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世相を反映する消費者物価指数の品目見直し

8月21日の朝日新聞に「消費者物価指数、品目見直し」が載っていました。
・・・ 消費者が買うモノやサービスの値動きを示す「消費者物価指数」の対象品目が見直された。最近の消費の変化を反映させ、なるべく物価の動きを正しくつかめるようにするためだ。見直しは5年ごとで、その品目の移り変わりには、時代の変化が色濃く映し出される。
20日に公表された7月分の指数から見直し後の「2020年基準」が適用された。これまでの「15年基準」に比べ、各家庭でよく買うようになった30品目が加えられ、あまり買わなくなった28品目が除かれた・・・

今回の改訂(別表1)で除かれたのは、携帯型オーディオプレーヤー(ウォークマン)」、ビデオカメラ、固定電話機、電子辞書などです。幼稚園保育料は無償化で外されました。他方で追加されたのは、タブレット端末、ドライブレコーダー、カット野菜、学童保育料などです。社会の変化が見て取れます。

記事には、1960年以降の主な品目入れ替えが、表になって載っています。何が新しく追加されたかとともに、使われずに除外された品目も興味深いです。
1960年にはマッチとわら半紙が外れ、1970年にはかんぴょうと学生帽、1980年には白黒テレビと削り節、1990年にはレコードと万年筆、2000年には2槽式電気洗濯機とカセットテープ、2005年にはミシンとビデオテープ、2010年には写真フィルムとやかん、2015年にはお子様ランチと電気アイロンです。年寄りには、懐かしいです。
もっと詳しく見ると、世の移ろいが、わかるのでしょうね。

ニクソン・ショック50年、国民生活改善2

ニクソン・ショック50年、国民生活改善」の続きです。8月26日の日経新聞経済教室、岡崎哲二・東京大学教授の「国民生活改善への転機に」から。

・・・第2に企業経営については、ニクソン・ショック後の円高が企業の本格的な国際化の引き金になった。トヨタ自動車の社史は、拡大しつつあった同社の対米輸出にとって「アメリカ政府による新経済政策、いわゆるニクソンショックと、それに続く円高時代の到来は大きな衝撃であった」と記している。これに対応するため、米現地法人の経営幹部に米国人を登用するなど「現地主義経営体制」を導入するとともに、欧州諸国への輸出を本格化した・・・

・・・第3に円高は日本経済の国際的地位を引き上げた。図には円ドルレートとともに、それにより換算した国内総生産(GDP)と1人当たりGDPの日米比を示した。円高の進行に伴い、70年に米国の約20%だった日本のGDPは80年には約40%となり、日本は文字通り経済大国としての地位を確立した。75年に仏ランブイエで開催された6カ国による第1回先進国首脳会議に日本が招かれたのは、これを象徴する出来事だ。

最後に国民生活も大きく変化した。為替レートで換算した日本の1人当たりGDPは80年に米国の77%に達した。個々の国民の視点からみると、円高は輸入品や海外で購入する財・サービスの価格を低下させた。
例えば60年代、海外旅行は大多数の国民にとって文字通り夢のような対象だったが、80年代には大学生が卒業記念に海外に行くことが珍しくなくなった。実際、70年に66万人だった年間の日本人出国者は85年には495万人に増えている。
ニクソン・ショック後の円高は経済成長の果実を国民に広く分配することを通じ、日本人にそれまでにはない豊かさをもたらした・・・

戦後の日本の経済成長を語るとき、高度経済成長に光が当たりますが、ここに述べられているように、1971年のニクソン・ショックとその後の円高、さらに石油危機を乗り越えた対応も、重要なことでした。
この記事には、1955年以降の円ドルレート、GDPと一人あたりGDPの日米対比の推移が図で載っています。GDPと一人あたりGDPの日米対比を見ると、日本経済の盛衰がよくわかります。1990年代半ばを頂点として、鋭い山形を描いています。上昇と下降です。
一人あたりGDPは、1955年にはアメリカの1割程度だったのが、(1980年代の円安による落ち込みを除き)右肩上がりに上昇し、1990年代半ばにはアメリカの1.5倍になります。その後は急速に下落し、現在では6割程度です。1970年代に逆戻りしています。ドル換算なので、私たちの実感と外れていますが、世界における日本の実力はこれなのです。

ニクソン・ショック50年、国民生活改善

8月26日の日経新聞経済教室「ニクソン・ショック50年」は、岡崎哲二・東京大学教授の「国民生活改善への転機に」でした。

・・・ニクソン・ショックは国際通貨体制の転換点だっただけでなく、日本にとっても経済政策、企業経営、日本経済の国際的地位や国民生活の水準など多くの点で画期となった。

