カテゴリーアーカイブ:社会の見方

日本経済の再生は人づくりが課題

2024年2月19日   岡本全勝

1月31日の日経新聞大学欄に、大竹文雄・大阪大学特任教授の「日本経済の再生 人づくり蛾課題現状維持の誘惑絶つ」が載っていました。「この国のかたち」を変えることの重要性と難しさが分かります。

―教育システムのどこに問題がありますか。
「先進国に必要な人材教育ができていません。先端を走る国々では常に技術革新が起きている。新しいことを考えて挑む人を育て評価する仕組みがあるからです。いまだに日本はそうなっていない。そこに30年以上続く停滞から抜け出せない根本原因があります」
「これを変えるのはすごく難しい。これまで長所だった協調を極端に重視した教育を見直す必要があるからです。高度成長期などキャッチアップの時代には、他の成功モデルを学んで改善すれば、うまくいった。みんなで協力して生産性をあげることが重要だったわけです」

「協調重視の発想が社会に広がり、教育にも浸透しています。幼稚園や保育園の教育でも友人関係や協調性を非常に大事にする。一方で論理的思考や人と違う考えを重視してこなかった。いま大事なのは技術革新を生む発想、間違ってもいいからアイデアを出し試す思考法です。それができる人の育成、失敗を許す教育に転換すべきです」
「悩ましいことに、人口減少と高齢化が変化を難しくしています。新しい発想を認めない、現状でいいという保守的な人が増えていきます。まず、この流れを止めないといけない」

―学校や会社も変わらざるを得ません。
「日本社会には新しいことを許容しない特性があり、行動経済学でいう現状維持バイアス(ゆがみ)が強く働いています。人や企業が変化か現状維持かで迷う場合、変化より現状が必ず良く思えてしまう。このゆがみを除くことで、変化が起きます」

わかりづらいカタカナ語をなぜ使うのか

2024年2月18日   岡本全勝

2月2日の朝日新聞オピニオン欄「わかりづらいカタカナ語、なぜ使うの 社会言語学者・井上逸兵さんに聞く」から。

・・・たしかにカタカナ語がよく使われていますね。言葉には、情報伝達のほかに、その言葉を使うことで「自分は何者なのか」を示す機能があります。ビジネスの世界で使われるカタカナ語は、後者の機能を果たしているのではないでしょうか。つまり、顧客や同僚・上司に「私は『イマ風』の仕事の仕方をわかっていますよ」と、自分自身がその分野に詳しい人物であることを示しているのです・・・

・・・カタカナ語を使うのは悪いことではありません。一方で、行政が安易に使うのは問題があります。行政の役割は、必要な情報をわかりやすく万人に伝えることです。意味がわからない言葉を使えば、当然、情報伝達ができない。さらに自分は排除されているという感覚まで生み出してしまう恐れがあります。
特にコロナ禍では、行政のカタカナ語の使用が目立ちました。わかりやすい例で言えば「ステイホーム」といった言葉。日本語だと目新しさを感じないので、注目を集めるという意味では成功したと思います。一方で、老若男女すべての人が意味を理解できたかというと、少し疑問があります・・・

意図の伝達、対話の手段でなく、顕示欲の手段なのですね。高級銘柄品(カタカナ語で言うと「ブランドもの」)を持ち歩く意識と同じです。威信財の一種でしょうか。
とすると、高級銘柄品を持つことが一部の人たちの間では恥ずかしいことと認識されるので、そのような意識が広がると、カタカナ語を使う人も恥ずかしい人と思われるときが来るのでしょうか。いえ、それら高級銘柄品の価値が下がると新しい銘柄を探すように、新しいカタカナ語を使うのでしょうね。

『行為主体性の進化』

2024年2月17日   岡本全勝

マイケル・トマセロ著『行為主体性の進化 生物はいかに「意思」を獲得したのか』(2023年、白揚社)を読みました。

宣伝には、次のように書かれています。
「認知心理学の巨人トマセロが提唱する画期的な新理論!
何をするべきかを自分で意思決定し、能動的に行動する能力、それが「行為主体性」だ。生物はどのようにして、ただ刺激に反応して動くだけの存在から、人間のような複雑な行動ができるまでに進化したのか?
太古の爬虫類、哺乳類、大型類人猿、初期人類の四つの行為主体を取り上げ、意思決定の心理構造がどのように複雑化していったのかを読み解いていく」

