カテゴリー別アーカイブ: 歴史

毎年同じことを講義した教授

読売新聞連載「時代の証言者」化学者の岡武史さん、11月23日に次のような文章があります。こんな時代があったのですね。それとも、自分で勉強せよという時代だったのでしょうか。

・・・1951年春に東大に入り、最初の2年間は駒場キャンパス(東京都目黒区)での教養課程です。これはよかった。まだ有名になっていない、新進気鋭の先生方が素晴らしいんです。好きな数学はもちろん、近代経済学なども、ズバズバッとよく分かる講義でした。
ところが、理学部化学科へ進み、本郷キャンパス(文京区)で講義を受け始めたら、全く面白くない。化学教室の先生方はもう堕落しててね。ある先生なんか、1学年上の人から貸してもらったノートと、話すことが冗談まで一言一句同じ。何十年一日のごとく、毎年同じものを読み上げていたのでしょう。偉い先生はとにかく威張ってばかり。

ちょうど学外の活動で忙しくなったこともあって、大学へ行くのは、学生同士で自主的に専門書や論文などを読む輪講くらいになりました。朝4時に起きて自習した後、8時から10時頃まで輪講をして、偉い先生方が講義室へ来る時間になると、僕は大学から逃げ出していました・・・

国立公文書館「江戸時代の疫病」

国立公文書館で、企画展「病と生きる―江戸時代の疫病と幕府医学館の活動―」が開催されています。先日見に行ってきたのですが、これは勉強になります。12月17日までです。無料です。関心ある方はお運びください。

庶民も幕府も、病気、特に伝染病にはとても敏感でした。病気によってはかなりの確率で死ぬのですから。今だと「?」と思うような、予防法や治療法もあります。薬も、ええ加減ですね。
歴代将軍が疱瘡にかかった年月も記録に残っています。そして、西洋医学への関心も高かったのです。

展示されている資料には、幕府の文書のほかに、民間の記録や個人の記録もあります。明治政府は、このようなものも集めたのですね。

「きょうの料理」に見る社会の変化

11月2日の日経新聞文化欄に「「きょうの料理」は旬の盛り 1万5500回でギネス世界記録」が載っていました。
・・・四季折々の食材を使って、毎日の献立に役立つヒントを届けるNHKの番組「きょうの料理」。1957年11月4日の放送開始からまもなく66年目に入る。「テレビ料理番組の最長放送」としてギネス世界記録に認定され、今年10月に認定証をいただいたばかりだ・・・

そこに次のような文章があります。
・・・洋食が憧れだった1950年代から、核家族化で「正月料理」企画が反響を呼んだ60年代を経て、「健康・減塩ブーム」「男の料理」「つくりおき」「SNS映え」など時代に応じてレシピを提案してきた。5人分だった材料表示は65年に4人分となり現在は2人分。梅干しの塩分は20%から5%になった・・・

たぶん「レシピ」という言葉も、かつては「調理法」「献立」だったでしょう。

再読『リシュリューとオリバーレス』2

「再読『リシュリューとオリバーレス』」の続きです。
長期の目標と短期の対策。改革には、反対がつきものです。それを乗り越えないと、目標は実現できません。二人の目標は、それぞれの国を強国とすることです。そのためには、軍隊を強くする前に国家機能を強化し、経済を発展させ、国民を豊かにする必要があります。

しかし、貴族や教会と地方が大きな力を持っていて、中央集権は完成せず。スペインにあっては、スペインの名の下にある各独立国家を束ねる苦労もあります。政府幹部の貴族は既得権益を確保することに躍起になり、役人は言うことを聞きません。財政は破綻状態にあり、借金を重ねます。敵国と戦う前に、国内の敵や政治構造、経済構造、社会風土、伝統などと戦う必要があります。

そして勝者か敗者かを判断する際に、当時の結果による判断とともに、後世への影響をも考えると、さらに難しくなります。スペインが新世界から獲得した金銀などの財を、産業発展に投資せず、文化野生活などに費やして(浪費して)しまったことをどう評価するか。指導者たちは気がついていたのか、近代経済学を学んだ私たちの後知恵による評価なのか。

英雄を主人公にした歴史小説は、主人公が成功を重ね、敵に勝つ場面を痛快に描きます。しかし、現実はそのような簡単なものではありません。味方と敵との戦いだけでなく、述べたような「所与の条件」の足かせがあるのですが、それを描くのは難しいですし、楽しく読める小説にはなりませんわね。

私だったら、どう判断するか。当時の背景や事実を知らないので、深く考えることはできないのですが。そのような観点から考えると、この本は政治家にとって有用な教科書です。
と書いていたら、本の山から、色摩力夫著『黄昏のスペイン帝国―オリバーレスとリシュリュー』(1996年、中央公論社)が発掘されました。

再読『リシュリューとオリバーレス』

『リシュリューとオリバーレス―17世紀ヨーロッパの抗争』を、もう一度読みました。『スペイン帝国の興亡』を読み、やはりもう一度読もうと思いました。「16世紀スペイン衰退の理由」。前回は、2017年に読んだようです。「歴史の見方」。その本が見当たらないので、図書館で借りました。

読み終わって得た知識と読後感は、前回書いたものと同じです。すなわち、すっかり忘れていたということです。寝る前のお気楽な読書として読んでいるので、仕方ないと言えばそれまでですが。情けない。

この本も、スペインの衰退の原因は何かという観点から、読みました。産業などの国力、国の政治構造、戦争などの他国との駆け引き、指導者の役割など、さまざまな要素が絡み合います。
著者であるエリオット教授も、最終章「勝者と敗者」で、フランスの隆盛を導いたリシュリューを勝者と、スペインの没落を招いたオリバーレスを敗者と見る通念に疑問を呈します。両者の勝敗は、紙一重であったと主張します。
20年間にわたって両国の政治指導を担った二人が、どれだけのことをしたのか。どれだけのことができたのか。

二人の目標は、それぞれの国を大国として、国王を立派な君主とすることです。
しかし首席の大臣とはいえ、権勢を振るうことはできません。それぞれ国王の信頼をつなぎ止めることに苦労し、足を引っ張る勢力と戦います。
現在の民主政治の指導者と同様に、思ったことを自由に実現することはできないのです。経済産業、国民の気質、政治構造といった「所与」の条件の上で、国王・貴族・役人・外国などとの「政治操作」を行います。二人とも苦労を重ね、妥協し、しばしば挫折します。この項続く。