カテゴリー別アーカイブ: 歴史

高等官食堂

管理職、中間管理職、職員の区分、4」「組織構成員の分類その3。階級の区別」の続きにもなります。
戦前の国家公務員は、階級の区別がはっきりしていました。その象徴が、高等官です。その身分の差がどのようなものかは、ウィキペディアをご覧ください。軍隊では、階級の違いによって、処遇と任務が大きく違うことは皆さんご存じでしょう。また、諸外国の会社でも。しかし、戦前日本では、官庁も大企業でも、そのような身分の差があったのです。

私も若い時に、大先輩から戦前の話を聞きました。「食堂も違ったとか」。私が入った頃の自治省は、旧内務省の建物を使っていました。ウィキペディアに写真が載っています。現在その場所には、合同庁舎2号館が建っています。
それがわかる場所があります。旧山形県庁「山形県郷土館 文翔館」です。大正5年に造られた県庁が、創建当時に復元されています。そこに、高等官食堂があります。3階の知事室の近くです。戦前の県庁は、国(内務省)の出先という性格も持っていました。
この県庁建物の配置図を見ると、組織機構が簡素だったことがわかります。
「昔は良かった」というのではなく、「こんなこともありました」と、紹介しておきます。

広井良典教授。昭和、平成、令和。私たちの生き方

8月9日の読売新聞、広井良典・京大こころの未来研究センター教授の「持続可能な社会に移れるか「地方分散」分岐点は5年後」から。
・・・成長から成熟へ、経済効率一辺倒から環境や福祉にも配慮した社会へ――。約20年前、「定常型社会」という言葉で、いち早く社会の変革の必要性を指摘したのが広井良典・京大こころの未来研究センター教授だ。最近はAI(人工知能)を活用した研究で、「都市集中型」ではなく「地方分散型」の重要性を提唱し、注目を集めている。東京一極集中の是正と地方分散型への転換は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、7月に出された政府の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2020)でも実現が必要とされたテーマだ。人口減少、貧困・格差の拡大、膨らむ財政赤字、環境破壊など、持続可能性に黄信号が灯ともっているように見える日本。その針路や岐路について広井教授に聞いた・・・

・・・時代認識の話から始めたいのですが、昭和は「集団で1本の道を登る時代」だったと思います。人口も経済も拡大を続け、経済成長という明確な目標に向かって、みんなが一本道を登っていた。それはそれでうまくいきました。
平成は「先送りの時代」です。平成半ば過ぎから人口が減り、経済も低成長となったのに、引き続き一本道を登ろうとした。経済も大事だが環境や福祉に配慮した成熟社会に舵かじを切るべきだったのに、そうはなりませんでした。昭和の成功体験が強烈だったからです。
令和はどうか。持続可能で豊かな成熟社会に移れるかどうかの分岐点が今です。「24時間頑張れ」と言われて競って山を登り、山頂に立ったら視界は360度開け、道は無数にあることがわかった。今後は各人が多様な形で個性や創造性を発揮する時代といえます。

ここでお断りしておきたいのは、私は拡大・成長を否定しているわけではないことです。ただ、ひたすら量的拡大を目指し、成長を目的化するような経済のあり方には疑問を感じます。
経済成長さえすれば財政赤字があっても大丈夫、との声も聞きますが、人口が減り、地球資源の有限性が顕在化する中で、ノルマ主義的な拡大路線は各人の首を絞めるだけです。競争で無理をした企業は倒産や不祥事を起こし、働いている人は過労死やうつ病を患う。仕事と子育ての両立もままならない。結果的に少子化が進み、人口が減り、成長に必要な需要が縮小して、経済にも悪影響が出る。「経世済民」といわれるように、経済には国を治め、人民を救うという相互扶助的な意味があることを忘れてはならないと思います。
もう一つお断りしておきたいのは、拡大・成長から成熟・定常へと言うと、何か進歩の止まった退屈な社会と思われがちですが、そうではないということです・・・
・・・今度こそ、令和が始まった今こそ、成熟社会の実現に向けたデザインを描かなければと思います・・・
原文をお読みください。

