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経済

所得格差の広がりと再分配効果

9月1日に、厚生労働省が所得再分配調査を発表しました。2日付けの各紙が伝えていました(古くなってすみません)。それによると、2008年の再分配前の当初所得のジニ係数は、0.5318で、過去最大になりました。貧富の差が開いたということです。この原因は、高齢者世帯と単身世帯の増加だと説明されています。一人暮らしや高齢者世帯は、貧富の差が大きいのです。簡単に言うと、所得の大きいAさんと少ないBさんがいる時、別々の世帯だと貧富の差は大きいままです。二人が同一世帯にいると、足して2で割った数値になって、格差は縮まります。
ここから、年金や医療などの社会保険料と所得税などを引き、年金給付・介護保育などの現物給付を加えた後(再分配後)の係数は、0.3758です。当初所得に比べ、約30%縮小しています。この数字は2005年よりも0.0115小さくなり、格差が縮まっています。
この結果について、八代尚宏教授は「・・再配分機能は年金・医療に偏り、母子世帯のような低所得者支援の面では不十分だ・・」、樋口美雄教授は「・・働き方が大きく変化しており、非正規と正規の賃金格差も大きい。パートや派遣、契約などの働き方がジニ係数にどんな影響を与えているかについて要因分解できるように調査を実施すべきだろう。そのうえで、格差が一時的なのか、固定化しているのかを分析してみることが重要だ」と指摘しておられます(2010年9月2日づけ日本経済新聞)。

20年間の経済停滞

8月30日の日経新聞オピニオン欄「核心」に、西岡幸一さんが、1991年と現在の日本経済を、比較しておられました。当時(1991年10~12月期)の名目GDPは477兆円で、なんと現在(2010年4~6月期)と同じです。20年間で、成長していないと言うことです。
需要項目で見ると、設備投資が94兆円から63兆円に、31兆円も激減。3分の2です。これに対し、政府の消費が、65兆円から95兆円に、30兆円増えています。ちょうど、入れ替わっているのです。これで経済を支えたのですが、設備投資は成長の源泉であり、政府の消費は「消費」です。社会保障給付が、主な内容でしょう。このほか、公共投資も住宅投資も、減っています。
ここには書かれていませんが、資金循環も、これと同じことを表しています。国民の個人金融資産は約1,500兆円ですが、かつてはそれが銀行預金や株の購入などによって、企業の設備投資に回りました。現在では、それらは銀行と郵便貯金を経由して、国債という形で国が吸い上げています。投資に回らないと、成長はありません。資金が国債でなく民間に回るようになった時、景気はよくなります。しかし、国債は売られ、場合によっては暴落します。ごくごく単純化すれば、こうなります。

GDPの軌跡と諸外国比較

さらに、2009年まで、数値を新しくしました。今回は、自治大学校の猪鼻教授につくってもらいました。従来の形を少し変え、日本、アメリカ、韓国、中国の4か国の軌跡を、載せることにしました。かつてなぜ日本が一人勝ちできたのか、そして近年そうでなくなったかが、わかるようにです。

