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経済

規制改革の効果

内閣府は、1991年度から2005年度までの、規制改革による経済効果を発表しました。それによると、累計で18兆円、国民一人当たりでは14万円になります(29日付け日本経済新聞など)。経済効果は、規制改革がなかった場合と比較して、「競争による価格低下」と「需要の拡大」を試算したものです。大きかったのは電力で、小売り自由化などで価格が4割近く下がっています。知りませんでした。携帯電話も、価格(料金)が6割低下しました。トラック貨物運送も、料金規制や参入規制をゆるめたことによって、価格が3割近く下がりました。

経済財政6

八代尚宏先生が、「健全な市場社会への戦略」(東洋経済新報社)を出版されました。「小泉時代から始まった構造改革は、まだ始まったばかりであり、市場経済と社会保障を組み合わせた『健全な市場社会』を実現するには何が残された課題かを示す必要がある」と書いておられます。取り上げられている項目は、労働契約法制、社会保障改革、年金制度、医療制度、働き方、保育所と育児保険、外国人労働者、義務教育、大学、農地と農協、構造改革特区、市場化テストなどです。
日本の経済社会の課題と、どのように改革すべきかが、わかりやすく取り上げられています。日本経済と構造改革の教科書でもあります。ご関心ある方は、お読みください。(1月30日)
2日の日経新聞経済教室は、樋口美雄教授の「仕事と生活調和、基本法で」でした。これまでの企業と正社員との間には、誇張して言えば「保障と拘束」の関係があった。企業は正社員に家族手当などを支払い、生活を保障する代わり、その代償として長時間残業や頻繁な転勤といった拘束をかけてきた。その反面、この拘束に耐えられない労働者は生活保障の対象から外され、非正規労働者として天井の低い補助的な仕事しか与えられてこなかった・・・。(2月3日)
16日の経済財政諮問会議は、成長力底上げ戦略、 規制改革・構造改革特区、 市場化テストについてでした。
規制改革では、民間議員から「規制大国からの脱却と消費者主権の確立を」という提言がなされています。ここに、考え方とこれから取り組まなければならない分野が書かれています。
「・・岩盤の如き規制が残っている。それは、健康・医療・保育・教育など生活に密着した分野であり、消費者の潜在的ニーズが高い分野の規制である。この分野の規制改革によって、消費者の立場に立った良いサービスが豊富に供給されない限り、豊かな高齢化社会は実現しない。
これらの分野は、何らかの政府関与が不可欠な場合が多く、それゆえに規制が強固に残されてきたとも言える。しかし、だからと言って、消費者の選択肢が狭められたり、供給不足による行列が余儀なくされたり、価格が高止まりしたりする状態が是認されることにはならない。消費者ニーズの高い分野こそ、供給者の創意工夫を高めるために規制を緩和し、それとセットで事後的監視を強化することが必要である・・」
そして、「事後的な監視機能を高める」方法として、 消費者保護ルール(情報開示ルール等)の確立、 各省庁における消費者保護部門と産業振興部門の切り離し(消費者保護を徹底させるために、各省における消費者保護行政と事業者監督部門とを明示的に分断)、消費者の視点からサービスの質を評価する第三者機関の整備・強化が挙げられています。
市場化テストについては、「公共サービスの全面的な改革のために」で、これまで対象事業が少ないことへの対策として、これまでは民間提案だけだったが、下記のように、監理委員会が官が自ら直接行う必要があるとは言えない」分野を選定し、市場化テストを導入する手法を加えるべきではないか、と提案しています。(2月17日)
9日の日経新聞経済教室は、林良造教授の「イノベーション、医療軸に」でした。技術の発達と良い医療を求める国民とで、医療分野は発展が期待される分野です。しかし、最新の機器や医薬が使えないのです。現在の医療制度や規制が、それを阻んでいます。もちろん、安全に関することですから、十分な配慮は必要ですが。次のように述べておられます。
この分野では、生命を扱うという特殊性や情報の非対称性の大きさ、公費投入などから、どの国においても参入・価格設定などで政府の影響力が強かった。現在、グローバル化と技術革新に対応し、医師、患者、企業とも最新の技術にアクセスできる環境を求めて、国境を越えることが現実になりつつあり、政府の関与のあり方も大きな変革期を迎えている。
