カテゴリーアーカイブ:社会の見方

日本人がつくった社会通念・ゴミを捨てない

2026年2月4日   岡本全勝

夏目漱石の有名な小説「三四郎」は、三四郎が京都から名古屋に列車で向かう場面から始まります。周りの乗客を観察しながら、駅で買った弁当を食べます。そして次の文章に続きます。
「この時三四郎はからになった弁当の折を力いっぱいに窓からほうり出した。」
この小説が新聞に連載されたのは1909年(明治42年)、まだ100年少し前の話です。

私が子どもの頃は、食べ終わった駅弁の空箱は、列車の座席の下に捨てました。車内清掃が効率的にできるように、そのように指導したとの説もあります。

2025年5月2日の朝日新聞「写真館 since1904」「あふれるごみ ポイ捨て、今は昔」に次のように書かれています。
・・・日本はかつて「ごみの国」だった。
そう書きたくなるような写真の数々だ。海水浴場や動物園、観光地に向かう列車内はごみであふれ、東京の川はごみ捨て場と化した。今ではポイ捨てを禁止する条例が各地にでき、道端のごみにも目を光らせる。時代は変わり、清潔が正義になった。5月3日は「ごみの日」・・・
そして、1969年の神奈川県鎌倉市の材木座海岸、1952年文化の日の東京・上野動物園、1968年の国鉄房総東線急行列車車内、1950年の東京・銀座などの風景写真が載っています。いずれも、びっくりするくらいのゴミであふれています。

日本人が公共の場でゴミを捨てなくなったのは、まだ最近のことなのです。

統治への不信

2026年2月2日   岡本全勝

1月10日の朝日新聞オピニオン欄は、「共振する政治と民意」でした。
・・・いま、日本社会を様々な「不安」が覆っています。なぜ不安なのか、不安が何をもたらすのか。多様な角度から考えるシリーズを始めます。初回は「不安と政治」。不安が政治をどう動かし、政治にどう利用されているのかを、心理学や社会学の視点から探ります・・・

池田謙一・同志社大学教授の「統治に不信、いらだちは標的求め」から。
―日本政治を、人々の「統治の不安」という視点から読み解いていますね。
「『統治の不安』は、約60カ国を対象とした世界価値観調査から見えてきたものです。国が背負っている様々なリスク、具体的には戦争に巻き込まれる、テロが起きる、失業する、子どもが十分な教育を受けられない心配などについて聞くと、日本人は、客観的なデータに比べて不安の度合いがずっと高い。内戦の可能性まで心配しているという結果が出ています」
「この不安はどこから来るのか。政治学でいう『感情温度計』で、政党に対する『温かさ』を0度から100度までで答えてもらうと、日本ではどの政党の平均値も50度以下です。ポジティブな気持ちで選べる政党がない。さらに、『拒否政党』が多いのが特徴です。支持したくない政党はあるかと聞くと、与党から野党まで多くの政党が挙げられる。統治を担う政府や政党、公的機関が信頼できないという『統治の不安』が強くあり、政治に影響していると考えています」

―どう影響しているのでしょうか。
「典型的なのが、新型コロナ禍での社会心理です。15カ国のデータを比較すると、日本人のコロナへの恐怖感は目立って高く、政府の感染対策に対する評価がきわめて低かった。日本より桁違いに死亡率が高かったブラジルと同じくらい、政府への強い不満や不信感が見られました」
「政治不信は、『政治とカネ』のようなものが原因とよく言われますが、『統治の不安』はもっと漠然としたものです。ターゲットが定まっていないので、誰かが『敵は○○だ』とスケープゴートを作り出すと、我先に殺到する。最近では財務省解体デモや『外国人問題』が一例です」

―「統治の不安」に、社会としてどう対処すべきでしょうか。
「不安を利用しようとする政党や政治勢力のターゲット設定は、ほとんどの場合、明確な根拠がありません。メディアは、ファクトチェックなどでそこを指摘すべきです。ターゲットを作らせないのが重要です」
「また、政治に選択肢があって、自分の意思を託せる政党があれば、不安は軽減されるのではないかと考えています。今年から3年間にわたって、15カ国ほどで国際比較データをとって、この仮説を検証しようとしています」

―それで、「統治の不安」は解消されますか。
「究極的には、政治や政党、公的なものへの信頼を再建していくしかありません。1990年代の政治改革では二大政党制が目指されましたが、失敗だったと思う人が増えている。どんな制度なら政党政治への信頼が回復できるのかを考える時期かもしれません」
「政府が統治能力を示す必要もあります。日本は、政治の『成功体験』が長いことありません。国民全体がある程度認められるような成功体験があれば、政治や政党への信頼を高められるかもしれない。そうでないと、『統治の不安』が増幅して、政治がさらに不安定になるでしょう」

