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経済

縮む日本経済、30年前に戻る

9月19日の日経新聞1面は「止まらぬ円安 縮む日本 ドル建てGDP、30年ぶり4兆ドル割れ」でした。

ドル建てでみた日本が縮んでいる。1ドル=140円換算なら2022年の名目国内総生産(GDP)は30年ぶりに4兆ドル(約560兆円)を下回り、4位のドイツとほぼ並ぶ見込み。ドル建ての日経平均株価は今年2割安に沈む。賃金も30年前に逆戻りし、日本の購買力や人材吸引力を低下させている。付加価値の高い産業を基盤に、賃金が上がり通貨も強い経済構造への転換が急務だ。
経済協力開発機構(OECD)によると日本の今年の名目GDPは553兆円の見込み。1ドル=140円でドル換算すると3.9兆ドルと1992年以来、30年ぶりに4兆ドルを下回る計算だ。現時点での期中平均は127円程度だが、円安が進んだり定着したりすると今年や来年の4兆ドル割れの可能性が高まる。

ドルでみた経済規模はバブル経済崩壊直後に戻ったことを示す。世界のGDPはその間、4倍になっており、15%を上回っていた日本のシェアは4%弱に縮む。12年には6兆ドル超とドイツに比べ8割大きかったが、足元で並びつつある。

1ドル=140円なら平均賃金は年3万ドルと90年ごろに戻る計算だ。外国人労働者にとって日本で働く魅力は低下している。今年の対ドルの下落率は円が韓国ウォンを上回り、ドル建ての平均賃金は韓国とほぼ並ぶ。11年には2倍の開きがあった。物価差を加味した購買力平価ベースでは逆転済みだが、市場レートでも並ぶ。

衰退途上国

8月31日の日経新聞経済コラム「大機小機」は「「衰退途上国」から脱却するには」でした。

・・・本年5月に行われた日本経済学会春季大会のパネル討論でパネリストの1人が、日本は「衰退途上国」になってしまったと指摘していた。「発展途上国」が先進国よりも高い経済成長率を続けて先進国に追いついていくのに対して、「衰退途上国」は低い成長率を続けて世界から取り残されていく、そんな国になってしまったというのだ。
今日、日本の1人当たり国民所得は、かつてアジアの小竜といわれたシンガポール、香港などに抜かれてしまっている。このままでは、タイやインドネシアに抜かれるのも時間の問題だろう・・・

「発展途上国」「先進国」という言葉は、これまでよく使いましたが、「衰退途上国」という言葉は初めて聞きました。しかし、良くできた言葉だと思います。
それが実現しないように、しなければなりません。

日本経済停滞の原因、大企業の保守化と起業の低調

8月28日の日経新聞1面は、「設備投資、ルーキー不在 企業の新陳代謝鈍く成長停滞」でした。
・・・日本企業の設備投資が低迷している。過去最高水準の利益の下でピークに届かず、米欧と比べても伸び悩む。金額のトップ10を集計すると、通信や電力、鉄道などインフラ系が目立つ。エレクトロニクス関連企業は順位を下げた。次の成長をけん引するルーキーは見当たらず、日本経済の活力の低下を印象づける・・・

経済協力開発機構の調べでは、過去30年間の企業の設備投資は、アメリカが3.7倍、イギリスが1.7倍、ドイツが1.4倍ですが、日本は1%増と横ばいです。日本企業は儲けていても、新規投資に慎重なのです。

他方で、開業率と廃業率を足し合わせた「代謝率」は、アメリカ、イギリス、ドイツが20%前後で推移しているのに対し、日本は5%程度です。新しい企業が出てこないのです(他方で廃業も少ないのですが)。
アメリカの大企業ではGAFAが有名ですが、これらも新しい企業です。老舗大企業は伸び悩むか、つぶれています。すると、日本の経済活性化に必要なのは、経団連加盟企業のような老舗大手企業の頑張りではなく、新しい企業の出現でしょう。
ここには、日本の若者が就職に際して大企業を目指す風潮、親も社会もそれを良しとする風潮も寄与していると思います。

経済が生みだす敗者を支える仕組みが必要

8月21日の読売新聞、岩井克人・東大名誉教授の「「敗者」支える仕組みを」から。

経済のグローバル化は世界に大きな恩恵をもたらした。各国が得意なものを輸出し、不得意なものは輸入することで、平均所得が急増し、途上国の貧困率は大幅に下がった。
だが、それは各国の中に「勝者」と「敗者」を生む。得意な産業は栄えるが、工場の海外流出や製品の流入によって打撃を受ける労働者が生じる。この「敗者」を支える仕組みが欠けていると、グローバル化は破綻する。
1820年からの1世紀はまさにその例だ。交通機関や通信技術の発達によって世界の貿易量や資本取引が飛躍的に増えた。だが、各国内の「敗者」の不満が政治を不安定化させ、1914年に第1次世界大戦を引き起こした。さらにファシズムの台頭、世界大恐慌、第2次世界大戦という暗黒の時代を招いた。

