カテゴリーアーカイブ:社会

早川書房社長の「私の履歴書」

2025年6月30日   岡本全勝

日経新聞私の履歴書、6月は、早川浩・早川書房社長でした。早川書房は、推理小説や空想科学小説(SF)、外国書籍の翻訳で有名です。
早川書房は、意外な分野の翻訳も手がけています。私は推理小説などは読まないのですが、カズオ・イシグロやマイケル・サンデルを読みました。ほかに、スティーヴン・ホーキングなども、早川書房です。

本屋で多くの出版社の翻訳本を見る度に、どのようにして著者や出版社と接点を持ち、翻訳するのか。その方法を知りたいと、思っていました。評価の定まった本なら売れ行きも読めるでしょうが、新人を発掘するのは難しいし、売れるかどうかわかりませんよね。
早川浩社長の履歴書を読むと、良い本を探すこと、そしてその翻訳を交渉し、翻訳権を手に入れることの難しさが書かれています。ご本人の「目利き能力」のほかに、広い交友がものを言うのですね。
社長も、サンデルの「これからの正義の話をしよう」は3000部だろうと見積もったら、百万部を超えるベストセラーになったと、白状しておられます。

「私の履歴書」。これまでにないことに手を出す、リスクを承知で挑戦した方の履歴は、興味深いです。

ネクタイはなくなるか

2025年6月27日   岡本全勝

6月15日の読売新聞に、松原知基・経済部次長の「受難のネクタイ 外す夏に思う事」が載っていました。私にとってネクタイは、気合いを入れる「小道具」です。

・・・91年には国内生産・輸入量の合計が約5645万本と過去最高を記録した。
変調を来したのはその後だ。IT企業を中心に軽装の会社員が増える。痛撃となったのがちょうど20年前、小泉純一郎内閣の旗振りで始まった「クールビズ」である。夏に社会を挙げてネクタイを外すようになった。
2024年の1世帯あたりの購入額は20年前の3割弱にまで急減した。東京ネクタイ協同組合によると、22年の国内生産・輸入量の合計も約1107万本と4分の1になった。05年に45社程度だった組合加盟社は半減したという。
この間、各社はそれまでにないカジュアルなデザインを施したり、ワンタッチの着脱式ネクタイを開発したりと工夫を凝らした。だが、冷房の温度を下げすぎないことによって電力消費を抑え、温室効果ガスの排出量を減らすという環境保護キャンペーンにあらがうことは難しかった。

きょう15日は6月第3日曜、すなわち「父の日」。かつてお父さんに贈るプレゼントの定番の一つがネクタイだった。総務省の家計調査によると、20年以上前、1年のうち1世帯あたりの購入本数が最も多いのは6月だった。
だがクールビズが始まると、新年度を控えた3月の方が多くなった。6月にネクタイを締めるお父さんが減った影響だろう。もとは妻や恋人が無事を祈る気持ちを込めた布が、父の日に贈られることが少なくなったとは、ちょっと寂しい。
和田さんはネクタイの意義をこう語る。「ネクタイは『着ける』ではなく、『締める』と言いますよね。ハチマキを締める、ふんどしを締めると言うのと同じ。気持ちを引き締めたり、気合を入れたりするものなんです」・・・

欧米、解雇の実態

2025年6月24日   岡本全勝

6月13日の日経新聞オピニオン欄、「過酷な解雇通告 突然のメールや電話が今や6割」に、欧米の解雇の実態が書かれていました。

・・・ある朝、目が覚めて、仕事でフランスに電話をかける前にベッドに寝そべりながら前夜のメールを確認していて、自社の最高経営責任者(CEO)からメッセージが届いていることに気づいた自分を想像してみてほしい。
そのメッセージには、多くの従業員が解雇されると記されていた。次のメールはもっと衝撃的だった。自分もその一人だと書かれていたのだ。

ベッドから起き上がり、心臓の鼓動が速くなる中、パソコンに飛びつき、会社のネットワークにログインしようとする。しかし、もはや自分のパスワードでは拒否されてしまう。フランスに電話する時間になったが、相手の名前や電話番号を思い出せない。それらはすべて、アクセスできなくなったメールに書かれていた。

幸いにも懇意にしているマネジャーの電話番号が自分の携帯電話に登録してあったので、テキストメッセージを送ってみた。だが返ってきたメッセージは、彼も解雇されたというものだった。彼はオフィスに入ろうとしたところ、IDカードが反応しなかったという。
やがてベッドから起き上がり、今後歩むことになるみじめな数週間について考えざるを得なくなる。

ビベェク・グラティさんにとって、こうした出来事は想像する必要がない。なぜなら、それはまさに彼自身にほぼ実際に起きたことだからだ。彼は、米テック各社が相次いで人員削減に踏み切った2023年初めにグーグルから解雇された1万2000人の従業員の一人だった。
47歳のソフトウエアエンジニアであるグラティさんは23年3月、ハーバード・ビジネス・レビューに、メールで解雇を告げられてショックを受けた体験談を記した。
米国ではこのほど、4月の人員削減数が20万人近く急増したとの新たなデータが発表された(編集注、人員削減数は3月は約160万人だったが、4月約180万人に増えた)・・・

