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鎌田先生の力作、地球の歴史

鎌田浩毅・京都大学教授が、中公新書を一気に3冊も出版されました。「地球の歴史、上中下」(2016年、中公新書)です。これは、お勧めです。
1 宇宙の誕生から、地球の誕生、人類の誕生、さらには未来の地球まで、130億年を超える壮大な物語が、3冊の新書に要約されています。分厚い本、専門書はあるのでしょうが、これだけコンパクトな本は見当たりません。これだけで、お得です。
2 単に事実の羅列でなく、切れ味良い切り口で、宇宙の誕生、地球の誕生、大陸や大気の誕生と循環が説明されています(すみません、まだ上巻しか読んでいないので)。
先生の言によると、科学的ホーリズム(全体像)、長尺の目、歴史の不可逆性、現場主義の、4つの視点だそうです。
例えば、地球の誕生からの分化が、次のように図示されます(p113)。46億年前に火の玉地球から、45億年前の水惑星、そして陸・水惑星になり、25億年前に生命の惑星になり、1万年前から文明の惑星になります。まあ、その図を見てください。
3 地質学や古生物学が統合され、地球科学になりました。その後、地球だけでなく惑星を研究することで、地球惑星科学になります。天文学、物理学、科学、さらには分子生物学まで取り込んで、地球と生物の進化学になっているのです。
スケールと視野の広さ、そしてそんなところでつながっているのだという意外さに、びっくりします。 私流に理解すると、鍵となる概念は、時間と空間、分化と関連ですね。
4 私たちが学生時代に学んだことが、時代遅れになっています。科学によって、ここまでわかるようになったのかということは、驚きです。私たちが学生の頃は、地学はつまらない学問だと思っていました(失礼)。この本を読むと、わくわくしますよ。
5 随所に、「へ~」が現れます。地球が水球だということは知っていましたが、鉄の惑星だと知っていましたか。月があったことで、今の地球があることも。P波が縦波で、S波が横波ということは学びましたが、S波は物体がねじれるように伝わるので、液体や気体では伝わらないのだそうです。Pがprimaryの頭文字、 Sはsecondaryの頭文字だったのですね。習ったのかもしれませんが、忘れていました。な~んだ。
6 それにしても、よく一人で、これだけの幅広いことを書かれましたね。もちろん、それぞれの分野の知見を拾っておられるのですが、その範囲が半端ではありません。執筆に8年かかったそうです。納得します。
7 そして、いつものように、鎌田先生のわかりやすい語り口です。たくさんの図表がついています。それぞれに出典が書いてあり、先生がわかりやすいように改変しておられます。巻末には、索引と参考文献もついています。高校や大学の教科書になるでしょう。

先生はこれまでに、専門の火山学だけでなく、古典や勉強術まで、たくさんの本を書いておられます。でも、この3冊は間違いなく先生の代表作になるでしょう。「著者インタビュー」もお読みください。
ぜひ、今週末に本屋に行って、3冊買ってください。私も、今日も早々と風呂に入って、続きを読みますわ 。(2016年10月27日)

目標を立てることができる研究と、目標が経たない研究と

9月28日の朝日新聞オピニオン欄、本庶佑・京都大学名誉教授の「世紀の新薬、未来へ」「狙ってできないブレークスルー たくさん種まきを」から。
・・・政府の科学技術政策の司令塔である総合科学技術会議の議員だったとき、基礎研究の研究費はばらまきだと批判され、むしろ、ばらまかないとだめなんだと言いました。火星にロケットを飛ばすといった実現への計画を立てられるプロジェクトとは全く違うんです・・・

「目標すらわからないと」という問に。
・・・はい。ブレークスルー(飛躍的な進展)はデザインできません。つまり、ねらってできるものではないんです。とくに生命科学では、ある分野でわかったことが考えもしなかった分野とつながって重要な意味を持ってくる、ということもよくあります。どこをどうやったらいいか、だれにもわからない。「ここ掘れワンワン」というわけにはいかないんです。大切なのは、そういうチャンスをなるべく多く作ることです。
政府のプロジェクト施策のように、5年間で何かをやる、というのは間違っています。5年でできるとわかっていることはたいしたことない。種をいっぱいまかないと、どれが芽を出すか、わからないし、芽を出しても、枝が出るか、花が咲くか、さらには実がなるのか。基礎研究には幅広くたくさん投資することです。それが何万倍にもなって返ってきて、税収も増える。リターンは大きいんですから・・・(2016年10月1日)