すなわち、医療制度改革は、単に医療費総額や医師数、病床数を算術的に抑制するのではなく、各種資源の適材適所への配置がなされ、質の高い医療サービスの効率的な提供を実現するインセンティブを内蔵した制度へと変換していくことが求められている・・。
そうですね、行政構造改革は、単に公費支出を少なくするために行うもの、小さい政府を目指すだけではありません。規制改革も、より視点を広げています。近年は、「官製市場」改革という言葉を使っています。例えば、規制改革・民間開放推進会議の「官製市場の民間開放による民主導の経済社会の実現」(平成16年8月3日)では、官製市場を、
「・政府自らがサービス等の提供を行っている
・民間に開放されてはいるものの、サービス等を提供する主体が制限されている
など公的関与の強い市場」と定義しています。
先日、このHPでは、行政改革を行政構造改革まで視野を広げて、目的別に近年の実績を整理しました(行政改革の分類)。(3月11日)
日経新聞14日の経済教室は、清成忠男先生の「底上げ戦略、革新企業軸に。中小=弱者は誤り」でした。
一般の中小企業像には、しばしば誤解がある。中小企業の象徴的な存在として、よく製造業の下請け企業がイメージされる。だが、総務省の事業所・企業統計調査によると、2004年には中小企業の76.9%は第三次産業に属し、その割合は拡大傾向にある。製造業は11.3%、下請け企業の比率は中小企業全体のわずか数%にすぎない。下請け取引関係も、かつての縦割りの支配・従属の状況にはない。製造業を軽視するつもりはないが、中小企業の主要分野は第三次産業であることを確認しておく必要がある・・・(3月14日)
(政策立案の手法)
16日の日経新聞経済教室は、清水谷諭助教授の「社会保障制度の再設計へ、世界標準のデータ整備を。中高年を追跡調査」でした。
これまでの社会保障議論には、2つの大きな視点が欠けている。まず、密接に関連する年金、医療・介護といった社会保障政策や高齢者雇用などが、それぞれ縦割りで議論されていて、分野を超えた横のつながりが弱い。政策のあり方を考える際に、担当する役所でなく、政策の恩恵を受ける受益者の立場に立つことが重要だ。
次に、財源論だけに議論が集中している。政策変更に対して個人がどのように反応するかや、個人の多様性を見落としている。
従来の縦割りで財源論に特化したアプローチから、受益者の立場に立って分野横断的で個人の違いにも目配りの利いた新しいアプローチへ、発想を転換する必要がある。
それを実現するには、ケーススタディの積み重ねでは難しく、豊富な情報を含む数万人単位のデータベースを構築し解析することが必要だ。欧米やアジア諸国でも行われており、唯一の空白地帯が日本である。(3月17日)
(イノベーションが広がる仕組み)
17日の朝日新聞は、「無償で開花、QRコード」を解説していました。最近、バーコードに変わって見かける、あの変な幾何学模様の四角形です。携帯電話のカメラで取り込むと、ホームページに簡単に接続できたりします(私はやったことがありませんが)。元々は、トヨタ自動車の工場で使われる生産管理のためのものだそうです。バーコードでは情報量が不足するので、開発されました。バーコードの数十倍もの情報量を書き込み、読み取ることができます。あの小さな四角形で、400字詰め原稿用紙を4枚半も書き込めるのです。
特許を公開したことで利用が広がり、いまや車検証、空港のチェックインにも使われ、健康保険証にも利用される予定だそうです。物流での履歴管理を想定していたのに、携帯電話で使われるとは、想定外だったとのこと。
でも、イノベーションって、そうなんですよね。思わぬ方向で広がることがあります。もっとも、このような2次元コードには、欧米にライバルがいて、まだこれが世界標準ではないそうです。(3月17日)

経済財政5

今日18日に経済財政諮問会議が開かれ、「日本経済の進路と戦略」が議論決定されました。これは、今後5年間の経済と財政の中期展望です。5年前に小泉内閣がつくったのは、「改革と展望」という名前でした。さかのぼれば、池田内閣の「所得倍増計画」もこの系譜です。資料として、「参考試算」がついています。経済成長、物価、財政収支の見込みなどが示されています。これについて、簡単に解説します。
(4通りの想定)
