「社会の見方」カテゴリーアーカイブ

少子化。若い人が希望をもてているか

9月3日の朝日新聞「少子化を考える」、藤波匠・日本総研主席研究員の「若い人が希望をもてているか」「子が欲しくても断念、日本社会の問題 賃上げと雇用の正規化は企業の役割」から。

―国内で2024年に生まれた日本人の子ども(出生数)は約68万6千人。1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数を表す「合計特殊出生率」は1・15と過去最低でした。加速度的に少子化が進んでいると指摘されています。

予想されていた数字で、大きな驚きはありません。少子化の最大の要因は若い人たちが減っていること。少子化が劇的に改善することは、しばらくないでしょう。
私は、こうした数字は社会の状態を表す「指標」だと考えています。

――どういうことでしょう?

「若い人たちが将来に希望をもてているかどうか」の指標です。
自らの選択で「子どもは望んでいない」ということであればよいのです。でも実際には、希望しながら子どもをもてない人が多くいるのではないでしょうか。雇用が不安定で、経済的な不安がある、仕事が忙しすぎてタイミングを逃した……。だとすれば、そこに日本社会の問題があるのではないか。放置していてはいけないのではないか。これが、私が少子化対策が重要だと考える理由です。
たとえば、正規雇用の女性に比べ、非正規雇用の女性のほうが結婚や出産に後ろ向きだとする調査結果もあります。子どもをもつ世帯が低所得層で減り、中高所得層に偏ってきています。
結婚や出産の意欲の低下を時代の変化や価値観の変化で片付けてよいのか、という問題意識があります。

――そういう意味では、日本はバブル崩壊以降、「失われた30年」でした。

私の研究では、大卒の男性正社員で比べると、団塊ジュニア世代の生涯年収はバブル世代に比べて2千万円ほど低い可能性が示されています。これは子ども1人を産んでから大学卒業までにかかる費用に匹敵します。
若い世代が上の世代より貧しいことはあってはならず、少子化は当然の帰結です。30年にわたり低成長に有効な手を打たなかった歴代政権、低賃金に抑えて派遣労働を拡大させた事業者の責任は免れないと思います。

――どんな少子化対策が必要でしょうか。

児童手当などの現金給付は否定しませんが、すぐに効果は出ないでしょう。多子世帯に手当を厚くする対策が目立ちますが、それによって、終戦直後のような5人も6人も子どもがいたような時代に戻れるとは到底思えません。それよりも、第1子にたどりつけない人たちを支援することが重要だと考えます。
若い世代が夢をもって生きていける社会をめざすべきで、賃上げや非正規雇用の正規化などを担うのは企業の役割です。
日本社会の構造的な問題にもメスを入れる必要があります。職場での残業や、休日などの自己研鑽を美徳とする風潮が依然としてあります。若い時期から、仕事と家庭生活を並行して送れるような社会をつくっていくべきです。そのためには「男性は仕事、女性は家庭」といった性別役割分業に根ざしたジェンダーギャップの解消も欠かせません

低温社会と低温政治

低温経済と低温社会」の続きになります。
本棚の本を片付けていると、1990年代と2000年代の政治や経済に関する本がたくさん出てきます。同時代を分析する評論です。佐々木毅、北岡伸一、佐伯啓思、西部邁、御厨貴、田中直毅、田勢康弘といった大学教授や評論家、新聞記者がたくさん書いています。現状を批判しつつ、その構図・構造を分析して、改革論を述べています。学術書と評論との中間的な本です。
バブル経済が崩壊し、経済も政治も行き詰まっていることが明らかになり、それを克服することが課題だったのです。

それで思ったのですが、最近はそのような本が少ないですね。出版されていても、私が買っていないのでしょう。本屋を覗くと、政治や経済評論の本やトランプ大統領に関するものなどが並んでいますが。
政治や経済が動かないと、分析や評論の対象になりにくいのでしょう。
前回、「適確な処方箋がないことも、対応を遅らせているのでしょう。研究者や報道機関の奮起を期待します」と書いたのですが、分析はされていても、現場がそのように動かない問題だからかもしれません。必要なのは制度改革ではなく、運用だからでしょう。

その後、中央省庁改革、地方分権改革、いくつもの規制改革などが実施されましたが、政治行政改革はそこで止まったようです。経済界では、その後も攻めの経営が活発になるのではなく、コストカット(人件費削減、経費削減)が続き、経済は長期の停滞を続けました。
政治では、民主党への政権交代と自民党の復帰がありましたが、政治課題に本格的に取り組んでいるとは思えず、与野党を含めて政治構造が変わったとは見えません。経済界も縮小が続き、拡大発展の話題はあまり聞きません。

