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円安でも買われない日本企業

10月14日の日経新聞オピニオン欄、レオ・ルイス、ファイナンシャルタイムス・エディターの「円安でも買われない企業」から。
・・・だが、今回の規制緩和で日本に戻ってくると期待されている外国人は観光客だけではない。米国や欧州に拠点をおくファンドマネジャーなどの投資家も久々に日本に再び出張してくると思われる・・・しかし、だからといって彼らのファンドの投資ポートフォリオにおける日本株の比率が高くなる可能性は引き続き低い。

日本企業への投資が増えないのには理由が4つある。
第1は、今の円安は日銀が超緩和策に固執し、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ政策と乖離してしまっているのが原因だが、日本の株式市場が割安な水準にあり続けているのには、もっと本質的な理由がある。
日本はそもそも天然資源に恵まれず、高齢化問題を抱え、エネルギー政策は福島第1原発事故以来この10年、ほぼ何の進展もなく、こうした問題が日本経済をむしばみ続けている。故安倍晋三元首相は「日本は変わりつつある」と国内外にアピールするのに成功したが、岸田氏はそうしたメッセージを全く発信できていない。
第2の理由は、日本市場には利益率が高く多様な企業が多く存在するにもかかわらず、国内の投資家が触手を伸ばさないことにある・・・

・・・今回、コロナ禍を経て海外の投資家が訪日しても日本企業に思ったほど投資しないと思われる第4の理由は、今後さらに3年待ってみても、日本が大きく変わると期待できる要素が全く見当たらないことだ。
今、多くの人が懸念しているように世界的な景気後退が起きつつある。日本企業の多くは抱える債務の規模が比較的小さく、多額の内部留保を積み上げてきたことからほかの国・地域ほど大打撃は受けそうにない。むしろ投資家には魅力的に映ってもいいはずだ。
まさにこうした「雨の日」に備え、晴れた日が何年続こうとも内部留保をせっせとためてきた。企業としての野心より存続を優先するやり方を貫いてきたわけだが、海外投資家はそんな企業は求めていない。
景気後退という嵐の中にあっても、あえて失敗を恐れずに果敢に挑戦しようという日本企業の姿を既に想像できないうえ、嵐が去ってもリスクを取ろうとはせず塹壕の中で縮こまり続ける姿を想像できるだけに日本企業を今が買い時だと考える海外投資家はいなさそうだ・・・

30年の経済低迷の原因

10月12日の日経新聞経済教室は、小林慶一郎・慶応大学教授の「長期停滞、対症療法脱却を」でした。そこに、30年間の経済低迷の理由が述べられています。分かりやすいです。特に、2010年代の原因を、人的資本の劣化だと指摘しておられます。

・・・ここで、過去30年の経済低迷の原因として想定できるものを列挙してみよう。1990年代は不良債権、00年代は不良債権処理の後遺症、低金利環境による過度なリスク回避、10年代は人的資本の劣化であろう。

90年代には、不良債権処理が遅れたために不確実性が日本全体にまん延し、様々な問題を引き起こした。05年に不良債権問題は正常化したが、15年間も処理にかかったことで後遺症が残った。企業活動が萎縮し、低成長が長引いたのだ。
90年代末の銀行危機のあと、雇用を重視する日本企業の伝統は崩れ、非正規雇用が急増した。一橋大学の深尾京司特命教授らの22年の研究によると、00年代には非正規雇用が増えたことなどで賃金が下落し、労働分配率が低迷した。この時期に人的資本への投資が低迷し、その結果が時間を経て顕在化したのが10年代の低成長だと指摘している。
00年代に不良債権処理で虚弱化した経済をゼロ金利で支えたことは、短期的には効果があっただろう。しかし想定外に長くゼロ金利が続いたため、景気刺激効果は薄れ、副作用も出てきた。低金利環境が経営層のリスク回避を過度に助長し、低成長をさらに固定化したのである。
雇われ経営者の立場で考えれば、低金利で資金調達できるのだから、低収益でもリスクのない事業をしておけば債務不履行を起こしてクビになることはなく、老後も安泰である。だから、リスクのある事業にあえて挑戦しない・・・