第1に経済政策については、変動相場制への移行は政策手段選択の自由度を拡大する意味を持った。
変動相場制移行以前の日本では、金融政策は基本的に国際収支の調整という目的に割り当てられていた。すなわち日銀は政府と調整のうえ、景気が過熱し経常収支が赤字になれば金融を引き締め、景気後退により経常収支が黒字になれば金融を緩和するという政策運営を続けていた。
ニクソン・ショック直前の70年10月からショック後の71年12月にかけて、日銀は公定歩合を5回引き下げて金融を緩和した。これは70年秋以降の景気後退とニクソン・ショックに対応するための措置だった。さらに景気が好転していた72年6月、円切り上げ後も経常収支黒字が解消しないことを受け、再度の円切り上げを避ける目的で、もう一段の金融緩和が実施された。
そしてこの一連の金融緩和が、マネーストック(通貨供給量)の増加を介して73~74年の大規模なインフレ、いわゆる「狂乱物価」の原因となった。景気が上向く中で追加的金融緩和が実施されたのは以下のような事情による。固定相場制の下で為替レートによる国際収支調整が機能しなかったので、金融政策を経常収支黒字削減のために使用せざるを得ず、インフレ抑制のための金融引き締めを機動的にできなかったのだ。

変動相場制への移行はこの制約を取り除いた。こうした政策手段選択の自由度の拡大は、後に起きる第2次石油危機への対応に生かされた。イラン革命を背景に、79年には原油価格が前年の2.7倍に高騰した。日本経済に対し、購買力の産油国への移転を通じて不況圧力を加えるとともに、コスト面からインフレ要因となり、さらに経常収支赤字をもたらした。
この状況下で日銀は79年4月から80年3月にかけて5回にわたり公定歩合を引き上げた。変動相場制の下で、国際収支と景気の調整は為替レートの変動と財政政策に委ねられ、金融政策は主にインフレ抑制のために割り当てられた。そしてこの機動的な金融引き締めが、第2次石油危機時の日本のインフレ率を小幅に抑えることに貢献した・・・
この項続く

基礎投資の少ない日本

8月20日の日経新聞オピニオン欄、D・アトキンソン・小西美術工芸社社長の「基礎投資の少なさが危機を招く」から。

・・・経済成長は結局のところ、研究開発・設備投資・人材投資で決まる。いうなれば3大基礎投資である。官と民で研究開発をして、新しい技術を発見する。企業は設備投資をしながら、その技術を商品化し、流通に乗せる。研究から始まって商品化、さらにはその商品を売り込むまで、従業員の教育・研修といった人材投資が不可欠だ・・・

・・・投資が少ない影響は大きい。例えば、日本の半導体はほとんどが低付加価値のものである。新型コロナウイルスのワクチンも開発できていない。もちろん、原則として3大基礎投資は減れば減るほど経済は成長しないし、生産性も上がらない。

投資が少ない原因は、第1に日本政府が1990年代から包括的な産業政策をとっていないことが大きい。
第2に、生産性を高める政府支出を生産的政府支出(PGS)というが、先進国の平均はGDP比24.4%、発展途上国でさえ20.3%なのに、日本は1割を切っている。人口減少と高齢化で社会保障の政府支出は増えているが、社会保障は移転的政府支出で、経済成長には貢献しない。
第3は、PGSの規模が小さすぎることだ。これまで国策に投入される予算は数千億円から多くて数兆円で、GDP550兆円の民間経済を動かす規模ではなかった。また内容も、既得権益を守るための「単なる量的な景気刺激策」が大半を占めていた。
第4は非正規雇用を増やしつつ、最低賃金が低いことだ。企業は優秀な人材を安く調達できるので、投資をする動機が薄れた。経済学の原理通りである・・・

顧客志向文化と製品志向文化

「業績を左右する社風」の続きにもなります。8月17日の日経新聞経済教室、若林直樹・京大教授「顧客志向文化が企業を救う」から。

・・・市場で複雑かつ急激な変化が起きたとき、企業が顧客のニーズと将来像を中心に考える企業文化を持っていれば、経営者や社員が対応しやすくなる。米ハーバード大学教授だった故クレイトン・クリステンセン氏は自らのジョブ理論の中で、企業のイノベーション(革新)において、顧客の短期的なニーズだけでなく未来の生活や活動に求める将来像(ジョブ)を考える視点の重要性を主張した。
顧客志向的な企業文化は経営者や社員にこうした視点を意識させる。米国最高マーケティング責任者(CMO)協議会の2014年調査では、米国企業のマーケティング担当役員の53%が企業文化を顧客志向的に変革することを経営課題として挙げた(図1参照)・・・

・・・顧客志向的な企業文化が強いと、経営者や社員の思考方法、意思決定や行動はそれに影響され、市場や外部を意識したものとなる。ここでいう顧客志向的な企業文化は、製品志向的なものとは異なる。米メリーランド大学教授のローランド・ラスト氏らは、製品志向的な視点をとる企業組織は内向きの視点をとり、経営目標でも新製品開発でも、ライバルと数を競うことや市場占有率の増大を重視すると指摘した。
それに対して、顧客志向的な企業では視点が外向きとなり、顧客との関係が重視され、顧客忠誠心をもとにした収益力が重視され、顧客満足や顧客価値の上昇が目標となる。従業員も顧客の考えを代弁するようになる。そして、環境が変わり、従来のやり方がうまくいかず、ビジネスが混迷したときに、顧客に沿って考えるようになる・・・