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経済

基礎投資の少ない日本

8月20日の日経新聞オピニオン欄、D・アトキンソン・小西美術工芸社社長の「基礎投資の少なさが危機を招く」から。

・・・経済成長は結局のところ、研究開発・設備投資・人材投資で決まる。いうなれば3大基礎投資である。官と民で研究開発をして、新しい技術を発見する。企業は設備投資をしながら、その技術を商品化し、流通に乗せる。研究から始まって商品化、さらにはその商品を売り込むまで、従業員の教育・研修といった人材投資が不可欠だ・・・

・・・投資が少ない影響は大きい。例えば、日本の半導体はほとんどが低付加価値のものである。新型コロナウイルスのワクチンも開発できていない。もちろん、原則として3大基礎投資は減れば減るほど経済は成長しないし、生産性も上がらない。

投資が少ない原因は、第1に日本政府が1990年代から包括的な産業政策をとっていないことが大きい。
第2に、生産性を高める政府支出を生産的政府支出(PGS)というが、先進国の平均はGDP比24.4%、発展途上国でさえ20.3%なのに、日本は1割を切っている。人口減少と高齢化で社会保障の政府支出は増えているが、社会保障は移転的政府支出で、経済成長には貢献しない。
第3は、PGSの規模が小さすぎることだ。これまで国策に投入される予算は数千億円から多くて数兆円で、GDP550兆円の民間経済を動かす規模ではなかった。また内容も、既得権益を守るための「単なる量的な景気刺激策」が大半を占めていた。
第4は非正規雇用を増やしつつ、最低賃金が低いことだ。企業は優秀な人材を安く調達できるので、投資をする動機が薄れた。経済学の原理通りである・・・

顧客志向文化と製品志向文化

「業績を左右する社風」の続きにもなります。8月17日の日経新聞経済教室、若林直樹・京大教授「顧客志向文化が企業を救う」から。

・・・市場で複雑かつ急激な変化が起きたとき、企業が顧客のニーズと将来像を中心に考える企業文化を持っていれば、経営者や社員が対応しやすくなる。米ハーバード大学教授だった故クレイトン・クリステンセン氏は自らのジョブ理論の中で、企業のイノベーション(革新)において、顧客の短期的なニーズだけでなく未来の生活や活動に求める将来像(ジョブ)を考える視点の重要性を主張した。
顧客志向的な企業文化は経営者や社員にこうした視点を意識させる。米国最高マーケティング責任者(CMO)協議会の2014年調査では、米国企業のマーケティング担当役員の53%が企業文化を顧客志向的に変革することを経営課題として挙げた(図1参照)・・・

・・・顧客志向的な企業文化が強いと、経営者や社員の思考方法、意思決定や行動はそれに影響され、市場や外部を意識したものとなる。ここでいう顧客志向的な企業文化は、製品志向的なものとは異なる。米メリーランド大学教授のローランド・ラスト氏らは、製品志向的な視点をとる企業組織は内向きの視点をとり、経営目標でも新製品開発でも、ライバルと数を競うことや市場占有率の増大を重視すると指摘した。
それに対して、顧客志向的な企業では視点が外向きとなり、顧客との関係が重視され、顧客忠誠心をもとにした収益力が重視され、顧客満足や顧客価値の上昇が目標となる。従業員も顧客の考えを代弁するようになる。そして、環境が変わり、従来のやり方がうまくいかず、ビジネスが混迷したときに、顧客に沿って考えるようになる・・・

日本は貧しい国に逆戻り

8月4日の日経新聞1面連載「通貨漂流ニクソン・ショック50年」は「円安頼み「貧しい日本」生む 円の実力、48年前に逆戻り」でした。そこに、次のような記述があります。

・・・経済協力開発機構(OECD)によると主要国の平均年収は00年以降1~4割上昇し、日本だけが横ばい。ドル建ての賃金水準は韓国より1割近く低い。90年代にに日銀で為替介入を担当したJPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は「賃金水準では新興国に近づいている」と懸念する。日本人の購買力は落ち、貧しくなった。

貿易量や物価水準を基に総合力を算出する円の「実質実効レート」はニクソン・ショックからピークの95年まで2.6倍になった。その後は5割低下し、73年の水準に逆戻りしてしまった。円の弱体化は世界の中での日本経済の地盤沈下をそのまま映し出している・・・

