カテゴリー別アーカイブ: 歴史

「きょうの料理」に見る社会の変化

11月2日の日経新聞文化欄に「「きょうの料理」は旬の盛り 1万5500回でギネス世界記録」が載っていました。
・・・四季折々の食材を使って、毎日の献立に役立つヒントを届けるNHKの番組「きょうの料理」。1957年11月4日の放送開始からまもなく66年目に入る。「テレビ料理番組の最長放送」としてギネス世界記録に認定され、今年10月に認定証をいただいたばかりだ・・・

そこに次のような文章があります。
・・・洋食が憧れだった1950年代から、核家族化で「正月料理」企画が反響を呼んだ60年代を経て、「健康・減塩ブーム」「男の料理」「つくりおき」「SNS映え」など時代に応じてレシピを提案してきた。5人分だった材料表示は65年に4人分となり現在は2人分。梅干しの塩分は20%から5%になった・・・

たぶん「レシピ」という言葉も、かつては「調理法」「献立」だったでしょう。

再読『リシュリューとオリバーレス』2

「再読『リシュリューとオリバーレス』」の続きです。
長期の目標と短期の対策。改革には、反対がつきものです。それを乗り越えないと、目標は実現できません。二人の目標は、それぞれの国を強国とすることです。そのためには、軍隊を強くする前に国家機能を強化し、経済を発展させ、国民を豊かにする必要があります。

しかし、貴族や教会と地方が大きな力を持っていて、中央集権は完成せず。スペインにあっては、スペインの名の下にある各独立国家を束ねる苦労もあります。政府幹部の貴族は既得権益を確保することに躍起になり、役人は言うことを聞きません。財政は破綻状態にあり、借金を重ねます。敵国と戦う前に、国内の敵や政治構造、経済構造、社会風土、伝統などと戦う必要があります。

そして勝者か敗者かを判断する際に、当時の結果による判断とともに、後世への影響をも考えると、さらに難しくなります。スペインが新世界から獲得した金銀などの財を、産業発展に投資せず、文化野生活などに費やして(浪費して)しまったことをどう評価するか。指導者たちは気がついていたのか、近代経済学を学んだ私たちの後知恵による評価なのか。

英雄を主人公にした歴史小説は、主人公が成功を重ね、敵に勝つ場面を痛快に描きます。しかし、現実はそのような簡単なものではありません。味方と敵との戦いだけでなく、述べたような「所与の条件」の足かせがあるのですが、それを描くのは難しいですし、楽しく読める小説にはなりませんわね。

私だったら、どう判断するか。当時の背景や事実を知らないので、深く考えることはできないのですが。そのような観点から考えると、この本は政治家にとって有用な教科書です。
と書いていたら、本の山から、色摩力夫著『黄昏のスペイン帝国―オリバーレスとリシュリュー』(1996年、中央公論社)が発掘されました。

再読『リシュリューとオリバーレス』

『リシュリューとオリバーレス―17世紀ヨーロッパの抗争』を、もう一度読みました。『スペイン帝国の興亡』を読み、やはりもう一度読もうと思いました。「16世紀スペイン衰退の理由」。前回は、2017年に読んだようです。「歴史の見方」。その本が見当たらないので、図書館で借りました。

読み終わって得た知識と読後感は、前回書いたものと同じです。すなわち、すっかり忘れていたということです。寝る前のお気楽な読書として読んでいるので、仕方ないと言えばそれまでですが。情けない。

この本も、スペインの衰退の原因は何かという観点から、読みました。産業などの国力、国の政治構造、戦争などの他国との駆け引き、指導者の役割など、さまざまな要素が絡み合います。
著者であるエリオット教授も、最終章「勝者と敗者」で、フランスの隆盛を導いたリシュリューを勝者と、スペインの没落を招いたオリバーレスを敗者と見る通念に疑問を呈します。両者の勝敗は、紙一重であったと主張します。
20年間にわたって両国の政治指導を担った二人が、どれだけのことをしたのか。どれだけのことができたのか。