日本人、労働時間も生産性も低く

2026年2月1日   岡本全勝

1月6日の日経新聞「日本人は働いていないのか 時間は減少、生産性も低水準」から。

・・・厚生労働省の毎月勤労統計は1人あたりの所定内と所定外を合わせた「総実労働時間」を公表している。1990年時点では年平均2064時間、月平均172時間だったが、30年余りたった2024年時点だと年平均1643時間、月平均で136.9時間と当時から2割減っている。
背景にあるのはパート社員の増加だ。毎勤統計ではフルタイムで働く正社員より所定労働時間が短い人をパート社員としている。パートは実数も比率も右肩上がりで、比率は90年の12%が24年は30%台をつけている。
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏の試算によれば、労働時間が減った最大の要因は正社員から時短のパート社員への置き換わりだ。残業時間の上限が法定化した19年以降は正社員、パートのいずれも労働時間の減り幅が大きくなっている。

海外に比べても日本の労働時間は短い。経済協力開発機構(OECD)によると、日本は90年から24年にかけて20%減ったのに対し、米国は同じ間に4%の減少にとどまる。24年で比べれば、米国の方が日本より1割ほど長い時間働いている。

働く時間が短くても効率良く高い生産性で働いていれば問題ない。だが効率の落ち込みも日本は深刻だ。日本生産性本部の「時間あたり労働生産性」をみると、米国の4位に対し、日本は年々順位を落とし28位と主要7カ国(G7)で最下位だ・・・

キャノン、職務給への改革

2026年1月31日   岡本全勝

日経新聞・私の履歴書、1月は御手洗冨士夫・キャノン会長でした。1月26日の「三自の精神 実力主義、ベア・定昇廃止」から。
・・・社長就任から6年後、2001年12月期の連結決算は売上高、営業利益いずれも過去最高を更新した。経営改革は余力のあるうちに済ませた方がいい。その前年のうちから着手していたのが、人事・賃金制度の改革だった。
医者でもあった初代社長の御手洗毅は、何より健康を優先する健康第一主義、社員が互いに尊重し合う新家族主義、そして公正公平な実力主義を掲げた。そのうち、実力主義の公正さに疑問がわき始めていたからである。
社員の処遇制度で気づいたのは、個人の成績に関係なく全員一律で決まるベースアップ(ベア)、同じ仕事でも家族構成によって支給額が違う手当の存在だった。
それが本当の実力主義なのか。腑に落ちなかった。

私の持論は「サイエンスとファイナンスはインターナショナル。人事はローカル」である。社員は、それぞれの国の国民であるから、その国の文化や伝統を踏まえた経営をすることが合理的といえる。
日本でいえば、終身雇用には長期的な視点で社員が仕事に取り組める利点があり、やめるつもりはない。ただし、実力主義の徹底が前提だ。
見直し作業は職務の分析からだった。全社の仕事内容を6800に分類し、仕事内容を基準に賃金水準を決めた。仕事内容に処遇がひもづく職務給の考え方である。まず管理職向けに導入し、2005年には全社員に適用した。

当時のキヤノン本体の社員は2万5000人。新しい制度を定着させるには、その目的を全員が理解していなければならない。内容は1泊2日の合宿で伝えた。海外にも説明担当者を派遣した。
「会社の発展と従業員一人ひとりの人生の発展が重ならないといけない。それを一緒に求めたい」。労働組合の幹部に私の思いをぶつけると、協力を約束してくれた。それまで積み重ねてきた労使の信頼が生きたと思う。
気を配ったのが公正であることだ。評価する側だけでなく、評価される側にも5段階評価で使う40のチェックポイントを勉強してもらい、互いに議論できるようにした。
新しい賃金制度を導入した後、キヤノンから姿を消したのがベアと定期昇給、そして春闘だった。今は個人の成績に応じて昇給するほか、物価の動きなどを見て労使が賃金水準を確認している。

後から思うと、創業のころから続く行動指針「三自の精神」が社内に根づいていたのだろう。何事にも自ら積極的に取り組む自発、自分を律する自治、自分の立場や役割を理解して行動する自覚という3つの「自」である。
一人ひとりが自立した企業人だからこそ、新しい実力主義を受け入れてくれたのかもしれない。日本流でも米国流でもないキヤノン流が会社を動かすようになっていた・・・

御手洗会長には、経済財政諮問会議でご指導をいただきました。先日亡くなられた丹羽宇一郎・伊藤忠会長と一緒にです。私は内閣府で経済財政担当の官房審議官でした。案件について本社に説明に上がった際に、いつもそれぞれエレベーターまで送ってくださいました。私が恐縮していると、「これが礼儀だ」と教えてくださいました。それまで私は役所で客と会った際に、自席で別れていたのです。官僚の常識は世間の非常識でした。

経済学教科書での日本

2026年1月30日   岡本全勝

最近の経済学の教科書がどのようになっているか、見てみました。専門家に聞くと、アセモグル・レイブソン・リスト『入門経済学』(ALL入門経済学、2020年、東洋経済新報社)が新しくて代表的とのことでした。
図書館で借りて、目次に目を通しました。なるほど、最近の経済学の教科書はこのような構成になっているのですね。

ところで、世界の経済格差や経済成長の章で、主な国の一人あたり所得や経済成長が表で出ています(360ページ、376ページ、380ページ)。アジアでは、韓国と中国が取り上げられています。日本は出てきません。