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経済

現代の技術は、米国が革新し、中国が模倣し、欧州が規制する

12月20日の日経新聞ファイナンシャルタイムズからの転載、ジョン・ソーンヒル氏の「欧州のAI法、革新を阻害」から。

・・・現代の技術は大抵、米国が革新し、中国が模倣し、欧州が規制するという構図になっている。人工知能(AI)では間違いなく、そうなりつつあるようにみえる。

何カ月もの激しいロビー活動と40時間近い夜通しの交渉の末に、欧州連合(EU)の疲れ果てた政策立案者は8日夜、AIを包括的に規制する「AI法」について大筋合意に達した。そして、大きな変革をもたらすAI技術を規定する世界で最も包括的な法案だと賞賛した・・・だが、大西洋の向こう側からは、AI法をあざ笑う声が聞こえてきた・・・

情報通信技術が急速に進化し、便利になり経済を活性化する反面で、多くの災いも生んでいます。どのように規制するか。難しい問題です。しかし、遅れると被害が拡大します。
他方で、この記事が指摘するように、技術開発と規制は、各国の競争とも関係します。規制しすぎると、緩やかな国に負けてしまう恐れもあるのです。
この記事の冒頭には、日本は出てきませんが、どのように進めるのでしょうか。

「積極財政で成長幻想、捨てよ」

12月28日の日経新聞経済教室は、松元崇・元内閣府事務次官の「衰退途上国からの脱却 「積極財政で成長」幻想、捨てよ」でした。的を射た分析です。政治家や経済界の指導者たちに、早く気づいて欲しいです。原文をお読みください。

・・・「失われた30年」といわれて久しい。かつては米国すら抜くといわれた1人当たり国民所得は、今や韓国や台湾にも迫られている。筆者は、2022年の日本経済学会春季大会のパネル討論で、日本は「衰退途上国」になったと報告した。
衰退途上国とは発展途上国の反対だ。発展途上国は高い生産性の伸びを続けて為替レートが高くなり、インフレになっても所得がそれ以上に伸びるので所得が先進国に追いついていく。一方、衰退途上国は低い生産性の伸びを続けて為替レートが安くなり、インフレになっても所得がさほど伸びず先進国よりもはるかに低い所得になる。

なぜそうなったのか。バブル崩壊後には、日本経済低迷の要因について過剰債務とか、IT(情報技術)化の遅れといった様々な説明がなされたが、いずれも30年もの低成長を説明するようなものではなかった。
筆者は、答えは高度成長のイデオローグだったエコノミストの下村治が石油危機後に唱えた「ゼロ成長論」の中にあると考える。下村の考え方を整理しよう。
経済成長をもたらすのは人間の創造力であり、成長に必要なのは人間の創造力を発揮させるための条件整備だ。それは高度成長期には道路や港湾などのインフラ整備だったが、石油危機後には省エネなどのイノベーション(技術革新)をもたらすための条件整備になった。それに気付かずに積極財政で成長率を元に戻せるといった議論、国民総生産(GNP)ギャップ論に惑わされていると、日本はゼロ成長になってしまう・・・

・・・筆者は、下村がそうした議論に惑わされていてはゼロ成長になるとしていた議論、すなわち積極的な財政政策で経済を成長させられるという議論に世の中が惑わされているからだと考える。「豊かな長寿社会をつくる礎」となる財源は消費税に限らないが、消費税以外の税の出番もなくなっている。
実はケインズも、積極的な財政政策で経済を成長させられるという議論に困惑させられていた。ケインズは、積極的な財政政策は景気回復をもたらすが経済成長はもたらさないと明言していた。では何が経済成長をもたらすのかと聞かれた時の答えが「アニマルスピリット」だった。下村の「人間の創造力」と同じだ・・・

現実の経済を理解しているのは誰か

12月7日の日経新聞オピニオン欄、ポール・コリアー英オックスフォード大教授「マスク氏と習氏、危うい集権」に、次のような文章が載っています。

・・・私たちの世界は不確実性に満ちている。
経済の統治をめぐり、1970年までを振り返ると「政府こそがものごとを一番理解している」という官僚たちの過剰な自信の時代があった。それが徐々に「市場が一番理解している」という考え方に変わっていった。そして「最高経営責任者(CEO)が一番理解している」という話になった。
政府も市場も経営者も万能ではない。いまは多くの大きな問題について答えが分からないということを受け入れる必要がある・・・

リスクをとらない日本の経営者

12月6日の日経委新聞経済教室は、岡田正大・慶応義塾大学教授 一條和生・IMD教授の「平成日本企業の失敗 変革導く経営人材、育成急務」でした。
「日本企業と経営者の消極性(リスク回避性向の強さ)が、世界市場における成長機会を看過するという機会損失を生みだした。その解決には、根本的な経営人材の強化・育成が必須だ。」

世界主要27カ国の調査では、日本企業のリスクテイク度は26位、収益性は最下位です。
リスク回避性向の強さは、次のような現象を引き起こしています。
・攻撃的設備投資ができない
・途上国や新興国市場に慎重な戦略しか打てない
・革新的ビジネスへの脱皮ができない、など

それは、企業価値を生み出す能力の低い経営人材が多いからと思われます。スイスのビジネススクールの調査では、シニアマネージャー(上級管理職でしょうか)の国際経験で、日本は64か国中最下位です。多く著名経営者を輩出してきたアメリカのトップ大学で経営学修士号を取得する日本人留学生が、この10年でほぼ半減しています。

世界で異形な日本の30年のデフレ

12月2日の日経新聞特集「物価を考える」に、わかりやすい図表が載っていました。1992年を100として、2022年までの主要国の物価の推移が折れ線グラフになっています。

多くの先進国は毎年モノやサービスの値段が平均で2%ほど上昇してきました。物価はこの30年で、アメリカ、イギリス、イタリアは2倍に、ドイツ、フランスは1.7倍程度になりました。一人独自路線で、ほぼ水平なのが日本です、1.09倍にしかなっていません。
この30年間が、いかに異常だったかがわかります。経済界と政府の責任は大きいです。国内で生活している限りでは、わからなかったのでしょうか。

物価が上がらないのは消費者としてはよいことでしょうが、その間に賃金も同じような動きをしています。日本の賃金はそれらの国に比べて、半分になりました。
今後毎年給料を2%ずつ上げても、それらの国には追いつきません。単純には、2%上乗せして4%の上昇を続ければ、30年後に追いつきます。
政府がすべきだったのは、毎年のインフレ目標を2%にするのではなく、毎年の賃金(例えば最低賃金)の上昇を2%にすることだったのでしょう。