日本は計画経済ではないので、これらの数字はあくまで見込みです。今回は、「進路と戦略」が効果を発揮する場合と、効果を発揮せずまた世界経済が減速するなど厳しい場合の2つを想定しています。前者の場合は、規制改革が進み、生産性も上がり、働く人が増える(人口は減りますが労働に参加する人が増えるのです)ことを想定します。そして、財政は、「骨太の方針2006」で想定した、今後5年間で国と地方で14.3兆円削減する場合と、11.4兆円削減する場合を想定しています。この組み合わせで、4通りになります。
(試算の方法)
試算結果p2から、順に説明します。まず、最初に「潜在成長率」の図が出ています。これは聞き慣れない言葉ですが、供給側の成長能力と考えてください。設備、労働力、生産性の3つが、どれくらい伸びるかです。しかし、能力があっても使い切らない場合、すなわち需要がない場合は、この通りに成長しません。それが、次の「実質成長率」の図です。近年は能力が使われなかった=需要不足だった状態から、成長を続けたので、潜在成長率より実質成長率が高かったのです。
もう一つの要素が、物価です。「消費者物価」(p3中段)はその一つですが、経済全体ではp3の下「GDPデフレーター」となります。これまではデフレで、マイナスでした。2007年からプラスになると予想しています。実質成長率にGDPデフレーターを足すと、p3上の「名目成長率」になります。推計するときはこの順に行いますが、実績値は名目成長率が観測され、そこからデフレーターを引いて実質成長率を割り出します。だから「デフレター」であって、インフレーターではないのです。
(結果)
さて一番いい想定(移行シナリオ、14.3兆円削減)だと、名目成長率は順調に上昇し、2011年には4%近くにまでなります。この場合は、国と地方合計の基礎的財政収支は、プラスになります(p4上の図)。11.4兆円削減では、プラスになりません(p8上の図)。これは、簡単には次のように説明できます。「骨太2006」では、3%の経済成長を続けた場合、2011年に基礎的財政収支をプラスにするには、今後16.5兆円の削減が必要とされていました。その後、国では3.5兆円もの税収増があったので、単純には削減必要額は16.5-3.5=13兆円になっています。すると、14.3兆円削減するとプラスを達成できるのです(19年度予算では、すでに3.5兆円削減しています)。
(喜んで良いか)
ただし、これで喜んではいけません。まず、14.3兆円の削減は、大変なのです。また、今後3%の経済成長を前提としてます。しかし、2006年度の名目成長率は1.5%、2007年度は2.2%の見込みです。
なお、この3年間、特に国税収入が大きく伸びています。これは一種のボーナスです。すなわち、繰り延べ欠損という制度で、会社はある年の赤字を後の年まで繰り越せるのです。すると、業績が赤字から黒字になっても、しばらく税金は払わなくても済みます。2000年代前半に経済の落ち込み以上に税収が大きく減り、この3年間は経済成長を大きく上回る税収の伸びがあるのはこのためです。通常、租税弾性値(経済成長率に対する税収の伸び)は1.1を使います。中期的にはこれが実績なのですが、近年は大きくずれています。
また、そもそも基礎的財政収支では、財政が健全化したとは言えないのです。この場合は、なお国債残高は増加します。また、赤字国債も発行しています。利払いを含めた財政収支は、赤字なのです。基礎的財政収支の黒字化は、一里塚でしかありません。
しかし、ようやく基礎的財政収支の黒字化が見えてきました。ここ数年は、デフレでしたので、そのような見通しも立たなかったのです。
(国と地方)
国に比べ、地方の財政収支は、よくなっています(p5の2つの図)。ただし地方の中には、非常に好調な東京都と、まだまだ大変な田舎の町村が含まれています。また、地方が赤字になったのは、それぞれの団体が自由に財政運営したからではありません。国が地方の税制を決め、支出の多くを義務付け、あるいは誘導したのです。小渕内閣で大きな減税をしましたが、これは国が決めたことです。そこで、国がその大半を補填することにしたのです。「地方より国が大変だ」という主張をする人がありますが、それは、このような背景を忘れたものです。
(1月18日)
23日の日経新聞経済教室は、小塩隆士教授の「高齢者内の再分配拡充を。所得税見直しに柱、世代間扶助のみ不十分」でした。長期的な拡大傾向にある日本の所得格差のかなりの部分は、高齢化で説明できる。高齢層は現役層より所得格差が大きく、高齢層の割合が高まれば、社会全体の所得格差も拡大する。しかし、高齢層の格差が現役層より大きいのは、他の先進国にはあまり見られない、日本特有の現象だ。さらに、高齢層の中で一定の所得水準に満たない貧困世帯の比率も、日本は先進国の平均を上回っている。
