「社会と政治」カテゴリーアーカイブ

社会と政治

消費低迷は年金への不安

9月30日の日経新聞経済教室は、小川一夫・関西外国語大学教授の「個人消費低迷、年金制度への信頼回復が急務」でした。

・・・家計消費の低迷が続いている。「家計調査」によれば、2人以上の1世帯あたり1カ月間の実質消費支出は、1992年にピーク(35万4581円)を付けた後、趨勢的に低下しており、2023年には27万8406円となった(家計調査年報の名目値を20年基準消費者物価指数で実質化した)。

家計を取り巻く環境の不確実性が高まれば、家計は消費支出を減らし、予備的な貯蓄を増大させる。日本経済は阪神大震災、東日本大震災や新型コロナウイルスの感染拡大をはじめ、家計の不確実性を高める様々な事象に直面してきた。一方、08年の世界金融危機は、世界規模で人々の不確実性を高めた経済的なショックだ。これらの事象はいずれも事前に予測が困難な負のショックであり、家計を取り巻く不確実性を高め、負の影響を及ぼした。
しかし不確実性を高める事象が、すべて予期不可能なものばかりではない。その事象がある程度予想できるにもかかわらず、適切な対処がされず不確実性が高まることもある。日本の高齢化の進行はその好例だ。
高齢化の進行は、日本経済に内在した構造的な事象であり、将来の人口推計などにより進行の予想はある程度可能だ。政府もこうした状況を考慮に入れて高齢化対策を講じてきた。それが公的年金制度の設計だ。
公的年金の制度設計が盤石で、家計が全幅の信頼を寄せるならば、家計への影響は最小限にとどまるだろう。だが公的年金制度が高齢化に対し脆弱であると家計が認識すれば、不安のない老後生活を送るために公的年金の受給を補完すべく消費を抑制して、予備的な貯蓄を増大させるだろう。まさに日本で観察される趨勢的な消費水準の低下は、家計による公的年金制度の脆弱性を補完する行動ととらえることができる・・・

・・・まず毎年8割を超える個人が老後の生活に不安を抱いている。そうした世帯はなぜ老後の生活に不安を抱いているのだろうか。
第1の理由は「公的年金だけでは不十分」であり、8割前後の個人が公的年金だけでは十分でないと考えている。家計による公的年金の位置づけをみると、「自分の老後の日常生活費は、公的年金でかなりの部分をまかなえる」という考え方に「そうは思わない」と回答した個人も8割近くに及ぶ。大部分の家計は、老後の生活を安定的に維持していくうえで公的年金の支給額が不十分であると考え、公的年金に対しネガティブな評価を下している・・・

・・・つまり高齢者が継続的に働くことで、勤労所得の増加を通じて年金受給が補完され安定的な所得が確保される。しかも基礎年金の拠出期間延長が可能となり、すべての被保険者の基礎年金給付が充実し、年金制度の脆弱性の是正にもつながる。このように家計が抱く不確実性が軽減され、予備的な貯蓄の減少を通じて消費の活性化につながる・・・

待機学童、実態は1.7倍

9月24日の日経新聞に「見えぬ「待機学童」、実態は1.7倍」が載っていました。

・・・学童保育の受け皿が足りない。子どもを預けたい共働き世帯が増えているのに、保育所と比べて整備数が少ないためだ。2024年の待機児童は約1万8千人と過去最多となった。日本経済新聞の調査では、国の定義から漏れる隠れ待機児童を含めると、実態は1.7倍に上る。原因は子育て世代のニーズを国が正確に把握できていないことが大きい・・・

・・・こども家庭庁によると、学童保育の待機児童数は増加傾向にあり、24年5月時点で1万8462人と過去最多を記録した。かつて待機問題は保育所が目立っていたが19年に逆転。保育所は17年の約2万6千人をピークに減少し、24年は10分の1ほどの約2570人となっている。
12年に発足した第2次安倍晋三政権は女性活躍の旗印の下、受け皿を大幅に増やす目標を掲げた。この10年で保育所は約74万人分、学童保育も約58万人分が増えた。それでも受け皿の総数は23年時点で、保育所の320万人超に対し、学童保育は150万人超と半分以下だ。

