カテゴリー別アーカイブ: 歴史

東京財団、明治150年の分析

東京財団が、「明治150年を展望する――近代の始まりから平成まで」という企画を続けています。気鋭の研究者による研究報告です。
その第3回は「メディアと政治と民主主義」でした。明治、大正、戦前、戦後と、政府と対立したメディア、ポピュリズムに加担したメディアが簡潔に分析されています。一読を、お勧めします。
短い整理ですが、長期、複雑な事象を簡潔にまとめるのは、とても難しいことです。だらだら書くより、高い分析力が必要です。

『勘定奉行の江戸時代』

藤田覚著『勘定奉行の江戸時代』(2018年、ちくま新書)が、勉強になりました。
江戸幕府の行政機構は、私たち行政・官僚のご先祖様なのですが、私は勉強したことがありません。時代劇に出てくる代官は、有力商人から賄賂をもらって「お主も、悪よのう」、「いえいえ、お代官様ほどでは・・・」という場面が定番ですが(苦笑)。そんなことでは、業務は回りません。

勘定奉行は字面だけを見ると、現在の財政課・会計課と思いますが、もっと広く幕府の財政と幕府領の行政(この時代は主に農政)を司ります。また現代のように、政府が教育や福祉を提供しない時代ですから、幕府行政の大宗を担っています。そして、裁判も兼務して担当します。
採用試験(筆算)があり、能力によって、勘定奉行まで出世することがあります。幕臣でない子供が、養子に入り、試験に受かり、出世していきます。これも、驚きです。数字を扱えないと、仕事にならなかったのでしょうね。
幕府後半は、財政難に対応するため、行財政引き締めと貨幣改鋳を繰り返します。これも、勘定奉行の仕事でした。
へえと思うことが、たくさん書かれています。

『文化史とは何か』

ピーター・バーク著『文化史とは何か』(邦訳改訂版2010年、法政大学出版局)を読み終えました。先日紹介した、長谷川貴彦著『現代歴史学への展望』に触発されてです。
欧米の歴史学(すなわち、ほぼ世界の歴史学の主流)、特に文化史が、どのように変化してきたかが、よくわかりました。
バークは、次のように、その変遷を整理します。
古典的文化史(ブルクハルトやホイジンガ)、社会学(ヴェーバー)から美術史(象徴やゴシック建築研究)へ、社会と文化への関心、民衆の発見。

エリート(芸術)文化研究から出発した文化史が、社会学を踏まえ、民衆を含めた文化史(時代史)へと変化したと、私は理解しました。
そのような視点からの、日本史、日本社会史、精神史、文化史は、書かれないでしょうか。イギリス社会史は、いくつか邦訳があります。

歴史の見方の変化

長谷川貴彦著『現代歴史学への展望』(2016年、岩波書店)を読みました。
歴史学は、20世紀に大きな変化を遂げたようです。かつては、政治を中心にした歴史でした。また、マルクス経済学による歴史の見方が、力を持ちました。歴史小説や英雄を中心にした歴史物もあります。戦前日本の皇国史観もありました。ブルクハルトやホイジンガのような文化史(ハイカルチャー)もありました。

20世紀初頭までの「事実を発見し記述すれば歴史になる」といった見方を、見る人の視点によって歴史記述は変わることを、E・H・カーは「歴史とは現在と過去との対話である」と表現しました。その後、社会史が大きな流れになり、さらに文化史(庶民を含めた文化)に広がりました。

これら歴史学をどのように理解したら良いのか。すなわち「学派」を、どのように配置したら良いのかを知りたかったのです。良い概説書を見つけることができません。長谷川先生の本は論文集ですが、私の疑問に答えてくれました。
西洋絵画を見る際に、「西洋画の歴史案内」を読むと、それぞれの絵の位置づけがわかりやすいです。それと同じように、新書程度のもので、一般向けに史学史を解説してくださると、便利なのですが。

文化や経済といった社会構造が、どの程度、歴史を規定するのか。人という主体が、どの程度、主体性を持つのか。その相互関係なのでしょう。
他方で、見る人が何を主題にして、どのような思考の枠組みで歴史の事実を見るのか。それによって、取り上げられる事実は偏り、記述は違ってきます。
しかし、「見る人の数だけ歴史がある」では、私たちは困ります。それらの配置図が欲しいのです。さらに勉強を深めるべく、関連図書を読んでいます。

公文書館、春の展示

国立公文書館が、「江戸幕府、最後の闘い-幕末の「文武」改革―」という展示を始めました。概要を引用します。

・・・平成30年(2018)は明治元年(1868)から満150年を迎える年に当たります。春の特別展では明治前夜、幕末期の江戸幕府に焦点を当て、当館所蔵の江戸幕府公文書である「多門櫓文書(たもんやぐらぶんしょ)」を中心に、幕末期の江戸幕府の「文武」改革について取り上げます。こうした改革が可能になった背景や、維新後に新政府で活躍する幕臣たちのその後も合わせて展示し、明治の近代国家建設の端緒を江戸幕府の側からご紹介いたします・・・

ご関心ある方は、どうぞ。皇居周辺の桜もきれいですから、その帰りにでも。