カテゴリー別アーカイブ: 報道機関

社会の問題を発掘する調査報道

今朝12月5日の新聞朝刊1面は、良い記事が並んでいました。朝日新聞は、「認可外保育、監督に差」です。
・・・年1回の実施が定められている認可外保育施設への各自治体の立ち入り調査について、厚生労働省の資料などをもとに朝日新聞が2014年度の実施率をまとめたところ、東京都が13%で最も低かった。神奈川、愛知、兵庫の3県も50%未満だったが、施設数が3県より多い埼玉県は95%で、実施率にばらつきがある実態が浮かんだ・・・
保育施設での死亡事故の約7割が、認可外施設で起きています。国の基準を満たす認可保育所と異なり、届け出だけで開設できるため、立ち入り調査がほぼ唯一の「行政のチェック」になっている、とのことです。

読売新聞1面トップは、「介護殺人や心中179件。2013年以降高齢者夫婦間が4割」でした。
・・・ 高齢者介護を巡る家族間の殺人や心中などの事件が2013年以降、全国で少なくとも179件発生し、189人が死亡していたことが読売新聞の調査で明らかになった。ほぼ1週間に1件のペースで発生しており、70歳以上の夫婦間で事件が起きたケースが4割を占めた・・・
老老介護、特に男性が主な介護者になっている場合、加害者が男性のケースが目立つようです。

それぞれ、原文をお読みください。記者が、自らの調査で書いた記事です。官庁や企業側からの広報やリークと違い、このような記事を「調査報道」と呼びます。今日紹介した2つの記事は、記者が現場で足で稼いだ記事ではありませんが、官庁の資料を基に、あるいはそれを端緒にして、新聞社が調べて記事にしたものです。そして社会の大きな問題を、浮き彫りにしました。1面トップに来るだけの価値はあります。
これからのマスコミの役割はここにあると、私は考えています。新しい事実の報道なら、電波媒体やインターネットの方が早いのです。

さて、このように社会の問題を提起された場合、政治と行政はどのように対応するか。ボールは役所の側に投げられました。

新聞への信頼の低下、アメリカ大統領選挙

11月15日の朝日新聞国際欄「旧来メディア 問われる役割」の続きです。今回は新聞についてです。
・・・全米の新聞は、圧倒的に「反トランプ」だった。だが既存政治に不満を抱える有権者には響かなかった。
米国では新聞社が社説で候補を推薦する伝統がある。カリフォルニア大学サンタバーバラ校のまとめによると、全米で部数が最も多い100紙のうち、57がクリントン氏を推したのに対し、トランプ氏は2紙だけ。リバタリアン党のジョンソン氏を推薦した4紙よりも少なかった・・・
・・・経営不振が続く米メディアの構造的な問題もある。
メディア研究などを手がける、ハーバード大学のショレスタイン・センターのニッコ・ミリ所長は10日にウエッブサイトで、米メディアの記者のうち5人に1人がニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルスの3都市に勤務していると指摘した。対照的に、50州中21州では連邦議会を専門に担当している記者を置く新聞が1紙もないという。
記者が暮らしの現場から離れる一方、数多くの州では政府で何が行われているのか、市民が知る方法がなくなっているとの分析だ。
大手メディアの本社は大都市部に集中する。トランプ支持者の「エリート」「エスタブリッシュメント(既得権層)」批判は、メディアにも重ねられた。
ギャラップ社の今年の調査によると、「メディアを信用する」と答えた人は過去最低の水準で、特に共和党支持者では14%に急落した・・・
原文をお読みください。

「テレビとジャーナリズムは違う」、アメリカ大統領選挙

11月15日の朝日新聞国際欄「旧来メディア 問われる役割」から。
・・・トランプ大統領という「怪物」を生みだしたのはメディアだった。過激な発言をひっきりなしに取り上げたあげく、その本人に「最も腐敗した既得権層」と敵視され、切り捨てられた・・・という書き出しで、次のようなことが書かれています。
過激な発言を繰り返す実業家は、昨年6月の立候補表明直後から、高い視聴率を稼げる「キラーコンテンツ」になった。今回の選挙で、トランプ氏がメディアを通じて得られた宣伝効果は50億ドルに相当するという試算もある。特にケーブルテレビのCNNは、トランプ氏の会見や集会の中継を続けた。CNNのテレビとデジタルをあわせた広告収入は通常の選挙の年よりも1億ドル増える見通しという。
・・・ワシントン・ポスト紙のメディア担当、マーガレット・サリバン氏は10月のコラムで、(CNNの社長)ザッカー氏についてトランプ氏を躍進させた1人だと指摘。「テレビ局の幹部が視聴率と利益を目指すのは当然だ。しかし、ジャーナリズムは違うのではないか」と批判した。ザッカー氏も10月の講演で「トランプ氏の集会をそのまま放送したのは間違いだったかもしれない」と認めた・・・

テロ報道がテロリストを助長する?

8月20日の朝日新聞が、「テロ容疑者 どう報道するか」として、次のようなことを伝えています。
・・・テロ事件が相次いでいるフランスで、容疑者の写真や名前の報道をやめるメディアが相次いでいる。プロパガンダの映像や宣伝文句を取り上げる際に十分な注意をはらうことに加えての対応だ。一方で、写真などの掲載の重要性を改めて表明したメディアもある・・・
・・・報道がテロ集団のメッセージを広め、結果的に彼らを利しているのではないか、との議論も起きた。
ルモンド紙は身分証の写真などに限って掲載することにした。笑顔を浮かべたような写真を広く報じることは「聖戦に命をかけた」などと英雄視に利用される可能性があるためだ。ラジオのヨーロッパ1は「名前も報じない」と決めた・・・
考えさせられる事例ですね。社会に大きな影響を与えた事件は、事実を詳しく伝えるべきですが、それが犯罪者を利することになっては問題です。正解はなく、みんなで試行錯誤しながら「結論」を見いだすのでしょう。

人手をかけるほど悪くなる文章、サラリーマンジャーナリストの限界

朝日新聞7月28日論壇時評、小熊英二さんの「メディアの萎縮 まずい報道、連帯で脱せ」から。落語の「目黒のサンマ」を紹介したあと。
・・・こんな話をするのは、昨今の報道に、これに通ずる傾向があるからだ。たしかに「間違い」はない。人手も予算もかけている。しかし「まずい」のだ。
ときどき、へたに人手や時間をかけるより、少人数で素早く作った方が、シャープな番組や記事ができることがある。「どこからも文句が出ないように」という姿勢でチェックを重ねたりすると、それこそ脂と骨を全部抜いたような報道になったりするからだ。この問題は、組織が大きくなると起こりやすい・・・
ええ、国会答弁案も、作成過程でたくさんの人の手が入ると、問題はないけれど何を言いたいのか分からない文章になります。
このあと、次のようなもっと重要な指摘が書かれています。
・・・大手の方が保身的だという傾向はもちろんある。だが国連人権理事会特別報告者として来日したデービッド・ケイは別の原因を指摘する。それは「連帯」と「独立」の欠如である。
ケイはいう。日本では「ジャーナリスト間での仲間意識が感じられません」。主要メディアは自社の特権を守るため、独立系メディアを記者クラブから排除している。そこにはジャーナリストどうしが連帯する仕組みがない。連帯意識がないから、ミスを犯すと、他の記者や他の新聞社から攻撃をあびる。彼らは連帯して権威と闘うよりも、それぞれが権威に頼ることを選びがちとなってしまう。
つまり連帯がないから、独立もできない。この傾向は、大手としての権威に頼っていたメディアの方が強いだろう・・・