マスク着用、みんなが着けているから

8月11日の日経新聞夕刊に、興味深い記事が載っていました。「マスク着用の動機? みんな着けているから
・・・新型コロナウイルスの感染が拡大する中、日本人がマスクを着ける動機は、感染が怖いからでも他の人を守るためでもなく「みんなが着けているから」。同志社大の中谷内一也教授(社会心理学)らのチームが11日までに、インターネットで行ったアンケートから、こんな結果をまとめた・・・

・・・「感染すると症状が深刻になる」「やれる対策はやっておく」などの理由が、それぞれマスクの着用頻度にどの程度影響するかを示す標準化偏回帰係数という指標(最高は1)を算出したところ、断トツは「人が着けているから」で0.44。次は「不安の緩和」で0.16、「自分の感染防止」や本来の効果とされる「他人の感染防止」は0近くでほぼ関係がないとされた・・・
・・・中谷内教授は、人々に望ましい行動を促すには、マスクのように「みんなやっている」という同調心理をくすぐるのが有効とみる。ただ「やりすぎると窮屈な監視社会になる」とし、施策への応用は慎重にやるべきだと注意を促した・・・
教授の論文」「教授のホームページ

法律による規制をしなくても、自粛で行動を誘導できる日本社会が、良く現れています。同調圧力がきついですね。太平洋戦争中の雰囲気と、通じるものがあるのでしょう。「自粛警察」という言葉ができました。

李登輝元総統

台湾の李登輝元総統が7月30日に、亡くなりました。
中国文化に詳しい肝冷斎は、30日の記事(終わりの方)を李登煇さんに捧げ、「小さな島国とはいえ、ゴルバチョフと周恩来と池田勇人を一人でやったような人ではないかと思います」と評価しています。

日本統治下や、大陸から来た国民党の支配下では耐えて頭角を現し、総統となっても弱い権力基盤や支持から、徐々に権力を固めました。
大陸中国という大きな敵から牽制されながら、民主化と自由化、選挙による総統選出、平和的政権交代、そして経済成長を成し遂げました。暴動や内乱なしにです。それが起きたら、中国から介入されたでしょう。
世界の歴史に名を残す政治家の一人だと思います。
ご本人の著作も多いですが、いずれ日本でも、評伝が出版されるでしょう。

『科学の社会史』

コロナウイルス外出自粛の時期に、紀伊国屋新宿本店も閉店していた時期があり、書斎の本の山を物色しました。連載執筆のために読まなければならない本や、読みかけの本がたくさんあるのに、ほかの本に手を出す悪い癖です。
いや~、いろいろ出てきました。「そういえば、この本は××の時に買ったな」のほかに、「こんな本も買ったのだ。なぜだろう」と思うものまであります。いつもながら、反省。
その一つを読み終えました。

古川安著『科学の社会史 ルネサンスから20世紀まで』(2018年、ちくま学芸文庫)。勉強になりました。書名の通りの内容です。発明や発明家の歴史ではありません。科学と技術が社会をどう変えたか、また社会が科学と技術をどのように求め変えたかが書かれています。社会史です。
この点、哲学史や思想史、社会学史の多くは、偉人の思想の歴史であり、社会との関係(社会をどう変えたか、社会はなぜそれを求めたか)が書かれていません。「日本思想史

これだけの長い歴史、科学と社会の関係という大きな主題を、この大きさの本にまとめるのは、難しいことです。長々と書くより、短くする方が難しいのです。
西欧の近代の科学技術は普遍的な性格を持っているのに、各国がその発展に力を入れます。第6章以下に、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカが順に取り上げられます。そしてそれが行き着いた先は、二つの大戦での国を挙げての兵器開発でした。残念ながら、日本は取り上げられていません。
そして、20世紀後半になって、科学の発展について疑問が生まれます。このままで良いのか。それは、原爆であり、公害や自然破壊です。また、遺伝子工学による生命倫理の問題もあります。
研究者、企業、国家によって、科学技術の研究と発展は、止まることがありません。そして、それぞれの研究は、真理を探求するため、社会をよくするために行われます。しかし、個別の研究を勝手に進めていて良いのか。研究者に任せるだけでなく、社会や政治による制御が必要になりました。