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経済

超金融緩和策の副作用

12月23日の日経新聞経済教室、加藤出・東短リサーチ社長チーフエコノミストの「「何でもする」の姿勢見直せ 中銀の使命と気候変動」に、超金融緩和策の副作用が指摘されています。以下に、私の整理で引用します。
1 金融緩和策とは結局のところ、金利を押し下げて企業や個人に借金をつくらせ、それにより将来の投資や消費を手前に持ってくることで景気を刺激する政策だ。低インフレの原因がグローバル化、IT(情報技術)化、高齢化、人口減少など構造的要因にあるならば、その有効性は限られる。それを続けていると、前倒しできる将来の需要は細り、刺激効果は低減してしまう。
2 容易に入手できる低利の資金が生産性の低い投資やゾンビ企業の延命に使われる。
3 世界多くの銀行、保険会社、年金基金が深刻な資金運用難に陥るなど。
4 政府が債務を大幅に増やす要因になる。

私は、3の犠牲者がたくさん出ていることを心配しています。基本財産の運用益で事業を行っている、文化財団などです。
かつては、銀行に預けることで金利が生まれ、それを用いて、美術館の運用や奨学資金を出していました。この超低金利では、利子は生まれず、事業を続けるために基本財産を取り崩しています。そして、行き着く先は解散するしかありません。株式の運用などの手法もありますが、そのような基金には、それができる人も経験もありません。
その点では、この超低金利が続くことは、とても罪なことです。後世の人たちは、この超低金利政策を、このようにも評価するでしょう。
そして、この数年間の経験は、金利政策だけでは経済成長を押し上げることはできないことが実証されたのではないでしょうか。

松元崇さん、国民の創造力を発揮させる

12月29日の日経新聞経済教室は、松元崇・元内閣府事務次官の「国民の創造力発揮へ基盤整備 所得倍増計画の歴史に学ぶ」です。
・・・池田首相のブレーンで高度成長期の所得倍増計画を理論付けた下村は、著書「日本経済成長論」(1962年)で「私は経済成長についての計画主義者ではない」と明言していた。そして「私の興味は計画にあるのではなくて、可能性の探求にある。(中略)国民の創造力に即して、その開発と解放の条件を検討することである」と述べていた。
そのうえで「何がそういう経済の成長を推進するのか。これは要するに人間だということです。人間の創造力だということです。(中略)そういうものが自由に発揮されるということがあって、はじめて経済の成長を推進するような力が生まれてくる」と指摘していた・・・

・・・下村が経済成長を推進する力だとした「人間の創造力」とは、ケインズの言うアニマルスピリットだ。ケインズ経済学に基づく経済政策では、景気回復はもたらされるが、経済成長はもたらされない。では何が経済成長をもたらすのかと問われたときのケインズの答えがアニマルスピリットだった。とはいえ、それを発揮させるには、そのための条件整備が不可欠だ。
下村理論が画期的だったのは、日本経済に力強い成長力があることを論証したうえで、その成長力を発揮させるために求められる具体的な「条件を検討」したことだ。池田も首相就任後の参院予算委員会で、所得を2倍にするのではなく2倍になるような環境をつくるのだと答弁している。
下村は当時の状況に鑑みて、日本経済の高度成長にとって重要なのは設備投資の増加速度で、それに資する基盤整備が必要とした・・・

・・・では下村の問題意識を今日に当てはめた場合、経済成長のためにはどのような基盤整備が求められるのだろうか。
筆者は、老若男女を問わず全ての人が人生の中でいつでも再チャレンジできるようにサポートする教育制度と全世代型の社会保障制度だと考える。一生の間に何度も転職することが当たり前になった今日、その2つが国民の創造力を自由に発揮させる基盤になる。
下村の時代は、戦後の焼け野原から生活を再建していかねばならないハングリーな時代だった。全ての人にチャレンジが求められていた。人々にチャレンジできる場を提供する産業インフラの整備が、国民の創造力の発揮に直結していた。
だが今日、国が豊かになった半面、人々はチャレンジしなくなった。一度失敗すると立ち直るのが難しい社会になっている。失敗しても何度でもチャレンジできる社会にしていく。それが人々の創造力を解放し、国全体の成長や人々の幸せにつながっていくはずだ。