最近の所得格差は、再チャレンジ支援策で対処すべきだとの声が強い。もちろんこれは重要だが、高齢層は再チャレンジがそれほど容易でないだけに、より直接的な所得支援があった方が良い。
日本の再分配政策は、今まで重視してこなかった、また重視する必要のなかった救貧政策の側面を、強める段階にある。現行の制度は公的年金など現役層からの所得移転で、高齢層内部での再分配の度合いは極めて限定的である。(1月23日)
24日は、森信茂樹教授の「是正は個人の能力向上で。ブレア政策にならえ、給付付き税額控除を軸に」でした。
税と社会保障を一体化し、弱者の生活を保障するのでなく、弱者を再び市場に送り出すというものです。生活保護の人が働き始めると、保護費が減額されますが、全額を差し引くのでなく、手取額は所得に応じて増えるようにするのです。あわせて、子どもの数に応じて給付・税額控除があり、高所得になると打ち切られます。すなわち、低所得の人には社会給付がありますが、状況がよくなると給付が減り、さらによくなると税額控除が減り、そしてさらによくなると税額控除もなくなるのです。
ただし、社会給付と税額控除を連動させるためには、指摘しておられるように、いくつかの問題もあります。もっとも、イギリスでできているのですから、難しい問題ではありません。(1月24日)
25日の読売新聞論点は、加藤智栄さんの「医療材料費削減、内外価格差の是正必要」でした。「日本の医療費は約32兆円で、パチンコ産業とほぼ同額であり、国民の命を守るのに決して高いと思わない。医療費を抑制するのであれば、内外格差が甚だしい医療材料費の削減を大胆に行うべきである。日本の医療は、技術料が低く抑えられているが、材料費が諸外国に比べて異常に高い。虫垂炎手術を日本で行えば7日間の入院で約38万円で済むが、ニューヨークでは1日の入院で244万円、北京では4日入院で48万円である。一方、心臓ペースメーカーの内外価格差は3~4倍である。日本では116~148万円、中国では外国製品で80~100万円、国産品で40~80万円・・・」(1月26日)
(記者さんとの会話)
記:再チャレンジ支援で、フリーターの人に技術を身につけてもらい、常用雇用になってもらう、というのがありますよね。
全:そう。それも、単純に技術を身につけるのではなく、企業の求めに応じたものとか、工夫しているよ。
記:でも、現在の労働市場が均衡状態にあるとすると、200万人のフリーターは減りませんよね。労働者が労働の供給側、雇う企業が需要側で、現在の状態で、それなりに双方が合致しているのですから。200万人のフリーターが全員技術を身につけても、200万人の優秀なフリーターができるのではないですか。
全:他の条件が変わらないとすれば、それは当たっているね。企業が常用採用を増やさない限り、200万人のフリーターや失業者の数は変わらない。
しかし、マクロではそうだけど、個人に着目すると、技能をつけた人は採用されやすいから、人の入れ替わりは生じるよね。さらに企業は、そのような人だったら、正社員にしようと考えるかもしれない。また、ミスマッチによる失業も、解消される可能性がある。次に、日本経済は、閉じた世界ではない。日本の労働力の質が上がれば、海外に移転している企業が、日本に戻ってくることもある。
もちろん、景気がよくなって、企業が採用を増やしてくれるのが、一番の解決策だけど。
記:なるほど。日本の労働者は、外国の労働者と競争しているということですよね。単純労働だと、安い海外労働力に勝てないですね。企業は世界で競争しているから、同じ労働力なら安いところで生産しますよね。あるいは、安い労働力を使う海外企業に負けますね。
全:日本は外国人労働者の受け入れを規制しているけど、労働力にも、国境はなくなっているということでしょう。(1月30日)

経済財政4

20日の東京新聞「新生経済財政諮問会議民間議員に聞く」、伊藤隆敏議員の発言。
「小泉・竹中チームと、安倍・大田チームがよく比較されるが、日本経済が置かれている状況は全然違う。小泉・竹中チームの2002年、03年は不良債権が大問題で、旧体制をまず壊すという改革が重要だった。いまは、経済成長率も高くなり、期待されているのは成長をいかに持続していくかということだろう。壊れた後に新しい建物を建てる、創造する、というのがわれわれの置かれている状況だ」。(10月21日)
