カテゴリー別アーカイブ: 経済

経済

低賃金の日本

6月28日の朝日新聞は「日本経済の現在値」で、「世界と比べ下落33位、ビッグマック価格」を伝えていました。
・・・英経済誌「エコノミスト」の調査によれば、今年1月時点の日本のビッグマックの価格は390円で、57カ国中33位。10年前の320円と比べて21%高くなったが、タイや中国はそれを上回り、各64%、58%(各国通貨建て)も上昇。2000年に5位だった日本の順位は下がる傾向にある。ビッグマックの価格は各国の物価や購買力を測る参考値にすぎないものの、日本の物価水準がどんどん下がっていることは間違いなさそうだ。
なぜ、世界との違いが出たのか。1990年代初頭にバブルが崩壊した後、日本の経済が「日本病」と呼ばれるほどの長期停滞に陥ったためだ。消費の低迷で企業が商品やサービスの価格を上げられず、働き手の賃金も上がらないことで、さらに消費が停滞する悪循環に陥った・・・

記事には、国別の価格と、日本の2000年(当時は5位)からの順位が、図表になって載っています。「このような国にも抜かれたのか」と思います。しかし、これが事実です。

6月30日の日経新聞は、「韓国の最低賃金5%増 時給約1000円、日本の大都市並み」を伝えていました。
・・・韓国の2023年の最低賃金が22年比5.0%増の9620ウォン(約1010円、時給ベース)に決まった。伸び率は前年水準を維持し、10年前と比べて98%増となった。韓国の最低賃金は全国一律で、円換算では東京都(1041円)や大阪府(992円)など日本の大都市圏水準となる・・・

起業は、組織力より個人の力

6月9日の日経新聞オピニオン欄、村山恵一さんの「起業立国、土台は個の力」から。

・・・日本のベンチャーキャピタル(VC)は独特の歴史を歩んできた。決定打は1987年の日本合同ファイナンス(現ジャフコグループ)の株式店頭登録だと同社出身で日本のキャピタリストの草分けである村口和孝氏は訴える。
起業立国で世界のモデルとなった米国では、投資の主体はキャピタリスト個人だ。ところが日本では、証券会社や銀行が70年代以降に設けた「VC会社」が主役になった。大手のジャフコが公開企業となり、組織的な管理をするVCが業界標準として定着した。
スタートアップは本来、先行きが見通しにくいものなのに、ジャフコでは事業が成功するエビデンス(証拠)探し、審査作業に膨大な労力を割いたという。起業家という個人の柔らかい創造性を企業統治の硬い論理で扱おうとした。
「こちらも個人でないと思い切った判断ができない」。村口氏は会社を辞めて98年に自らファンドをつくる。翌年、投資したのが創業間もないDeNAだった。

4年前、ジャフコは会社組織型からキャピタリスト個人が主軸の体制に転換すると表明したが、日本は世界的に異質なサラリーマンキャピタリストがなお圧倒的だ。事業会社がつくるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)もノンプロを増やしている。村口氏の見立てでは、深い経験のあるキャピタリストは日本にせいぜい100人。「この10倍はほしい」
不足を補うように政府の実行計画は、海外のVCに対する公的資本の投入を盛り込んだ。経団連も世界有数のVC誘致を提言する。幾人か内外のキャピタリストに聞いたが、そう簡単ではない。
最前線で活躍するキャピタリストは自身の才覚を頼りに活動し、投資の成功で巨額の報酬を手にする専門職だ。明快なキャピタルゲイン税制などの仕組みが整わず、思い切った仕事ができるのか不透明な日本は魅力的ではない・・・

企業に対する意識を調査した結果が図で載っています。「事業を始めるのに必要な知識やスキル、経験がある」と回答した割合は、インドが80%超、アメリカが60%超、イギリス、スウェーデン、フランスが約50%、ドイツが約40。日本は約10%です。大企業で勤めることを目標としてきた国民意識、そしてそれで成功してきた経済界が、裏目に出ています。

インドに日本のカレー店

6月6日の読売新聞「日本の味 アジア開拓…大手飲食業 商品開発 現地好みに」が載っていました。

・・・日本の大手飲食チェーンが海外で新たな市場の開拓を進めている。インドなど日本食レストランの「空白地」だった国のほか、大都市郊外や地方への出店が目立つ。日本食ブームの拡大が追い風となっているが、現地の好みに合った商品開発などきめ細かな対応が成否のカギを握っている・・・

・・・インド・デリー郊外グルグラム。IT企業や多国籍企業の高層ビルが並び、急成長を遂げるインド経済を象徴する場として知られる。
日本のカレー専門店チェーン「カレーハウスCoCo壱番屋」のインド1号店がここにオープンしたのは2020年8月で、「カレーの本場・インドに日本風カレーの専門店ができる」と注目を集めた。日本人駐在員に連れられたインド人スタッフが知人を連れて来店するなど次第に定着し、最も人気のメニューは「チキンカツカレー」(475ルピー=約800円)という。店員のマーシュ・マックスウェルさんは「この店では辛さやトッピングが調整できる。インドの飲食店ではこうした仕組みはないので面白いですね」と話す。
インドでは日本で牛丼店「すき家」を運営するゼンショーホールディングス(HD)も店舗を展開している。牛肉を食べないヒンズー教徒に配慮して、鶏肉や野菜などを使った丼もののメニューを中心に据える。
インドは巨大市場ながら、「自国の食べ物を好む人が多く、保守的な傾向が強い」(飲食業界関係者)とされる。それでも日本食レストランの数は徐々に増え、日本貿易振興機構(ジェトロ)によると21年6月時点で約130店となった・・・