苦境時の政策支援は企業にはもろ刃の剣

7月21日の日経新聞経済教室、青島矢一・一橋大学教授の「コロナ後の日本企業 組織超え経営資源を結べ」から。
・・・しかし、こうした状況があるから「コロナさえ収まれば、経済は飛躍するだろう」などと楽観視することはできない。むしろコロナが収まり、政策的支援が細くなったときの経済状況が不安である。振り返ると、リーマン・ショック後にはエコポイントなどの強力な政策支援があったが、テレビ事業など日本のエレクトロニクス産業の凋落が顕著となったことを思い出す。東日本大震災後には固定価格買い取り制度など大胆な再生エネルギー普及政策がとられたが、この分野での日本企業の国際競争力は高まるどころか、むしろ低下した。
苦境期における政策支援は企業にとってもろ刃の剣である。それは、産業の崩壊を防ぎ、次の成長に向けた一時的な余裕を提供してくれる。しかしその一時的な余裕によって企業が自らの実力を見誤ると、後に大きな火傷を負いかねない。こうした時こそ企業は本来の目的に立ち返って、自らを冷静に見つめ、次の飛躍に向けた準備をしなければならない・・・

・・・バブル期にみられた無節操な多角化は問題だが、企業が自己を革新するには、時に従来の強みを捨て去り、新たな領域に踏み込むイノベーションも必要となる。それを否定されると、企業は自らの運命を特定産業の盛衰に委ねざるをえなくなる。こうした状況にあらがうには、事業ポートフォリオの刷新を行い、全社戦略の背後にある構想や将来シナリオを、投資家を含めて内外の人々に説得的に語れるかが鍵となる。経営者の腕の見せどころだ。

革新を起こす人材不足も大企業内でイノベーションを興しにくい理由の一つかもしれない。起業などの革新活動は一般に連鎖する傾向にある。革新を起こす人が身近にいると、主観的に感じるリスクが低下して、自分もできそうだという自己効力感が高まるからである。しかし長いデフレの中で企業が採用を絞った結果、部下のいない社員が若いうちに自分の責任で新しい仕事を成し遂げる機会が減ってしまった。そうした先輩の背中を見て育つ後輩たちにとって、イノベーションのリスクは高く感じられるはずだ・・・

もはや豊かな先進国ではない2

7月23日の朝日新聞に「伸びる役員報酬 従業員給与は減」が載っていました。
・・・日本企業の役員報酬や従業員給与は、コロナ禍でどんな影響を受けたのか。最新データをみると、報酬1億円以上の役員数は株高の追い風もあって増えた一方で、従業員給与は落ち込んでいる。海外と比べると、役員も従業員も日本の金額は欧米の主要国より低水準で、伸び悩みが目立つ。
東京商工リサーチが今月にまとめた集計によると、上場約2400社(2021年3月期)で、報酬1億円以上の役員は544人。前年より11人増え、過去2番目に多かった。1億円以上の役員がいたのは前年比4社減の253社だった・・・役員報酬を海外と比べると日本は低い。大手コンサルティング会社ウイリス・タワーズワトソンの日米欧5カ国調査によると、売上高1兆円以上企業の最高経営責任者(CEO)の報酬は、15億円近い米国に対して日本は2億円弱。7倍超の開きがある・・・

・・・コロナ下でも役員報酬は株高の追い風を受けた一方で、従業員給与は20年に冷え込んだ。厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、パートなどを含めた働き手1人あたりの月間の現金給与総額は約31万8千円と前年より1・2%減った。
業種別では飲食サービス業5・9%減、製造業3・4%減などの下落が目立つ。産業全体でみると残業代などの所定外給与が1割強減少。飲食店や百貨店の時短営業、工場の操業調整などの影響が出たようだ・・・日本の働き手の収入は長年伸び悩む。経済協力開発機構(OECD)によると、加盟35カ国の平均賃金は00~20年に約16%上がったが、日本は平均以下の水準で横ばい続き。順位は00年の17位から22位に落ちた・・・

それぞれ各国比較の図が載っています。
CEOの報酬(売上高1兆円以上の企業の中央値)では、アメリカが14.5億円、ドイツ、イギリス、フランスが7~5億円に対して、日本は1.9億円です。基本報酬(業績連動報酬、株式報酬を除く)も、4か国が1.4~1.9億円に対し、日本は0.8億円です。
G7各国平均賃金(購買力平価)比較の図では、記事にあるように2000年から各国は伸びたのに、日本とイタリアが伸びていません。差が目立つようになっています。このままだと、日本はますます低下します。