・・・同調査では過去2年間に解雇された米国の労働者のうち、メールや電話で解雇通告を受けた人は57%に達した。それに対し、対面で解雇を告げられたのはわずか30%だった。
残りはビデオを通じた面談や職場の噂でそれを知ったという。なお、会社のメールやスラックなどのコミュニケーションツールにログインできなくなったことで解雇されたことを知ったという不幸な体験をした人も2%いた・・・

氷河期世代の現状

2025年6月23日   岡本全勝

6月3日の日経新聞経済教室「氷河期世代はいま」、玄田有史・東大教授の「雇用は改善 賃金なお低く」から。

・・・日本企業は長年にわたり職場内部での時間をかけた入念な人材育成を重視してきた。併せて学校と連携し、潜在成長力のある新卒採用を重視する雇用慣行を作りあげた。企業の優れた人材育成力は、高度経済成長期以降の日本の国際競争力の源泉となり、新卒採用の正社員(主に男性)には安定した長期雇用と年功賃金の恩恵がもたらされた。
半面その慣行は、学校卒業直後に正社員として採用されなかった若者にとって企業内での育成と成長、ひいては長期雇用や年功賃金のチャンスを失うことを意味する。1990年代半ばから2000年代前半の深刻な不況期に学校を卒業し就職難を経験した就職氷河期世代とは、日本的雇用システムから多くの若者が排除された世代だった。

卒業後に非正規雇用で生活する「フリーター」や、就職をあきらめて社会から距離を置く「ニート」「ひきこもり」は、就職氷河期世代の若者を象徴する一般用語となった。
2010年代後半以降、就職氷河期世代の多くが40歳代にさしかかり、親世代も引退して無職の70歳代になる。世帯が孤立して共倒れ状態に陥る「7040問題」も懸念された。そこで安倍晋三内閣は20年度から3年間、就職氷河期世代支援プログラムの実施を決定する。政府は30万人の正社員数の純増を目標に、大規模な施策を展開した。
支援プログラムは、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって2年延長され24年度まで実施された。5年間の取り組みを通じ、就職氷河期世代のうち不本意ながら非正規として働く人々は11万人減少し、正規雇用と役員はあわせて31万人増加した。人手不足の追い風も受け、氷河期世代の支援策は一定の成果をあげてきたといえる。

雇用者に占める正社員の割合や、人口に占める就業者の割合にも、若年期に比べて中年期になると変化がみられる。40歳代の正社員率や就業率は、氷河期世代では前の世代と比べても男性でほぼ匹敵する水準になり、女性ではむしろ上回る状態が確認できる(総務省統計局「労働力調査」)。
氷河期世代にフリーターやニートが高い割合で含まれるという言説は、若年期には確かにあてはまっていたが、中年期になるともはや事実とかけ離れている。
次第に雇用状況が改善したのは、何より氷河期世代の個々人の努力があった。2000年代から本格化した政府の若年雇用対策も一定の貢献を果たした。仕事と子育ての両立支援策は、女性の就業継続を後押しした。就職支援ビジネスの拡大など、正社員向けの転職市場が急速に整備されてきたことも大きかった。
今や雇用の安定度からすれば、就職氷河期世代は特別な弱者とはいえない状況にある。しかし就職氷河期世代と直後の世代にとって雇用安定とは別に、低賃金という深刻な問題が依然として影を落としている・・・

6月4日の、堀有喜衣・労働政策研究・研修機構統括研究員の「氷河期世代のキャリア、不安定な「ヨーヨー型」多く」も合わせて読んでください。

過労死、東アジアで深刻

2025年6月10日   岡本全勝

5月25日の朝日新聞に、脇田滋・龍谷大名誉教授の「過労死、なぜ東アジアで深刻?」が載っていました。

・・・長時間労働や職場のストレスから命を落としたと認定されるケースが後を絶ちません。日本で長く問題になっている「過労死」は、英語の辞書でも「karoshi」と紹介されています。ただ、働き過ぎによる健康被害は日本だけの問題ではないようです。世界の労働問題に詳しい龍谷大の脇田滋名誉教授に聞きました。

――過労死はいつごろから問題となってきたのですか。
バブル経済へと向かう1970~80年代です。労災問題に取り組む医師たちが「過労死」と名付けたのが始まりです。
危機感をもった弁護士たちが連絡会を結成し、88年には全国初の「過労死110番」が実施され、海外でも「karoshi」と報道されました。

――過労死は日本だけの問題なのでしょうか。
そうではありません。世界保健機関などの調査によると、16年に長時間労働で死亡したとされる人は74万5千人に上り、00年から29%増加しました。韓国や中国といった東アジアではいずれも深刻で、儒教的な価値観も影響しているのではないかと考えます。

――どういうことでしょう。
勤勉さや組織への従順さが美徳とされ、厳しい競争社会であることが、長時間労働を助長する土壌になっています。
イタリアでは「有給休暇を放棄してはならない」と憲法に明記されています。ヨーロッパではバカンスを取るために働くという発想が強く、過労死を理解してもらうのに苦労しました・・・