中小企業ではまだファックス

先日「電子化の進め方、いまだにフロッピーディスクが使われていた」を書きました。企業では取引は電子化されていると思っていたのですが、ファックスでのやりとりが、まだ多いのだそうです。5月30日の日経新聞「中小企業、なおFAXの山 40年未完の電子受発注

・・・官民挙げて「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が叫ばれても、中小企業の事務机からファクスの山が消えない。日本では1970年代から企業間取引の「EDI(電子受発注)」システムが動き出したが、2次、3次の下請けは蚊帳の外のまま。中小企業の大多数が不在のDXではサプライチェーン(供給網)の生産性は底上げされない・・・

記事で取り上げられている鋼材加工メーカーは、約400社の取引先を抱え、ファクスで届く注文書を6人の社員がその内容をコンピュータに手作業で入力しているのだそうです。
指摘されている問題は、次の通り。
・中小企業はまだファックスを使ってやりとりしている。
・大企業は電子受発注しているが、業界によって仕様が異なり、接続できない。

日本産業の没落、ものづくりを過信

5月17日の朝日新聞オピニオン欄、諸富徹・京都大学大学院経済学研究科教授へのインタビュー「資本主義、日本の落日」から。

日本は主要国で真っ先に経済成長が滞っただけでなく、脱炭素など環境対策でも出遅れが目立つようになった。環境と経済の関わりについて研究を重ねてきた経済学者の諸富徹さんは、そこに日本の資本主義の「老衰」をみる。産業の新陳代謝を促し、経済を持続可能にする道を、どう見いだせばいいのか。

――日本は「資本主義の転換」に取り残されつつある、と指摘しています。
「世界の産業は、デジタル化やサービス化が進んでいます。経済の価値の中心は、モノから情報・サービスへと大きくシフトし、資本主義は『非物質化』という進化を遂げているのです。それなのに、日本はいまだにものづくり信仰が根強く、産業構造の根本的な転換ができていません」
「二酸化炭素(CO2)を1単位排出するごとに、経済成長の指標となる国内総生産(GDP)をどれだけ生み出したのかを示す『炭素生産性』をみると、日本は先進国で最低水準です。成長率が低いうえ、その割にCO2排出を減らせていないことを示しています。エネルギーを多く使いながら付加価値が低い、20世紀型の製造業に依存しているせいです」

――かつて日本は、環境技術を誇っていたのでは。
「1970年代の石油危機を受けて省エネを推し進め、環境先進国と呼ばれた時代がありました。日本の資本主義に活力と若々しさが残っていたころです。過程で産業競争力もつき、90年代までは、その遺産でやっていけました」
「しかし、2000年代に入っていくと様相が一変します。欧州は再生可能エネルギーに真剣になったのに、日本は不安定でコスト高だと軽視し続けました。いずれは新しい産業になり、コストも下がるとの主張にも、政財界の『真ん中』の人たちは聞く耳を持ちませんでした」

――コロナ下での経済政策は、むしろ既存の産業や雇用を守ることが重視されました。
「個々の労働者を政府が直接守る仕組みが貧弱なので、企業に補助金や助成金を出して、これまで通り雇い続けてもらうしかなかったのです。これなら失業率は低く抑えられますが、CO2を多く出したり生産性が低いままだったりする企業も温存されます。働き手も、新たなスキルを身につけるでもなく、飼い殺しになっている。コロナの2年間は、ほぼ既存の構造をピン留めしただけでした」

――一方、デジタル化に関しては、コロナ危機が日本に変化を迫った面もありました。
「日本がずっとデジタル化の入り口でとどまっていたのは、プライバシー問題などをめぐる慎重論が勝っていたからです。米国や中国は、まずはデジタル技術を社会経済に組み込み、その上で弊害に対処するアプローチで先行しました。日本もデジタル化を一気に進めざるをえなくなったのは、パンデミックがもたらした前向きな変化の一つではあります」

――ではどうすれば。
「定常状態を脱するには、伸びる産業や企業に働き手が移っていかなければなりません。同一労働同一賃金の促進が一案です。正規・非正規雇用の格差を縮めるだけでなく、生産性の低い企業が人件費カットで生き延びるのを防ぎ、産業の高付加価値化を促せるからです。環境税や炭素税の導入も、最初に例に挙げた『炭素生産性』の低い企業に退出を迫る、似た効果が期待できます」
「その際、職を失った人も生活を心配せずに新たなスキルを身につけられる安全網を整えるのが、極めて大事です。そうして継続的な賃金上昇を促していくのです」