さらに、国による待機児童の定義変更も実態を見えにくくしている。当時所管していた厚生労働省は19年度から、希望する学童保育とは別に利用可能な施設があるとみなすときは、待機児童の数に含めないことにした。具体的には、開いている時間帯に大きな差がない、最寄りでなくても一般的な交通手段で20〜30分程度の距離にあるといった場合を除いた。
日本経済新聞は東京23区と政令指定都市20市を対象に、新たな線引きに従って待機児童に含めない潜在的な待機数を調査した。回答があった40区市の合計は5月1日時点で2081人だった。国の基準で集計すると約3000人だが、足し上げると1.7倍の5100人となる。
潜在的な待機数が最も多かったのは、さいたま市で737人。国の集計基準による288人と合わせると1000人を超える。東京都の港区が281人、中野区が204人で続いた。両区の公表値は29人、8人だった・・・

男女平等、いまだ残る「戦前」

9月18日の朝日新聞夕刊「男女平等、いまだ残る「戦前」 元最高裁判事・櫻井龍子さんが見た「虎に翼」」から。

「こんなに熱心にドラマを見るのは初めて。朝、起きるのが楽しみで」。9月末に完結する、NHKの連続テレビ小説「虎に翼」。弁護士や裁判官として活躍した三淵嘉子さんをモデルにした猪爪寅子の人生を描いています。最高裁判事もつとめた櫻井龍子さん(77)は「寅子ちゃんに感情移入できる、そこに日本の問題がある」と言います。話を聞きました。

――九州大法学部を卒業、1970年に旧労働省に。女性ゆえの「壁」を感じたことはありましたか。
大学3年生の時でしょうか。女性には多くの道がないと知りました。司法試験か公務員試験か、の2択でしたね。求人は山ほどあっても、学生課は「男性用です。女性求人はありません」って。
そういう時代だったんです。85年以前、日本はまだ「戦前」でしたから。

――戦前、ですか。
日本国憲法の理念としての男女平等はありました。でも実態は「戦前」。
85年は、女性差別撤廃条約を日本が批准した年で、男女雇用機会均等法が成立しました。以降、少しずつ変わってきたと思います。

――旧労働省でも?
先輩の女性から、男女平等という言葉は、長らく省内の会議では使えなかったと聞きました。男性職員に「男女平等なんて、日本にはない」と鼻で笑われたこともあったようです。

――驚きです。何が転機だったのでしょうか。
国連の国際女性年宣言(75年)に続く「国際女性の10年」が大きいですね。
日本も多くの国際会議に参加しました。女性で初めて国家公務員上級職となった森山真弓さんらが省内で報告するのですが、男女平等という言葉なしには説明できない。決議などに出てくるのですから。それで使われるようになったと聞きました。「外圧」みたいなものです。

共働き世帯が専業主婦の3倍に

9月18日の日経新聞に「共働き世帯1200万超、専業主婦の3倍に 制度追いつかず」が載っていました。この30年間に、暮らしの形は大きく変わっています。それが、連載「公共を創る」の主題でもあります。

夫婦共働きが2023年に1200万世帯を超え、専業主婦世帯のおよそ3倍となった。保育所の増設や育児休業の拡充など環境整備が進み、仕事と家庭を両立しやすくなってきたことが背景にある。ただ、社会保障や税の制度には専業主婦を前提にしたものがなお多く、時代に合わせた改革が急務となる。
男女雇用機会均等法が成立した1985年時点で専業主婦は936万世帯で、共働きの718万世帯を上回っていた。90年代に逆転し、2023年までに専業主婦世帯は6割減り、共働きは7割増えた。

23年の15〜64歳の女性の就業率は73.3%に達し、この10年で10.9ポイント伸びた。男性の就業率は84.3%で伸びは3.5ポイントにとどまる。
働く女性が増えた背景には、男女雇用機会均等法が施行され、男女ともに長く仕事を続けるという価値観が一般的に広がったことが挙げられる。同時に保育所の整備やテレワークの普及といった仕事と家庭を両立しやすい環境づくりも進展した。「人手不足のなかで、企業が女性の採用・つなぎとめを進めている」(ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員)といった側面もある。

働きの女性の働き方では、週34時間以下の短時間労働が5割超を占める。25歳以上の妻で見ると、どの年代でも短時間が多い。年収は100万円台が最多で、100万円未満がその次に多い。
短時間労働が多い理由の一つに、「昭和型」の社会保障や税の仕組みがいまだに残っていることがある。
例えば、配偶者年金があげられる。会社員らの配偶者は年収106万円未満といった要件を満たせば、年金の保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる。第3号被保険者制度と呼ばれる。
第3号被保険者の保険料はフルタイムの共働き夫婦や独身者を含めた厚生年金の加入者全体で負担している。専業主婦(主夫)を優遇する仕組みとも言え、「働き控え」を招くと指摘されている。