二人の目標は、それぞれの国を大国として、国王を立派な君主とすることです。
しかし首席の大臣とはいえ、権勢を振るうことはできません。それぞれ国王の信頼をつなぎ止めることに苦労し、足を引っ張る勢力と戦います。
現在の民主政治の指導者と同様に、思ったことを自由に実現することはできないのです。経済産業、国民の気質、政治構造といった「所与」の条件の上で、国王・貴族・役人・外国などとの「政治操作」を行います。二人とも苦労を重ね、妥協し、しばしば挫折します。この項続く。

「先の大戦」、内容と名称2

「先の大戦」、内容と名称」の続きです。
読者から、『決定版大東亜戦争』(下)、庄司潤一郎執筆第13章「戦争呼称に関する問題―先の大戦を何と呼ぶべきか」を教えてもらいました。別の著者からいただいていたのが本の山にあったので、早速、その章だけ読みました。

36ページにわたる、詳しい解説です。
当時の政府が大東亜戦争と名付け、占領軍がその名称を禁止したこと。それを避けるために、太平洋戦争という名称が使われ始めたこと。しかしそれでは、それ以前に始まっていた中国での戦争が含まれないこと。左翼系研究者から15年戦争との名称が提起され、その後、アジア・太平洋戦争という名称が生まれたことなどです。
地理的にどこを含むのか、時間的にどこまで含むのか。名称をつけるとして参戦国を入れるのか、戦争目的をどう理解するのか、そして歴史的にどのように位置づけるのか。論者によって意見が異なります。

とはいえ、政府がいつまでも「先の大戦」と呼び続けるのは問題でしょう。しかし、難しいですね。国民や識者に意見の違いがあり、それはそれとしつつ名称をつけるしかありません。それをどのような手順できめるのか。政治的、行政的に類例はありますかね。文科省が検定する教科書での記述が、一つの参考になります。

私はその点で、「新型コロナウイルス」という名称もおかしいと考えています。次に、新しい新型コロナウイルスが広まったときに、どのような名称をつけるのでしょうか。こちらの方は、学者に決めてもらったら良いと思いますが。

16世紀スペイン衰退の理由

J・H・エリオット著『スペイン帝国の興亡』(1982年、岩波書店)。スペイン旅行をきっかけに、本の山から発掘し読みました。上下2段組、430ページの本なので、布団で読むには3週間近くかかりました。読み物としては易しく読めるのですが、1469年から1716年までの250年の歴史であり、知らない人名がたくさん出てきて、こんがらがります。

どうしてスペインが世界一の大国になり、どうして没落したか。この本も、それを追った本です。スペインが領土を広げたのは、婚姻と相続です。それらを、相続や独立などで失います。
次に、スペイン本国、カスティーリヤの没落についてです。本書は、各地方の権力が強く、王政を強くする中央集権の試みが挫折したことに、焦点を当てています。また貴族たち特に大貴族と教会の力が強く、王が意向を通すことができません。経済的にも、貴族や教会が土地と農民を支配するとともに、農業や産業の振興に力を入れません。中世の大国が、近世の国家に転換できなかったことに、没落の原因があるようです。

大国の興亡は、経済力、軍事力などに理由があるようですが、地理的、自然的条件だけでなく、国民の意識や政治による舵取りも重要な要素です。本書はその点も指摘します。第8章栄光と苦難に、次のような分析が書かれています(334ページ)。黄金時代と言われたフェリペ2世(在位1556年-1598)から衰退したフェリペ3世(1598年-1621年)の時代です。

絹産業で栄えたトレド市は、経済発展を持続するため、リスボンまでタホ川を航行可能にしようと試みます。途中まで完成したのですが、放棄されます。技術的な問題などもあったのですが、決定的な理由は、セビーリャ市の反対です。彼らが行っているトレドとリスボンの商取引が脅威を受けるからです。これ以外の計画も、個人間や都市間の対立を乗り越えることができず、公共事業への投資の消極性、そして行動する意欲を奪う無気力が指摘されています。

「何を提案しても採用されないから、やめておこう」「今のままでも問題ない」という閉塞感と無力感は、日本のいくつかの職場でも聞く話です。