今日、経済財政諮問会議が開かれ、重点改革分野と第1回の集中審議・地方の改革が行われました。地方の改革がなぜ1番目に選ばれたかは、定かではありませんが、重要な改革課題と認識されていることは間違いないようです。それは、喜ばしいことです。有識者提出資料(民間委員ペーパー)は、詳しくは本文を見ていただくとして、私なりに考えたことを述べます。
今回のペーパーの特徴です。まず、分権改革(権限と責任を地方に移す一括法)と、その先の道州制を明確に位置づけました。これは、前書き(本文)と、項目1です。次に、その分権改革の具体項目を書いてあります。項目2~4です。数値目標と期間が明示されています。そして、3つめが歳出削減です。これが項目5、6です。このように、3つの部分からなっているようです。
これまでの諮問会議、骨太の方針との違いは、抜本的分権のための、次なる道筋を明らかにしたことでしょう。これまでの到達点(第1次分権改革、三位一体改革)を踏まえ、次なる道筋を示しました。項目1~4までは、これまでの諮問会議、骨太の方針にないことです。もっとも、これは有識者資料であって、まだ骨太の方針や閣議決定になっていません。反対勢力もあるようですから、これからも紆余曲折があるようです。
今朝の新聞に未公表資料が出ていたようで、記者さんから質問(詰問)がありました。
記「なぜ出るのでしょうかね、しかも、いつも同じ新聞社です(私にも教えてくださいよ。そうしないと私の立場がありません)」
全「そう言われてもねえ。有識者が書いておられるし。もし、僕が持っていても、出すわけにはいかないよ」
記「じゃあ誰が出すのですか」
全「第一次当事者でなく、それをもらった人。その人は資料の機密度は知らないから、お気楽に出すね。もう一つは、漏らすことで、つぶしたい人だね」
記「なるほど」
(10月24日)
今朝の各紙は、昨日の経済財政諮問会議を報道していました。日経新聞は「新分権一括法案3年以内に、国・地方の税配分明記」でした。読売新聞は「5兆円移譲議論スタート、自治体格差是正カギ」でした。
民間委員ペーパーで論点が設定され、関係者も同意して方向は定まりました。これからは、その目標に向けて、問題点を解決していく過程に入ります。その問題点は、簡単なものではありません。簡単なら、とっくに解決していました。何かを犠牲にしなければ、みんなが喜ぶ解決はありません。地方団体や分権改革を進めようとする人たちは、その解決策を提案する責任があるのです。それを提案しない限り、守旧派は「問題がある」といって、改革を先送りします。(10月25日)
29日の日経新聞読書欄「経済論壇から」で、大竹文雄教授は次のように書いておられました。
安倍内閣の経済政策を担当する経済学者を紹介して、「今後、政策運営にどの程度経済学的な知識が反映されていくのかについては、まだ不明な点も多い。しかし、経済政策の決定に、専門的な知識が不可欠であるという認識が高まってきたことは間違いないだろう・・・政治的な意思決定が教科書的な経済学ですべて決めることができるほど単純でないのは当然である。しかし、経済学者が政策に参加することのメリットは、経済学的な思考実験を行って、政策のメリットとデメリットを整理することができる点にある」
「経済政策や規制の設計は、日本では利害関係者が調整をするという形で決められることが多かったのではないか。例えば、八代氏は・・・労働市場の改革を、労使間の利害調整に終始する労働審議会だけで審議する時代はもはや終わったのではないか、と述べている。こうした中、政府税調が利害調整の場から専門家集団に衣替えされることは注目すべき変化だ」。(10月30日)
今日は、経済財政諮問会議が開かれ、社会保障改革と公共投資改革が議論されました。有識者ペーパーには、総量削減の他、地方との役割分担についての記述もあります。(11月10日)
15日の朝日新聞時々刻々は、「さえない最長景気」を解説していました。1965~70年のいざなぎ景気、86~91年のバブル景気、2002年~現在の最長景気の比較が、わかりやすい表になっています。平均実質経済成長率は、順に、11.5%増、5.4%増、2.4%増です。物価は、27.4%増、8.5%増、今回は0.4%減です。月給も、79.2%増、12.1%増、1.2%減です。景気拡大、好景気が続いているといっても、内容が全く違います。(11月15日)
29日の朝日新聞「どうする財政」は、「借金大国。果実、返済か分配か」でした。「不況時の財政悪化は仕方ないが、警戒回復期の税収増でその穴を埋める、というのが財政学の基本だ。ところが日本では国債発行を始めた1965年度以来、普通国債残高(国の借金)が減ったことが一度もない。不況時だけでなく、好況時にも税収増の果実をばらまき続けたからだ。典型がバブル期の・・」
