昨日に引き続き、7月18日、朝日新聞オピニオン欄「よみがえれ製造業」。西口敏宏・一橋大学教授の発言から。
・・日本がしなくてはならないことは、ものづくり企業を従来と変わらぬビジネスモデルで蘇生、復活させることではありません。日本の生きる道が製造業だけと、こだわる必要もありません。また製造業すべてが没落するわけでもない。
ソフト化、ネット化という産業の世界的潮流を見据えて、絶え間なく技術革新を遂げられる企業をつくりだす素地を整え、既存の企業でも改革に取り組むものは支援する。そんな戦略こそ必要です。
産業を動かすのは、利益追求の欲求だけではありません。製造業など伝統的な産業の衰退が進む中で問われるのは、携わる人々の使命感や価値観です。どんな製品やサービスが役に立ち、未来を切り開くか。そんな公共的な使命感を模索し確立することです。それに基づいて資源配分や人々のつながりを、根底から変えねばなりません。
先進国に追いつき追い越せの時代は、「安くて信頼できるものを」という使命感で間に合った。だが欧米との競争に勝ち、過去20年、学ぶものがないと技術革新を怠った。そこに価格の優位性で台頭してきた中国や韓国との安値競争に陥り、苦境に立ったのです・・
続く。
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経済
日本の製造業の課題、力を失ったのではない
7月18日、朝日新聞オピニオン欄「よみがえれ製造業」、坂根正弘さん(コマツ相談役)の発言から。
・・この国の製造業は何でこんなに自信をなくしているのだろうか。それが私の最大の疑問です。製造業が力を失ったという認識は誤りだし、政治が何かをしてくれたらデフレから脱却できるなんてこともありえない。この国の一番深刻な問題は、民間が生産能力や労働力といった供給面(サプライサイド)の調整を、限界に達するまで先送りしてきたことです。
日本が低成長時代に入っているにもかかわらず、多くの経営者が雇用を守るという名目でいろんな事業に手を出してきた。不採算事業も放さず、子会社に抱え込んだ。そんな余分な事業や固定費が収益を圧迫してきたのです。部品や材料の購入費、生産現場で働く人の人件費など、本来の物づくりに絞り込んで国際比較をしてみると、自信をなくすほど日本の生産コストが高いわけではない・・
・・アベノミクスとは一体、何か。政府も日本銀行もリスクを取った、だから民間もリスクを取って攻めに転じよ、というメッセージを発しているのだと思います。
日本企業の多くは技術力があり、ミドル(中間管理職)は強くて連帯感がある。しかし彼らには何かを犠牲にしたり、足りないものを外部から買ってきたりする発想はない。無駄な生産設備を廃棄し、過度な自前主義を捨て、先進国型の付加価値の高い製品に移行する―そんな企業内の新陳代謝は、トップが血を流す覚悟で決断しなければ到底実現しません・・
経済関係が制約する外交
昨日、日本の部品が中国に輸出され、加工されてアメリカに輸出されていることを紹介しました。これは、外交や安全保障関係にも、重要な要因となります。
『フォーリン・アフェアーズ・リポート』(日本語版)の7月号で、リチャード・カッツ氏が「経済相互依存で日中紛争を抑え込めるか」を書いています。
そこでは、尖閣列島を巡る日中間の外交緊張関係によって、中国の日本からの輸入額が大きく減少しているが、決定的なボイコットに至っていないこと。中国が日本から輸入する製品の60~70%は機械や部品で、これを止めると中国経済そのものがふらつき始めること。IMFの報告では、中国の対外輸出が1%伸びる毎に、日本からの輸入が1.2%増えていることを紹介しています。
また、5年前、中国から輸出されるローテク製品の価値に占める輸入パーツの割合は22%程度だったのに対し、情報・コミュニケーション機器の場合は50%になります。そして中国の輸出品に占めるこれらハイテク製品の割合は、大きくなっています。