主体性の進化に着目するとは、なかなか素晴らしい着眼点ですね。生物が生まれた時は、刺激に対し反応するだけでした。著者は、その後に4つの段階を経て、現在の人間のように考え行動できるようになったと説明します。
まず、太古の脊椎動物が、目標指向的行為主体となります。次に、太古の哺乳類が、意図的行為主体になります。そして、太古の類人猿が、合理的行為主体となり、太古の人類が、社会規範的行為主体になります。
それを生んだのは、それぞれの生物のおかれた生存環境です。そこで生きていくために、意図による行動が生まれ、集団での行動が生まれます。環境が主体性を生むのです。この説明はわかりやすいです。推測でしかありませんが。

もう一つ知りたいのは、そのような意識が、脳の中でどのようにして生まれているのかです。まだまだ、わからないことばかりですね。

取締役会の前に方針が決まっている

2024年2月14日   岡本全勝

1月24日の日経新聞オピニオン欄、藤田 和明・上級論説委員の「「稼ぐ日立」の原風景、社外取締役との対話が示した成長」から。詳しくは本文をお読みください。

・・・稼ぐ日立へ。世界標準の経営を突き詰めた原風景ともいえる記録がある。約10年前の13年6月。当時の川村隆会長が社外取締役に招いた米スリーエムの元最高経営責任者(CEO)、ジョージ・バックリー氏と対談、日立総合計画研究所の文書に残している。
スリーエムは世界屈指のイノベーション力が評価されていた。バックリー氏は前年から日立の社外取締役を務め、感じた課題をグローバル経営の視点から指摘している。

一つは取締役会のあり方。「取締役会に諮られたとき、その方針が経営によってすでに決まっていたように感じた」。米国なら意思決定前に会社側と取締役会で長く討議する。「戦略的オプションについて詳細な議論を行っただろう」。人ではなく、アイデアで競争すべきだとした。

研究者の収益意識も指摘した。米国では「多くの研究開発資金を集めるには、より多くの利益を上げることが重要と(研究者は)知っている」。研究者も事業の検討会議に出席し、収益性と優れたキャッシュマネジメントを理解すべきだ。利益創出やスピード感が日立には欠けてみえた。
「生み出すべきは新たなアイデアと成長性を兼ね備えた会社」。より速く成長し、より多くの利益を上げる。アイデアの回転数を高め新製品の導入速度を高める。「革新的でなければ、ゆっくりとしかし確実に競争力が低下する」
当時の川村氏が率直に問題意識をぶつけ、バックリー氏が経験で築いた知見で答えるやりとり。日立がその後とった10年改革に重なっている・・

「経済大国=豊か」という幻想の先へ

2024年2月13日   岡本全勝

1月20日 の朝日新聞オピニオン欄、原真人・編集委員の「日独逆転、GDP4位に転落 「経済大国=豊か」という幻想の先へ」を紹介します。日本の国内総生産が人口がはるかに少ないドイツに抜かれることも大きな問題ですが、ここでは最後のくだりを引用します。

・・・「GDPを単純に増やせばいいという発想は意味がない」と話すのは長期不況理論の第一人者、小野善康大阪大特任教授である。「日本には巨大な生産力があり、1人当たり家計金融資産は世界トップ級の金持ちで購買力もある。問題は大金持ちなのにお金を使わず、潜在能力を生かし切れていないことだ」
では何が必要なのか。「生活をいかに楽しむか、そのために何にお金を使うべきかという発想に転換し、そこに知恵をしぼるべきです」と小野氏は言う。

時代遅れのGDPに代わって真に国民に望ましい国民経済指標を見つけることに最初に挑んだのはフランス政府だ。16年前、ノーベル経済学賞学者のスティグリッツ氏、セン氏らを招いた専門委員会で検討し、社会福祉に貢献する指標を一覧で示すことが望ましいと結論づけた。
それを実践したのが経済協力開発機構(OECD)のベターライフ指標だ。雇用や住宅、環境など11分野で毎年、対象40カ国に評価点をつけて発表している。
日本は教育や安全性で平均を上回る一方で、コミュニティー、市民参加、ワークライフ・バランスなどで平均を下回っている。分野ごとに評価すれば、他国に比べて劣っている領域も浮かび上がる。GDP幻想から目を覚まし、国民生活本位の新発想に切り替える時期だろう・・・