会社員の健康保険に関しても、保険料を納める会社員が養っている配偶者らを扶養家族として保障している。専業主婦(主夫)を扶養している場合は1人分の保険料で2人とも健康保険を使えるようになっている。
配偶者の収入制限がある配偶者手当を支給する事業所は減少傾向にある。23年は事業所の49.1%で、18年と比べて6.1ポイント下がった。
税制にも配偶者控除があり、給与収入が一定額以下であれば、税の軽減を受けられる。「働き過ぎない方が得だ」といった考えが残る要因とも言える。共働きが主流となり、各業界で人手不足が深刻さを増すなか、制度の見直しは欠かせない。
夫婦が働きながら育児に取り組むためには、企業の長時間労働の是正や学童保育の受け皿の拡大なども急がれる。官民をあげた取り組みが不可欠となる。

雇用格差対策や職場改革に取り組む労働組合

9月19日の日経新聞に「UAゼンセン、労組で一人勝ち 「非正規」代弁し存在感」が載っていました。

・・・流通・サービス業などの労働組合でつくるUAゼンセンの拡大が続いている。18日に公表した組合員数は約190万人と約10年で3割増えた。非正規の働き手の組織化が進んだほか働き方改善などにも取り組んだことが奏功した。正社員の賃上げに活動の軸を据え続ける主要な産業別労働組合(産別)の退潮が続くなか、存在感は高まる一方だ・・・

・・・UAゼンセンは12年、繊維産業などの労組でつくるUIゼンセン同盟と、小売業などの労組でつくるサービス・流通連合が統合して発足した。2位の自動車総連の約80万人を引き離し、国内最大の産別だ。
日本の労組の組合員数は1994年の1269万人をピークに減少に転じ、2023年には993万人にまで減った。過去10年間、約40の主要産別の7割で組合員が減り、電機連合や情報労連など、1割以上減らした組織も少なくない。そのなかで、UAゼンセンは発足以来、組合員数を約50万人増やし一人勝ちしている状態だ。

躍進の理由の一つが、パートやアルバイトなど非正規の働き手の取り込みに成功してきたことにある。日本の労組は伝統的に終身雇用の正社員が中心だ。国内全組合員に占める非正規の比率は14%(23年)にとどまり、「正社員クラブ」とやゆされることもある。UAゼンセンは非正規組合員の比率は6割超、過去1年に加入した組合員では9割を占める。
ここ20年余り、生産年齢人口の減少が加速するなか、多くの企業が女性やシニアなど短時間労働の働き手を増やした。とりわけ「非正規の基幹化」が進んだのがUAゼンセンの中核を占める小売業や飲食業だ。「職場の正社員比率が低下するなか、『数の力』を強化するため、短時間労働者の組合員化が不可欠になった」(松浦会長)
このため発足当初から「雇用形態間格差の是正」を掲げ、加盟労組に非正規を組合員化する労働協約の改定を促した。UAゼンセンの都道府県支部ごとに目標を設け、地方企業での労組結成も後押しした。昨秋以降もヨークベニマルなどで数千人規模の非正規が組合員となり、串カツ田中などでは新たな労組が誕生した。
23年秋以降、約1万7千人の非正規を組合員に加えたスギ薬局ユニオンでは、原則、正社員に限定していた積み立て有給休暇制度などの対象を非正規に拡大。小沢政道中央執行委員長は「短時間従業員の不満を把握し解消することで離職防止にもつながる」と強調する。

UAゼンセンのもう一つの特徴は賃金交渉以外の活動の広さだ。伝統的に日本の労組の最大の役割は春の賃上げ交渉にあったが、2000年代にはデフレの長期化などで主要企業の労組はベア要求を凍結。13年に政府が企業に賃上げを要請した「官製春闘」でベアは復活したが、要求水準は依然として低く、「労組不要論」すらささやかれた。
UAゼンセンはこの間、職場のジェンダー平等や育児・介護の両立支援など総合的な労働条件の改善に交渉の範囲を広げ、19年には他産別に先立ち、デジタル化などに対応したリスキリング(学び直し)も労使交渉のテーマに掲げた。
今年は小売業などの現場で深刻化する「カスタマーハラスメント(カスハラ)」対策にも力を入れ、顧客の迷惑行為に直面した従業員向けの相談窓口の整備や専門研修の実施を経営側に求める。賃金だけでなく働き手の多様な悩みに対応することが、労組の存在価値を高め、さらなる組合員の獲得につながる好循環が生まれている・・・