年7月18日   岡本全勝

時事通信社の専門誌『地方行政』6月25日号「インバウンド急増、1000万人突破が契機に 久保成人元観光庁長官に聞く」に次のようなことが書かれていました。
・・・観光地で外国資本による大規模ホテルの建設が進んでいるが「ホテルのマネジメント層に日本人があまりいない」ことを課題に挙げる。「米コーネル大ホテル経営学部卒などの外国人が高給取りの経営陣や中間管理職で、日本人は給料が高くないホテルのスタッフにとどまっており、この流れをどこかで止める必要がある」と警鐘を鳴らす・・・

先日書いた「経済停滞・高齢化と終身雇用の変貌」。優秀な従業員から管理職や幹部を選抜する日本の雇用慣行の限界、従業員と管理職や幹部は別に採用する諸外国の雇用慣行の違いが、現れています。

センメルヴェイス反射

2026年7月17日   岡本全勝

センメルヴェイス反射という言葉を知っていますか。
簡単に言うと、権威ある人たちが、通説に反する新たな知識に触れた際に、それを拒絶する態度でしょうか。

センメルヴェイスは、1818年生まれ、ハンガリーの医者です(ハンガリーは日本語と同じで、名字が先に来ます)。出産した母親が産褥熱という病気にかかって死亡する原因が、分娩を担当する医師の汚れた手にあるということに気が付きます。医師自身が原因で患者が死亡しているという事実を、医師たちには認めたくなかったのです。
まだ細菌が知られていない時代です。彼も、未知の「死体粒子」が原因だと、間違った理由を考えたようです。そうだとしても、消毒すると死亡が減るという事実は明らかだったのですが。

地動説を受け入れるには、長い年月がかかりました。近いところでは、プレートテクトニクスは、1960年代後半に登場し、欧米では70年代初めには地球科学の支配的な学説となりました。しかし、日本の地質学界ではその受容に10年以上の遅れが生じたとのことです。

住宅の広さ、国の目安が廃止

2026年7月14日   岡本全勝

8月20日の日経新聞に「住宅、家族向けも40〜50平米が標準に? 消えた広さの「国の目安」」が載っていました。個人の自由と言っても、いくらでも狭くてもよいのでしょうか。誰だって、それなりに広い家に住みたいです。小さな家が増えるのは、地価が高いからで、そちらを放置していることが問題でしょう。しかし、旧基準の、4人家族で50平方メートルは、狭いですね。ゆとりある生活も、趣味のものを持ち込むこともできませんね。

・・・今後の住宅のあり方を示す国の「住生活基本計画」から、広さについての目安が消えた。昨今の住宅高騰で家は狭くなるばかり。目安がなくなり、これからの住まいはどうなるだろうか。

国土交通省は今後10年の住宅政策のあり方を示す同計画を5年に1度のペースで見直している。2026年度からの最も新しい計画は3月に閣議決定された。
新しい計画には異変があった。住宅の広さについての目安が削除されたのだ。目安とは、豊かな住生活の実現に必要な「誘導居住面積水準(誘導目標)」と、必要不可欠な「最低居住面積水準(最低面積)」の2つを指す。
広さの目安は戦後の住宅不足が解消し、住宅政策を「量」から「質」へと転換するなかで1970年〜80年代につくられた。例えば都市部では家族4人で95平方メートルを目標にする。一人暮らしでは25平方メートルを最低面積とするといった内容だった。

なぜ今、削除されたのか。国交省の会議で計画の見直しにあたった東京大学教授の大月敏雄さんに尋ねると「ライフスタイルが多様化する中で国が一律の基準や目安を設ける時代じゃない。それに目安と現実が乖離している」という回答だった。

確かに誘導目標は、現代の東京の感覚からするとやや高い理想に感じる。家族4人でも都市部のマンションなら70平方メートル前後を想定する人が多いだろう。100平方メートル近い物件はそもそも数が少ない。検索サイトで100平方メートル以上の新築マンションをみると「億ション」が目につく。
一方、最低面積がなくなると狭い家に押し込まれる人が増えてしまうのではないか。大月さんは「都心部では狭くても家賃が安いなら住みたいという人もいる」と話す。「国が目安を押しつければそうした人たちの住む場所の選択肢が少なくなる」とし、「原則的には民間市場で需要と供給に合わせて決められるべきだ」と主張する・・・

記事には、2001年頃に75平方メートルを超えていた新築マンションの面積が、最近は65平方メートルまで下がっている図もついています。

経済停滞・高齢化と終身雇用の変貌

2026年7月13日   岡本全勝

かつての日本の雇用慣行は、「年功賃金、終身雇用、企業別組合」と言われていましたが、私は、「新卒一括採用、人事課による配属決定、年功人事管理、終身雇用」が特徴だったと考えています。日本の雇用慣行は、いわゆるジョブ型雇用に対するメンバーシップ型雇用です。もっとも、日本だけだそうですが。

近年、それが代わりつつあります。
早期転職と中途採用の増加は、新卒一括採用をくずし、終身雇用も揺るがしています。
人事課による配属決定は、従業員の不満を招いています。年功人事管理は、実はかつても能力と業績によって差をつけていたのですが、なるべくそれを目立たさないようにしていました。しかし、良くできる社員から管理職を選抜する方法では、真の管理職を養成しないことになり、問題を生じています。「みんな仲良く働きましょう」の班長には向いているのですが、何かを切り捨てる厳しい判断はできないのです。

そして、終身雇用も、不況期にリストラという名の首切りが行われ、崩れてしまいました。そして非正規労働者の増加は、新卒一括採用・終身雇用を一部の人に限定してしまいました。
それに生き残った従業員には、年功人事管理と終身雇用はまだ適用されているようですが、以前とは形が異なっています。
かつては、競争に勝ち残った人が幹部になり、なれなかった人は関係企業や団体に引き取ってもらい、そこでそれなりの処遇を受けました。また、企業が成長している時代は、内部での組織の拡大と関係企業などの増加が、それを引き受けました。しかし成長が止まり、さらに縮小する時代になると、引き受けてもらえなくなりました。
そして、雇用の65歳までの延長は、年長者のみんなを同じような処遇にできなくなりました。「なるべく平等に」が成り立たなくなったのです。また、「経験を積むほど技能が上がり、職位を上げて、報酬も上げるという」年功人事も、できなくなりました。

「年功賃金、終身雇用、企業別組合」と「新卒一括採用、人事課による配属決定、年功人事管理、終身雇用」は、経済成長期に形成されたのですが、その時期にのみ成り立った慣行でしょう。経済成長が止まり、年長者も抱えるには、年功の処遇はできません。組織も生き残りをかけて厳しい競争に生き残るために、管理職や幹部を意識的に養成する必要が出てきました。ここでも、年功処遇は難しくなります。

こうしてみると、かつての企業や役所の職場は「疑似ムラ」であったことがよくわかります。生活共同体です。それは良い働きをしたのですが、企業が経営を維持できなくなると、企業が機能的組織であることが顕現するのです。
それはまた、共同体に面倒を見てもらえる反面、同調を強いられ、共同体を抜けることも難しかった「集団主義」から、個人の才覚で職を代えることができる、しかしそれは自己責任である「個人主義」への転換でもあります。