その通りです。これについて、2点指摘しておきます。
この記事にあるように「不況時には国債を発行し、好況時にはそれを返す」と、経済学の教科書は書いてあります。これがケインズ政策の有効需要創出策です。しかし、日本はケインズ政策をつまみ食いしてきました。不況期には国債を増発して需要を作りますが、景気回復時に国債を繰り上げ償還しないのです。すべて60年償還なのです。ところが、このことを指摘した本が見あたりません。私の勉強不足で、書いてある本があったらお詫びします。私は、新地方自治門」p121~でその点を解説しました。ようやく、気がついてくれたかと、喜んでいます。
もう一点は、国はしませんでしたが、地方はバブル期に借金を繰り上げ返済しました。これも同じくp122に書いてあります。詳しくは「地方交付税-仕組と機能」p85をご覧ください。国がバブル期にそれまでの国債を繰り上げ償還しておけば、こんなに借金は貯まっていなかったはずです。(11月29日)
今日の諮問会議では、予算編成の基本方針も決定されました。今週はそれに先立ち、与党審査が続きました。基本方針は閣議決定されるので、与党の事前審査が必要なのです。説明側の一員として出席しましたが、再チャレンジや地方財政で質問が飛んできて、私の出番もありました。(2006年11月30日)
国民一人あたりのGDPの最新数字が、公表されました(13日付け日経新聞など)。それによると、日本は35,650ドルで、世界では14位に後退しています。1993年には35,000ドルで世界一位、その後4万ドルを超しましたが、現在では90年代前半の金額まで減少しました。
「新地方自治入門」p6では、2001年までのグラフを示しています。日本の金額はさらに減っています。問題なのは、「西欧各国は日本の3分の2」と示してあるのが、現在では、日本と同程度または追い抜いているということです。すなわち、「日本は欧米先進諸国を目標に、追いつき追い越した」と説明していましたが、「その後日本は後退・低迷した」のです。この部分は、記述を変えなければなりません。
(日本社会の構造改革)
無理をしてまで、世界一になる必要はありません。また、経済成長だけが日本社会の目標でない、というのが拙著の主張です。しかし、絶対額として低下することは、日本の活力を損ないます。一時的なものは許容できますが、長期的構造的なのは問題です。もちろん、日本が構造改革をするために必要な過渡期「ため・たわみ」ならば、それはよいことも言えます。
そうしてみると、この長期不況は、バブルの崩壊という高い授業料をはらう時期だった他に、遅れた金融改革とその後の改革によるもの、グローバル化による日本経済の護送船団方式から競争への転換、アジアの追い上げによる産業の転換などの時期だったのです。
それらの波は、銀行の破綻から、今議論されているように、労働市場改革に及んできています。働き方、子育て、年金まで広がるのでしょう。これらの変革をうまくできるか、遅れたり先延ばしにして、さらに世界から取り残されるかです。すでにバブル崩壊から、15年が経ちました。第二次世界大戦後は、11年で「もはや戦後ではない」と政府が宣言しました。明治維新(廃藩置県、地租改正、徴兵令、学制、経済制度改革)や戦後改革では、制度改革はもっと短期間にやっていますから、そのスピードはすごかったのですね。今回は、勉強期間としては、長すぎるとも思えます。(2007年1月13、14日)

経済財政3

日経新聞は、22日から連載「財政、経済が問う」を始めました。第1回は「特定財源は続く。既得権益つぶしはまだ途上」でした。(2006年8月22日)
23日の日経新聞「財政、経済が問う」は、「交付税ゆえ苦しく。国と地方、対立超え変革を」でした。(8月23日)
7日の朝日新聞「検証構造改革」は、経済財政諮問会議に関して、牛尾治朗さんの「予算編成を表舞台に」「規制緩和まだ2割」でした。(9月7日)
13日の朝日新聞「検証・構造改革」は、宮内義彦さんの「規制緩和、遅々とだが」でした。成果として、「テーマを横断する仕組みができた」こととして、市場化テスト、指定管理者制度、特区制度を挙げておられれます。個別テーマとしては、一部医薬品のコンビニ販売、診療報酬決定システムの改革、幼稚園と保育園の一元化、公立小中学校の選択制を挙げておられます。残念ながら、これが進んだというのが、国民には認識されていないようです。どなたか、わかりやすい解説を書いてください。(9月13日、16日)