カッツ氏は、次のような目次で、議論をしています。
ナショナリズムか経済相互依存か。日本が支えるメイド・イン・チャイナ。経済が支える平和。
もちろん、経済関係だけで外交政策が決まるわけではありませんが、国家首脳がそれを要素に入れなければならないことは、間違いありません。半世紀前までは、経済・資源を巡って戦争が起きましたが、現在の先進国間では、経済の相互依存が戦争を抑止することもあります。
これには、経済の相互依存が大きくなってきたこともありますが、経済を一国が囲い込むものと見るのか、他国との相互依存と見るのか、その見方が変わってきたのだと思います。
詳しくは原文(英語はこちら)をお読みください。
付加価値で見る世界貿易
6月26日の日経新聞経済教室で、玉木林太郎OECD事務次長が、OECDが5月29日に公表した「グローバル・バリュー・チェーン報告書」と「世界貿易におけるサービス貿易の重要性報告書」を紹介しておられました。
貿易を、日本と他国例えば中国との輸出入で測り、貿易量の多さや輸出超過(貿易黒字)であるか輸入超過(貿易赤字)であるかを見ます。
しかし、例えば中国が日本から60ドルの部品を輸入し、それらを組み立てて100ドルの製品にしてアメリカに輸出したとします。日本の中国向け輸出が60ドル、中国のアメリカ向け輸出が100ドルで、世界貿易総額は160ドルです(総計、グロス表示)。
これを付加価値で見ると、アメリカでの最終需要100ドルに対し、日本では60ドルの付加価値、中国では40ドルの付加価値です。しかも、日本の付加価値60ドルは、中国向けでなくアメリカへの輸出に計上されます(純計、ネット表示)
このように、2国間の貿易額でなく、付加価値が各国をどのように移転するか、チェーンで見る見方です。
国内での生産と消費を計算する場合(国民経済計算、GDP)も、部品を買って加工して売った場合は、仕入れた額を中間投入として差し引いて、二重計上しないようにします。また、中央政府から10万円補助金が出て、それをもらった地方政府が5万円加えて、住民に15万円支出した場合も、同様です。単純に、国の支出10万円と地方の支出15万円を足すと25万円ですが、全体で見ると15万円が住民に渡っています。
今回の報告書を見ると、日本から部品をアジア各国に輸出し、それらの国で加工組み立てされて、アメリカへ輸出している構図が見えてきます。
台湾や韓国では、輸出のうち4割が国外での付加価値に依存していて、それら部品などの輸入がなければ、輸出できないことを示しています。輸入を制限すると、輸出ができなくなるのです。
このほか、各国の輸出の半分が、サービス(卸売り、運輸、通信、金融、研究開発など)です。輸出額で見ると4分の1なのですが、付加価値で見るとその倍になるのです。私見ですが、モノは輸入し加工して輸出すると、付加価値では半減するのに(純計操作)、サービスはそのまま付加価値になる(輸入したサービスをそのまま使って輸出できない)からだと思います。
日本の対外貿易を示す際に、2国間の輸出入の矢印の太さで示す世界地図がありますが、付加価値で見ると、違った地図になるのですね。
新しい時代の投資とは
昨日に続き、日経新聞経済教室「成長戦略の評価」。6月20日の宮川努・学習院大学教授の「包括的な投資戦略支援を」から。
・・多くの人は「投資」という言葉から、建物や機械といった有形資産を想像するだろう。しかしIT(情報技術)革命以降、こうした有形資産の投資だけでは、生産性の上昇、ひいては経済成長が達成できないという見方がほぼ定着している。
例えば先ごろ経済協力開発機構が公表した「新しい成長の源泉」というプロジェクトの報告書では、有形資産以上に、ソフトウェア、研究開発、マーケッティング、人材育成などを包括した「知識ベース資産」の方が、有形資産よりも生産性向上への貢献度が大きいことを紹介している・・
詳しくは、原文をお読みください。