・・・低金利が低成長をもたらす副作用は、低金利環境が長引くことで生じる。経済や企業経営を活性化するために、四半世紀も続くゼロ金利環境を、段階的に正常化する道筋を考えなければならない。
次に人的資本の劣化については、独マンハイム大学のトム・クレッブス教授が03年の論文で理論モデルを提唱している。クレッブス教授は、賃金所得の変動リスクがなんらかの理由で増大すると、人的資本の蓄積が減ると指摘している。
労働者にとって、人的資本投資(教育や研修を受けることなど)のリターンは賃金なので、賃金の変動リスクが増えるということは、人的資本投資のリスクが増えるということにほかならない。人々はリスクの高い投資(自分の人的資本を増やす投資)を避けるので、経済全体で人的資本が減少する。つまり、賃金の変動リスクが上昇すると、人的資本投資が減少し、経済成長率が下がる。
クレッブス教授の議論は、00年代に日本で非正規雇用が増えて雇用リスクが上昇したため、人的資本が劣化して経済成長率を押し下げたことを示唆している。もちろん、本人の選択による人的資本投資の減少だけでなく、非正規雇用の労働者に対する教育訓練コストを企業側が削減したという要因も、人的資本の劣化に影響したとみられる・・・

円安、ドル建て賃金4割減

10月9日の日経新聞1面は、「進む円安、細る外国労働力 ドル建て賃金4割減」でした。
・・・円安が外国人労働者の獲得に影を落としている。米ドル換算の賃金は過去10年で4割減り、アジア新興国との差は急速に縮まっている。建設や介護など人手が必要な業種で「日本離れ」が始まった。労働力確保には魅力ある就業環境の整備が急務だ・・・

記事には、アジア各国との賃金水準の比較が図になっています。シンガポールは、2012年度では非製造業では日本の70%、製造業では40%程度でしたが、現在はそれぞれ120%と80%程度です。非製造業では追い抜かれています。北京は、2012年では20%程度でしたが、今では70%と60%程度です。ハノイは、2012年では10%程度だったものが、非製造業では30%程度になっています。
その結果、ベトナム人にとって、日本は魅力的な働き場ではなくなりつつあります。

「1人あたり国民総生産が7千ドルを超えると、日本への労働力の送り出しが減り、1万ドルを超えると受け入れ国になる」とのことです。
中国人労働者の割合が減っているようです。すると、外国人労働者が減ります。コンビニ、建設現場、農業や水産業では、外国人労働者抜きでは事業が成り立たないところもあります。

縮む日本経済、30年前に戻る

9月19日の日経新聞1面は「止まらぬ円安 縮む日本 ドル建てGDP、30年ぶり4兆ドル割れ」でした。

ドル建てでみた日本が縮んでいる。1ドル=140円換算なら2022年の名目国内総生産(GDP)は30年ぶりに4兆ドル(約560兆円)を下回り、4位のドイツとほぼ並ぶ見込み。ドル建ての日経平均株価は今年2割安に沈む。賃金も30年前に逆戻りし、日本の購買力や人材吸引力を低下させている。付加価値の高い産業を基盤に、賃金が上がり通貨も強い経済構造への転換が急務だ。
経済協力開発機構(OECD)によると日本の今年の名目GDPは553兆円の見込み。1ドル=140円でドル換算すると3.9兆ドルと1992年以来、30年ぶりに4兆ドルを下回る計算だ。現時点での期中平均は127円程度だが、円安が進んだり定着したりすると今年や来年の4兆ドル割れの可能性が高まる。

ドルでみた経済規模はバブル経済崩壊直後に戻ったことを示す。世界のGDPはその間、4倍になっており、15%を上回っていた日本のシェアは4%弱に縮む。12年には6兆ドル超とドイツに比べ8割大きかったが、足元で並びつつある。

1ドル=140円なら平均賃金は年3万ドルと90年ごろに戻る計算だ。外国人労働者にとって日本で働く魅力は低下している。今年の対ドルの下落率は円が韓国ウォンを上回り、ドル建ての平均賃金は韓国とほぼ並ぶ。11年には2倍の開きがあった。物価差を加味した購買力平価ベースでは逆転済みだが、市場レートでも並ぶ。

衰退途上国

8月31日の日経新聞経済コラム「大機小機」は「「衰退途上国」から脱却するには」でした。

・・・本年5月に行われた日本経済学会春季大会のパネル討論でパネリストの1人が、日本は「衰退途上国」になってしまったと指摘していた。「発展途上国」が先進国よりも高い経済成長率を続けて先進国に追いついていくのに対して、「衰退途上国」は低い成長率を続けて世界から取り残されていく、そんな国になってしまったというのだ。
今日、日本の1人当たり国民所得は、かつてアジアの小竜といわれたシンガポール、香港などに抜かれてしまっている。このままでは、タイやインドネシアに抜かれるのも時間の問題だろう・・・

「発展途上国」「先進国」という言葉は、これまでよく使いましたが、「衰退途上国」という言葉は初めて聞きました。しかし、良くできた言葉だと思います。
それが実現しないように、しなければなりません。