カテゴリーアーカイブ:報道機関

アメリカ政治とメディアの分極

2018年7月3日   岡本全勝

山脇岳志・朝日新聞編集委員の「アメリカ政治とメディアの分極化ー鶏が先か、卵が先か?」から。詳しくは、原文をお読みください。

・・・1994年には民主党支持者と共和党支持者はかなりの部分で重なっているが、2017年には重なる部分が大幅に減少し、中心付近ではなく両極に位置する人々の割合が大きく増加している。両党の中央値も大きく離れている。ラクダにたとえれば、2004年調査までは「ひとこぶラクダ」だったのが、2017年には「ふたこぶラクダ」化していることがチャートから見て取れる・・・

・・・共和党支持者と民主党支持者の間の価値観が離れていくにつれ、対立政党に対する反感、否定的な感情のレベルが上昇している。下図からわかるように、2017年には、民主党支持者の81%が共和党に対し否定的であり、44%が非常に否定的である。同様に、共和党支持者も81%が民主党に対し否定的で、45%が非常に否定的である。対立政党に対し非常に否定的な意見をもつ人の割合は、共和党・民主党ともに1994年の2倍以上に膨れ上がっている。さらに、共和党支持者と民主党支持者の友人ネットワークのほとんどは、自党の支持者に偏っている。トランプ氏については、大統領に選ばれるずっと前から共和党支持者と民主党支持者の間に深い分断があるが、2017年の調査によると、トランプ大統領の職務能力に対する支持率の党派間格差は、過去60年間のどの大統領の支持率格差よりも大きい・・・

・・・メディアの分極化が国民の分極化を招いたのか、それとも、国民の分極化に応え、そのニーズを満たす形でメディアが分極化したのかについては、研究者の間でもさまざまな議論がある・・・
・・・この問題を研究してきたペンシルバニア大学准教授のマシュー・レバンドスキ氏(政治学)は、影響は限定的だとしつつ、メディアの分極化が国民を分極化させている一因だと指摘する。「人々は自分がもともと持っている考え方を強化するようなメディアを選択する。共和党支持者はFOX、リベラルな層はMSNBCを視聴する傾向にある」。番組によって、主に影響を受けるのはすでに極端な考えをもつ人々であり、「研究から示唆されるのは、イデオロギー分布の中心をシフトさせるのではなく、両極に位置する人々をもっと中心から引き離すことによって分極化の原因となる」としている・・・

SNS時代のスポーツ中継

2018年6月26日   岡本全勝

6月22日の朝日新聞オピニオン「いいね!スポーツ中継」、水越伸・東大大学院情報学環教授の「昭和の型から抜け出して」から。

・・・一般の人がSNSで発信できるようになり、スポーツの見せ方は一つではないという事実と、その面白さに気づいてしまったんです。10代のネットの利用時間は、テレビの視聴時間を上回っています。受け手のニーズの変化に合わせ、送り手も中身を工夫する必要があります。

ところがそんな時代に、日本のテレビは古い型から抜け出せていません。昭和時代に隆盛だったプロ野球や大相撲、プロレスを基軸とした従来の型です。王や長嶋、力道山といったスーパースターだけに焦点を当て、勝利の物語にしか関心を示さない。サッカーW杯でも特に民放は、日本の本田や香川らスター選手のことばかりやっています。
型を持つのが悪いわけではありません。大学の論文を書くにも講義を進めるにも一定の型はあります。ただ、例えば武道でいえば、ある流派の中でその型だけを神格化していたら異種格闘技では負けますよ。「もっと違う型もありうるのでは」と意識することが大事だと思います。

例えば成功した選手の物語もいいけど、うまくいかずに無念に終わった選手もしっかりとり上げて欲しい。「どうしてうまく行かなかったのか」に焦点を当てることは、その競技に取り組む子どもたちのためにもなります。
また、日本人選手だけをとり上げるのもやめて欲しい。テレビのプロが思う以上に、型にはまっていない視聴者は多い。もっと多文化的であるべきだと思います・・・

