カテゴリーアーカイブ:社会の見方

企業の失敗、野性喪失から

2023年10月22日   岡本全勝

10月8日の日経新聞、野中郁次郎一橋大名誉教授の「企業の失敗、野性喪失から」から。

バブル崩壊後の日本では雇用、設備、債務の3つの過剰が企業を苦しめたとされた。だが企業を本当に縛ったのは、全く異なる3つの「オーバー(過剰)」だったとみる。
――企業にとって「失われた30年」の真因はどこにあったのか。
「雇用や設備、債務もその通りだ。しかしより本質をいうならプラン(計画)、アナリシス(分析)、コンプライアンス(法令順守)の3つがオーバーだった」
「数値目標の重視も行きすぎると経営の活力を損なう。例えば多くの企業がPDCAを大切にしているというが、社会学者の佐藤郁哉氏は最近、『PdCa』になったといっている。Pの計画とCの評価ばかり偏重され、dの実行とaの改善に手が回らないということ。同感だ」
「行動が軽視され、本質をつかんでやりぬく『野性味』がそがれてしまった。野性味とは我々が生まれながらに持つ身体知だ。計画や評価が過剰になると劣化する」

――計画や数値目標なしに経営は成り立たないのでは。
「それらは現状維持の経営には役立つかもしれないが、改革はできない。欧米の科学的管理手法から発展したやり方は、感情などの人間的要素を排除しがちだ。計画や手順を優先させられると人は指示待ちになり、創意工夫をしなくなる」
「計画や手順が完璧であることが前提だけに、環境の変化や想定外の事態に直面すると、思考も停止する。高度成長期には躍動の原動力だったとしても、今では成長を阻害する要因だ」

延命医療選択、韓国

2023年10月21日   岡本全勝

韓国では、延命医療を続けるかどうかを選択できる制度があるそうです。10月9日の朝日新聞「延命医療やめる」制度、韓国の実態 「意向書」など作成・法施行5年で29万人

・・・韓国では2018年2月、「延命医療決定法」と呼ばれる法律が施行された。死が間近の臨終期の患者の心肺蘇生や人工呼吸器装着、血液透析、抗がん剤などの終了を認める。痛みの緩和や栄養・水分の供給は続けることになっている。
臨終期とはどんな時期か。国の担当者は「死の2、3日前」と説明する。担当医と別の医師の計2人がそう判断した場合に適用される。この制度のもとで亡くなる人は年々増え、23年6月までに計約29万人に上った。

終了できる方法は、大別して四つある。(1)事前に本人が意向書を作る(2)末期患者らが要請し担当医師が計画書を作る(3)家族2人以上の意見により患者の意思を推定(4)家族全員の合意がある――。
(1)の対象は19歳以上。希望者は健康な時から、国が指定する施設でカウンセラーらから説明を受けて作成、国のデータベースに登録される。23年6月までに19歳以上の国民の約4%にあたる約184万人が作った・・・

16世紀スペイン衰退の理由

2023年10月20日   岡本全勝

J・H・エリオット著『スペイン帝国の興亡』(1982年、岩波書店)。スペイン旅行をきっかけに、本の山から発掘し読みました。上下2段組、430ページの本なので、布団で読むには3週間近くかかりました。読み物としては易しく読めるのですが、1469年から1716年までの250年の歴史であり、知らない人名がたくさん出てきて、こんがらがります。

どうしてスペインが世界一の大国になり、どうして没落したか。この本も、それを追った本です。スペインが領土を広げたのは、婚姻と相続です。それらを、相続や独立などで失います。
次に、スペイン本国、カスティーリヤの没落についてです。本書は、各地方の権力が強く、王政を強くする中央集権の試みが挫折したことに、焦点を当てています。また貴族たち特に大貴族と教会の力が強く、王が意向を通すことができません。経済的にも、貴族や教会が土地と農民を支配するとともに、農業や産業の振興に力を入れません。中世の大国が、近世の国家に転換できなかったことに、没落の原因があるようです。

大国の興亡は、経済力、軍事力などに理由があるようですが、地理的、自然的条件だけでなく、国民の意識や政治による舵取りも重要な要素です。本書はその点も指摘します。第8章栄光と苦難に、次のような分析が書かれています(334ページ)。黄金時代と言われたフェリペ2世(在位1556年-1598)から衰退したフェリペ3世(1598年-1621年)の時代です。

絹産業で栄えたトレド市は、経済発展を持続するため、リスボンまでタホ川を航行可能にしようと試みます。途中まで完成したのですが、放棄されます。技術的な問題などもあったのですが、決定的な理由は、セビーリャ市の反対です。彼らが行っているトレドとリスボンの商取引が脅威を受けるからです。これ以外の計画も、個人間や都市間の対立を乗り越えることができず、公共事業への投資の消極性、そして行動する意欲を奪う無気力が指摘されています。

「何を提案しても採用されないから、やめておこう」「今のままでも問題ない」という閉塞感と無力感は、日本のいくつかの職場でも聞く話です。

アジアで負ける最低賃金

2023年10月19日   岡本全勝

10月17日の朝日新聞に、大倉忠司・鳥貴族HD社長の話「外国人労働者来てもらわないと」が載っていました。
焼き鳥居酒屋チェーン「鳥貴族」は、昨春以降、2度の値上げに踏み切りました。

――値上げの理由は原材料高やエネルギーコストの上昇?
「一番の目的は従業員の給料アップのためです。諸外国に比べて日本の給料は安すぎます。海外の方が稼げると、すし職人など人材が流出しています。物価上昇が進む外国にあわせて、日本もモノの値段を上げていくべきです。もちろん賃上げとセットで」
「外国人労働者にもそっぽを向かれかねません。鳥貴族では、パート・アルバイト従業員の2割が外国籍ですが、もっと時給を上げないと日本に来てくれなくなるでしょう。日本は外国人の雇用を積極的に受け入れていかなければ成り立っていかない。このままでは『失われた30年』が40年、50年になっていくと思います」

ホテル、脱亜入欧の終わり

2023年10月18日   岡本全勝

先日の日経新聞日曜版に、東京の帝国ホテルが日本料理の直営店を開いたことが載っていました。2021年に開店したそうですが、帝国ホテル130年の歴史で初めてのことです。既にほかの日本料理店が経営する店はあったのですが。
帝国ホテルのホームページにも、次のように書かれています。
「「帝国ホテル 寅黒」は、世界のVIPを日本の心でおもてなしする“和のダイニング”として、2021年11月に開店しました。帝国ホテルが直営する日本料理は、130年を超える歴史の中でもここが初めて。」

なぜか。それは、帝国ホテルが、日本が近代国家として認められるためにつくられたからです。そのためには、フランス料理でなければなりませんでした。東洋の遅れた小さな国が、精一杯背伸びしたのです。

しかし、外国から訪れるお客さんは、日本料理も食べたいでしょうね。かつては、西洋人からすると「変な食べ物」とも思われた和食も、寿司と天ぷらから始まり、いまや世界に通じる料理になりました。日本酒もです。
ホテルにおいても、ようやく脱亜入欧、欧米をうらやましく思う時代が終わったということでしょうか。