カテゴリーアーカイブ:社会の見方

佐藤俊樹著『社会学の新地平』

2023年12月18日   岡本全勝

佐藤俊樹著『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』(2013年11月、岩波新書)を紹介します。

書名を見たときは、これからの社会学について論じたものかと思いましたが、内容は副題の「ウェーバーからルーマンへ」です。岩波のホームページの「マックス・ウェーバーとニクラス・ルーマン―産業社会の謎に挑んだふたりの社会学の巨人。彼らが遺した知的遺産を読み解く」が良く表しています。さらに言えば、「近代の合理的組織を生んだ資本主義の精神とは何かを読み解く」でしょうか。

佐藤先生はいつも切れ味が良いのですが奥深く、この本も岩波新書にしては少々難しい本です。
私の理解では、前半は
・ウェーバーの「資本主義の精神」とは何かの、謎解き
・これまでの日本の学会でのウェーバーの「誤読」を暴く
でしょうか。ウェーバーの親族の会社から読み解くのは、推理小説のようでした。

そのような「謎解き」を経るのですが、私はこの本を読んで、ようやく資本主義の精神や合理的組織が理解できました。
ウェーバーの書名は「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」です。プロテスタントの倫理が近代資本主義を生んだとは主張していないのですね。私たちは、そのように理解してきましたが。「資本主義の精神」について、私も十分に理解できていませんでした。佐藤先生によると、ウェーバー自身も答えにたどり着かないままだった、それが後世の誤読を招いたようです。

勤勉の倫理なら、江戸時代の日本や中国にもありました。そして、よく機能する官僚組織もありました。しかし日本も中国も、資本主義経済や合理的組織を生み出しませんでした。
他方で、かつて私が抱いた疑問はこのほかに、禁欲が資本主義経済を生んだという点もあります。みんなで倹約して貯金をしたら、経済は拡大しません。近代経済学では常識のことです。どうみても、プロテスタントの禁欲倫理が資本主義経済の発展を生んだとは思えないのです。読んでいて、何か奇術を見ているようでした。資本主義経済のためには、近代組織の合理性が重要なのです。

ルーマンによる、官僚制の階統制も意思決定の連鎖であるとの説明も納得です。官僚制の中で生きてきた人間としても、目から鱗でした。専門家の間では常識なのかもしれませんが。

報道機関の横並び意識

2023年12月18日   岡本全勝

12月1日の朝日新聞オピニオン欄「記者会見に求めるもの」、林香里・東大教授の「各社横並び、主体性持って」から。

・・・記者クラブという器ではなく、その空間にいる記者のマインドセット(思考の癖)が問題なのです。例えば、安倍政権で官房長官への取材で、各社担当記者が携帯やICレコーダーを事前に回収袋に入れていたと伝えられましたが、横並び意識が表れています。
日頃から他社の記者と団体行動で動いていると、記者一人ひとりの立ち位置がどこにあるのかという、自分の主体性を失って、思考停止になりがちです。

これは、ジャニーズ問題の報道にも表れました。長く沈黙を続けた大手メディアは、英国の公共放送BBCが報じたあと、批判しても安全という空気が作られると一斉に報道を始めました。ですが、ほとぼりが冷めると一気に引いていくという同じ構図が繰り返されるのではないでしょうか。テレビ局は似たような検証報道をしたものの、芸能事務所や広告会社とテレビ局の問題という構造的な問題には踏み込めていません・・・

縄文直系の子孫はいない

2023年12月16日   岡本全勝

11月26日の読売新聞「縄文直系の子孫 いない ゲノム解析プロジェクト」は、驚きの内容でした。詳しくは本文をお読みください。

・・・縄文人や弥生人のことは小学校でも習う。私たちの祖先として、親しみを感じる人もいるかもしれない。しかし、彼らがどんな人たちだったのか、実はまだよくわかっていない。今年3月末まで5年間にわたった国の大型プロジェクト「ヤポネシアゲノム」で、国立科学博物館の篠田謙一館長は、遺伝情報(ゲノム)から縄文や弥生の人々に迫った。篠田さんが研究の過程で感じた「三つの驚き」を通して、新たに浮かび上がった彼らの姿を見てみよう・・・

