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経済

経済の金融化

ロナルド・ドーア著『金融が乗っ取る世界経済―21世紀の憂鬱』(2011年、中公新書)がわかりやすかったです。金融業が実体経済を上回って拡大し、経済活動の中で大きな比重を占めるようになったこと、金融が実体経済と遊離して動き、時には金融市場と世界経済を危機に陥らせることを、分析しています。
この20年間の世界経済の変化を大まかに言えば、国際化と金融化と言えるでしょう。この本は、後者の金融化について書いたものです。

そして経済と政治との関係は、その変化に対応するための自由主義的改革と、金融・経済危機対策であったと言えるでしょう。しかし、日本はまだ十分な経済産業構造の改革を見いだせず、世界各国政府は十分な金融危機対策を打てていません。
何度もこのホームページで書いているように、国際化によるアジア各国の追い上げで、日本のひとり勝ちは許されなくなりました。加工組立型工場とコメの保護によって成り立っていた地方経済は、成り立たなくなりました。これが、失われた20年の原因の一つです。
金融危機に対しては、2008年のリーマン・ショックには、世界各国が協調してひとまずの対応ができましたが、今年のユーロ危機は、まだ続いています。そして、制度的押さえ込みは、まだできていないでしょう。

ところで、ドーア先生には、かつてコラムで私のホームページの記事を引用してもらったことがあります(2007年10月22日の記事)。お礼のメールを打ったら、イタリアから返事を頂きました(10月23日の記事)。

アジアの社員が日本人従業員を指導する

少し古くなりますが。タイの洪水で工業団地が浸水し、日系企業も操業停止に追い込まれました。企業が生産を続けるために、タイ人従業員を日本に呼び寄せて、部品の生産を始めました。
例えば12月4日の日経新聞は、電子部品会社の例を取り上げています。そこでは、タイから来た熟練工が、日本人従業員を指導していることを書いています。1989年にタイに進出して以来、技術を蓄積していて、「日本人では量産ラインを管理できない」と、日本人社長が述べています。
労働力不足を補うために、外国人労働者の入国を増やすべきか否かの議論がありました。その議論より、現実はもっと先を行っているようです。アジア各国が、経済や技術の面で日本に追いつくことは、「日本は優秀だ」と思っていた人にとっては、少々残念なことでしょう。しかし、日本が世界と共に繁栄するためには、アジア各国と日本の経済格差が縮まることが必要です。

日本企業はアジアで稼ぐ

12月8日の日本経済新聞に、興味深いデータが載っていました。主要128企業が、どの地域で収益を上げているかのグラフです。2011年上期(4~9月)では、アジア・オセアニアで48%です。半分をアジアで稼いでいます。欧州が19%、アメリカが18%。日本(国内)は、4%でしかありません。国内が4%というのは、驚きです。もちろんこの数値は主要128社ですから、企業全体では国内比率は大きくなるでしょう。

牛肉自由化でどう変わったか

11月30日の朝日新聞、TPPに関する連載が、「牛肉自由化でどう変わった?」を載せていました。1991年に牛肉の輸入自由化が行われました。それまで、国が輸入枠を決めていましたが、その枠が取り払われ、関税をかけることになりました。初めは70%という高い税率でしたが、現在は38.5%です。
1990年に23万2千戸あった肉牛農家は、2010年には7万4千戸と、3分の1になりました。ところが、牛肉生産量は、55万トンから51万トンへとわずかに減っただけ。占有率も、5割から4割に下がっただけです。
なぜ生き残ったか。それは和牛の特産地のブランド化と、農家の大規模化です。200頭以上の大規模農家は、全国に2千戸あまり。農家数ではたった3%ですが、彼らが全頭数の半分である140万頭を飼っています。
効率化と高付加価値化ですね。

ヨーロッパ統合の試みと金融財政危機

11月12日の朝日新聞オピニオン欄での、ヨーロッパ金融財政危機の記事から。
ヨシュカ・フィッシャー、元ドイツ外務大臣
・・ユーロ圏は、世界的な金融危機の真ん中にいる。ユーロ圏は国家ではなく、もろい「構造物」でしかない。危機はそこを直撃している。ドルに次ぐ世界第2の通貨であるユーロだけが、国家をともなっていない。これこそが、国民と市場の信頼を無にし、国際金融システムを大惨事の瀬戸際に追い込んでいるのだ。
言い換えれば、現在の金融危機はユーロ圏の政治的危機の表れであり、欧州プロジェクトそのものに疑問を投げかけている・・

スティーブ・キング、イギリス大手金融グループのHSBCチーフエコノミスト
・・ユーロ圏はとても興味深い実験だ。国民国家の利益を尊重しながら、より大きな通貨圏を築き、国境をまたいだ資本の流れを最大限に活用する。これが生活水準の向上をもたらしたのは確かだ。ただ、通貨統合にともない国家主権は縮小するはずだが、ギリシャの混乱ではっきりしたように、各国の国家主権が前面に出てユーロ圏全体の利益が犠牲になっている。
・・いまユーロ圏で起きているのは、地球規模で起こりうる負担の分かち合いの問題が起きたときの「最後の予行演習」なのだろう・・

遠藤乾、北海道大学教授
・・第2次大戦後に本格化した欧州統合は、60年以上にわたって常に危機に直面してきました。危機のたびに迷走し、迷走しながら進んだ。欧州統合の歴史とは、偉大な政治家とグランドデザインの歴史ではなく、危機と迷走の歴史です。
・・EUは「みんなで決めた」というより、「機能すること」で続いてきた政治体です。簡単に言えば、みんなの役に立っている間は、不満は出てこない・・