14日の朝日新聞「検証・構造改革」は、本間正明経済財政諮問会議委員の「骨太、当初は大胆に」でした。
「歳出・歳入の議論になるまでは、経済立て直しのために不良債権処理などの『切開手術』が必要だった。こういう時に与党の意向を聞き、利害調整していると、改革のスピードが失われる。小泉首相は竹中金融・経済財政相を押し立てて『一点突破型』で乗り切った。ただ、歳出・歳入一体改革になると、公共事業や社会保障費、国と地方の関係など国民生活の全般にかかわる問題なので、政治的なもつれが生じる恐れがあった」
「突破型は短期的な決着には向いているが、郵政解散のように政治的なリスクは高まる。一方、歳出・歳入一体改革のように、具体的な調整を与党に任せてしまうと、国民への説明責任や情報公開が足りなくなる恐れがあった」(9月14日)
骨太の方針2006」には、最後のところで、経済財政諮問会議を含めた政策決定の評価がされています。
すなわち「経済財政に関する政策決定システムの改革」として、「総理が議長を務める経済財政諮問会議を中心に、縦割りではなく、経済財政政策及びそれに関連する政策を、全体として整合性、一貫性のある形で決定するシステムが強化されてきた・・・経済財政諮問会議の討議内容については、短期間の内に詳細な議事内容が公表されるなど、政策決定の透明性が高められた」と評価しています。
また、「政策決定プロセスの定着」として、「経済財政政策の運営については、改革に向けた政策決定プロセスが定着してきた。まず、重要課題を網羅した「基本方針」(骨太の方針)において、改革の方向性を明確にし、その後、経済財政諮問会議として「予算の全体像」をまとめ、「予算編成の基本方針」を策定することを通じて、優先順位を明確にした翌年度予算の方向付けが行われている。
同時に、中期の経済財政運営の基本方針として「改革と展望」を策定し、ローリングすることにより、基礎的財政収支の黒字化やデフレからの脱却といった中期目標を明確にし、これと整合的な形で短期の経済財政政策が運営されてきた」とも評価しています。政府の機関が、自らの政治的機能を評価するのは珍しいと思います。小泉総理時代の諮問会議は、それだけのことをしたということでしょう。(9月19日)
(小泉改革)
20日の毎日新聞「経済観測」では、小泉改革のうち経済政策に関する功罪を、次の2点に絞っています。
プラス面
1 国債発行30兆円の公約を掲げ(結果的には守れなかったが)借金財政の悪化を防いだ。
2 公共事業の拡大による景気対策を放棄した。
マイナス面
1 所得格差の拡大。
2 地方交付税、各種補助金などの削減による地方財政の弱体化。
(9月20日)
各紙が、小泉政権の評価の中で、経済財政諮問会議の評価と今後の予想を書いています。
与謝野大臣は、記者会見で「諮問会議の特徴は、大胆かつ迅速ということ」と述べておられます。その通りですね。これまでの官僚制や内閣運用ではできなかったのが、政策の大胆な変更と迅速な決定です。透明性も、大きな特徴です。4日後には議事要旨を公開、4年後には詳しい議事録も公開されます。誰がどんな意見を言ったかが、わかるのです。「各省庁が水面下で族議員の利害を調整する従来の政策手法は通用しにくくなった」という効果もあります(23日付け朝日新聞「時々刻々」、同日読売新聞「スキャナー」など)。
ただし、政治主導の場ということは、諮問会議が活躍するかどうかは、運用次第なのです(拙著「省庁改革の現場から」p193~)。諮問会議は2001年1月に設置され、森内閣から開かれました。そのころの活動は、あまり注目されませんでした。また、小泉内閣で注目を浴びたのは、金融危機と財政危機という大きな課題があり、総理がそれに力を入れて取り組んだからです。現時点では、金融危機は去り、財政再建は道筋が決まりました。次に、何をテーマとするのか、そしてどれだけ総理が力を入れるかによって、活躍度は違ってくるのです。(9月25日)
28日の日経新聞経済教室「新政権への視点」は、本間正明教授の「責務は改革総仕上げ」「強い経済に不可欠。簡素・効率的政府、具体像を」でした。(9月28日)
1日の読売新聞「地球を読む」は、伊藤元重教授の「医療は有望な産業。成長のカギ、非製造部門」でした。
「日本経済が持続的な成長を遂げることができるかどうかの鍵を握っているのは、日本のGDPの8割を占めている非製造業である。製造業が重要でないといういのではない。日本の製造業は、グローバル化の流れの中で国際競争力に揉まれ・・・製造業の活動に対して政府が何らかの政策的な関与をすることは考えにくい」