そのような基盤整備に財政投融資を活用できるかといえば否であろう。教育制度や全世代型の社会保障制度は、そこからの収益で投資資金の回収が見込めるようなものではないからだ。
とすれば、重要なのは税ということになる。そこで障害になるのが、とかく増税を嫌う昨今の世論だ。そしてその世論の背景にあるのが、かつての高度成長が円安や小さな政府の下に、政府の「計画」で実現したという思い込みだ。その思い込みをそのままにしておいたのでは、現在の日本の低成長を脱却させるためのまともな議論はできない・・・

いつもながら明快な、そして目から鱗が落ちる指摘です。史実に基づいた説明なので、説得力があります。ぜひ、全文をお読みください。

投資に向かわない家計資産

12月21日の朝日新聞「膨らむ個人マネー、偏る日本 株高・コロナ給付受け、家計資産2000兆円目前」から。
・・・家計の金融資産が膨らみ続ける背景には、老後への不安から目の前の消費を抑え、貯蓄に回そうという根強い傾向がある。
実際、少子高齢化が進み、年金支給額は今後大きく増やせない可能性が高い。そこで、政府は金融資産を金利がほとんどつかない預貯金ではなく、投資に回してもらい、個人で老後に備えた資産形成をしてもらおうと促してきた。株の配当や売却益などに税金がかからないようにする少額投資非課税制度(NISA)の拡充などはそのための政策だった。

だが、家計の金融資産のうち、株や投資信託の比率をみると、約15%でバブル経済崩壊後の30年間横ばいが続く。欧州の約30%、米国の約50%より大幅に低い。投資への動きはなぜ鈍いのか。三井住友DSアセットマネジメントの鈴木健也執行役員は「預貯金で高金利がついた時代に育った人は元本確保を好む傾向がある」と話す。
「難しい」(51%)、「ギャンブルのようなもの」(31%)、「なんとなく怖い」(31%)。日本証券業協会が今月発表した7千人対象の意識調査で浮かび上がる投資のイメージだ(複数回答)。投資が必要と考える人は全体の31%の一方で、必要と思わない人が69%を占めた・・・

・・・岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏は「バブル崩壊後の株安と円高で、円を現預金で持つことが身を守る方法になった。今の40~50代はバブル後のトラウマが解けていない。アベノミクス後に株高が進んでも身動きをとれていないことが資産構成に反映されている。一方で、20~30代はトラウマがほとんどない」と話す・・・

平均年収の各国推移

この30年間、日本の経済が停滞し、所得も上がりませんでした。最近の新聞に、平均年収の各国の推移が図で出ています。OECDの調査に基づくものとのことなので、専門家にお願いして、作図してもらいました。

これが、1990年から2020年までの30年間の、各国の平均年収の推移です。この図では各国比較をする際に、平均年収、購買力平価を使っています。その方が、生活実態に近いと考えるからです。

アメリカは4万7千ドルから6万9千ドルに、イギリスは3万3千ドルから4万7千ドルと、それぞれ1.5倍近く伸びましたが、日本は3万7千ドルから3万9千ドルと横ばいです。2万2千ドルだった韓国が4万2千ドルと、日本を追い抜きました。

このホームページでは、これまで日本の経済発展を説明するために、1955年以降の各国比較を折れ線グラフにして説明していました。「経済成長外国比較2
その図でも、1995年以降の日本の停滞が読み取れるのですが、新しく載せたこの図は、もっとはっきりと日本の停滞を見せています。

OECD経済審査報告書

OECD経済審査報告書」(2021年12月)が公表されました。経済協力開発機構(OECD)は、加盟国の経済情勢や政策動向を定期的に審査しています。

我が国の経済情勢や政策動向は、毎日、マスメディアが大量の情報を伝えてくれます。それは重要なのですが、細かい大量の情報を得ても、私たちは消化しきれません。そして、毎日のニュース報道では、中長期の動向が分かりません。
経済協力開発機構の審査報告書は、その点で項目が絞られていて、大きな観点からものを見ることができます。合わせて、海外からは日本がどのように見えているのかが分かります。
報告書の「主な結論」が、簡潔です。