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経済

日本的経営(大企業、終身雇用)が阻むイノベーション

3月18日の日経新聞経済教室、リー・ブランステッター、カーネギーメロン大学教授の「イノベーションを阻むもの 戦後システムの名残一掃を」から。
・・・「日本企業はなぜもっとイノベーションを創出できないのか」という疑問は、過去20年間に次第に深刻度を増しながら繰り返し問われてきた。
戦後間もない頃の日本のイノベーション創出システムは見事な成果を挙げた。当時の日本企業は技術導入とイノベーション創出の両方に能力を発揮し、欧米企業との生産性格差を驚異的なペースで縮めた。だが1990年代半ばごろから、日本の全要素生産性は米国と比べて大幅に後退し始める(図参照)。国内総生産(GDP)比でみた日本の研究開発投資は韓国を除く先進国を上回る。それなのになぜ生産性は落ち込んだのか。
本稿では日本の過去の輝かしい実績も現在の苦境も原因は一つであることを示す。戦後期には日本企業の経営慣行と政府の政策が一体となりイノベーションを生み出すシステムを作り上げた。ただ先進技術に追いつこうとする時期には良かったが、画期的なイノベーションのゼロからの創出には適していなかった・・・

・・・翻って日本の戦後期のイノベーション創出システムはどうだろうか。例えば終身雇用制度は、大企業の男性正社員に盤石の雇用安定性を保障する。だがそれは、最も優秀な人材が地位を確立した大企業に就職し、定年までとどまる強力な誘因を形成する。この制度の下で、日本のイノベーションには既存の大企業が有利になるバイアス(ゆがみ)がかかることになった。
バイアスを助長したのが戦後日本の金融規制だ。株式・債券市場の発展が妨げられたことが銀行に有利に働き、メインバンク制が形成された。戦後間もない時期にはVCのような資金の出し手が存在しなかったため、既成価値を破壊するようなスタートアップはほとんど育たなかった・・・

低い日本の賃金

3月19日の日経新聞1面に「賃金水準、世界に劣後 脱せるか貧者のサイクル」 でした。
・・・日本の賃金が世界で大きく取り残されている。ここ数年は一律のベースアップが復活しているとはいえ、過去20年間の時給をみると日本は9%減り、主要国で唯一のマイナス。国際競争力の維持を理由に賃金を抑えてきたため、欧米に劣後した。低賃金を温存するから生産性の低い仕事の効率化が進まない。付加価値の高い仕事への転換も遅れ、賃金が上がらない。「貧者のサイクル」を抜け出せるか・・・

詳しくは原文を読んでいただくとして、驚くような表がついています。
OECDが、残業代を含めた民間部門の総収入について、働き手1人の1時間当たりの金額を調査しています。1997年と2017年を比べると、この20年間で日本は主要国で唯一マイナスの9%下落です。
イギリスは87%、アメリカは76%、フランスは66%、ドイツは55%増えています。日本の平均年収は、アメリカの7割程度です。

最低賃金と労働生産性(労働者1人の1時間当たりの成果)の国際比較もついています。労働生産性は、このホームページでも紹介しているように、OECD加盟36か国中20位、G7で最下位です。日本は47.5ドル、アメリカは72ドル、ドイツは69ドル。改めて、びっくりしますよね。

平成の経済停滞で、企業がリストラを進め、従業員の給料も上げませんでした。それが、生産性の低迷を招いたという説があります。低賃金が、生産性の低い仕事を温存したというのです。世界で戦う製造業には、そのような説明もできるのでしょう。他方で、サービス業、特に外国からの観光客を相手にするようなサービス業では、欧米水準の価格にすれば良いと思うのですが。

平成時代の変化。売り手が強い時代から、買い手が強い時代に

3月17日の朝日新聞「平成経済」、鈴木敏文・元セブン&アイHD会長のインタビュー「買い手が強い時代、価格より質」から。

・・・平成は経済が沈滞した時代だとよく言われます。しかし、これは平成に始まった話ではなく、昭和の終わりから続いてきたと考えるべきだと思います。戦後の経済成長で社会が豊かになると、消費者はあわてて物を買わなくてもいい時代になりました。売り手が強い時代から、買い手が強い時代に変わったのです。
戦後、米国の「チェーンストア理論」が日本の流通業界を席巻しました。小売企業は大量に商品を仕入れ、他社より安い価格で売るのが勝負で、商品を店頭に山のように積んでおけば買ってもらえるという発想です。ところが、次第にこれでは売れなくなり、流通業界の中でも販売が堅調だったイトーヨーカ堂ですら、1982年度に初めて経常利益が減益になりました・・・