1990年代は、まだ改革に向けての「熱意」「活力」があったのでしょう。2020年代には、その熱意が感じられないのです。
あきらめのように見えます。評論はされるのですが、構造的改革・本格的改革には取り組まないのです。衝撃的な危機ならば対応を急ぐのでしょうが、緩慢な衰退は危機感をもたらさないのでしょう。「ぬるま湯」と例えられますが、ぬるま湯は温度が下がっていきます(通常、ぬるま湯の例えは、温度が上がって茹で上がる場合に使うようですが、今の日本は冷めていく状況です)。

経済停滞の原因は技術革新の欠如

8月31日の読売新聞1面コラム「地球を読む」、吉川洋・東大名誉教授の「日本経済の停滞 技術革新の欠如が真因」から。

・・・約40年前、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などとおだてられ、バブルに踊った日本経済は、1990年代に急降下した。国力の目安となる1人当たり名目国内総生産(GDP)は、2000年にはルクセンブルクに次ぐ世界2位だったが、その後は坂を転がり落ちるように下がり、24年には38位となった。1人当たりなので、人口減とは関わりのない低迷である。
「急落の原因はデフレだった」と言う経済学者やエコノミストは多い。実際、「デフレ脱却」は政府の掲げる金看板であり、日本銀行が13年から10年以上続けた「異次元」の金融緩和政策は、デフレ退治を目指して行われた。
しかし、長期停滞の真因はデフレではない。

デフレには2種類ある。一つ目が1930年代の大不況時のように数年で物価が半分以下まで下がる「激性のデフレ」、二つ目は日本が21世紀目前の時期から経験した「緩慢なデフレ」だ。前者は資本主義経済にとって大きな脅威だが、後者はそうではない。
歴史を振り返ると、インフレは生産・雇用など実体経済が好況の時が多く、デフレはしばしば不況時だった。ただ例外もある。顕著なのが19世紀の英国だ。世界経済のリーダーだった英国は、物価が30年余り緩慢に下がり続ける中で史上最高の経済成長を遂げ、「大英帝国」を築いた。デフレ下で大好況をもたらしたのは、旺盛なイノベーション(技術革新)だった。
他方、日本経済に長期停滞をもたらしたのはイノベーションの欠如である。新たな製品やビジネスを生み出すイノベーションはデフレとは関係ないし、インフレによって促進されるわけでもない。過去30年余り、成長著しい一部の新興企業などを除いた多くの日本企業がリスクを取らず、イノベーションを怠った。

イノベーションが低調な中でも、生産性は曲がりなりに上昇してきた。とはいえ、株主への配当や企業の保有する預貯金が増えた一方で、設備投資や研究開発は滞り、何よりも賃金が上がらなかった・・・

豊かさと自由の先にある退屈さ

1980年代に日本は豊かさを達成し、安全で自由な社会を手に入れました。では、国民は満足したか。どうも、そうではなさそうです。

人類は長年、豊かで自由で安全な暮らしを求めて努力してきました。自由主義先進国は、ほぼそれらを達成したと思われます。日本は、自由と安全において、世界でも上位でしょう。その点で、過去の人たちや権威主義的な途上国に比べて、幸せになったと言えます。もちろん現在の日本は、格差や子どもの貧困など、まだまだ解決しなければならない問題があります。
ところが、豊かさと自由と安全を手に入れても、人は満足できないようです。それらを苦労して手に入れた高齢者は、過去と比べ満足することができます。他方で、若者はその状態が当然のことであり、特に幸せとは感じないのでしょう。

何不自由ない生活が実現したら、それは退屈な生活でしょう。
天国や極楽浄土は、何の悩みもない快適な世界だそうです。それについては、「苦しみがなければ、喜びもないのではないか」という指摘もあります。黒がなければ、白はないのです。
すると、完全に幸せな暮らしは、成り立たないのでしょう。苦しみがないと、幸せは理解できないのです。過去との比較や、未来への希望がないと、人は満足できないのでしょう。未来に向かって努力する、そして良くなっていると実感できることが満足を生むようです。

古代ローマ帝国が繁栄の後、衰退しました。原因はいろいろ挙げられていますが、強い軍隊と健全な政治を支えた市民層が、パンとサーカスに堕し、内部から衰退したことが大きな理由と考えられます。努力、成功、満足の次には、慢心と退屈が待っているようです。

悪口「タコ」の語源

日経新聞夕刊連載「令和なコトバ」、9月1日は「「TACOる」 大統領のディールは弱腰?」でした。
そこに、タコという、人をけなす言葉の語源が書かれていました。
・・・江戸時代、将軍に謁見できない御家人の子どもを、旗本の子どもたちが「御目見(おめみえ)以下」とからかったのが始まりとの説がある。「以下(イカ)」と侮辱されて、「タコ」と言い返したことから定着したとか・・・

へえと思って、インターネットで調べたら、諸説ある中にこの説が載っています。