8月6日の朝日新聞夕刊が「内務省、「怪物」の多様な顔 細分化する省庁研究 分野の垣根越え、学者ら新書」を書いていました。
・・・内務省と言えば日本の内政を一手に引き受けた巨大官僚組織で、特別高等警察(特高)や国家神道に関する部局を抱え、「悪の総本山」のイメージも強い。だが、それは一面的な見方だ。講談社現代新書の「内務省」(内務省研究会編)は、戦前日本の官僚機構を象徴する、この巨大官庁の歴史を多角的に掘り下げ、その光と影を照らし出す。
明治新政府の発足から間もない1873(明治6)年、大久保利通を初代内務卿として発足した。後に山県有朋も通算6年半にわたり内務卿・内相を務めたことでも知られるこの官僚組織は、「なんだ? この『怪物』は…」と本書の宣伝文句が示す通り、強大な力を持っていた。
鉄道・郵便や殖産興業と呼ばれた産業政策などを含む内政全般を担当。農商務省が設けられた後もなお、現在の警察庁、総務省、国土交通省、厚生労働省、都道府県知事、消防庁に相当する機能を一手に抱え、霞が関に君臨した。さらには、国家神道や、戦前の言論統制・思想弾圧を担った特高の担当部局が省内に属していたため、軍国主義の根絶を掲げる戦後の占領下で解体された。
ゆえに内務省には、「省庁の中の省庁」「悪の総本山」といったイメージが先行しがちだが、本書ではこうした一面的ではない、「怪物」の多様な側面を照らし出す・・・
・・・会の創設を主導し、本の序論を担当した政治学者で慶応義塾大教授の清水唯一朗さん(日本政治史)が着目するのは、中央から地方へと全国一律の近代的な行政組織を浸透させた旗振り役としての内務省だ。
「他省庁よりも抜きんでて優秀な人材を集め、先進的な『技術』『政策』の導入や、行政の制度化を推し進めた。道路や河川、港湾などのインフラ整備、選挙行政や宗教行政、北海道・植民地の統治なども含めて、内務省が果たした歴史的役割は極めて大きい」と語る。
一方で、霞が関に君臨した「省庁の中の省庁」「悪の総本山」という見方に対しては、「内務省の位置づけは時期により変わる。近代国家の建設期には、いわばプロジェクト主導型の苗床だった。強大な権力をふるい、国家主義的だった時期は短期間と見ていいのでは」と語る。
藩閥政治家や政党政治家、軍部それぞれとの関係に影響された時期を経て、内務省は戦後に解体される。
「今では霞が関の機構改革で内閣官房を核にした官邸機能の強化が定着しているが、戦前は内務省が霞が関の司令塔だった」と言い、戦後の行政組織への継承と断絶を考える上でも、内務省の分析は重要だという・・・
内務省研究会編『内務省 近代日本に君臨した巨大官庁』(2025年、講談社現代新書)です。
私は、内務省の末裔である自治省に入りました。建物は、この記事に載っている内務省の建物です。2001年の総務省発足時に合わせたかのように、新しい現在の建物(現在の2号館)になりました。内務省についてはいくつか書物を読みましたが、知らないことが多いです。内務省の解体と自治庁としての再発足に、組織の役割として大きな断絶があるのです。自治省の幹部は内務省採用の方が就き、私が若いときはまだ現役で、薫陶を受けました。
私も、著者から本を贈っていただきました。500ページの新書ですが、切り口(各章)といい、分析といい、良くできていると思います。記事にも書かれているように、これまで「怪物ぶり」が先行して、実態と全体像が見えませんでした。
清水先生には、お礼を言う際に、「戦前の官庁だけでなく、次に戦後の官庁の功罪を研究してください」とお願いしました。私の連載「公共を創る」は、戦後の官庁が果たした役割と、その後の失敗を全体的に見ています。各省ごとに、より客観的な分析が欲しいのです。戦後も80年、バブル経済崩壊後からも34年です。既に歴史になっています。
参考 黒澤良著『内務省の政治史 集権国家の変容』(2013年、藤原書店)