第2次大戦後、現在のWTO(世界貿易機関)の前身となるGATT(関税・貿易一般協定)のもと、再びグローバル化が進んだ。
その様相が変わるのは、米国主導の自由放任主義が前面に出る1980年以降だ。その結果、たとえば米国では、一握りの富裕層がますます富を増やす一方で、多数の「敗者」が生まれた。その不満がトランプ大統領の誕生につながった。
今なお米国の分断は深刻で、民主主義それ自体を危うくしている。自ら進めたグローバル化が跳ね返ったのだ。

GATTやWTOが進めた貿易自由化の背後には、各国が経済的な結びつきを強めれば、民主主義や法の支配という普遍的な理念が共有されるはずだという期待があった。
だが、グローバル化が自由放任主義の名で加速すると、中露はその動きを米国の覇権主義と同一視して敵対する立場をとった。中国は強権的な姿勢を強めた。ロシアはウクライナを侵略し、経済的な相互依存を「人質」にさえした。期待は幻想となった。
また、コロナ禍やウクライナ戦争をきっかけとして、経済安全保障が重視されるようになった。これまでのグローバル化は、生産コストを下げることのみが優先された。だが、疫病の伝播は人々の移動を止め、国際的な対立は供給網の断絶や技術情報の漏えいなどのリスクを生む。このようなグローバル化の本当のコストを考慮するために、経済安全保障という概念が不可欠となった。

それでも、グローバル化を否定するわけにはいかない。実は、グローバル化はモノやおカネだけでなく、アイデアの交換も促す。地球温暖化など人類全体の課題の解決には、さらなるグローバル化が必要ですらある。それは「敗者」を支え、本当のコストを考慮していく「修正されたグローバル化」でなければいけない。
これが軌道に乗ってはじめて、民主主義などの普遍的な理念が世界で共有されるという期待が、単なる幻想ではなくなるはずだ。

日本の競争力低下、経営の効率性の悪さ

8月11日の日経新聞経済教室、一條和生・IMD教授の「人的資本投資拡大に向けて 人材抱え込みの発想転換を」から。それによると、63カ国中、日本の競争力は総合で34位、政府の効率性で39位、ビジネスの効率性で51位です。

スイスのビジネススクールIMDが6月に発表した2022年の世界競争力ランキングでは、日本の競争力は前年から3ランク落ちて34位となった。
競争力低下の原因は明らかだ。上位3カ国のデンマーク、スイス、シンガポールと比べると、日本はビジネスの効率性が著しく低い(表参照)。その最大の要因は、ビジネスの効率性を左右する経営実務に関する評価が調査対象の世界63カ国・地域中最下位と極めて低いことだ。

経営実務に関する評価の細目で、ビジネスのアジリティー(機敏さ)、ビジネスの環境変化の認識、環境変化への対応、意思決定におけるビッグデータとアナリティクス(分析)の活用、マネジャーのアントレプレナーシップ(起業家精神)など14項目中、実に5項目で日本は最下位だ。
経営実務を担うマネジャーに対する評価も芳しくない。シニアマネジャーの国際経験に関する重要性の認識や優秀さでも日本は最下位だ。新しい資本主義の担い手として重要なこの層のレベルアップは喫緊の課題だ。こうした日本の弱点が改善され、せめて世界平均に並べば、日本の世界競争力ランキングは34位から20位に上がるとみられる。

次々と予想もしない変化が起きる中で、ビジネスリーダーにはデジタルスキル以外にも新しいスキルが求められる。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の22年調査によれば、調査対象企業の56%が教育投資を今まで以上に増やすと回答しているのもそのためだ。
常態化する危機のマネジメント、スピーディーな変化対応を実現するプロセスと組織能力の構築に並び、サステナビリティー(持続可能性)に関する教育への関心が高い。サステナビリティーの観点から、企業活動のあらゆる側面を変革しなければならないとの意識が世界的に高まっている。
日本企業も時代が要請する新しいスキルの教育に力を入れねばならない。18年の厚生労働省の「労働経済の分析」によれば、日本はスキルや学歴のミスマッチが経済協力開発機構(OECD)諸国の中で最も高い水準となっている。

そもそも日本企業の従業員教育に対する優先度は高くない。「労働経済の分析」によれば、国内総生産(GDP)に占める企業の能力開発費の割合を比べると、米国が2.1%、フランスが1.8%のほか、ドイツ、イタリア、英国が1%を超えるのに対し、日本は0.1%と突出して低い。
ただしそこにはもう一つ大きな発想の転換が必要になる。それは教育投資がもたらす可能性のある人材の流動化に関する発想だ。
バブル崩壊から約30年を経た今、日本がシニアマネジャーの国際経験で世界最下位になったという事実から目を背けてはならない。