・・・約1万6000年前から、弥生時代が始まる約3000年前まで続いたとされる縄文時代。この時代に日本列島に生きていたのが、縄文人だ。「彫りの深い顔立ち」が特徴とされる。
プロジェクトでは69体の縄文人のゲノムを解読した。ゲノムの特徴から近縁関係を分析すると、縄文人は、中国など北東アジアから東南アジアにかけての大陸の現代人とは、かけ離れた存在であることがわかった。北海道・礼文島北部の船泊(ふなどまり)遺跡(縄文後期)で見つかった約3800年前の縄文人のゲノムを、アジア各地の約50集団と比較しても、近縁な集団はなかった。
「東南アジアなど、どこかに縄文人の子孫がいると考えていたが、ゲノム研究で完全に否定された。縄文人はもう現代には生き残っていない。予想外の結果だった」と篠田さんは驚く・・・

・・・次に弥生人を見ていこう。九州北部で稲作が始まったとされる約3000年前から古墳時代(3〜7世紀)が始まるまでの弥生時代に住んでいた人たちだ。縄文時代から引き続き住んでいた人たちや、大陸から稲作文化を持ち込んだ渡来人たちがいた。
彼らのゲノムを分析して浮かび上がったのが、現代の本州などの日本人をしのぐ、驚くべき多様性だ。篠田さんは「現代よりもはるかに少ない人口だった弥生時代だが、遺伝的に由来の異なる集団が共存し、混血のなかで多様性が生まれたのだろう」と分析する・・・

へえ、と思いますね。でも、現代の日本人は縄文人と弥生時代に渡来してきた人が混血し生まれたする「二重構造説」は正しいようです。

地方テレビ局の挑戦

2023年12月11日   岡本全勝

地方のテレビ局の多くは、東京の放送局網に所属しています。演劇やスポーツ番組などは、全国どこでも同じものを見ることができます。独自の番組を作ることもありますが、その割合(放送時間)は多くありません。それは、ニュースについても同じです。全国ニュースの時間が長く、地方ニュースの時間は短いのです。

地方テレビ局の報道部記者は、地域のニュース取材に力を入れ、記事と映像を作っているのですが、放映時間の関係で没になることもしばしばです。
かつてある地方局の方に「それなら、せっかく作った映像を、会社のホームページに載せて、誰もが見ることができるようにしたらどうですか」と提案したことがあります。私の意見が通ったわけではありませんが、各局でそのようなサイトを作っているようです。福島中央テレビの例。放映されたニュースだけでなく、放映されなかったニュースも載ると、記者もやりがいがありますよね。

もう一つ短いニュースではなく、30分などの長い時間である主題を深掘りする番組もあります。富山テレビはこの秋から、「シンそう富山」を放送するようになりました。しかも、毎週です。これを作るには、かなりの労力が必要だと思います。それをインターネットで見ることができます。政治に関するものもありますが、地方鉄道の存続や熊対策など地域ならではの内容もあります。一度、ご覧ください。

倫理的・法的・社会的課題。ELSI

2023年12月11日   岡本全勝

11月29日の読売新聞に「ELSI研究 活発化 先端科学 社会への影響は 混乱回避 倫理・法的観点で」が載っていました。

・・・最先端の科学技術は社会に恩恵だけでなく、予期せぬ混乱をもたらすこともある。そうした科学技術の光と影を踏まえ、研究開発がもたらす「倫理的・法的・社会的課題(ELSI(エルシー))」を検討する研究が国内でも活発化してきた。研究対象は、人工知能(AI)や脳科学など幅広い最先端領域に広がるが、人材育成など課題も残る。
利用が急拡大する生成AIでは、個人情報や著作権の保護などを巡る議論が、技術の普及を後追いするように進んでいる。ELSI研究は、こうした混乱を避けるために、技術開発の過程で社会との関係などを議論するものだ・・・

ELSIとは、Ethical(倫理的)、Legal(法的)、Social(社会的)なIssues(課題)の頭文字による略語。人の全遺伝情報を解読する「ヒトゲノム計画」が1990年に米国で始まった際、必要性が主張された。現在は、強力な計算能力を持つ量子コンピューターが既存の暗号を解読することによる混乱や、脳科学で読み取った意思に関するデータの取り扱いなど、科学技術全般で議論されている。兵器利用の是非や、技術を使える層と使えない層との格差拡大など、論点も多岐にわたる、とのことです。

科学技術の進歩が人間社会を混乱させないように、悪影響を及ぼさないように、制御しなければなりません。産業用機械や自動車などの事故の防止から始まって、核・生物・化学兵器の禁止など。科学の進歩が急速、かつ大規模なだけに、新しい問題も多岐にわたります。