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長期停滞20年の教訓

日経新聞経済教室は、10日から13日まで4回にわたって、「ニッポンこの20年、長期停滞から何を学ぶか」を連載していました。4人の経済学者の分析は、それぞれにわかりやすく興味深いものです。私が特に関心を持ったことは、次のような内容です。
池尾和人教授(10日)は、日本の経済構造は未だキャッチアップ型であり、先進国型への転換が正念場であると述べておられます。
すなわち、日本の最も大きな内的変化は、日本経済が開発途上段階を最終的に脱却し、先進国化したということがある。その段階で、追いつき(キャッチアップ)段階に適合的なものから、先進国にふさわしいものに経済システムのあり方を見直す必要が生じていた。しかるに、日本的経営などの日本の経済システムが肯定的にとらえられ、慢心や増長を招くことになった。
また、90年代以降の外的な変化は、何よりも冷戦が終結し、市場経済規模が一挙に拡大したことである。近隣に産業化した国がほとんど存在しなかったのが、近隣に産業化した国が存在するようになった。しかし、産業構造の転換は遅れたままになった。
岡崎哲二教授(11日)は、アメリカと日本の差はIT普及による、そしてその汎用性と大きな革新性は、時間をかけてさまざまな関連システムの変更をともなって普及すると述べておられます。
すなわち、ITは、多くの産業部門における生産プロセスや技術革新(イノベーション)に影響を与える点で、歴史上の蒸気機関や電力と同様に、典型的な汎用技術である。汎用技術は、発明されてから、広く経済に普及し、実際に生産性向上に結びつくまでに長い時間差がある。それは、旧来の設備の廃棄というコストが必要なこと、工場の再設計などの関連するイノベーションが必要だからである。日本に、製糸業という近代的工業を移植するためには、機械を輸入するだけでなく、労働者の賃金体系を作る必要があった。日本の自動車産業がフォード・システムを移植するためには、移動式組み立てラインだけでなく、部品の互換性、工場の設計、賃金体系など文字通りの(幅広い・裾野の広い)「システム」が必要だった。
ITは、近代的工場組織や大量生産技術に匹敵するスケールの汎用技術であり、日本経済の持続的成長のために必須であるが、これまでの経験に照らせば、普及・利用の条件が形成される過程にある。
伊藤邦雄教授(12日)は、日本企業の競争力劣化は、1990年代に原因があると述べておられます。
すなわち、バブル崩壊で業績が悪化した際に、経営者は丼勘定を排し、利益責任を徹底させるために社内カンパニー制を導入した。この対策は適切だったが、深刻な副産物が残った。各部門が部分最適を目指すようになり社員の視野狭窄を生んだ。それが、部門間の連携を阻み、異質な知の融合や新たな知の組み替えを阻止し、事業や技術のイノベーションの芽をつんだ。日本企業の良さを否定した。
部分最適はそのままでは全体最適にならない。日本企業の経営スタイルは「事業部運営」が主流だった。それに対して「会社経営」は、事業部の利害を超えた全社最適を実現することだ。そのために、全体最適型経営をできる総合型人材を育成する必要がある。
それぞれ詳しくは原文をお読みください。これらは、経済や経営からの分析ですが、私の関心である行政・政治の世界にも通じるものが多いです。

高齢者向け産業

8月6日の日経新聞「経済教室」は、長沢光太郎さんの「豊かな加齢支える産業、世界に先駆け育成を」でした。
日本の75歳以上人口は、現在1,400万人。20年後には2,300万人になります。ちなみに現在、東京都の人口が1,300万人、小中学生の数が約1,100万人です。経済から見ると、すごい規模のマーケットです。
そして、一般に思われていることと異なり、大半の人は自立しています。75~85歳で介護保険の要介護・要支援に認定されている人は約2割でしかありません。もちろん、身体の痛みなどを抱えておられますが、60歳以上の6割は、ほとんど毎日外出するなど行動的です。そしてよく知られているように、お金を持っています。65歳以上世帯の金融資産は平均で2,400万円、全世帯平均1,800万円よりかなり多いのです。
個人の側から見ると、この人たちが満足できるサービスが提供されること、経済社会の側から見ると、この人たちにお金を使ってもらえるサービスを提供することが重要になります。高齢化社会の問題を放置して暗い社会にするのか、対策を講じて明るいものとするのか。この分野は、企業・経済・行政にとって、大きなフロンティアなのです。
その際に、個人と社会に安心な制度を提供することは、行政の役割ですが、活力ある安心社会は、行政だけではつくることはできません。社会と経済がそれを提供し、欠けた部分を行政が補完するのでしょう。経済・企業の役割は大きいです。
日本が、世界で高齢化の先端を走っています。中国は、高齢化率は日本より低いですが、すでに65歳以上人口が1億人を超えています。そして、この問題についても、日本を追いかけてきます。先日、中国の州政府職員と話した時にも、この話題になりました。彼も、深刻な問題だと考えていました。
日本が、高齢者対策、高齢者も安心して暮らせる社会と経済づくりに成功するかどうか。世界が、注目しています。