佐伯啓思さん、重要政策論の不在

2018年4月9日   岡本全勝

4月6日の朝日新聞オピニオン欄、佐伯啓思さんの「森友問題一色の国会 重要政策論の不在、残念」から。
・・・昨年の今頃、米国のトランプ大統領が空母を日本海方面へ派遣し、米朝戦争が勃発しかけていた。ところが日本の国会はといえば、戦争の危機などほとんど話題にもならず、ひたすら森友学園問題一色であった。
それから1年、国会の予算委員会(参院)では、また森友学園で大騒ぎである。この1年、国会で論じられた最大のテーマは何かと世論調査でもすれば、たぶん、森友・加計学園問題だということになるであろう。両者は、今日の日本を揺るがすそれほどの大問題だったのか、と私など皮肉まじりにつぶやきたくなる。
本紙がスクープした財務省の文書改ざん問題は、森友学園問題というよりは、まずは財務省の問題であり、官僚行政の不法行為に関わる問題である。私は、この問題の重要性を否定するつもりは毛頭ない。しかし・・・

・・・私がもっとも残念に思うのは、今日、国会で論じるべき重要テーマはいくらでもあるのに、そのことからわれわれの目がそらされてしまうことなのである。トランプ氏の保護主義への対応、アベノミクスの成果(黒田東彦日銀総裁による超金融緩和の継続、財政拡張路線など)、朝鮮半島をめぐる問題、米朝首脳会談と日本の立場、TPP等々。
私は安倍首相の政策を必ずしも支持しないが、それでもこうした問題について安倍首相は、ひとつの方向を打ち出しており、そこには論じるべき重要な論点がある。問題は、野党が、まったく対案を打ち出せない点にこそある。だから結果として「安倍一強」になっているのだ。
日本社会は(そしておそらくは世界も)今日、大きな岐路にたたされていると私は思う。麻生太郎財務大臣が「森友学園問題はTPP問題より大事なのか」といって物議をかもしたが、当事者の発言としては不適切だとしても、当事者でないメディアが述べるのは問題ないであろう。財務省の文書改ざんの「真相解明」はそれでよいとしても、それ一色になって、重要な政策論が見えなくなるのは残念である。安倍首相の打ち出す方向に対する代替的なビジョンを示して政策論を戦わせるのもまた、いやその方が大新聞やメディアに課された役割であろう・・・

原発政策の検証記事

2018年3月27日   岡本全勝

朝日新聞連載「平成経済」に、大月規義・編集委員が「原発支配の底流」を連載しています。
3月18日「爆発事故の最中、「再稼働考えて」」、25日「事故隠し、安全神話のため

会社にしろ役所にしろ、失敗したことを検証し、さらには公表することをためらいます。しかし、将来に同じ過ちを繰り返さないために、また同様の失敗を防ぐためにも、失敗の検証は重要です。第二次世界大戦での、日本軍とアメリカ軍との違いとしても、よく指摘されます。
当事者たちは、恥をかくことや処分されることを恐れて、自らは話さず、書いて残さないでしょう。しかし、ほおかむりをしていると、失敗は繰り返されます。また、その場はやり過ごせても、結局はその組織への信頼を失うことになります。私は、この後者の方が、大きな問題だと思います。

このような検証記事は、重要だと思います。公表された事実だけでも、これだけのことが書けるのです。
一つには、事故当時の混乱した事実の中から、問題点を洗い出すことです(18日の記事)。
またもう一つには、日々の出来事、この場合は原発の事故隠しを並べることで、その構造が見えてきます。毎日「消費される」ニュースでは、忘れられることです(25日の記事)。

1997年11月26日の取り付け騒ぎ

2017年11月28日   岡本全勝

11月26日の朝日新聞経済面、原真人・編集委員の「あの日恐慌寸前だった」から。
・・・戦後日本で最も経済破綻が近かった日をあげるなら、ちょうど20年前の1997年11月26日である。多くの銀行で深刻な取りつけ騒ぎが起き、金融恐慌寸前となった。報じられなかった事実もふくめ、当事者たちの記憶をたどって改めて歴史に刻みたい。これからの私たちのために・・・

・・・「日本経済はこのまま破綻してしまうのだろうか」。30年の記者生活で、そんなことを考えたのは後にも先にもあの日だけだ。
そのまま取り付け騒ぎを記事にしたら預金者に不安が広がり、全国の金融機関に連鎖する可能性が高いと考えられた。朝日新聞は、現場の写真も含め、記事にするのを見合わせた。報道協定はなかったが、結果的にほぼすべてのマスメディアが同じ判断をした。
いま同じ騒ぎが起きたらどうか。インターネット社会では誰もがツイッターやユーチューブで情報発信ができる。取り付け情報の拡散は止めようがない。マスメディアの配慮などまったく役に立たないだろう。その結果何が起きるのか、私たちにもまだわからない・・・

事実の回顧とともに、マスコミの役割についても、考えさせられます。
原文をお読みください。