「これに対して、医療・教育・農業(食料)などの分野では、これまで政府は様々な関与をしてきたが、その結果、産業としてみたときには惨憺たる状況である・・・医療や農業に象徴されるように、多くの非製造業の分野では公的関与が強すぎるため、その生産性は全般的に低い・・・」
「非製造業の活性化には、様々な追加的狙いがある。その一つは、疲弊している地域経済へのてこ入れである。国からの財政移転による公共事業と、製造業の工場誘致を中心とした地方経済の活性化モデルはもはや通用しない。地方経済は新しい経済活性化のモデルを探す必要がある。上で述べた非製造業を活性化させることは、地域経済に活力を呼び込む手段ともなる・・・」(10月2日)
今日13日は、安倍内閣になって初めての経済財政諮問会議が開かれました。創造と成長が、キーワードになっています。当日の有識者提出資料が、間違ったものが掲載されていました。14日夕刻に、正しいものに差し替えられました。その前にご覧になった方は、ご注意ください。(10月13日、14日)
12日に月例経済報告が発表され、景気拡大が4年9か月に及んだようです。これは、戦後最長だったいざなぎ景気と並ぶとのことです(13日朝刊各紙)。しかし、実感が薄いというのが、みんなの見方です。朝日新聞は戦後3大景気の特徴を表にしていました。1965年11月から70年7月までのいざなぎ景気、86年12月から91年2月までのバブル景気、そして2002年2月から今までの平成景気です。いざなぎの時は実質国内総生産は年11.5%増、バブル期は5.4%増に比べ、今回は2.4%です。これは実質なので、名目値だともっと差が出るでしょう。定期給与にいたっては、いざなぎが79.2%増、バブル期が12.1%増なのに、今回は0.85%の減です。これでは景気拡大は実感できません。また、地域によって差があります。(10月13日)
15日の朝日新聞「補助線」は、西井泰之編集委員の「税の歴史認識問題。増税論議先送りを読み解く」でした。「政治や政府と国民の相互不信の元をたどれば、税の歴史認識問題がある・・面従腹背が、形を変えて、負担を回避する一方で、財政を他人の財布のように考える感覚を生んだ」「福沢諭吉は・・税は約束と説いた・・だが、明治憲法、さらに新憲法でも税は義務とされた。国民の側も、自然増収下の財政の大盤振る舞いが長く続いた中で、何のために税を払うのかという意識をあいまいにしてきた」(10月15日)
財務省が審議会に、地方より国の方が財政が悪化していると述べているようです。15日の朝日新聞によると、負債が収入に対する割合を比べると、国は夕張市の2倍だというのです。先日、地方財政を破綻だというのなら、国の方がもっと悪いと書きましたが、財務省自ら認めたようです(すると、国の方が先に、破綻法制を作らなくて良いのかなあ)。
比較の際に、国は税収から交付税を差し引き、地方は税収+交付税だそうです。本来、税収同士で比較するべきでしょう。交付税を含めることは、交付税を地方の財源と認めているので、それは良いことです。が、それなら、交付税を国の一般会計に計上することなく、特別会計に直入するとわかりやすいです。それに対しては、財務省は反対だと聞きます。
それはさておき、この比較の問題は、国は歳入歳出を自ら決めることができるのに対し、地方は自由にならないことを忘れています。国は税制を決めることができます。歳出も自ら決めることができます。しかし、地方団体には、そこまでの自由はありません。地方税の骨格は、国が決めます。交付税総額も、国が決めます。歳出の多くも、国が決めます。義務教育・警察・生活保護・介護など。国は自ら招いた赤字、地方は国による・あるいは国におつきあいした赤字です(ただし、夕張市の借金の多くは、自ら無茶をしたもので、この議論の外です)。
また、バブル期の増収で、地方はそれまでの特例借金を返済しました。国はしませんでした。働きに比べ浪費が大きい父親(国)が、仕送りを受けつつ働いている大学生の息子(地方)に対し、「俺の方が借金が多いんだ」といっているように見えます。その次には、「だから仕送りを減らすぞ」というのでしょう。でも、支出は国と地方は4:6なのに、税収配分は、6:4です。もっと、地方に税収を移譲しなければならないことも、忘れないでください。
世界第2位の経済大国、戦後最長の景気拡大が続く日本です。その財務省の発言としては、首をかしげます。もっと貧困な国や後世の日本人から見たら、どう思うでしょうか。いずれにしろ、貧乏人自慢(競争)は、格好の良いものではありませんね。(10月15日)