次のような発言も。
・・・常識を打ち破る発想が必要なのです。経営者が自分で考え抜いて決めるべきです。新規事業を始める際、コンサルタント会社に調査を依頼する企業がありますが、感心しません。コンサルは過去のデータに基づいて助言をしますから、物まねになってしまいます。最近、ビッグデータを使った経営が流行していますが、私は、大きな間違いを起こすと思います。過去のデータを使っても、次の時代の流れは読めません・・・

統計に表れない人的資本の価値

3月15日の日経新聞経済教室は、前田佐恵子・日本経済研究センター主任研究員の「人材教育の充実、成長のカギ」でした。

・・・停滞をどうすれば打破できるのか。本予測では「改革シナリオ」も描いた。労働力を質と量の側面から高め、供給制約を取り払う必要がある。
労働の質の面では、日本企業は人材教育の劣化が目立ち、00年代に人件費の削減とともに教育訓練費も削ってきた。1980年代は雇用者報酬の0.4%程度を教育訓練費に充てていたが、16年では0.2%と半減している。
職業教育などの人的投資を増やし、労働の質が向上すると、生産性を高める効果が期待できる。
機械や設備などの有形固定資産に対し、生産の付加価値を高める情報やブランド、人材などの価値は無形資産と呼ばれる。ソフトウエアや研究開発費など生産資産として統計に表れるものもあるが、人材に蓄えられた技能を含む人的資本は計上されていない・・・

そうなんですよね。人的資本(能力)は、統計に出てこないのです。話を広げると、社会の質も、数字化されていません。汚職のない社会は、経済発展に不可欠です。また、治安の良い、つながりの強い社会は、暮らしやすいです。道路や鉄道の延長距離より、はるかに重要です。GDPや国富は、経済的価値、それも数値化できるものしか計上されません。ここに統計や経済学の限界があります。

・・・経済産業研究所が公表している日本の無形資産に関する推計では、企業の人的資本への投資などにあたる「経済的競争力投資」が示されている。各国の同様の推計値と比較すると、日本は経済規模に対し著しく低いことが分かる・・・
として、「経済的競争力投資の各国比較」が図として載っています。う~ん、「日本は人を大事にする国」ではありませんね。

GDPで測れない豊かさ

2月27日の日経新聞1面連載「進化する経済」は「LINEの利用価値300万円? GDPに表れぬ豊かさ」でした。
無料でメッセージのやりとりを提供するLINE。1200人に聞いたところ、1人当たり300万円になったそうです。でも、このサービスは、GDPには反映されません。
スマートフォンの普及で、写真の枚数は、15年間で20倍になったそうです。それも、現像に出さなくても見ることができ、知人と直ちに共有できます。他方で、カメラの売れ行きは落ち、町の写真屋さんは商売あがったりです。その分のGDPは、減少しています。
1800年以降に、照明の価格は3倍になりましたが、明るさと品質を考慮すると千分の1に値下がりしたのだそうです。たき火から電灯になると、こうなるのです。

・・・「GDPは豊かさではなく、モノの生産量の指標にすぎない」。米コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授は「各国はGDPにこだわり、08年のリーマン危機後に誤った政策を選択した」と断じる。国力を測る取り組みは17世紀の英国で始まり、戦争遂行能力を調べるために発展した。GDPはかねて専業主婦の家事労働が計上されない欠点などを指摘されるように、値段のない豊かさをとらえることは不得手だ・・・
・・・無料サービスという豊かさを提供する米グーグルなど巨大デジタル企業は、世界中の利用者から対価として個人情報を吸い上げる。政府や中央銀行はモノの豊かさをGDPなどの統計で測り、政策を決める根拠としてきた。だが目に見えない豊かさがGDPの外側に広がる。経済の実像をどうとらえ直すかで、豊かさの形も変わってくる・・・

幸せが金額や数値で表せないことは、良く指摘されます。しかし、豊かさが、数字で捉えられなくなっているのです。
私が講演などで使っている、豊かさを示すための「経済成長の軌跡」も再考しなければなりません。